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英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇

作者:sorano
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第72話


―――その後、料理研究会とユウナ達が腕を振るった結果、晩餐のメニューが数点追加され……リアンヌ主催のリーゼアリア歓迎会はオルキスタワーで供されたメニューに勝るとも劣らぬ豪華さとなった。

更に、料理が余りそうということで事前に近隣の人々にも声がかけられ……リーヴスの夕べは思いもかけず、賑やかなものになるのだった。

~宿舎・女子風呂~

「はぁ、こんなに本格的な浴室があるなんて……ふふっ、ちょっと驚きました。」

「あはは、どう考えても分校長の趣味だと睨んでるけどね。」

「そういえば、第Ⅱの宿舎になる時に大規模な改修がされたそうですね。元々は没落した領主の屋敷だったそうですが。」

「ええ、そうらしいですね。10年ほど前、悪徳商人に騙されて、借金を作って領地を手放したそうで……今では外国で事業を立ち上げ、頑張ってらっしゃるみたいですけど。」

「そうだったの……」

「は~……相変わらず情報通ねぇ。」

「ミュゼはそういった情報を一体どこから仕入れているのかしら?」

(な、何だかどこかで聞いたことがあるような……)
ミュゼの情報をリーゼアリアやユウナ、ゲルドが感心した様子で聞いている中心当たりがあるティータは冷や汗をかいた。


「でも、一緒のお風呂なんて少し抵抗あるかと思ったけど……みんな、全然平気みたいね?」

「?……何か問題でも?」

「いや、普通は恥ずかしがるでしょ。……って、アルは平気そうだけど。リーゼアリアさんとかティータやゲルドとか恥じらう所が見られるかもなんて。」

「あはは……実は小さい頃から温泉とかには入り慣れてまして。割と近くに温泉地があったんです。」

「私はこっちの世界に来てからは何もかもが新鮮で、むしろこうしてみんなでお風呂に入っておしゃべりする事は楽しいくらいよ。」

「その……私は幼い頃お兄様達の故郷――――ユミルにも遊びに行った事が何度かありまして。ご存じの方もいるかもしれませんがユミルは温泉郷として知られている場所なんです。」

「そ、そうだったの!?ティータも意外だけどリーゼアリアさんは初情報というか。」
ティータとリーゼアリアの説明を聞いたユウナは驚きの声を上げた。

「北部の温泉郷ユミル――――リィン教官達の故郷ですね。風情があって、落ち着ける所です。……ちなみに、ベルフェゴール様達の話曰く、エリゼ様やアルフィン様は露天風呂でリィン教官と一緒に入浴した所か、性行為も行った事があるそうです。……勿論、その時は周囲にわからないようにベルフェゴール様達が結界を展開していたそうですが。」

「そ、そういう余計な情報は言わなくてもいいわよ!それよりも露天風呂でまで”した”事があるなんて、やっぱりあのエロ皇帝の影響を受けているじゃない……そうなると、ロイド先輩も怪しくなってきたわね……ブツブツ……」

「あ、あはは……」
ジト目である情報を口にしたアルティナに顔を真っ赤にして指摘したユウナはジト目になってブツブツと呟きだし、その様子を見た周囲の者達が冷や汗をかいている中ティータは乾いた声で笑っていた。


「ふふ、しかしそうなると―――リーゼアリア先輩はリィン教官と、ティータさんはアガットさんと仲良く入浴されたんでしょうか?」

「ふえっ!?わ、わたしはそんな………」

「い、従兄ですし、幼い頃だったら何度か……」
意味ありげな笑みを浮かべたミュゼの問いかけにティータとリーゼアリアはそれぞれ頬を赤らめて答えた。

「ふふ、でも、落ち込んだリィン教官を元気つけるために大胆に入ったり……ティータさんは家族ぐるみのノリで一緒に入ってドキドキとかありそうですけど♪」

「そ、そんな事したことないわよ!私とお兄様達の交流は最近ようやく始まったばかりである事は貴女も知っているでしょう!?」

「…………ううう~~~っ………」
ミュゼの指摘にリーゼアリアは顔を赤らめて反論し、ティータは赤らめた顔を俯かせていた。

「…………ミュゼさん、流石ですね。」

「あの様子だとリーゼアリアはともかく、ティータは当たっていそうよね……」

「お、恐ろしい子―――て言うかアンタも少しは照れなさいよっ!――――は~、でもいいなぁ。みんな綺麗な髪をしてて。リーゼアリアさんはマリンブルーでティータはハニーブロンドだし、アルとゲルドに至っては反則すぎる銀髪と純白の髪。アンタも黙ってればゆるゆるヘアーのお嬢様だしね。」
周りの女子達の髪を羨ましがったユウナは隣にいるミュゼの髪をいじり始めた。


