デジモンアドベンチャー Miracle Light
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第62話:銀世界
前書き
冬は暖かい物が欲しくなる
放課後のパソコン室。
ブイモンとテイルモンの喧嘩によって滅茶苦茶になった教室だが、後で来た太一や光子郎の手助けによって元に戻すことが出来た。
被害の痕がないのが本当に奇跡である。
「はい」
「ありがとう…ふう、やっぱりヒカリちゃんが焼いてくれるクッキーは最高だな」
持参してくれた水筒に入った紅茶とクッキーの組み合わせは最高だった。
「ふふ、ありがとう。」
嬉しそうに微笑むヒカリに大輔はクッキーをもう1つ頬張る。
「いやー、本当に癒されるよ…最近あいつら加減ってもんが…」
「本当にごめんなさい…」
ブイモンとテイルモンの喧嘩を止められるのは大輔だけなので、大輔にかかる負担がとんでもないのだ。
今度美味しい店のケーキをご馳走しようと心に誓った。
「でも喧嘩する度に強くなるんだから良いんじゃないの?」
「限度がある…」
タケルの脳天気な言葉に大輔は疲れ果てたように言う。
「あのさ、あんたら。イチャイチャ癒しタイムは良いんだけど。そろそろこっち向いてくれる?デジタルワールドからのSOSよ…ひゃ!?」
京が思わぬ展開に間の抜けた声を上げる。
賢が京の後ろからパソコンを操作したからだ。
「信号が出て行るのは黒いエリアからだね。今まで僕達がいた所から、かなり離れた所のようだ」
「け、賢君…ちょっと近い…」
「え?あ、すみません京さん」
身を乗り出して操作してしまったために後ろから見たら賢が京に覆い被さっているように見えていたかもしれない。
女性に対してこれは軽率な行動だったかもしれない。
申し訳ないことをした。
「べ、別に平気よ!!………でも間近で見ると賢君って下手な女の子より美人ね……って、そこ!!何ニヤニヤしてんのよ!?」
「「「別に~?」」」
とか言いながら3人のニヤニヤは止まらない。
「まあ、それにしてもまたあれの支配するエリアが、また広がったって事?」
「新しい塔が建ったのかな」
「そうかもしれないね」
「…それにしても、何であそこまでデジタルワールドに拘るんだか…」
大輔が紅茶を飲み干し、呆れたように呟いた。
「…そうね、デジヴァイスもD-3も無いのにデジタルワールドに行けた理由も分からないし…どうしてあんな酷いことを平気で出来るのかしら…ねえ賢君。原因知らない?」
「うーん、多分何らかの方法でデジモンのことを知ったんだろうね。僕のデジヴァイスを奪おうとした…あの日に知ったんじゃない?ディアボロモンとの戦いでね」
「ああ、ディアボロモン!?私、知ってるわ。あの時メール送ったもの。あの白いマントのデジモンは格好良かったし、他のデジモンも物凄かったし」
「あの時…大輔君の…ゴージャスケーキ……」
「おーいヒカリ、目がギラついてるぞ。」
後にあれは獲物を狙う捕食者の目だとブイモンは仲間達にそう語る。
「さて、全員揃ったし。行こうぜみんな」
「みんなって、伊織がまだ来てないだぎゃ!!」
「あいつは来ないぜ?今日はおじさんに剣道の稽古をつけてもらうんだと」
「浩樹おじさんが?珍しい」
「何時も仕事で忙しいおじさんに稽古をつけてもらえるから、伊織の奴張り切ってたよ」
「ふふ、そっか」
「剣道って何だぎゃ?」
ウパモンの疑問にポロモンを除いたブイモン達はウパモンに生ゴミを見るような視線を向けた。
「何だぎゃその目は!?」
「いやーお前さあ、パートナーの習い事を把握してないとか馬鹿か?」
「あんたの家はデジモンの理解あるから自由に動けるでしょ?何で伊織が剣道やってるって知らないのよ」
