英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇
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第71話
6月11日――――
翌日、”要請”という形で来た様々な方面の依頼をこなし、恒例であるシュミット博士からの要請である更に難易度を上げた”アインヘル小要塞”の攻略を新Ⅶ組のメンバーと共に開始し、無事攻略を終えて要塞の出入り口に戻ると誰かがリィン達に声をかけてきた。
~アインヘル小要塞~
「みんなっ、お疲れ様!」
「あん……?」
「あら、アンタ達は。」
声が聞こえた方向に視線を向けるとそこにはジョルジュ、ティータ、リーゼアリア、トワ、エリゼ、アルフィンがいた。
「ふふ、無事にテストを終えられたみたいですね。」
「リーゼアリア……エリゼ達も。どうしてこんなところに?それにシュミット博士は…………」
「ああ、博士はデータを纏めるってさっさと研究棟に帰っちゃってね。」
「ふふ、お昼時になったので”約束”を果しにきたんです。ひょっとしてお忘れですか?」
「そういえば、一緒にランチをとる約束をしてたんだったな。」
「そっか、もうお昼なんだ。」
「ずっと小要塞にいたから気がつかなかったな。」
「小要塞でのテストの間に時間を確認するような余裕はなかったものね……」
「あはは……今回のテストも大変でしたし。」
今が昼時であることにようやく気付いたユウナとクルト、ゲルドの会話を聞いていたティータは要塞内でのユウナ達の苦労を思い返して苦笑していた。
「…………そういえば少々、空腹状態のようです。」
「ふふっ、いい匂いがしますけどアリア先輩、ひょっとして?」
「ええ、お姉様達にも手伝っていただいて宿舎でお弁当を拵えてきました。」
「ふふっ、よければ皆さんで一緒にランチ、どうですか?」
「私達と新Ⅶ組の全員分を用意していますので、量を心配する必要はありませんから、遠慮なく食べてください。」
ミュゼの推測にリーゼアリアは頷き、アルフィンとエリゼはユウナ達をランチに誘った。その後リィン達は中庭でシートを広げてランチを始めた。
~トールズ第Ⅱ分校・中庭~
「いや、凄いなこれは……」
「ええ………彩り豊かで目も癒されるというか。」
「こんな綺麗なお弁当、初めて見たわ……」
弁当の中身を見たリィンとクルト、ゲルドはそれぞれ感心した様子で呟き
「しかも、どれも超美味しい~!疲れが吹っ飛んじゃう!」
「ユウナさん、そんなに急いで食べると喉につまらせてしまいますわよ。」
「ふふ、良かった。気に行っていただけて。」
嬉しそうな様子で次々と弁当の中身を食べるユウナをセレーネは苦笑しながら諫め、リーゼアリアは自分達が作った弁当を美味しそうに食べる様子を嬉しそうに見守っていた。
「ティータちゃんやエリゼちゃん達で協力して用意したもんねぇ。」
「えへへ、わたしは朝の仕込みくらいで本職のエリゼさんやアルフィンさん程じゃありませんよ。」
「フフ、そんな事はありませんわ。ティータさんとトワさんも料理が凄くお上手で、リィンさんに嫁いでから家事を本格的に学んだわたくしにとっても勉強になりましたわ。」
「私も自分の知らない味付けや出汁の取り方を知る事ができましたから、お二人との共同作業は私にとっても有意義な時間でした。」
「えへへ、さすがに褒めすぎですよ。でも博士の分、どうしましょう?せっかく作ってきたんですけど。」
「はは、後で届けてあげればいいさ。研究の合間に勝手に食べるだろう。
アルフィンとエリゼの賛辞に恥ずかしそうな表情をしたティータはジョルジュに訊ね、訊ねられたジョルジュは苦笑しながら答えた。
「ん~、この唐揚げなんて外はサクサク、中はじゅわっとジューシーで最っ高!卵焼きはキレイな形だし……でも、ちょっと味付けが珍しいような?」
「もしかして”お出汁”を使っているのですか?」
「ふふっ、セレーネちゃん、正解!実は隠し味にお出汁を加えてるんだ。」