「ふふっ、ユウナさんの髪も素敵だと思いますけど。」

「先程、髪を洗う時に下ろされていましたけど……ずいぶん印象が違いましたね。」

「うんうん、新鮮ですし、すごく女の子っぽかったです!」

「そういえば結構、マメに手入れしてますよね。」

「そうね。いつも髪の手入れに一番時間をかけているものね、ユウナ。」

「アンタたちみたいに手入れもしないで髪も肌もツヤツヤな子とは違うの!」
アルティナとゲルドの言葉を聞いたユウナは羨望の眼差しで二人を見つめながら答えた。

「そうそう、折角の機会ですし。乙女にしかできない有意義な話をしませんか?」

「え………」

「乙女にしかできない……?」

「一体どういう内容なのかしら……?」
ミュゼの提案にティータは呆け、アルティナとゲルドは首を傾げた。
「ええ、ずばりリィン教官の好みのタイプについてです♪ご存じのようにリィン教官には既に姫様を伴侶に迎えている事に加えて、エリゼさんを始めとした多くの婚約者もいらっしゃる状況です。例えば、ここにいる面々だったらどなたが一番の好みなんでしょう?」

「ま、また物議を醸しそうなことを……」

「……確かに少々、興味深くはありますね。」

「教官には色んなタイプの女性が既にいるものね。」

「あのあの、わたしは……」
ミュゼの言葉に冷や汗をかいたユウナはジト目になり、アルティナとゲルドは興味ありげな表情を浮かべ、ティータは気まずそうな表情をした。


「ふふ、ティータさんは参考程度くらいに考えて。―――アリア先輩、そこの所はどうでしょう?ふふっ、やっぱり一番は正妻予定のエリゼさんが当然として、その次はエリゼさんのように”妹”として扱っているアリア先輩なんでしょうか♪」

「ゴクッ……」

「ドキドキ……」

「「……………………」」

「そうね――――特にタイプは無いんじゃないかしら。実際にお兄様には皇女殿下を始めとした多くの女性達がお兄様と将来を共にすることになっているのだし。お姉様にセレーネさん、ベルフェゴールさんとリザイラさん、メサイア皇女殿下とアイドス様、そしてアリサさんとアルフィン皇女殿下と、みんなタイプはほとんど異なる女性だもの。」
全員に注目されたリーゼアリアは冷や汗をかいた後落ち着いた様子で答えた。


