渦巻く滄海 紅き空 【下】
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十九 開演のブザーが鳴る
前書き
あけましておめでとうございます!
年末に話自体は書けていたのですが、何故か何度やっても更新にならなくて、年が明けてしまいました…(泣)
大変申し訳ございません!!
誰かが死にます。原作通り…とは限りませんが、原作では確か亡くなった相手なので、ご容赦ください!
我愛羅→ナルコが微妙にあるので、ご注意ください!!
我に返った瞬間、ナルの瞳に飛び込んできたのは我愛羅の遺体だった。
「──我愛羅!」
ガバリと起き上がったナルに、傍らにいたカカシは一瞬驚いたものの、ほっと安堵する。
九尾の力で暴走していた彼女が正気に戻ったのを見て取って「…落ち着いたか?」と訊ねると、ナルは眼を大きく瞬かせて、周囲をきょろきょろと見渡した。
自分がなぎ倒したのであろう大木や砕かれた岩を見て、苦渋の表情を浮かべる。青褪めるナルを気遣わしげに見ていたカカシは、ピクリと片眉を吊り上げた。
誰かが来る気配を感じ取って身構えたカカシは、駆け寄った相手の姿を認めると、構えを解く。
「よかった…!ナルもカカシ先生も無事みたいね!」
いのとチヨの姿を眼にして、ナルの肩から力が抜けた。ほっと安心した彼女同様、カカシも胸を撫で下ろす。
サソリと戦闘していた二人が此処にいる。その事から導き出される答えはひとつしかない。
いのとチヨによってサソリは倒されたのだろう。
まさかナルトによって取り逃がしてしまったとは思いも寄らず、カカシは「よく此処がわかったな」と感心する。
その言葉に、曖昧な表情でいのは苦笑を返した。
ナルとカカシの居場所までこんなにも早く辿り着けた理由は、サソリと共にいた謎の人物の助言によるものだからだ。
「……我愛羅はどこじゃ?」
チヨの問いに、ナルは眼を伏せる。
いのに解毒薬を打ってもらったものの、サソリの毒で体力を消耗しているチヨは、疲労が滲んだ顔で周囲を見渡した。横たわる我愛羅の遺体が目に留まる。
はっといのが息を呑んだ。
沈痛な面持ちのカカシと、唇を強く噛み締めるナルを見て、チヨは一度、瞳を固く閉ざす。
次に眼を開けた時には、チヨの瞳には決意の色が宿っていた。
「なにが人柱力だ…!!なにが…!!」
ナルの視線が痛い。一目見てわかっていたけれど、動いていない心臓を前に、いのは顔を逸らす。
森の外れの広い原っぱ。
視界が悪い森よりも四方を見渡せる場所のほうが良いかと考え、そこに移動した一行は、我愛羅を中心に佇んでいた。
皆の注目の的である我愛羅本人は、ぴくりとも動かない。
ナルに頼まれて診てみたけれど、やはり変わらぬ現実に、空気が沈む。
清々しい風が吹き抜ける場所なのに、我愛羅と、彼を囲む者達の間では悲しみに満ちていた。白い蝶だけが空気を物ともせず、優雅に飛んでいる。
「風影になったばっかだぞ…!なのに……っ、なんで我愛羅ばっかがこんな目に…!」
同じ人柱力だからこそ、我愛羅を最も理解している。
同じく疎まれた存在だからこそ、彼の歩んできた過酷な道を知っている。
ぼろぼろとナルの、透き通るような青い瞳から大粒の涙が零れてゆく。それは空から降り続ける雪の結晶にも、深海の真珠にも見えた。
キラキラと煌めいて我愛羅に降り注いでゆく。
「……なにが人柱力だってばよ…!偉そうにそんな言葉でオレ達を呼ぶな…!そんなふうに言われて、我愛羅が何を思っていたか、何を感じていたか…!考えたことないのか…っ」
原っぱに、ナルの激昂が轟く。心からの叫びだった。
彼女の嘆きは、我愛羅の中に一尾を入れた砂の忍びであるチヨにはとても耳が痛い言葉だった。
