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河童退治

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第四章

「本陣に隠しておいたうえでな」
「戦ではありますしな」
「本陣に入ったところで討つなぞ」
「時としてあります」
「そうした騙し討ちも手の一つです」
 戦に勝つにはとだ、九千坊の家臣達も言ってきた。
「ならばですな」
「用心していきましょう」
「そして何かあれば」
「すぐに逃げましょう」
「少しでも近くに猿の匂いがあればな」
 九千坊は己の家臣達に真剣な顔で語った。
「よいな」
「すぐに逃げましょう」
「屁をこいてその匂いで動きを止めて」
「そうしてです」
「川まで逃げましょう」 
 河童の最後の手である屁、恐ろしいまでの悪臭がするそれを使ってでもとだ。彼等は話してだった。
 猿達に警戒しつつ清正の本陣に向かった、そしてだった。
 清正の陣に入った、猿達の姿は見えない。だが彼等は神経を集中させて猿達の姿や気配、音、そして匂いを探った。
 だが近くには一切感じない、それでだった。
 九千坊もまさかという顔になってだ、家臣達に話した。
「まさかのう」
「はい、まことにですな」
「猿共を遠くに下がらせていますか」
「我等の願い通り」
「そのうえで話をしようというのですか」
「敵の総大将、大名は加藤といったな」
 九千坊は己の後ろを進む家臣達に清正のことを尋ねた。
「そうであったな」
「今の人の天下人の下で恐るべき働きをしているとか」
「その豪勇たるや無双だとか」
「片鎌槍を振るい戦の場で縦横に暴れるそうです」
「やがて虎を狩りたいと言っておるとか」
「天下の豪傑とのことです」
「豪傑か。どうやら」
 やはり猿達の気配は感じない、それでまた言うのだった。
「それだけではないぞ」
「といいますと」
「我等の願い通りに猿を退けているのなら」
「将としてもですか」
「かなりの器ですか」
「間違いない」
 こう言うのだった。
「このまま本陣でも猿共の気配がしないならな」
「左様ですか」
「それではですか」
「最早ですか」
「我々は」
「恐ろしい者を相手にしているのやもな」
 九千坊は清正の器を感じ取った、そうしてだった。
 本陣で清正と対した、堂々と座している彼の周りにも猿の気配も匂いも感じなかった。それでなのだった。
 九千坊は確信した、それで清正に自ら言った。 
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