ユウナの疑問に続くように答えたセレーネの推測にトワは笑顔で答え
「以前、上手なお出汁の取り方を東方出身の方から教えて頂きまして。よかったら後でお教えしましょうか?」
「わっ、いいんですか!?やった、お弁当のレパートリーが増える!」
「…………私もユウナさんと一緒に教えてください。卵焼きもそうですが唐揚げをこんなに美味しく調理する方法はまだシュバルツァー家でも学んでいませんし。」
「フフ、わたくしもエリゼやリーゼアリアと違って料理の腕前はまだまだですから、一緒に学びましょうね。勿論、リィンさんの新たな婚約者の最有力候補のリーゼアリアも一緒にね♪」
「お、皇女殿下、そう言う事はせめてお兄様のいない所で……」
エリゼの申し出を聞いたユウナは嬉しそうな表情をし、アルティナも続くように申し出をし、アルティナの申し出を聞いたアルフィンは微笑みながら答えた後リーゼアリアにウインクをし、ウインクをされたリーゼアリアはリィンを気にしながら答えた。
「みんな、”女子力”が高いわね……同じ女の子として、羨ましいわ……」
「うーん、負けてられませんね。私もそのうちリィン教官に真心こめた愛情弁当を……♪」
料理について話し合っているエリゼ達の様子をゲルドと共に羨ましそうに見ていたミュゼは頬を赤らめて微笑みを浮かべてリィンに視線を向けた。
「…………」
「兄様?……その、もしかしてお口に合わなかったでしょうか?」
一方フォークがあまり進んでいない様子のリィンに気づいたエリゼは不安そうな表情でリィンに訊ねたが
「ああいや……そうじゃないんだ。ただ、なんていうか……懐かしい味だなって思ってさ。一瞬、実家に戻ってきたような気がしたくらいだ。」
「あ…………ふふっ、当然です。シュバルツァー家の味付けですから。この機会にたんと召し上がってくださいね?」
「ああ、ありがたく頂くよ。」
リィンの感想を聞くと若干自慢げな様子になって答えた後リィンと二人だけの世界を作り、その様子を見たユウナ達は冷や汗をかいて呆れた。
「って、一瞬で二人の世界だし……」
「フフ、何だかんだ言ってもエリゼには敵いませんわね。」
「何と言っても、お兄様が最初に出会った女性で、お兄様の事を最も理解されている方ですものね。」
「むむっ、やはり正妻であるエリゼさんをまず味方にする必要がありそうですね……」
「もう、ミュゼったら……」
ユウナがジト目でリィンとエリゼの様子を見守っている中アルフィンとセレーネは苦笑し、真剣な表情を浮かべて呟いたミュゼの独り言を聞いたリーゼアリアは呆れた表情で溜息を吐いた。
「ハグハグ……この魚もなかなか……」
一方セリーヌはリィン達の様子は気にせず、魚を美味しそうに食べていた
「ガツガツ……ま、悪くはねえな。」
「…………家庭の味、か。そういえばこういうのは久しぶりだな………」
アッシュはエリゼ達が作った弁当を食べながら高評価をしている中クルトは懐かしそうな表情を浮かべた。
「クク、なんだ?母ちゃんの手料理が恋しくなっちまったか?帝都にいるんだろうし、毎週帰ればいいじゃねえか。」
クルトがふと呟いた言葉が気になったアッシュはからかい半分でクルトに指摘した。
「修行も兼ねているんだし、そうそう簡単には帰れないさ。君の方こそ、入学して3ヵ月、家の味が恋しくなったんじゃないか?」
「ま、そうだな。ちょいとメシマズな母親だったが無けりゃあ物足りねぇもんだ。」
「へえ……?」
アッシュの話を聞いたクルトは興味ありげな様子でアッシュを見つめた。
「モグモグ……ンな事よりちょいと物足りねぇ感じだな。おっ、いいところにサンドイッチが余ってるじゃねぇか。」
「僕のだ。……油断もスキもないな。」
クルトのサンドイッチを奪う為にアッシュはクルトの弁当箱へと手を伸ばしたがクルトは即座に弁当箱をアッシュの手から遠ざけた。
「ふふ、一応余分に作ってますからよかったらどうぞ。」
「おっ、そんじゃ頂くぜ~。」
「………やれやれ。」