砂隠れの里の為にと、自分が今までしてきたことは間違っていたのかもしれない。
ならば、せめて、今だけでも、正しいことをすべきではないのか。
たとえ──己の命を懸けようとも。
決意を秘めた瞳で我愛羅を見据えたチヨは、戦闘を終えたばかりのふらつく身体を駆使して、遺体の許へ向かう。
【己生転生】。
己の全チャクラを媒介とすることで、術者のチャクラが魂に変換され、対象者に生命力を分け与える禁術だ。
悔しげに泣くナルの横を通り過ぎ、何もできずに俯くいのの肩をぽんっと軽く叩く。
顔を上げたいのは、自分を押し退けて我愛羅に手を翳すチヨを見て、ハッと顔を曇らせた。
サソリを見逃してしまい、チヨの得物である【父】【母】の傀儡をも奪われてしまった。
その後、ナル達の許へ急いでいる道中、いのはチヨからこの禁術の事を聞いていた。
サソリの両親の傀儡に命を吹き込む目的でチヨが開発した術。
死者を生き返らせるという大きなリスクを伴う為、人道的理由から禁じられていた術だが、術を開発したきっかけである傀儡を奪われたと嘆くチヨからの話を前以って耳にしていたいのは、彼女が今から我愛羅に何をしようとしているのかわかって、顔色を変えた。
「チヨ婆さま、その術はまさか、」
言い淀むいのを制して、チヨは優しく笑顔を浮かべる。
皺が刻まれた柔和な眼差しに宿る決意の色に、いのは何も言えなかった。
だが、サソリとの戦闘直後故に、チャクラが圧倒的に足らない。いのから禁術の話を聞いたナルは苦しげに喘ぐチヨの傍へ寄ると、手を差し伸べた。
「オレのチャクラを使ってくれってばよ、ばあちゃん…!!」
チヨの霞みかける視界に、ナルの両手が映る。
ゆっくり顔をあげると、ナル自身も疲労しているはずなのに「オレってばチャクラだけはありあまってっからさ…!」と元気よく、へへっと笑ってみせた。だがそれが空元気なのを、チヨもいのもカカシも見抜いていた。
「頼む、ばぁちゃん」
ナルの強い意志を受けて、チヨの唇が笑みを象る。
彼女の青い瞳の奥に、前途ある未来のヴィジョンが垣間見えた。
「くだらぬ年寄りどもがつくった、争いの絶えぬこの忍びの世界に」
ナルの手と己の手を重ね合わせる。ナルのチャクラを借りながら、チヨは双眸をゆるゆると細めた。
「波風ナル…お前のようなやつがいてくれて嬉しい」
砂と木ノ葉。いがみ合っていた別里同士を繋ぐ架け橋。
これから先の未来を思い描いて、チヨはナルの瞳を真っ直ぐ見据えた。
「我愛羅をよろしく頼むぞ」
「おうっ!」
チヨの言葉を受けて、ナルは威勢よく頷くと「でもばぁちゃんもだってばよ!オレとばあちゃんと…皆で我愛羅を支えてゆくってば」とにっこり笑顔を浮かべる。
禁術のリスクをいのから聞いていながらも、それでも我愛羅も、チヨでさえも、ナルは諦めていなかった。
「オレってば我儘だからさ。最後まで希望は捨てないんだってばよ!!」
忍びの世界に身を置く身、何を甘ったるいことを、と言われるかもしれない。
忍びに相応しくないのかもしれない。
それでも希望を捨てないナルの発言を耳にして、チヨの目が大きく見開いた。
ナルは渾身の力を込めて、手にチャクラを宿す。いくら膨大なチャクラを持つ身とは言え、チャクラを放出し続けるには限度がある。
ナルは瞳を強く閉ざした。緊迫めいた空気をよそに、白い蝶が呑気に我愛羅の鼻先に止まって、美しい翅を休めている。
ナルの腹の奥で、狐の唸り声が聞こえた気がした。
罅割れた大地。
草原とは打って変わって荒れ果てた土地に、ひとりぼっちの子どもがいた。
赤い髪を腕の中に押し込めて、この世から消えて、無くなってしまいたいというように、縮こまっている子どもがいた。
やがて、その子の肩に、何かあたたかいものが触れる。視界の端に、白い蝶が止まっていた。