「た、確かにそれを聞くと改めてとんでもないというか……」

「”女の敵”というヤツですね。」

「でも姫様によれば、男性のお仲間とも熱い視線を交わしあっていたなんて……♪」

「ふえええっ……!?」

「…………ミュゼ、女学院の悪癖を広めないでちょうだい。」
そしてユウナ達はそれぞれ声を上げて笑った。


「はあ……でも確かにリィン教官って少し放っておけない所もあるかもね。それを言ったらクルト君も、あのアッシュもそうなんだけど……」

「あらまあ。」

「って、何でも拾わないの!」

「…………ちょっと不思議です。女子と男子―――分校に入るまで性別の違いなど余り意識したことはありませんでしたが……やはり違うものなんですね。」

「あ…………」

「アルティナさん……」

「…………そうですか。」

「うんうん、アルも3ヵ月でずいぶんと成長したよね~。背とか胸は若干反則技のような気もするけど。」

「そういえばアルって、セティさん達が作った薬のお陰で成長しているんだっけ……?」

「余計なお世話です。……わたしの場合は、事情が特殊ですから仕方ありません。」

「あはは……!可愛いな~、アルは!」
若干不満げな様子で答えたアルティナにユウナは思わず抱きついた。

「だ、だから過度の接触は……」

「あはは……」

「……ふふっ……」

「ふふっ、失礼するねー!」

「うふふ、もう始めちゃっているみたいね♪」

「フフ、私達もお邪魔させて頂きますわね。」
するとその時トワとレン、セレーネが浴室に入ってきた。

「あ、セレーネ教官。」

「それにトワ教官とレン教官も。」

「一緒に入るんですか―――」
ティータがトワ達に訊ねかけたその時、トワ達の背後から現れた人物達を見るとそれぞれ驚きの表情を浮かべた。

「フフ、失礼。」

「私達もご一緒させて頂きますわね。」

「ふふっ、こんなにも多くの女性達とお風呂を入るなんて、2年前の内戦以来ですわね♪」

「はーい♪今回は私達も一緒よ♪」

「ふふふ、お望みでしたら昨夜の続きを教えてあげても構いませんよ?」

「リ、リザイラ様……一体昨夜、何があったんですか……」

「まあ、あの口ぶりだとユウナ達の教育に悪い事を教えているのでしょうね……」
リアンヌ分校長を筆頭にエリゼ、アルフィン、ベルフェゴール、リザイラ、メサイア、アイドスがそれぞれユウナ達やトワ達同様湯着の姿で現れた。


「……………………」

「す、すごい……」

「…………圧倒的ですね。」

「うん、特にリアンヌ分校長とセレーネ教官、それとベルフェゴールさんが凄いわ。」

「お、お先に失礼しております。」
リアンヌ分校長達のスタイルの良さにユウナ達はそれぞれ圧倒されていた。

「ふふ、従妹殿もいることですし、たまには生徒と裸の付き合いも悪くないと思いまして。」

「あはは……気にしないでゆっくり浸かってねー。」

「まあ、リアンヌ分校長やセレーネ達のこのスタイルの良さを見て、まだ成長中のレン達がゆっくり浸かるのは無理があるかもしれないけどねぇ?」

「レ、レン教官。」
その後リアンヌ分校長達もそれぞれ身体を洗った後湯に浸かり始めた。


「フフ、やはり風呂はいいですね。しかし皆女性らしく盛り上がっていたようですが……メンツを考えるとシュバルツァー教官から心を寄せられ、新たな伴侶にしてもらう方法の話でもしていたのでしょうか?」

「あ、新たな伴侶にしてもらうって……」

「はい、そうなんです♪」

「…………そんな話では無かったと思いますが。」
リアンヌ分校長の指摘にそれぞれ血相を変えている中ユウナは表情を引き攣らせ、ミュゼは笑顔で答え、アルティナはジト目で指摘し
「あら、そういう話をするんだったら、まず最初に私達を呼べば、的確なアドバイスをしてあげるわよ♪」

「ふふふ、我々は既にご主人様の心を自らの行動によってつかみ取ったという実績がありますしね。」

(お二人の場合ですと、どう考えても”なし崩し的”であるような気がするのですが……)

(まあ、それを言ったら私達も二人の事は言えないでしょうね……)
ベルフェゴールとリザイラがそれぞれ答えている中、冷や汗をかいたメサイアの念話にアイドスは苦笑しながら答えた。

「――――皆さん、頼るにしてもそちらのお二人は”絶対に止めて下さい。”お二人の事ですから自分達が楽しむために大方兄様を押し倒して関係を結ぶ方法やサディスティックな方法で無理矢理兄様の心を縛り付けて兄様に想いを寄せられる方法を教えると思いますから。」

「エ、エリゼお姉様………」

「は、はわわわわ……っ!?」

「ふふっ、わたくしとアリサさんは実際にベルフェゴールさん達に相談して今エリゼが仰った方法に”若干近い方法”で、ようやく旦那様にわたくし達の”想い”に気づいて頂いて、伴侶にしてもらったという実体験がありますから、反論できませんわね。」
ジト目になったエリゼの指摘にその場にいる多くの者達が冷や汗をかいている中セレーネは表情を引き攣らせ、トワは顔を赤らめて慌て、アルフィンは苦笑していた。

「エリゼったら、酷いわね~。少なくてもドSのリザイラよりは私の方が的確なアドバイスができると思うけど♪」

「ふふふ、出会い頭にご主人様の”初めて”を奪って無理矢理”関係”を結び、ご主人様が性欲旺盛になるように”調教”した貴女にだけはそれを言われる筋合いはないと思うのですが?」