二人のやり取りに気づいたリーゼアリアは余りの弁当箱をアッシュに渡し、その様子を見守っていたリィンは苦笑していた。
その後リィン達は弁当を綺麗にたいらげて解散となり――――シュミット博士に一言挨拶をすませた後、クロスベル帝国のルーレに向かうジョルジュを駅まで見送った後リィンとトワ、セレーネは次の特別演習についてのブリーフィングに参加するために第Ⅱ分校に戻った。
~ブリーフィングルーム~
「――――配った資料にもある通り、今度の演習地は西部フォートガード州だ。演習地は新海都フォートガードの近郊―――ただ、これまでより離れた場所となる。それに加え、東にある峡谷地帯のラクウェル市までが演習範囲となる。」
「なるほど………」
「フォートガードにラクウェルか。ラクウェルには行った事はあるが………」
「…………前2回と比べてもかなりの広範囲となりますね。」
「フォートガードで気づいたけど、フォートガードはクロスベルのオルディスと隣り合っているわね♪」
「クク、ちなみに先月にオルディスに潜入していた”結社の残党”の連中はラクウェルへ続く峡谷道の最中で空の女神の末裔達にとっ捕まったそうだぜ。」
「あ、あのランドロス教官……ミハイル少佐がいる目の前でその話をするのはちょっと……」
ある事実に気づいたレンは小悪魔な笑みを浮かべ、口元に笑みを浮かべて呟いたランドロスの話を聞いたセレーネは冷や汗をかいてミハイル少佐に視線を向けた。
「コホン、静粛に……!―――知っているかもしれんが、この場所に決まったのも訳がある。エレボニアの貴族諸侯による”とある会議”が開かれるためだ。」
「『帝国領邦会議』ですね………今年の開催がフォートガードになるのは聞いていましたが………」
「今までの演習を考えたら結社や地精が関わってくる可能性は高いでしょうねぇ?」
ミハイル少佐の話を聞いてある事を察したトワは表情を引き締め、レンは意味ありげな笑みを浮かべた。
「……っ」
「…………”結社”が動く可能性はかなり高いかもしれませんわね。」
「ああ、連中の”実験”とやらが行われるかどうかはわからんが。」
「それに”結社”ばかりでなく、”他の勢力”も今までの演習のように何らかの動きをするかもしれないぜ?」
「”他の勢力”――――”地精”ですか………」
「”地精”と名乗る勢力も含めて備えた方がいいと思います。」
「フフ、生徒達もそうですが貴方達も改めて覚悟を決めたようですね。意気やよし――――これならば本校にそう後れを取ることもないでしょう。」
リアンヌ分校長が呟いたある言葉が気になったリィン達はそれぞれ不思議そうな表情をした。
「へ………」
「本校に後れ……ですか?」
「分校長、それは…………」
リアンヌ分校長の言葉にトワが呆け、リィンが不思議そうな表情で呟いたその時、事情を知っているミハイル少佐は複雑そうな表情を浮かべた。
「その様子では、まだご存じでなかったようですね。―――どうやら今月から本校でも”特別演習”が始まるとの事です。」
「ええっ……!?」
「分校だけじゃないのかよ!?」
「…………本校は本校で帝国の危機に貢献すべきと皇太子殿下が仰られてな。第Ⅱとは別の場所にはなるが……週末、同じ日に出発することになる。」
「ふぅん?この間ランドロスおじさんに負けた事に加えて、クロスベルの演習ではクロスベル皇帝直々から演習での活躍の”感謝の証”として、”工匠”の中でもトップクラスの腕前のセティ達が作った武装を下贈されたことを知って対抗意識を燃やしてきたのかしら♪」
「ま、何にしても相手が自ら同じ土俵に上がってきたんだから、都合がいいじゃねぇか――――――分校(オレ様達)の”踏み台”になる”相手”としてなぁ?」
「ラ、ランドロス教官、さすがに今の発言は危険過ぎるのでは………」
「お願いしますから、少しは相手に対して遠慮をしてください………」
「このオッサンの頭の中には”遠慮”という言葉は絶対ないと思うぜ……」
