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デジモンアドベンチャー Miracle Light

作者:setuna
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第93話:デジモンカイザーの末路

 
前書き
引き続きタケル視点 

 
ベリアルヴァンデモンとの戦いからしばらくして、僕達は小学6年生になった。

初めてデジタルワールドを冒険した時の丈さんと同じ学年になったことに、後1年でお台場小学校を卒業することに何となく感慨を覚えた。

一乗寺治に種を植え付けられた子供達は最初は帰ることを拒絶した。

自分達に帰る場所なんてない。

居場所なんて無いと。

デジタルワールドに入ることすら出来ない選ばれなかった自分達なんてと自分を否定する言葉ばかりが出て来る。

どうしたものかとみんなが頭を悩ませた時、大輔君が子供達に歩み寄り、最初に僕達がデジタルワールドを冒険した時くらいの女の子に目線を合わせるように屈んで優しく声をかけた。

「なあ、みんな。みんなは俺達のこと選ばれたとか特別だとか言ってるけど。別に俺達は特別じゃねえぞ?何処にでもいる普通の子供だ」

「普通の子供はデジモン同士の喧嘩を止めることは…ぎゃふ!?」

「黙ってろホークモン。」

余計なことを言おうとしたホークモンに対して拳骨を浴びせることでホークモンを力ずくで黙らせた大輔君。

そう言うところが人間離れしてるの分かってるのかな?

「そんな事ない、デジモンがいるし…デジタルワールドに行けるし」

「デジモンがいて、デジタルワールドに行けるから…か…そうだな、でもデジモンもデジタルワールドもみんなが思っているよりずっとずっと身近な存在なんだぜ?みんながそれに気付いてないだけさ」

「…気付いてないだけ?」

「そうさ、ゲンナイさんって人から聞いた話だとデジタルワールドは人の心と深く結び付いてる世界なんだってよ…人が持つ可能性を強く発揮出来る奴が選ばれる可能性が高いんだとさ」

「可能性…僕達にはそれがないから…」

「馬鹿だなお前ら」

呆れたようにマグナモンXから退化したブイモンが前に出ながら言う。

「ちょ、ブイモン!?あんた何を!?」

テイルモンが慌てるがブイモンは構わず前に出る。

「黙れネズミ。お前らさ、黙って聞いてればグチグチグチグチと。人を妬む余裕があるなら自分を磨いたらどうだ?お前らにもあるだろ将来の夢は?」

「将来の夢?」

「……そんなの、忘れちゃったよ」

「将来の夢がない?デジモンの俺にさえあるのに人間のお前らにないのかよ?」

呆れたように言うブイモンに1人の男の子が口を開く。

「じゃあ、君の夢は何なのさ?」

男の子の問いにブイモンは不敵な笑みを浮かべた。

「ふん、よくぞ聞いてくれた!俺は大輔の将来の夢のラーメン屋兼スイーツ店のサポートをしつつ、大輔の子供のベビーシッターをすることだあ!!」

【えええええええ!!!?】

スイーツ店は何となく予想してたけどまさかラーメン屋まで兼業するつもりなのは流石に僕達も吃驚したよ本当に。

「何それ!?私達聞いてないよ大輔君!?」

「そりゃあ言ってないしな。無謀だと分かっていてもやりたいんだ。それにしてもブイモン。お前ベビーシッターって…」

「ん?大輔、いいか?大輔も大人になったら結婚して子供が出来る日が必ず来る。だから、俺は大輔の仕事を手伝いながら子供も戯れる。それが俺の夢だ。お前はそんな俺の夢を否定出来るのか?出来ないだろ?」

【子供かあ…】

「おいアグモン達。お前ら何考えてる?」

多分アグモン達の頭の中は僕達の子供と戯れることで一杯なんだろうなあ。

「まあ、とにかく俺が夢を言ったんだからお前らも早く言え。言わないとどうなるか…」

「脅すな馬鹿野郎」

怖い顔となるブイモンに大輔君が拳骨を浴びせる。

「私…幼稚園の先生になりたかったの」

「幼稚園の先生?ヒカリの将来の夢も幼稚園の先生じゃなかったか?」

女の子の発言を聞いてヒカリちゃんの夢もそれであることをブイモンは思い出したらしい。

「何で知ってるのブイモン?」

確かに気になるね、何でそれをブイモンが知っているのだろうか?

