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許されない罪、救われる心

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117部分:第十一話 迎えその六


第十一話 迎えその六

 如月はこの日も俯いたままだ。顔をあげることはここでもなかった。
「だからね。こうしてね」
「外も」
「日に当たるのはいいことだよ」
 こう言ってであった。
「だからね」
「お外にですか」
「そう。さあ、次は何処に行きたいのかな」
「何処にですか」
「うん。好きな場所に行っていいよ」
 俯いたまま歩く如月に対して優しい声をかける。
「何処にでもね」
「私は」
 だが、だった。如月は言うのだった。
「特に」
「特に?」
「ないです」
 そうだというのである。
「別に。行きたい場所は」
「ないんだ」
「はい、ありません」
 そうだというのだった。
「悪いですけれど」
「いや、悪くはないよ」
 それはいいというのだった。
「それだったらね」
「それだったら?」
「このままお庭を歩こうか」
「そうですね」
 水無も笑顔で師走の言葉に頷く。
「暫くここを歩くのもいいですよね」
「そうだよ。それじゃあね」
「はい、じゃあ」
「ここを歩こうか」
「わかりました」
 二人でこう話してだった。それで如月と共に三人で歩く。しかしだった。
 庭に出ている患者や病院の者達がだ。その如月を見てここでもひそひそと囁くのだった。
「あの娘がねえ」
「とんでもない娘よね」
「あんな酷いいじめをしてきて」
「最低よね」
 わざと彼女に聞こえるようにして囁く。視線も後ろや横から感じる。
 如月はそれを受けるだけだった。ただ受けるだけだった。しかしだった。
 ここでだ。師走がその彼女に言った。
「他の場所に行こうか」
「他のですか」
「お庭の他にもいい場所はあるしね」
 穏やかな声を如月にかけた。
「だからね」
「何処ですか、そこは」
「ここと同じで日が見える場所だよ」
 そうした場所なのだという。
「そこに行こうか」
「そこは一体」
「すぐにわかるよ」
 今はそこが何処か言おうとしなかった。
「それじゃあね」
「わかりました」
 如月はその言葉に頷くだけだった。表情は沈んだままである。しかしそれでもだ。師走のその優しい言葉に頷くのだった。そうしてだった。
 師走と水無に連れられて共に来た場所はだ。病院の屋上だった。
 そこは四方をフェンスに囲まれている。そして誰もいない。そこに入ってであった。師走は如月に対してこう話してきたのである。
「どうかな、ここは」
「この屋上ですか」
「うん。いい場所だよ」
 上を見上げてだ。笑顔で話してきた。
「ここはね」
「お日様があるからですか」
「光はいいものだよ」
「光、ですか」
「誰が見てもいいものだしね」
 師走はその太陽を見上げて如月に話す。
「そう、誰でもね」
「誰でも・・・・・・」
「見ないのかい?」
 今度は如月に顔を向けて問うた。
 
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