ミハイル少佐の話を聞いたレンが意味ありげな笑みを浮かべている中、獰猛な笑みを浮かべたランドロスの言葉にトワは冷や汗をかき、セレーネとランディは疲れた表情で溜息を吐き
「ハハ……それよりも本校は大人数ですが……やはり演習用の特別列車で?」
「皇太子の提案で決まった事なんだから、特別列車どころか特別飛行船――――それこそ”紅き翼”を使うのじゃないかしら?”紅き翼”の所有者はアルノール皇家だし。」
「その可能性は確かに考えられそうですね…………」
「本校の演習は機密事項だ!他言無用とするように!繰り返すが、演習地はフォートガード地方、金曜の夜に出発し、期間は4日となる。それでは各自、明日までに計画概要を一読しておいてもらおう!」
リィンの疑問に対して呆れ半分の様子で答えたレンの推測にトワは複雑そうな表情で同意し、機密事項であった本校の演習について話し合っているリィン達の様子に内心溜息を吐いたミハイル少佐は気を取り直して今後の方針について説明し始めた。
ブリーフィングが終わり、分校や町を見回っていたリィンは宿酒場で悩んでいる様子のティータとゲルドが気になり、二人に近づいた。
~宿酒場”バーニーズ”~
「はぁ……せっかくだから、もっと気の利いた物にしたいんだけどなぁ。」
「中々決まらないわよね……」
「ティータとゲルドか……一体、何を悩んでるんだ?」
「リィン教官。」
「お疲れ様です。あはは……その、実は昔からの親しい人達に贈るプレゼントのことなんですけど。回を重ねる内に、最近はどうにも定番なものばかり選んでしまいがちで……」
「私もティータと同じで、この世界に来てから特にお世話になった人達のプレゼントをしようと思って……先月初めての特別演習をみんなと乗り越える事ができたから、その報告の手紙と一緒に贈ろうと思って経験があるティータにも相談に乗ってもらっていたんだけど、中々決まらなくて……」
「へえ……プレゼントか。俺も最近、贈る機会が多くて気持ちがわかるというか。喜ばれて、かつ新鮮味のある物ってなかなか難しいよな。」
「はい、そうなんです。その人の事も知っている分、かえって難しいところもあるような気もしますし……そうだ、リィン教官―――もしよければ、プレゼント選びに付き合ってもらえませんか?ゲルドちゃんもいいよね?」
「うん。他の人の視点からのアドバイスも必要って、ティータも言っていたし、私もお願いしたいわ。」
「お、俺がか……?ふむ、自信はないが俺でよければ協力させてもらうかな。」
ティータとゲルドの頼みに一瞬戸惑ったリィンだったが、すぐに二人の相談に乗る事を決めた。
「えへへ、やったぁ―――どうもありがとうございます!」
「それで、すでに候補とかは決まっているのか?」
「うん……何となく、どのお店で誰のものを買うかくらいは。言い忘れてたのだけど、今回はそれぞれ5人分のプレゼントを見繕う予定よ。」
「なるほど、そうだったのか。ならとりあえず、店に行って検討するのがいいかもな。」
「はい、お願いします。それじゃあまずは―――”如水庵”に行っていいですか?」
「ああ、じゃあ向かうとしよう。」
そしてリィンは二人のプレゼント選びのために雑貨屋に向かった。
~如水庵~
「ふむ、改めて見ると結構いろんな品が並んでいるよな。ちなみにここでは、どんな人へのプレゼントを選ぶつもりなんだ?」
「そうですね――――レンちゃんに贈るものを考えてます。リィン教官も知っていると思いますけどレンちゃんはリボンを愛用していて……ふわふわしつつも、小悪魔っぽい感じですよね。」
「よ、よりにもよってレン教官か……いきなり難題だな。ちなみにゲルドはどんな人へのプレゼントを選ぶつもりなんだ?」
ティータの話を聞いたリィンはレンの顔を思い浮かべて冷や汗をかいて困った表情をした後ゲルドに訊ね
「私はリフィア義姉さんよ。」
「ええっ!?リ、リフィア皇女殿下に!?というかゲルドはリフィア殿下とそんなに親しかったのか!?」
ゲルドの口から出た意外な人物の名前に驚いた後信じられない表情でゲルドに確認した。