「寝言で言ってたしなー。ヒカリの将来の夢は幼稚園の先生と大輔のおy」

「それ以上言ったら怒るよ?」

とんでもない暴露をされそうだったのでヒカリちゃんは怖い笑顔でブイモンを止めた。

「何だよー。別に俺はヒカリが大輔のお嫁さんでなくても良いんだぞ?もーっと可愛い女の子を大輔に見繕ってやるしさ」

「え…?」

「大輔にはどんな女の子がいいかなあ?やっぱり空みたいなしっかりした女の子がいいかな?んーと、ここでピッタリなのは…」

「…だ、駄目…駄目駄目駄目!!絶対に駄目っ!!」

「えー?何でですかヒカリさーん?」

ブイモンは含み笑いを浮かべながらヒカリちゃんを見上げるとヒカリちゃんはそれに顔を引き攣らせる。

「だ、駄目って言ったら駄目なのー!!」

「はいはい、で?他に夢がある奴はいないのかよ?」

ブイモンがヒカリちゃんをからかって満足したのか他の子供達を見渡す。

「僕、野球選手」

「……私、本当はケーキ屋さんになりたいの」

「漫画家になりたいって言った時、みんなに笑われて諦めていたけど……」

「そうだ、なりたいものがあったのに、いつの間にかそれは考えちゃいけない事だと思ってた……でも、違うんだね」

「誰が何を言おうと関係ないじゃねえか、勿体無い」

ブイモンの言う通り、やりたい事も思っている事も口に出せないのは不幸だと僕も思う。

でも人には想いを伝えるための、実行するため、考えるための、悩んだり傷ついたりして成長するための力が僕達人間には備わっている。

少しずつみんなが希望を取り戻していく。

でもそこで意識が戻った後、感動の場になっている場所から逃げ出そうとしているボロ雑巾のような状態の一乗寺治がいた。

「どこに行くつもりだい大馬鹿変態仮面?」

「け、賢…!!」

最初に一乗寺治の前に立ちはだかったのは一乗寺治の弟であり、この戦いで最も振り回されたであろう賢君だった。

「あんた、人様やデジタルワールドに此処まで迷惑かけといて逃げるとかどういう神経してんのかしらね?」

一乗寺治の前に怒り心頭の京さんも賢君の隣に立って一乗寺治に立ちはだかった。

「また逃げて悪事でも働くつもりか?ヴァンデモンもいなくなって何の力も無くなってただのクソガキに成り下がった今のお前に何が出来るんだ?」

「お前にはアグモンを操られた恨みがあるからな。何なら更にボコボコにしてボロ雑巾にしてやっても構わないんだぜ?」

当然、今回のことだけでなく、アグモンのことで一乗寺治に対して誰よりも色々と言いたいことと、やりたいことが溜まっている太一さん。

そんな太一さんの隣で拳を鳴らしながら迫るお兄ちゃんに一乗寺治は怯えている。

マグナモンと進化後のマグナモンXによって心身をボコボコにされた一乗寺治に今までの傲慢さは無かった。

「何か一乗寺治の様子が変じゃありませんか?」

「多分、乗り移っていたヴァンデモンが消えたこととマグナモン達にボコボコにされたのが原因だと思うよ」

伊織君の疑問に丈さんが答えてくれた。

成る程、確かに丈さんの推測は当たっているだろう。

一乗寺治に人間離れした力を与えていたヴァンデモンがいなくなり、徹底的に心身をボコボコにされた一乗寺治は本当にただの頭が良いだけの無力な子供に成り下がった。

「ヴァンデモンが乗り移っていたとは言え、お前の自己中な行動で此処まで迷惑かけといて逃げるなんて良い度胸してるじゃねえか?世界中の選ばれし子供達全員でお前を更にボコボコにしても構わないんだぜ?」