「うぐぐ…」
「まあ、剣道とは何なのかと言うと」
「言うと?」
ブイモンは丸めたノートを振り上げる。
「面!!胴!!小手ー!!突きぃいいいい!!」
「だぎゃああああ!?」
「はああああ…涙の一撃必勝ぉおおおおおっ!!!!」
縦回転ノート斬りをウパモンに叩き込んだ。
「これが剣道だ…覚えとけ」
「いや、全然違うからねブイモン」
「細かいこと言うなタケル」
ウパモンの意識が薄れる直前、そんな言葉が聞こえた。
「(し、知らなかったがや…伊織はこんな痛いことを頑張ってるとは…)」
ウパモンの意識は深い闇に沈んだ。
ふと遠くからこの教室へ向かって来る足音に気付く。
「誰だ?伊織…じゃないな、みんな隠れろ!!」
大輔の言葉に皆はパートナーを抱えて教室の中を右往左往したが、現れた人物を見てタケルが嬉しそうな声を上げた。
「丈さん!!」
「やあ」
お台場中学校に入学した太一達とは違い、私立の中学校に入学した丈は会う機会がかなり少なくなった。
「…ところでまた何かパソコン室でトラブルでもあったのかい?ウパモン…だったっけ?ボロボロだけど?」
「ふっ、俺が剣道について身を持って思い知らせただけさ」
「うん、君の手にあるノートを見ると何があったのか良く分かったよ」
「またデジタルワールドから、SOS信号が入ったんです」
「それはゴマモンからだよ」
「丈さんのデジヴァイスも反応したんですね」
「それにしても丈さん、その荷物は?」
賢が丈の持つビニール袋を見て尋ねる。
「ああ、向こうに行くならある程度準備しとかないとね。一乗寺治のことで何があるか分からないからね。」
前回の冒険のこともあり、ちゃんと事前に必要な物をです準備したのだ。
「流石丈さんですね。準備が良いです。丈さんも、デジタルワールドに行くつもりで来てくれたんですね」
「ゴマモンの事が心配だからね」
その後、いくつか互いの情報を交換してからデジタルワールドに出発する事になった。
「じゃあ、ゲートを開くわよ」
皆がD-3とデジヴァイスを構えた瞬間、パソコン室の扉が再び勢い良く開かれた。
「遅れてすみません!!」
「おお、伊織。稽古は?」
「切り上げて来ました。やはりデジタルワールドをあいつの好きにはさせられませんから」
「そうかそうか、切り上げてきたのに悪いんだけどウパモンが戦闘不能だ」
「え?」
大輔が指差した方向には巨大なタンコブを頭に作って転がっているボロボロのウパモンの姿があった。
「ええええ!?な、何で?僕がいない間にウパモンの身に何が!?」
「ウパモンが剣道のこと知りたがったからさ、俺が体に叩き込んでやったんだ。で、結果がそれ」
「ブイモン…手加減して下さい。ウパモンは幼年期なんですよ…」
「…………………………考えとく。伊織、留守番頼むな」
「はい、後でお父さんに謝らないと……」
伊織に留守番を任せて、子供達はデジタルワールドに向かうのであった。
「寒!?」
デジタルワールドに着いて早々に全身に直撃した冷たい風に大輔は思わず叫んだ。
「本当に寒いな。大輔、ヒカリ。お前ら大丈夫か?」
「俺達は大丈夫だ。」
ヒカリに上着を貸していた大輔がブイモンに返事する。
「私らの心配はしないの?」
「するわけないだろ」
京の問いにすっぱりと言い切るブイモン。
「あ、みんな。良かったらこれ使って!!」
丈が差し出してくれたそれはカイロであった。
握っていると段々と熱が広がって行く。
しかしこれだけでは全然足りない。
「大輔、特別サービスだ。フレイドラモンに進化する」
「良いのか?」
「おう、大輔とヒカリだけは風邪を引かせるわけにはいかないしな」
「うん、大輔君とヒカリちゃんばかり優遇はいけないと僕は思う…あ痛!?」
脛蹴り!!