「どっちもどっちですわよ………」

「”ドS”ってどういう意味なのかしら……?それに、ベルフェゴールさんは一体どんな方法でリィン教官が性欲旺盛になるように調教したのかしら……?」

「わー!わー!学生のあたし達は知らなくていい事よ!」
ベルフェゴールとリザイラのとんでもない会話にその場にいる多くの者達が再び冷や汗をかいている中メサイアは呆れた表情で指摘し、首を傾げているゲルドにユウナは顔を真っ赤にして指摘した。


「ちなみに”男女の営み”の知識が豊富なベルフェゴールさんに聞きたいことがあるのですが……ずばり、私や新姫様、そしてアリア先輩はリィン教官にとって興奮する女性なんでしょうか♪」

「ミュ、ミュゼ!?」

「うふふ、少なくても今挙げた貴女を含めた3人は年齢の割には大きな部類に入る貴女達の胸なら十分挟めるサイズだからご主人様のストライクゾーンに入っていると思うわよ♪昨夜も説明したようにご主人様は否定しているけど、胸が大きい女性が好みで、実際胸で”挟んであげる”とすごく喜ぶし、セックスをする時はいつも胸を”揉んで”いるもの♪」
ミュゼのベルフェゴールへの質問にリーゼアリアが驚いている中ベルフェゴールはからかいの表情で答え、ベルフェゴールの答えにその場にいる多くの者達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「ふふ、それは朗報ですわ♪お互いによかったですわね、アリア先輩♪それとその時に備えて今から練習をしておいた方がいいかもしれませんわね♪」

「そこで私に同意を求めないでよ、ミュゼ……っ!」

(”昨夜も説明した”って………一体昨夜の集まりでベルフェゴール様達は何をユウナさん達に説明したんですか……?)

(知らない方がいいわよ……)
嬉しそうな表情を浮かべたミュゼに話を振られたリーゼアリアは顔を赤らめて声を上げ、表情を引き攣らせたセレーネに小声で訊ねられたエリゼは疲れた表情で答えた。
「ベルフェゴールさんは胸で挟めば挟んであげるとリィン教官は喜ぶって言っているけど、一体何を挟んでいるのかしら……?」

「ちょっ、ゲルド!?ベルフェゴールさんが言っている事は全部学生のあたし達はまだ知ってはいけない事だから、気にする必要はないわよ!」

(アガットさんも胸が大きい方がいいのかな……?)

(………胸も身長同様順調に成長はしていますが、念の為にセティさん達に豊胸薬を新たに依頼すべきでしょうか………?)
不思議そうな表情で首を傾げているゲルドにユウナは顔を真っ赤にして必死の様子で指摘し、ティータは不安そうな表情でユウナ達と違ってあまり大きくない自身の胸を見つめ、アルティナは真剣な表情で考え込んでいた。



「――――少し指南をしましょう。彼のような手合いは八方美人ではありますが、いざ想いをよせる事になれば一途で頑固になりますでしょうし、例えその相手が複数になったとしても一度心を決めた相手には真剣に向き合うでしょう。ならば如何に雰囲気を作って己が土俵に引き込むかが肝要になるでしょう。」

「そ、そうなんですか?」

「少々興味深いです。」

「でも、実際に教官はエリゼ達の事をとても大切にしているものね。」

「…………一途で、頑固なタイプはいかに雰囲気を作るか……」
リアンヌ分校長の指南にそれぞれ血相を変えている中ユウナとアルティナ、ゲルドは興味ありげな表情を浮かべ、ティータはアガットの顔を思い浮かべて真剣な表情を浮かべた。

「ふふっ、先輩。これは聞き逃せませんね♪」

「もう、ミュゼ……!」

「――――ハッ!もう、分校長……っ!」

「うふふ、でも実際にパパの側室の一人の分校長が言うと真実味があるわよね♪」
ミュゼにからかわれたリーゼアリアがミュゼを睨み、トワが疲れた表情で声を上げている中レンは興味ありげな表情で指摘し