「うん。私がお義父さん達の娘になったその日に訊ねて来てくれて、『お前が余の新たな妹か!今日から余の事は姉と呼ぶがよい!例え血が繋がっていなくても、お前も余にとっての大切な妹じゃ!だから、遠慮する必要はないぞ!』って、言ってくれて親しくしてもらっているとても寛容な義姉さんよ。」
「ハハ、リフィア殿下らしいな………しかし、ゲルドはゲルドでレン教官と同様――――いや、それ以上に難題だな。エリゼがいたら助かるんだが………ちなみに二人はここでどんな物を買うのか考えているんだ?」
「ちなみにレンちゃんは可愛い物好きで、いつもはブティックでプレゼントを選ぶんですけど……もう15歳って事を考えると、少し大人っぽい物もアリかなぁと。なので今日はあえて、ここで選んでみようと思いまして。」
「リフィア義姉さんは興味のあるものならなんでも好きだって言って部屋も見せてくれたんだけど……部屋には今まで旅をして気になって手に入れた物を飾ってあるって言っていたから、お土産とかも売っているここにしようかなと思ったの。」
「わかった――――それじゃあ考えてみるか。」
その後リィンは考えた末カウンターに来て二人にそれぞれの候補を伝えた。
「なら――――ティータは『東方銘茶』、ゲルドは『カゲマル人形』なんてどうだ?」
「東方のお茶――――その、すごくいいと思います!レンちゃんは紅茶好きなので、これなら必ず喜んでくれると思います。」
「そういえば”カゲマル”って、元々クロスベルの”ご当地マスコット”ってユウナが言っていたわよね……?うん――――私もすごくいいと思うわ。クロスベルに行ってきた何よりのお土産になるし、リフィア義姉さんの部屋にはぬいぐるみはなかったから、義姉さんも喜んでくれると思うわ。」
「はは、ならよかった。」
「すみません、それじゃあこちらを1ついただけますか?」
「私もこれを一つお願いします。」
「わはは、了解じゃ。」
「えっと、それじゃあ次は”カーネギー書房”に向かっていいでしょうか。」
「ああ、さっそく行こう。」
そして二人はリィンが選んだプレゼントを購入した後、今度は本屋に向かった。
~カーネギー書房~
「”カーネギー書房”か―――ここには本だけじゃなく遊具も置いてあるんだよな。それで、次はどんな人へのプレゼントを選ぶつもりなんだ?」
「はい、次はエステルお姉ちゃんとミントちゃんです。エステルお姉ちゃんは棒術と剣術をやっていて、釣りやスニーカー集めが趣味で―――いつも明るく元気でいっぱいの。ミントちゃんもエステルお姉ちゃんのように明るく元気で、卵料理が大好きで、外で遊ぶのが大好きな女性です。」
「はは、二人ともまさに本物の”親娘”のように二人揃ってアクティブで快活そうだものな。とりあえず、ティータの考えていることはわかってきたかな。アクティブな女性達だからこそ新鮮味を狙って本を贈りたいってことだろう?」
「ふふ、その通りです。」
「わかった。ちなみにゲルドはどんな人へのプレゼントを選ぶつもりなんだ?」
「私はリウイお義父さんと分校長よ。二人とも誇り高い人で、優しくて武術は相当の腕前で、それでいて知識も私なんかとは比べ物にならないくらい豊富な人達よ。」
「つ、次はリウイ陛下と分校長か。……………………ゲルドの考えている事もわかってきたな。それぞれ仕事で多忙な二人に、頭の体操代わりに遊具でリラックスしてもらおうと思っているんだろう?」
「ええ、そうよ。」
「わかった――――それじゃあ考えてみるか。」
その後リィンは考えた末カウンターに来て二人にそれぞれの候補を伝えた。
「ティータは――――『帝国山水百景』と『帝国甘味集』なんてどうだ?水辺や花の写真も多いし、甘味は卵を使う事が多いらしいから、二人のそれぞれの趣味や好みに合うんじゃないか。」
「確かに――――野外を出歩く事も多いし、色んな町に出歩くからピッタリかと!それに……もう一度エレボニアに行きたがっていたので…………」
(ふむ……?)