ブイモンの蹴りがタケルの脛に炸裂した。
「暖かくなったろう?脛が」
「お、鬼…」
蹴られた脛を押さえて悶絶するタケルに苦笑しながら大輔はD-3を構えた。
「デジメンタルアップ」
「ブイモンアーマー進化、フレイドラモン!!」
フレイドラモンにアーマー進化し、全身から炎を放っていくと周りの雪が溶け始め、段々と暖かくなっていく。
「あはは、これじゃあカイロは要らなかったかな?」
「そんなことないですよ。丈さんの気遣いは本当に有り難かったですし」
丈の言葉に賢は暖を取りながら言う。
「それにしてもゴマモンはどこに…」
丈は雪原を見渡して呟いた。
「ん?」
京がもう少し近くで暖を取ろうと足を進めた時、雪とは違う感触に京はそっと足を退けると…。
「…丈さん!!」
雪の下に倒れていたデジモンの姿が現れた。
京の鋭い声に丈は何事かと駆け寄る。
「ゴマモン!!」
「退け…」
フレイドラモンが炎の熱を上げ、瞬く間に雪を溶かす。
丈はゴマモンに呼びかけた。
「ゴマモン!ゴマモン!!」
自分を呼ぶ声にゴマモンはうっすらと目を開けた。
「来てくれたんだ……」
「当たり前だろ!会えなくてもずっと心配してたよ」
「テントモンから、テレビで丈達に連絡出来るって聞いたから」
「うん、ちゃんと信号キャッチしたよ……」
目を潤ませ、感動の再会に浸る丈とゴマモン。
「どうしたんだよ、こんなに傷だらけになって……」
丈に頭の後ろを撫でられていたゴマモンだが、次の瞬間怒りに震えながらその名前を口にした。
「あいつが……デジモンカイザーが……!!」
「またあいつか…どうやら徹底的に叩き潰さないと治らないようだな」
大輔が向こうに聳え建っているダークタワーを見つめながら呟く。
「でもどうやってあそこまで行く?徒歩だと時間が掛かり過ぎるよ。」
ここからダークタワーまでの距離を計算し、途中で気付かれる恐れがあると判断した賢。
「大丈夫だ。俺達にはライドラモンがいる」
【?】
数十分後。
「俺はソリを引くトナカイかよ…」
周辺の木々で即席のソリを作り、ライドラモンの体に括り付け、トナカイのように引っ張る仕組みだ。
「はっ、お似合いじゃない」
馬鹿にしたように言うと、ライドラモンは後ろを向いて後ろ足でテイルモンに雪を浴びせた。
「……………」
「あらら、申し訳ない。あまりにも醜い顔してるから雪で隠してやろうと思ったんだ。」
「あ・ん・た・は~!!」
「へん!!ネズミ如きが追いつけるものなら追いついて見ろ!!」
「待ちなさーい!!」
ライドラモンがソリを引っ張り、それをテイルモンが追い掛けた。
風を切ってソリとテイルモンは進む。
開けた雪原には障害物が何一つなく、ライドラモンの機動力でスイスイと進めて気分は爽快だ。
しばらく進むと、ダークタワーが近くに見えてくる。
「寒くないですか京さん?」
「いやいや、私より薄着の賢君が心配だけど」
京のために風避けになってくれている賢だが、ある集団を発見した。
「何だあれは?雪だるま?いや…違う」
「あれはユキダルモンだな。」
ライドラモンの言葉に京は少し身を乗り出す。
「あれがユキダルモン?可っ愛い!!」
「輪さえ着けられて無ければ賛成出来ました。」
ヒカリの言葉に全員がそちらを見つめると確かに輪が着けられている。
「どうする?」
「ぜえ…ぜえ…私達が相手をするからあんたとライドラモンは塔とカイザーを…」
何とか追いついたテイルモン。
しかし戦う前からヘトヘトだが。
「大丈夫か?」
「任せなさい…!!」
「みんなも頼めるか?」
「兄さんに引導を渡したかったけどね」
「丈さんとゴマモンは俺とライドラモンと一緒に」