大輔君も一乗寺治に対して色々とストレスを溜め込んでいたからなあ…。

普段なら大抵のことを許してくれるはずの大輔君をここまで怒らせるなんて逆に凄いと僕は思う。

「う…うう…ご、ごめんなさい…本当に…迷惑をかけました…」

「…これ、謝って済む問題じゃないんだけどね。まあ、一応子供達を救うきっかけになったのも確かだし…」

震えながら土下座して謝罪する一乗寺治に僕達が呆れ果てながら、一乗寺治をどうしようかと頭を悩ませた時であった。

「彼のことは我々に任せてもらえないか?みんな、久し振りだな」

【え?】

いきなり現れた若い男の人に僕達全員首を傾げた時、男の人は苦笑しながら口を開いた。

「私はゲンナイだ」

「へー、ゲンナイの糞爺…何ぃいいいい!!?」

【ええええええ!?】

ゲンナイさん?

あのヨボヨボなお爺さんがこれ!?

ブイモンだけじゃなくて僕達もびっくりだよ!!

「先程の聖なる光がデジタルワールド全域を覆った時、四聖獣が解放され、私もようやく本来の姿を取り戻すことが出来た。」

「そ、そうですか…でもこの変態仮面をどうするつもりで?」

光子郎さんがゲンナイさんのあまりの変わりように顔を引き攣らせながらも、一乗寺治を指差しながら尋ねる。

「彼はヴァンデモンに取り憑かれていたとしてもデジタルワールドを混沌に陥れようとした大罪人だ。しかし彼の暗黒のデジメンタルを造り出せる能力は我々からして魅力的だ。だからデジタルワールドの復興、発展のために力を尽くしてもらう」

「ほ、本当ですか?」

一乗寺治の心底安堵したような表情から察するに僕達に睨まれなくて済むと思ったんだろうが。

世の中はそんなに甘くない。

「勿論私達も君がデジタルワールドでしたことに何の罰も与えないつもりはない。四六時中、現実世界にいようと我々の監視がある」

「え…?」

それはつまり一乗寺治の一切の自由を奪うということなのだろう。

何時でも何処でも自分を監視されて心休まる時なんか存在しないだろう。

「そ、それは…それだけは…」

「君があの時、罵倒されたりすることに怯えずに逃げず、謝罪していれば情状酌量の余地はあったが。君は逃げ出そうとした。」

「今まで痛めつけて支配してきたデジモン達の立場に自分がなった気分はどうだ?生きていたデジモンをゲーム感覚で殺して逃げようとした奴には寧ろ優しいと思うけどな」

大輔君の言葉に一乗寺治が振り返る。

「生きて…?デジモンはパソコンの中のデータじゃないのか?」

「お前…そんなことも知らなかったのか?いや、ヴァンデモンのことだから教えなかったのか…そうだよデジモンはパソコンの中のデータじゃない。現実世界にブイモン達がいる時点で気付かなかったのか?いや、気付きたくなかっただけか?」

「デジタルワールドは、夢や幻の世界じゃないんだ。そして俺達もまた、夢や幻の存在じゃない」

「私達の世界と同じ、現実のもう1つの世界なのよ。」

「…変態仮…いや、兄さん。デジモン達も兄さんと同じさ…兄さんと同じように痛みを感じるし苦しみだって感じる。ここにいるデジモン達をよく見るんだ。デジモンにはね、命があるんだ!生きてるんだよ兄さんと同じように!!」