「と、とにかく二人にピッタリの最高のプレゼントだと思います。」
「はは、ならよかった。ゲルドは――――二人にはそれぞれVMのスターターセットなんてどうだ?」
「VMは確か最近流行り出したカードゲームよね……?うん、二人とも仕事の合間にカードのデッキを考えたり、カードを持っている人達と対戦したりできるから二人にとってピッタリだと思うわ。――――すみません、これを二つください。」
「私はこれとこれをを一つずつください。」
「あいよ、まいどあり!」
「それじゃあ、最後はブティック”ラパン”に向かっていいでしょうか。」
「ああ、了解だ。」
そして二人はリィンが選んだプレゼントを購入した後、最後にブティックに向かった。
~ブティック”ラパン”~
「この店はけっこうお洒落で……って、ユウナたちとリーゼアリアも来ているのか。ふむ、内容によっては相談に乗ってもらうのもアリかもな。」
ブティックに入ったリィンはブティックで服を選んでいるユウナとミュゼ、リーゼアリアに気づいた。
「ふふ、確かにそれもいいかもしれませんね。ちなみに最後の贈り相手はヨシュアお兄ちゃんとツーヤちゃんです。」
「私はお義母さんとイリーナお義母さんよ。」
「よ、予想はしていたがやっぱりルクセンベール卿達もか……って、ゲルドが言っていた『イリーナお義母さん』って、まさかリウイ陛下の正妃であられるイリーナ皇妃陛下の事か?」
二人が送る相手を思い浮かべたリィンは冷や汗をかいて困った表情をした後ある事に気づき、表情を引き攣らせてゲルドに確認した。
「うん。イリーナお義母さんは分校長の手配でプリネさん達の元に連れられた私からプリネさんやお義父さん達と一緒に事情を聞いた後、私の身の上を知って私の事をお義父さん達の”家族”にする事を提案してくれた人で、私にとってはもう一人のお義母さんよ。」
「多分リィン教官も知っていると思いますけど、イリーナ皇妃陛下ってとっても綺麗で、優しくて素敵な皇妃様なんですよ!」
「ハハ、俺も面識はあるから、どんな方かはある程度は知っているよ。(それにしても今更だが、ゲルドが考えているプレゼントの相手はみんなメンフィル帝国の皇族か上層部クラスって………まあ、ゲルド自身が分校に来た経緯を考えれば、当然と言えば当然なんだが……)――――とりあえず、何かよさそうなものを見繕うか。」
ゲルドとティータの話を聞いたリィンは苦笑しながら内心ゲルドの人脈に冷や汗をかいた後気を取り直してプレゼント選びを開始し、ユウナ達にも助言を聞きつつ、考えた末カウンターに来て二人にそれぞれの候補を伝えた。
「ティータはヨシュアには洒落たニット帽、ルクセンベール卿にはシンプルな髪飾りなんてどうだ?」
「へえ、帽子と髪飾りですか。」
「ああ、二つともラインナップの一つに加えられるし、常に身に付けるものでもないからな。恋人であるエステルへの配慮や公の場に呼ばれる事が多いルクセンベール卿自身への配慮としても十分かなって。」
「なるほど……そこまで考えてくれたんですね。お姉ちゃんたちはラブラブなので心配いらない気もしますけど……最高のプレゼントだと思いますし、ツーヤちゃんもプリネさんの親衛隊長や貴族の人としてパーティーとかにも出席していると思いますからそういった配慮も必要だと思いますから髪飾りも最高のプレゼントだと思います。」
「ゲルドはセシル様にはシンプルな腕時計を、イリーナ皇妃陛下には上品なリボンなんてどうだ?」
「時計とリボン?」
「ああ、日々看護師として多忙なセシル様には服やアクセサリーの類よりも仕事の合間でも時間を確認できる時計の方が実用的で喜ばれると思うしな。イリーナ皇妃陛下の場合は逆に服やアクセサリーの類はもっと上質なものをたくさん持っていると思うから、お忍びによるプライベートを過ごす時用に気軽に身に着けられるものの方がいい上、リウイ陛下の正妃として様々な高価なアクセサリーを持っている必要があるイリーナ皇妃陛下にとって多分リボンは新鮮なアクセサリーでもあると思うんだ。」
「あ、そういえばイリーナ皇妃陛下って、リボンをつけている姿を今まで一度も見た事がないですね。」