「兄様とリウイ陛下は性格等も含めて、ほとんど似ていないと思いますが………」

「フフ、ですが様々なタイプの女性を落としているという意味では一緒かもしれませんわね。」
レンの指摘を聞いたエリゼは困った表情で意見をし、セレーネは苦笑しながら答えた。


「側室の一人って…………ぶ、分校長って、結婚していたんですか!?」

「しかもお相手があのリウイ前皇帝陛下だなんて…………その、ロッテ共々ずっと気になっていたのですが……リアンヌ分校長は250年前の”獅子戦役”にてドライケルス大帝と共に活躍し、獅子戦役後消息が突如途絶えたあの伝説の”槍の聖女”――――リアンヌ・サンドロッド卿なのでしょうか……?」
レン達の会話を聞いてある驚愕の事実に気づいたユウナは一瞬呆けた後驚きの声を上げ、リーゼアリアは信じられない表情をした後興味ありげな様子でリアンヌ分校長に訊ねた。
「フフ、正確に言えば”私はリアンヌ・サンドロッドではない”のですが、この肉体の持ち主はそう呼ばれていた人物ですね。」

「”リアンヌさんが正確に言えばリアンヌさんではなく、肉体の持ち主がリアンヌ・サンドロッドと呼ばれていた人物”……?それって一体どういう意味なのかしら?」

「まあ、初めて聞けば”存在自体が非常識”であるゲルドさんにとっても”非常識”に思えるような事実です。」

「あ、あはは…………」
リアンヌ分校長が答えた答えに首を傾げているゲルドにアルティナはジト目で指摘し、アルティナ同様リアンヌ分校長の正体を知っているティータは苦笑していた。その後もユウナ達はリアンヌ分校長達を交えて様々な事について談笑していた。


~同時刻・リィンの私室~

一方その頃リィンは今後の授業の準備を終えて一息ついていた。
「――――熱心ねぇ。」
するとその時セリーヌが部屋に入ってきた。
「ああ―――演習地も決まって明日は機甲兵教練もあるからな。新しい機体もあるし、準備することは山積みだよ。そういえば、エリゼ達と風呂に入るんじゃなかったのか?」

「…………フン。とっとと抜け出してきたわ。なんか巻き込まれてのぼせそうな予感がしたし。」

「…………?そうだ、そういえば――――」
セリーヌの言葉に首を傾げたリィンだったがある事に気づき、立ち上がってラジオに近づいた。

「ラジオ……?何か聞いてる番組でも―――」
リィンの行動にセリーヌが首を傾げているとリィンがラジオのスイッチを入れた。するとある音楽が流れ始めた。

「ちょ、これって……なんでわざわざヴィータの番組なんか聞くのよ!?」

「まあ、一応今回の件でファンになったからな。……あの人の事だから何か狙いがありそうな気もするし。」

「ハア、ただの暇つぶしか悪ふざけでしょ…………」
そして二人は”アーベントタイム”を聞き始めた。


――――みなさんこんばんわ。アーベントタイムのお時間です。トリスタ放送が6月11日、夜9時をお知らせします。みなさん、日曜の夜はいかがお過ごしでしょうか?6月も半ば…………そろそろ1年の半分が過ぎるんですね。長かったような、短かったような。

そんなこんなで今年もやってきました。――――そう、”夏至祭”の季節ですね。この時期、各地で開かれる伝統的なお祭り―――ああ、帝都だけは一月遅れですが、土地によって色々な催しが開かれるのが特徴ですね。個人的にオススメするのはやっぱり海沿いの”フォートガード州”とクロスベル帝国の”ラマール州”でしょうか!

”海都オルディス”では、恒例行事として湾内に無数の篝火を浮かべる事で有名で、クロスベル帝国領と化してからは失われる事も危ぶまれていましたが、ラマール州の責任者であり、先月の”三帝国交流会”にも参加したカイエン公爵令嬢姉妹がクロスベルの両皇帝陛下達にオルディスでの”夏至祭”が続けられるように嘆願し、その結果寛大な両皇帝陛下達が許可を出したお陰で続行されています。そしてオルディスがクロスベル帝国領と化した事で”新海都”となったフォートガードでは、オルディスと同じ行事を行う事を予定されていましたが残念ながら去年は諸事情で自粛されたため、楽しみにしている人も多いのでは?…………ふふ、そういう私もその一人です。