いや、それは幻だったのだろう。
我愛羅は顔をあげた。
泣き過ぎて腫れぼったい瞳に、金色の髪が垣間見えた。
「帰ろう、我愛羅」
《おいこらクソ狸》
我愛羅の体内の奥の奥で縮こまっている存在。
ナルの手から注がれるチャクラを通して、その存在に話しかけた九尾はそいつを挑発する。
《お前はこのワシに負けっぱなしでいいのか?》
焦げ茶色の茶釜。どっしり鎮座して微動だにしない釜が、九尾の声に反応して、僅かに揺れた。
《そんなんだからお前はいつまで経っても三下なんだよ》
ガタガタガタ、と茶釜が揺れ動く。挑発に明らかに反応を示した茶釜に、九尾は畳みかける。
《一尾は九尾に劣るか!やはりワシの敵ではないわ!!》
カラカラと嗤う九尾の言葉を最後に、茶釜が大きく割れた。
中から煙と共に、怒りの形相で現れた一尾。
己と同じ尾獣に、九尾の口角が僅かに上がった。
「喧しい!!おちおち寝てられるか!!」
《寝てた?死んでたの間違いだろうが》
鼻息荒い一尾【守鶴】に、九尾は嘲笑を返す。だがその声音には満足気な響きがあった。
《寝汚ねぇお前のおかげで、ワシの宿主のチャクラが減る一方だ。さっさと起きろ》
一尾に目覚めを促して、九尾の意識がナルの許へ戻るのと、我愛羅の瞼がゆっくりと開かれたのはほぼ同時だった。
「我愛羅」
「…──ナル?」
起きた途端に、波風ナルの顔が飛び込んできて、我愛羅は眼を瞬かせた。
起き上がると拍子に、白い蝶がぱっと我愛羅から離れてゆく。
我愛羅は周囲を見渡した。
波風ナルと、畑カカシ。山中いのに、彼女に支えられて横たわるチヨの姿があった。
「──我愛羅!!」
ふと前方を見ると、カンクロウと、彼の部下達が駆けてくる。
カンクロウは弟の無事な姿を見て、ほっと胸を撫で下ろした。
ヒナタといののおかげでサソリの毒を解毒してもらったカンクロウは、周囲の制止の声を押し切って、里を飛び出したのだ。だが、自分より先に我愛羅を助ける為に里を出たテマリとヒナタの姿が無い事に、彼は顔を顰める。
瞬間、森の奥で大きな爆発が聞こえた。
大きな地鳴りと共に、爆風が草原にも押し寄せてくる。
「なんだ!?」
カンクロウが爆発の発生源に眼を向けると同時に、爆風に押されるように誰かが森から飛び出してきた。
テマリとヒナタだった。
「テマリ…!?お前、なにやってんじゃん!?」
「私じゃない!!由良のヤツが…!」
煤だらけの顔を拭って怒鳴り返したテマリは、我愛羅の姿を認めると、顔を輝かせた。
「我愛羅!よかった…」
心の底から安堵の息をつく。
しかしながら、我愛羅の無事を確かめる前に、テマリはカンクロウと共にやって来た部下達に命じた。
「さっきまで戦っていた由良が自爆した」
何か残っていないか現場を見て来てくれないか、と言うテマリの指示に従い、部下達が森の奥へ向かう。
自分達と同じ砂の忍びであり行方知らずだった由良について、テマリがいきなり話し出した事で困惑したカンクロウが眉間に皺を寄せた。
「どういうことじゃん?」
「どうもこうも…聞いた通りだよ。アイツは自爆した。私達を殺そうとして」
由良の最期が脳裏に過ぎって、テマリは深い溜息をつく。
デイダラと対戦していた矢先に現れた由良は明らかに『暁』の味方だった。
追い詰めて口を割らそうとしたところ、自爆してしまったのである。
「おそらく由良が里に手引きした張本人だろう」
「周囲からの信頼も厚かった、あの由良が…」
由良がスパイだったという事実にショックを受けるも、気を取り直したカンクロウとテマリは、我愛羅の許へ急ぐ。
ヒナタも、ナルの無事な様子と、いの達の姿を見て、胸の前で手を組んでほっと安堵の息をついた。
「よかった…ナルちゃん…」