「そうなんだ……―――だったら、二人にとって最高のプレゼントになりそうね。すみません、これとこれを1つずつください。」
「あ、わたしはこれとこれを1つずつお願いします。」
「ああ、お買い上げありがとう。」
「ふふ、どうやら素敵な品を選べたようですね。」
「みたいね。アドバイスできてよかったわ。」
「ふふ、そうですね。」
リィンが二人にアドバイスをして、アドバイスされた二人がそれぞれプレゼントを購入している所をミュゼ達は微笑ましそうに見守っていた。
~リーヴス~
「えとえと……今日はどうもありがとうございました!」
「どの品も素敵で、”その人らしさ”もあって、それでいて新鮮味もあって……私とティータじゃここまで思いつかなかったから、本当にリィン教官のおかげよ。」
「はは、そう言ってくれると嬉しいよ。」
「その、これはお礼の品なんですけど……」
「私はこれを。」
ティータはクオーツ”練気”を、ゲルドはアクセサリー”エナジーリング”をリィンに渡した。
「クオーツと指輪か……クオーツはティータが合成したのか?」
「はい、その中でもリィン教官に合う物を選びました!」
「はは、それは何よりだな。ちなみにゲルドがくれたこの指輪は?」
「それは”エナジーリング”と言って、クオーツの”省EP”のように魔術や技の消費を節約してくれる私の世界のアクセサリーの一つよ。剣技が主力の教官にとっても役に立つと思うわ。」
「ゲルドの世界の……そんな貴重な物を本当にもらっていいのか?」
「うん、旅の間でたまたま手に入れた物で、魔力を自分で回復する方法がある私自身には不要な物だから、遠慮なく使って。」
「わかった、ありがたく使わせてもらうよ。……それはそうと、ちょっと気になっていたんだが……ゲルドは”予知能力”を使って、どのプレゼントがいいのかとかはわからなかったのか?まあ、もしそれで選ぶことができたとしてもゲルドの嬉しさが減るようなものだから、あえて使わなかった事もわかるが。」
二人の心使いに感謝したリィンはある疑問をゲルドに訊ねた後苦笑した。
「それもあるけど、以前にも言ったように”予知能力”で見える未来はあくまで”可能性”よ。”本当の未来”は誰にだって変えられるわ――――それこそ、災害による大惨事の被害や戦争による悲劇を防いだりする事もね。」
「ゲルドさん…………うん、そうだよね。”リベールの異変”や”影の国”の時もとても大変な状況だったけど、お姉ちゃんたちみんなが力を合わせて解決へと導いたんだから!」
「ハハ、それを言うなら俺の方もそうかもしれないな。それにしても”予知能力”の件で気になっていたが、ゲルドが今こうして第Ⅱ分校に通っている事も、ゲルドが異世界にいた時にわかっていたのか?」
ゲルドの話を聞いてそれぞれ心当たりがあるティータと共にかつての出来事を思い返したリィンは懐かしそうな表情をした後、ゲルドにある事を訊ねた。
「ううん、私が元の世界を旅していた時はこんなにも暖かくて賑やかな未来を一度も見た事がないわ。―――だからこそ、私にとって”今”は本当に心から幸せな状況よ。”家族”やたくさんの友達ができて、どこにでもあるありふれた何気ない日常を過ごす平穏な日々は…………」
「ゲルドさん…………えへへ、その気持ち、わたしもわかります。クーデターや”異変”を経験してから、”日常”を過ごせる事が幸せな事である事を改めて自覚できましたし。」
「そうだな………ゲルドの”幸せ”が続くように、俺にできる限り力になるよ。生徒の学生生活をサポートするのが教官の務めでもあるしな。」
「あ、勿論わたしも力になりますよ!友達が困っていたら力を貸すことは当然なんですから!」
「二人とも……ありがとう。」
その後二人と別れたリィンは街を軽く見回った後宿舎へと戻って行った――――
後書き
エウシュリー新作、面白くて相変わらずの時間泥棒なんですが(おかげで更新も遅くなります(ぇ))……GP制度がウザすぎる(怒)仲間を一々貴重なポイント払って雇う事もそうですが、装備の買戻しとかふざけてんのかと言いたいですよ……果たして今年中にクリアできるのやら(遠い目)
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