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永遠の謎

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463部分:第二十八話 逃れられない苦しみその七


第二十八話 逃れられない苦しみその七

 しかしそれ以上にだ。選択肢がないこともだ。王はわかっていた。
 だからだ。こう答えたのだった。
「では」
「そうされますね」
「少し時間を下さい」
 決断は延ばすというのだ。
「今は」
「そうされますか」
「ただ。動員令はです」
 兵を動かす。そのことはというと。
「決定です」
「プロイセンにつかれるのですね」
「中立は有り得ません」
 それが何にもならない、最早自明の理だった。
「ドイツにいるならば」
「プロイセンにつかれますね」
「フランスはマクシミリアン一世の頃からのドイツの敵でした」
 ドイツが神聖ローマ帝国と呼ばれていた頃からだ。
「その頃からのです」
「はい、その通りです」
「常に介入してきました」
「そうですね。忌々しい国です」
 何気にだ。ホルンシュタインは王にドイツにあるフランスへの反感を囁きはじめた。
「カール一世の頃はイタリアに関わり」
「三十年戦争の時は」
「よりによってカトリックだというのに」
 そのだ。カトリックである。
「我がドイツに介入してきてです」
「最後には軍も送ってきました」
「あの戦争が何故あそこまで悲惨なものになったのか」 
 バイエルンとて例外ではなかった。ドイツ全土が焦土になり多くの者が死んだ。欧州の戦乱の歴史の中でもとりわけ凄惨な戦争だったのだ。
 何故そうなったのか。ホルンシュタインは話すのだった。
「おそらくフランスが介入しなければあの戦争はより早く、そして幾分かましな戦争になったでしょう」
「スウェーデンやデンマークが介入してきていても」
「フランスとはそもそも国力が違います」
 フランスは欧州随一の大国、そのことは変わりない。
「最初から一連の戦乱の黒幕でしたから」
「その介入、そして軍の派遣により」
「あの戦争は悲惨を極め」
 そしてだった。
「ドイツ帝国は一度死んでいます」
「はい、多くの国が分裂しました」
「確かにバイエルンは主権を手に入れました」
 三十年戦争を終わらせたウェストファリア条約によってだ。各領邦国家はその主権を保障されたのだ。つまりドイツは分裂させられたのだ。
「しかしドイツ自体は」
「混沌が続きました」
「そうしたのはフランスです」
 歴史からだ。ホルンシュタインは話す。
「そう、あの国なのです」
「そのフランスはさらにでしたね」
「ルイ十四世は神聖ローマ皇帝になろうとしていました」
 太陽王はフランス王に飽き足らなかったのだ。その座も狙っていたのだ。
「それでドイツにも介入しましたね」
「ルイ十四世もそうでしたし」
「オーストリア継承戦争でも介入し」
 何度もだ。フランスはドイツに関わってきて戦乱を大きくしてきたというのだ。
「ナポレオンもいましたし」
「ナポレオンは我が国を王国にしましたが」
「ですね。しかしです」
「はい、それでも」
「神聖ローマ帝国を書類上からも抹殺しました」
 これもまた歴史的事実である。
「そのフランスとです」
「戦う」
「そのうえでドイツは統一されます」
 ドイツ統一へのだ。最後の総仕上げだというのだ。
「遂にです」
「わかっているのです」
 王は暗い顔でホルンシュタインの言葉に頷いた。
 
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