「な~にが後々まで残ってゆく永久の美だ」
由良が爆発した現場。
大きなクレーターが穿たれたその場で、デイダラはサソリに対してブツブツ文句を連ねる。
己自身も我愛羅を奪い返された身でありながらも、いのとチヨが五体満足でナルの許へ来たのを遠くから確認した彼は、サソリが死んだと思い込んで、鼻で嗤った。
「だいたい、弱点丸出しの造形はつくづく自信過剰だと思ってたぜ、うん」
「やかましい。ぶっ殺すぞ」
瞬間、背後から放たれた殺気と声に、デイダラはひくりと唇を引き攣らせる。
おそるおそる振り返ると、憤慨したサソリがじとりと睨んでいた。
「あらら~…」と自分の発言が聞かれていたと察して、デイダラは視線を彷徨わせた後「旦那、生きてたんだな、うん!」と調子の良い言葉を続ける。
「あんな小娘とババアにやられるとは思ってなかったぜ、うん!」
「嘘つけ。さっきまで思ってただろーが」
愛想笑いを浮かべるデイダラを睨んで、サソリは木の下を覗き込む。
大きな穴が穿たれている掘り返された地面を見て取って、チッと舌打ちした。
「デイダラ…てめぇ、俺の部下の由良を使いやがったな」
「いや、アイツが勝手に足止めしてくれたんだぜ、うん!まぁ旦那の部下だけあって、なかなか良いヤツだったぜ」
しみじみと由良を高評価するデイダラに、サソリは今一度、大きく舌打ちした。
「なんでよりによって自爆しやがったんだ…!」
「いや~やっぱ芸術は爆発だよなぁ~!旦那の部下はよくわかってるぜ!!」
爆死を大いに評価したデイダラが、うんうんと嬉しげに頷くと、サソリは「やっかましい!!」と怒鳴った。
「なんでせめて毒で死ななかったんだ、アイツは!」
どうやら部下の死よりも、死因について腹を立てているサソリに、デイダラは「いや、忍者の遺体は色々調べられるから、跡形もなく消えるほうを選んだほうが得策だと思うぜ、うん」と至極もっともな答えを返す。
正論だと理解しつつも、サソリは苛立たしげに吐き捨てた。
「お前のモットーと同じのが余計嫌なんだよ!」
「旦那、ひっでぇ~!!」
芸術コンビの諍いは、テマリとカンクロウの部下である砂隠れの里の忍び達が現場検証をしに来るまで続いたのだった。
我愛羅の周りが一斉に騒がしくなる。
沈んだ空気が払拭され、瞬く間に明るくなった。
だが、いのだけは、横たわったチヨを抱きかかえ、眼を伏せている。
カンクロウと共に来たチヨの弟であり、砂隠れの里の相談役であるエビゾウは、姉の顔を覗き込んだ。
今にも起き上がって、いつものように自分をからかいそうな安らかな顔に、立派な白眉を悲しげに下げた。
力無く、いのの身体に身を横たわらせるチヨを見つめつつ「今にも笑いだしそうなそんな顔をしておる」としみじみ呟く。
いのの瞳から涙が零れ堕ちた瞬間、腕の中の存在が身じろいだ。
「なぁーんてな、死んだふり~!」
やーいひっかかったひっかかった、とばかりに、お茶目という言葉では聊か限度があるボケをかましたチヨに、周囲の人間達がギョッとする。
エビゾウが腰を抜かす横で、涙が引っ込んだいのが信じられないとばかりに、楽しげに笑うチヨを見た。
「ち…チヨ婆さま……?」
周りの反応に満足げに、あひゃひゃひゃ、と笑ったチヨは、暫くしてから、いのに顔を向けた。
「普通は死ぬはずなんじゃが、まだ生きとるのぉ」と茶目っ気たっぷりにウインクするチヨに、彼女を慕う砂隠れの里のくノ一達が「よかった、チヨ婆さま~」と抱きついた。
「こんな老いぼれでも、まだまだ生きてる価値があるのかのぉ」と不思議そうにしつつも笑顔を浮かべるチヨを前に、いのは涙を拭う。
よかった、と心からホッとすると同時に疑問を抱いて、我愛羅へ視線を向けた。
(…ということは、我愛羅くんは死んでいなかった……?)