デジモンが生き物。

それじゃあ、今まで自分がやって来た事は数え切れないほどのデジモン達を無理矢理働かせ、リングを填めて自我を奪い、気に入らないと鞭を振るった。

「うわあああああ!!!」

頭を抱えて絶叫した一乗寺治。

此処まで来ると流石に哀れだね。

全員がゲンナイさんを見遣ると情状酌量の余地が出来たのか少しだけ頷いて一乗寺治の手を取ってこの場を去っていった。

みんなが多少の哀れみと怒りが混じった複雑な表情で一乗寺治の後ろ姿を見つめていた。

「今度こそ終わったな…さあ、みんな帰ろうぜ…」

【うん】

こうして僕達の戦いと冒険は終わりを告げた。

「…ふう…」

あれからしばらくして、僕は溜め息を吐きながら、今までの冒険のことをノートに書き終えた。

何れこれを小説にして出したいなと思っている。

一乗寺治はその後自宅に送り返された。

僕達の言葉が響いてくれたのか彼の両親の表情は以前と違ってはいた。

賢君にも構うようになっていたが、あまりにも長い期間関係が冷えていたからか、あまり良い進展は見られない。

こればかりは時間が解決してくれることを願うしかないだろうね。

一乗寺治だって戻ってはい終わりじゃない。

何故なら一乗寺治は2年間、現実世界からデジタルワールドに逃避していた。

つまりこの2年間の現実世界のことは全く知らない上に学歴だって中途半端、今更戻ってきたところで以前の天才少年時代のような華やかな未来は殆どないだろう。

おまけにヴァンデモンに取り憑かれていたこともあり、外見以上に体の内側の方がボロボロだったらしく、現実世界では1人で立つことすらままならないらしい。

デジタルワールドでは人並みの運動能力を取り戻せるが、現実世界では動くことさえ出来ない…彼が見下していた凡人以下にまで成り果てた。

今はデジタルワールドでの治療が実を結ぶことを祈るしか治がまともになる方法はない。

賢君は雑誌に載ってある一乗寺治に関する記事…“悲運、才能を失った行方不明だった天才少年”のことを見ても何も感じていない。

人間の関係とは一度冷めればここまで冷たくなるのかと僕は目の当たりにした…“好きの反対は嫌いではなく無関心”とは正にこの事だね。

「賢君ー!!」

「おや、京さん」

賢君の後ろから抱き付いて賢君への好意を全面に出している京さん。

人から見ればやり過ぎかもしれないけれど、確かに賢君にはこれくらいはっきりとした表現をした方がいいかもしれない。

何故なら賢君は人の温もりに飢えているところがあるからだ。

ほら、賢君だってそんな京さんを僕達に見せている顔よりも凄く優しい顔をしてる。

「ほらほら!そんな辛気臭い顔で雑誌読んでないで!今日は私の家族に賢君を紹介するんだから!私の彼氏って!!」

「はは、そうですね。僕も気を引き締めないといけませんね。」

「大丈夫!賢君なら即OKしてくれるわよ!!」

腕を組んで幸せ一杯と言う表情で賢君を引っ張っていく京さん。

賢君、京さん…お幸せに!!

一乗寺治とその両親が和解出来る可能性は限りなく低いだろう…こればかりは彼らが頑張るしかない。

ある意味、この戦いは人の心の弱さが生み出してしまったのかもしれない。

誰だって心に弱さを持っており、人はそれを仲間や家族と共に乗り越えていく。

でも助けてくれる仲間や家族がいなかったら、一乗寺治のようになってしまったかもしれない。

僕達は僕達の仲間や家族を…この繋がりを大切にしていこうと思う。

ありがとう…僕の家族と仲間…そしてデジタルワールド。

因みに賢君と京さんだけど、即OKだったらしいよ。

ただ、京さんが色々質問責めを受けていたらしいけど。 
 

 
後書き
02終了

後は逆襲だけだ。

ダイジェストみたいになりそうだけど。 
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