許されない罪、救われる心
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101部分:第九話 全てを壊されその十
第九話 全てを壊されその十
「相手が死ねばそれで終わりでしょうか」
「いや、終わっては駄目でしょう」
「そうですよ」
「それは駄目ですよね」
「それで終わったら」
「はい、そうです」
また同志達の言葉に頷いてであった。
「ですからここは」
「ここは」
「どうされますか」
「死んでも許してはなりません」
厳然たる裁きの言葉だった。
「そう、死んでも屍を晒し墓を攻撃しましょう」
「そしてその死んだ姿をですね」
「ネットに流して」
「そうです、罪は絶対に消えないのです」
また言う岩清水だった。
「ですから。いいですね」
「はい、わかりました」
「それでは」
「殺してはなりません」
法律に基づく言葉ではなかった。断じてだ。
「死んでからも糾弾しましょう」
「そうだ、死んでも許すか!」
「何があっても許さないからな!」
「死んでそれで逃げられると思うな!」
「ずっとやってやる!」
「そんな、死んでもって・・・・・・」
如月は彼等の言葉に絶望するしかなかった。そしてだった。
岩清水はだ。ここでも同志達に話した。
「では皆さん」
「はい」
「今度は何をしますか?」
「悪はその全てを許してはなりません」
自分自身を善、そして如月を悪と置いての言葉に他ならなかった。
「ですからここはです」
「はい、ここは」
「どうされますか」
「この家の中に入りそのうえで悪の全てを破壊しましょう」
そうするというのであった。
「今から。いいですね」
「はい、それでは」
「今から」
「さあ、行きましょう!」
同志達にここぞとばかりに声をかけた。
「そして悪を!」
「悪を許すな!」
「全てを壊してやれ!」
「何もかもだ!」
如月を取り囲むのを止めてだ。彼等は家に雪崩れ込んだ。
ここで母が戻って来た。それで慌てて彼等を止めようとする。
「あの、何ですか貴方達は」
「いじめっ子の母親です」
岩清水はここでその彼女を指し示して同志達に話した。
「悪を生んだ存在です」
「御前の教育が悪いからだ!」
「それでこうなったんだぞ!」
「悪いと思わないのか!」
「責任を取れ!」
「そんな、あんなの娘じゃないわよ」
ここでだった。母は忌々しげに言い捨てた。
「あの娘のせいで家族も酷いことになってるのに。あんなの娘の筈がないじゃない」
「そんな・・・・・・」
母の今の言葉にだ。如月はまた絶望に襲われた。
「お母さん・・・・・・」
「私は知らないわよ、あんなの娘じゃないわよ」
「娘じゃない。私が・・・・・・」
これには愕然となってしまった。ようやく立ち上がったその時にだった。母が自分を指差してこう彼等に言い捨てたのである。
幼い頃からの記憶が蘇る。いつも優しい笑顔を向けて愛情で包んでくれた。遠足や運動会の時のお弁当も授業参観の時に来てくれたことも。家で勉強している時にも励ましの言葉をかけてくれておやつも出してくれた。服を買ってくれて怪我をしたらすぐに手当てをしてくれた。そんな母だった。
しかしその母がだ。今こう言ったのだ。如月の中で母との思い出が全て割れてしまったのだった。
「そんなことって・・・・・・」
「私達は関係ないわ。知らないわよ」
「知らない筈があるか!」
「生んだのはあんただ!」
「あんた以外に誰がいるんだ!」
「いえいえ、皆さん」
岩清水はここで再び動いた。
「今はそれよりもです」
「悪をですか」
「それを」
「はい、悪の全てを壊す方が先です」
こう話して彼等の矛先を他に向けさせるのだった。
「そちらに」
「わかりました。それじゃあ」
「家の中に入って」
「それで」
「全てをです」
こう言うのであった。
「いいですね」
「よし、行きましょう!」
「それじゃあ今から」
「絶対に許すか!」
彼等は家の中に雪崩れ込みだった。そして中から凄まじい音を出させていた。それが暫く続いてだ。彼等は誇らしげにそこから出て来た。
「よし、今日はこれ位でいいですよね」
「そうですよね、岩清水さん」
「これで」
「他にも三人います」
岩清水は如月だけを見ているのではなかった。他の三人もであった。
「ですから」
「よし、次はそっちだ!」
「そっちに行くぞ!」
「悪はまだいるんだ!」
「悪は逃すな!見逃すな!」
「何があってもな!」
こんなことを叫びながら何処かへと消える。如月は今は取り残されていた。
しかしここでだ。糾弾や母の言葉で朦朧となっている頭にだ。不吉なものが走った。
「まさか・・・・・・」
それに捉われ慌てて家の中に入る。そうして見るとだ。
家の中は徹底的に破壊されていた。テレビも食器も何もかも。家具もあらかた破壊され特にだ。彼女の部屋は酷いものだった。
机も椅子もベッドも本棚も。何もかもが潰されていた。あちこちに糾弾する落書きがありそして。
アルバムもあの写真も全て引き出されそのうえで引き裂かれていた。そこには千切れた自分自身の笑顔と。弥生達がいた。
「そんな、そんな・・・・・・」
その目がゆっくりと滲んできて。それから。
涙が溢れてくる。もうそれを止めることができなかった。
「全部、皆なくなるなんて・・・・・・」
千切れた写真の側のアルバムは。幼稚園のものも小学校のものも中学校のものもあった。彼女のこれまでの全てが。
その何もかもが引き裂かれそうして踏み躙られていた。それを見てどうしようもなくなり。その場に崩れ落ちてしまった。
そのまま泣き崩れる。後ろから母が自分を責める声がする。だがもうそれを聞くこともできず。ただただ泣き崩れるだけであった。
第九話 完
2010・9・7
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