術者の死と引き換えに、死者を生き返らせる禁術。
ただの医療忍術ではない、転生忍術は、術行使後に術者が死亡する可能性が非常に高い。
【己生転生】も例外ではなかった。
たとえ、ナルのチャクラを借りようとも、死者に命を吹き込めば術者は必ず死に至る。
我愛羅が目覚めた今、チヨの死は免れない定めである。
それなのに、我愛羅を生き返らせたチヨは死なずに済んだ。
以上から考えられるのは、ナルのチャクラによる恩恵が大きかったのか、それとも──。
(仮死状態だった…?)
一瞬浮かんだ疑念は、ナルの嬉しそうな笑顔によって消え失せる。
ヒナタがこちらに駆け寄ってきたのを見て、いのは自分の考えを頭から追い出すと、歓喜に打ち震える皆の許へ走ってゆく。
微笑ましげにその光景を眺めていたカカシは、ふと、誰かに見られているような気がして、森へ一瞬視線を向けた。
変わらない静まり返った森を暫し眺めて、気のせいか、とカカシは再び、我愛羅を中心に喜ぶ人々へ視線を戻す。
「我愛羅!!」
「ナル…!うわっ」
「よかった…!ほんっとうによかったってばよ~!!」
ナルに飛びつかれ、顔を真っ赤にした我愛羅が、嬉し泣きをする彼女に眼を白黒させている。
弟の恋心を知っているテマリがにやにやと笑っていると、カンクロウが「病み上がりなんだから急に危ないじゃん」と水を差すような言葉を投げ掛けた。
「無粋なこと言うんじゃないよ」
「…?なにがじゃん?」
溜息をつくテマリに、カンクロウがきょとんとする。弟の恋心に微塵も気づけてない弟に、テマリは「それだからアンタはモテないんだよ」と呆れ返った顔をした。
「急になんで蔑まされないといけないんじゃん!!??」
喚くカンクロウをよそに、弟の恋を応援する為、風影目的で近づくくノ一達を近づけまいとして、テマリは我愛羅とナルの前に立ちはだかるのだった。
生きている我愛羅と、生きているチヨと。
たくさんの人々で賑わう草原を、遥か遠くから見ていた彼は、指先に寄ってきた白い蝶に「ご苦労様」と息を吹きかける。
たちまち、ただの白い花の花弁に戻った、かつての蝶は優雅に風に乗ってヒラヒラと飛んでゆく。
「これも、お前のシナリオ通りか?」
「どうだろうね?」
傍らの桃地再不斬に曖昧な言葉を返して、ナルトは今し方我愛羅の許へ駆け寄ったヒナタを見やった。
サソリの部下の由良は、彼女の足止めに大いに役立ってくれたらしい。
爆死したのは計算外だったが、彼のおかげで我愛羅を【白眼】で視られずに済んだと、ナルトは亡き由良に祈りを捧げた。
両腕を失って苦戦するデイダラの許へ、サソリの部下の由良を向かわせたのはナルトである。
サソリに化けて、デイダラを逃す手助けをしろ、と命じたのだ。
サソリからの指示を待ち望んでいた由良は微塵も疑う事もなく、デイダラの許へ向かい、彼と一戦を交えていたテマリとヒナタの前に立ちはだかった。
己の命を懸けてまで足止め役を遂行したものの、テマリの強さとヒナタの【白眼】には敵わず、起爆札で爆死したのである。彼女達をも爆発に巻き込もうとしたようだが、それは流石に無理だったようだ。
ナルトとしては、ヒナタを我愛羅の許へ近づけたくなかっただけなので、巻き込まれなくて良かったのだが。
何故なら【白眼】で視た場合、我愛羅が実際に死んでいないという事がバレる可能性があったからだ。
