永遠の謎
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462部分:第二十八話 逃れられない苦しみその六
第二十八話 逃れられない苦しみその六
「ドイツと共に」
「はい。それでは」
「それでは終わらないでしょうが」
王はだ。さらにだった。
プロイセンにだ。あるものを見て話したのだった。
「バイエルンは。いえ私は」
「陛下はですか」
「一つの役割を演じることになりますね」
「はい」
ホルンシュタインは恭しく一礼してから王に述べた。その述べることは。
「皇帝の位をプロイセン王に対して」
「推挙する」
このことが今言われた。
「そうなります」
「私がプロイセン王を」
「それしかないと思いますが」
「確かに」
王は暗い顔で応えた。
「それはわかっていますが」
「お嫌ですが」
「私は王です」
だからだというのだ。王だからだというのだ。
「王は誰にも膝を屈しないもの」
「教皇と皇帝以外にはですね」
「教皇と皇帝ですか」
「ですから」
「皇帝に推挙できるのもですね」
「まずは教皇ですが」
しかしだ。このことはというのだ。ホルンシュタインは。
「それはできませんね」
「そうです。プロイセンはバチカンとは対立していますから」
「プロテスタント故に」
「そしてカトリックを警戒しておられます」
やはりだ。宗教的な問題があった。流石にもう戦争になりはしない。しかしカトリックとプロテスタントの問題は今もドイツにあるのだ。
だからだ。それが影響してだというのだ。
「何でも公立学校から修道僧や尼僧を排除するとか」
「公的機関からのカトリックの締め出しですね」
「その他にも様々な政策を展開しておられます」
カトリックへの抑圧とも見える政策をだ。ビスマルクは社会主義思想、即ちマルクス的なものを嫌悪していることで有名だがカトリックも快く思っていない。
それが何故かというと彼個人の感情によるものではない。ドイツ統一、内政的な意味においてそうしたものが邪魔であるからだ。
だからだ。彼はカトリックを排除し教皇と対立しているのだ。
そのことを踏まえてだ。ホルンシュタインは今王に話すのだった。
「ですから教皇は有り得ません」
「そもそも無理な話ですね」
「ドイツ皇帝はプロテスタントになります」
即ちだ。プロイセン王だというのだ。
「宗教的な推挙はできない故に」
「政治的な推挙になる」
「つまり王達が推挙するのです」
ドイツ皇帝にだ。そうするというのだ。
「そしてその代表となるのが」
「私ですね」
「バイエルンはドイツ第二の国です」
とはいっても力の差は歴然としている。プロイセンは圧倒的だ。
「ですから陛下が」
「この言葉は内密ですが」
目を伏せさせてだ。王はホルンシュタインに言った。
「因果なものですね」
「因果ですか」
「はい、因果です」
そうだというのである。
「まことに」
「そうですね。望まぬ仕事ではありますね」
「しかし王はですね」
「例え望まぬとも」
ホルンシュタインの今の言葉は道徳の言葉だ。しかしだ。
その道徳は彼の政治的な立場を擁護するものだった。王にはそのこともわかっていた。
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