夏至祭の雰囲気をしっとりと楽しみながら、ショットグラスの氷をカランと回して…………そんなロマンチックで大人な夜を過ごせたら素敵ですね。


「…………次の演習地はフォートガード州なんだよな。そういえば前回も、前々回もサザ―ラントにクロスベルだったか。」

「ったく、完全に狙っているとしか思えないチョイスじゃない。”結社”の動きを読んでいるのか政府の動きを見越しているのか…………ま、多分両方でしょうね。」

「ああ…………だろうな。」
アーベントタイムを聞いていてふと先月と先々月のアーベントタイムでも特別演習の実習地をネタにしていたことを思い出したリィンの話を聞いたセリーヌは呆れた表情で呟き、リィンはセリーヌの推測に頷いた。


―――そうそう、フォートガード州といえば、お楽しみは新海都だけではありません。沿岸部にはビーチなども点在していますし、新鮮な海産物を使った料理も魅力的ですね。峡谷地帯の”歓楽都市ラクウェル”はカジノや小劇場が有名ですし…………あとは沖合いにある”ブリオニア島”かな?定期便こそ出ていませんが、豊かな自然と古代のロマンが溢れた知る人ぞ知る穴場スポットなんだとか。ふふ、夏至祭を堪能したあとは、海水浴にギャンブル、ボートを借りての歴史探訪なんかもアリかもしれませんね。


「ブリオニア島…………旧Ⅶ組から聞いたことがあるな。2年前、旧Ⅶ組のB班が特別実習で行ったらしいな?」

「ええ、で、エマ達はノルドに行ったはずよ。そういえば…………その島は前に”長”が気にかけてたわね。エレボニアでも有数の霊跡があるとかなんとか――――」

「へえ……?”長”―――エマが”お祖母ちゃん”、クロチルダさんが”婆様”と呼ぶ人だよな?」
セリーヌの話を聞いてある事が気になっていたリィンはセリーヌに確認した。
「ええ………実物を見たら驚くと思うけど。あの子たちにとったら実の祖母同然でしょうね。」

「という事は…………血は、繋がってないんだな?」

「当然そうなるわね――――なに、興味があるの?」

「まあ、当然気になるかな。」

「…………」
リィンが魔女の眷属(ヘクセンブリード)の”長”を知りたがっている事に考え込んでいたセリーヌはすぐに結論を出して、リィンに視線を向けた。
「…………フフ、いい機会かもね。エマから話ておいてくれって頼まれてもいたし。」

「え。」

「少しだけ、教えてあげるわ。あの子たちの過去と――――”魔女の眷属(ヘクセンブリード)”についてね。」


―――エマにヴィータ。とある里を拠点とする一族の末裔(すえ)として生まれた二人の娘達。ヴィータは早くに両親を亡くしたけど、その天賦ともいえる才能を見込まれ、”長”の一番弟子として引き取られたわ。一方、エマの母親は”在野の魔女”――――世俗の街で暮らしていたけど、不幸な事故で命を落としてしまった。エマは幼くして”長”に引き取られ、そして二人は実の姉妹のように育ったわ。長が生み出した2匹の使い魔もそれぞれ与えられたわ。

才気溢れるヴィータに、ちょっと引っ込み思案のエマ。どちらも善き魔女として成長し、穏やかな日々が続いたけど…………――――16歳の時、ヴィータが”巡回魔女”に志願したの。

里の外、世の情勢を見極める役目――――”長”は安心して送り出したけど、半年でヴィータは消息を断ってしまった。エレボニアのみならず、大陸全土にまたがり暗躍する結社”身喰らう蛇”…………その首領たる”盟主(グランドマスター)”と邂逅し、魔女としての使命を棄ててしまったの。”長”は随分後悔したみたい…………過去にも似たような事があったのにどうして警戒できなかったのかって。ここだけの話、ヴィータが”七日戦役”の件でメンフィルの標的(ターゲット)になった事を知った時、里に伝わっている禁術や秘術、貴重な魔導書等や最悪は”長”自身の身柄を対価に何とかヴィータの命を助けてもらえるようにメンフィルと交渉するつもりだったらしいわ。