いくら巧妙に死を装って遺体に見せかけていても、チャクラの流れを把握できるあの眼で視られると、仮死状態だとヒナタに気づかれてしまう恐れがあった。
要するに、デイダラを見逃すように仕向けつつ、実際はヒナタの足止めが目的だったのである。
大木の幹に背を預けて、腕を組むナルトに、チラッと視線を投げた再不斬は「相変わらずお前の先見の明には頭が下がるぜ」と感嘆の吐息を零した。
「そううまくいかないさ。ストーリー通りにいかないのが、人生だよ」
白い蝶でさりげなく、仮死状態であった我愛羅の硬直を解き、止まっていた一尾のチャクラを循環させ、尚且つ、止まっていた心臓を動くように促す。
だからこそ、必ず死ぬはずの転生忍術を施したチヨが死なずに済んだのだ。
死者を生き返らせたわけではないからだ。
「サソリの実の祖母を死なせちゃ目覚めが悪いからな」
「あのカラクリ野郎がそんな殊勝なタマかねぇ」
面識はないものの、傀儡師として有名なサソリをカラクリ野郎と称する再不斬に、ナルトは苦笑を返す。
「口が悪くなったな、再不斬。多由也達の影響か」
「元々、俺はこんな口調だ」
むすっと顔を顰めた再不斬は「それよりいい加減、白達に顔を見せろよ」とナルトに文句を告げる。
「アイツら、二言目には「ナルトナルト」とお前のことばっか聞きたがる」と頭をガリガリと掻き毟る再不斬に、ナルトは苦笑いを口許に湛えた。
「世話を掛けるな」
「なにを今更」
ハッと鼻で嗤う再不斬の背後から、デイダラとサソリの気配を感じ取って、ナルトは片眉を吊り上げた。
いのとチヨからサソリを連れ出したナルトは、ナルの許へ向かう彼女達に見つからぬように彼らもまた、森へ向かったのだ。そうして、森奥に潜むデイダラを捜しに行くようにサソリに頼み込んだのである。
文句を言いつつも森へ消え去ったサソリを見送るや否や、こうして再不斬と落ち合ったナルトはこれからの計画等を手短に話し合っていたのだ。
「そろそろデイダラとサソリが帰って来る」
「わかった」
また連絡しろよ、と一言残し、再不斬の姿が掻き消える。
再不斬が、サソリとデイダラとは真逆の方向へ向かったのを確認しつつ、ナルトは改めて草原のほうを遠目で窺った。
我愛羅の傍で歓喜するナルの笑顔を微笑ましげに眺める。
彼女の喜びを我が事のように思いつつ、直後、ナルトは顔を引き締めた。
デイダラとサソリが自分の許へ辿り着くのにまだ時間がある。
双眸を閉ざしたナルトは【念華微笑の術】を発動させた。
この術は、山中一族の術に近い一種のテレパシーによるもの。
その術を用いて、彼は現在【根】に潜入している彼らに連絡を取る。
『約束の天地橋。それまでの十日間が勝負だ』
脳裏に響くナルトの言葉を受け取って、相手が息を呑む。
『大蛇丸とダンゾウ…どっちに転んでも殺されそうだな』と苦笑雑じりの返答を聞き流して、ナルトは淡々と言葉を続けた。
『準備はいいか?────左近・右近…鬼童丸』
それは、新たな計画の始まりを告げる一言だった。
開演のブザーが鳴る。
後書き
やっっっっっと風影奪回編終りましたあああああ~!!大変長くお付き合いしてくださり、ありがとうございます!
先月の分を今回投稿させてもらったので、今月はもう一話更新予定です!
次回からは新しい章に入ります!
昨年は大変お世話になりました!今年もどうぞよろしくお願いいたします!!
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