話を戻すけど慕っていた”姉”を失ったエマのショックはそれ以上だった。『あやつ事は忘れよ』という”長”の言葉にも納得せず、その日からひたらすらに修行と勉学に励んでいったわ。同じ巡回魔女となっていつか”姉”を連れ戻せると信じて。

―――そうしてエマは16歳になり、渋る長から巡回魔女の資格を認められた。在野の魔女なんかの協力も得てトールズを受験し、奨学生の資格も得て……そして17の春、旧Ⅶ組と出会い、その半年後に起こった内戦でアンタと出会った。


「………ありがとな、セリーヌ。ようやくエマやクロチルダさん、セリーヌのこともわかってきたよ。」
セリーヌが過去の話を終えるとリィンが感謝の言葉を述べた。
「ま、部外者には禁じられてるけどアンタたちⅦ組や特務部隊はもう身内のようなものでしょうし。”長”が認めてくれるよう、そのあたりはエマが掛け合ってたわね。」

「そうか…………クロスベルでの別れ際に俺に預けてくれたあのペンダントといい。通信でもいいが―――どうかお礼を言っておいてくれ。」

「あー、自分で言いなさい。近いうちにまた会うんでしょ?」


―――リスナーの皆さん。それでは今週はこのあたりで。ふふっ……セリーヌ、リィン君も今夜は早く寝た方がいいわね。

そしてアーベントタイムの終わり際にミスティ――――クロチルダがリィンとセリーヌを名指ししての言葉を口にすると二人はそれぞれ驚きの表情を浮かべてラジオに視線を向けた。
「い、今のは…………」

「まったくあのアマは………多分、因果を先読みしてアタシたちだけに聞こえるメッセージを録音に仕込んでいたみたいね。」

「さ、流石にとんでもなさすぎだろう…………」

「そうね。エマも届きつつはあるけど、ヴィータの魔女としての力は強大よ。それでも、万能じゃないわ。結局、メンフィルや鉄血宰相にしてやられて、”結社”にも追われてるみたいだし。」

「…………”結社”の計画を乗っ取った宰相、そして謎の動きを見せる”黒の工房”、双方にとって想定外(イレギュラー)の存在であるメンフィル・クロスベル連合…………クロチルダさんが言っていた”真なる物語”というのもあったな。」

「ええ、1年半前の煌魔城の出現で『結末を変えようとして失敗した』とも。ヴィータはふざけた性格だけど適当な嘘やデタラメは言わないわ。必ず存在するのよ、その”危機”は。」

「…………ああ…………―――そうか、行くんだな?ここまで重要な話をしてくれたってことは…………」
セリーヌの忠告に頷いたリィンはセリーヌの意図を察してセリーヌに確認した。


「ま、餞別代わりね。内戦の間では伝えきれなかった話も伝えられたし、アンタの生徒になったあの白き魔女からも他にも聞きたいことが聞けたし。明日の朝、アンタの従妹と一緒にお暇することになるわ。今度会うときは、”Ⅶ組と特務部隊全員”の再会に立ち会う時かしら?」

「はは、そうだな。」
その後セリーヌが部屋を出ていくとリィンは明日に備えて休み始めた―――― 
 

 
後書き
封緘のグラセスタ、現在5章でようやくユリーシャのポンコツがなくなってくれ、更にフルーレティも盟友化してくれました………最初ユリーシャの治癒魔術が4分の1の確率でダメージになる事に、せっかくの貴重な最初から盟友化するキャラなのに、何て残念性能………って何度も思った事か。ただでさえユリーシャは装備できる武器は杖・ハンマーと通常攻撃メインとしては使いづらい武装の上物理攻撃力も中途半端なのに、治癒魔法まで事実上使えないとかマジで残念過ぎでしたから。それとフルーレティですが加入した時のレベルを見て天秤のリザイラ並みに現在のメンバーそれぞれのレベルの倍近くある事に噴きましたwwHPが共通じゃなくて、戦女神シリーズのように別々制度だったらさぞフルーレティは強かったでしょうに、そこの所が残念ですね。逆に言えばハゲの猛牛はHPが共通性だからこそ光る性能があるのでしょうけど…………そのハゲの猛牛がスキルをあげてちゃんとした装備にしてやれば、ボス戦で割と重宝する事に驚きました。まあ、防御するまで中々出番が回らないのが欠点ですが………… 
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