「分かっているよ、悔しいけど僕達が一番役に立ちそうにないからね。」
「行くよ!!デジメンタルアップ!!」
「「「デジメンタルアップ!!」」」
「パタモンアーマー進化、ペガスモン!!」
「ワームモンアーマー進化、プッチーモン!!」
「テイルモンアーマー進化、ネフェルティモン!!」
「ホークモンアーマー進化、ホルスモン!!」
ペガスモン達がユキダルモンに攻撃を仕掛け、大輔はライドラモンにD-3を掲げた。
「アーマーチェンジ!!」
「アーマーチェンジ、サジタリモン!!行くぜ!!」
大輔と丈達を乗せて一気にダークタワーの元に。
「チッ、あれだけの数なのにネズミを始末することも出来ないのか役立たず共め」
治はユキダルモンとネフェルティモン達の戦いを見て毒づいていた。
その時、背後からポンと治の肩を叩いた者がいた。
「ん?…ごっ!?」
大輔の拳が治の顔面に叩き込まれたのである。
「やあ、治さん。王様ごっこは終わりだぜ?」
「き、貴様…凡人の分際で僕に…ぐはっ!?」
次に繰り出されたのは膝蹴り。
腹にめり込む一撃に治は腹を押さえながら膝をつく。
「頭は良くても喧嘩慣れはしてないようだな。」
「貴様!!」
鞭を振るうが大輔はそれを軽く掴み取る。
「あいつらの喧嘩を止めていれば自然に鍛えられていくもんだな。」
治が鞭を引っ張り、大輔はしばらく鞭を放さなかったが唐突に鞭から手を放した。
「うわ…!?」
体勢が崩れたのを見て、大輔は一気に距離を詰め、回し蹴りを繰り出す。
「くたばりやがれ!!」
横面に炸裂した回し蹴りによって治は地面を転がる。
「き、貴様…天才の僕に血を…」
「はっ、似合ってんじゃんか。それにしてもあんたはまだこんな世界征服ごっこを続けるのか?」
「何?」
「はっきり言ってあんたには自分の身を守る力さえもない。そうだろ?体格的に有利なはずの俺にさえこの様だ」
「…………」
「あのユキダルモン達を見て見ろよ。あんたがピンチになっているの分かっているはずなのにあんたを助けに来ない。命令が無けりゃあんたを助ける義理も義務もない。」
「うるさい、黙れ…」
「あんたはどうやってかは知らねえけど、デジタルワールドに正規の方法で来た訳じゃねえ。デジヴァイスもD-3も無けりゃあパートナーデジモンもいないあんたにデジタルワールドの完全支配なんざ不可能だ。ダークタワーの力であの輪の力を発揮してるのが分かった今、デジタルワールドのエリアは解放され始めた。もう一度洗脳しようにも完全に警戒されてダークタワーを建てるのも難しい。」
大輔の言葉に治は唇を噛み締めた。
「はっきり言ってよ。あんたは現実世界で賢以上の天才として持て囃されていたのかもしれねえけど。あんたより賢の方がずっと良い奴で好感が持てるよ。今のあんたは無いもの強請りしてるだけのただのガキだ…何時までもガキのままでいるなよ。子供の時間には終わりがあるんだ…認めたくねえけど」
「黙れ!!」
治は鞭を振るうが、大輔はそれをかわして治を蹴り飛ばす。
「諦めて現実世界に帰れ一乗寺治。デジタルワールドはデジタルワールドに生きるデジモン達の世界だ」
「ぐ…くう…この屈辱は忘れないぞ…!!」
治は口笛を吹いてエアドラモンを呼ぶ。
「あ、あの野郎!!」
「逃がすか!!ジャッジメントアロー!!」
サジタリモンが矢を放つが、エアドラモンにかわされてしまう。
もう1発放とうとするが、既に射程圏外に。
「あ、くそ…駄目だ…」
残念そうに表情を顰めるサジタリモン。
代わりにダークタワーに狙いを定め、それを粉砕したことで銀世界での戦いは終わった。
因みに目を覚ましたウパモンは剣道を勘違いし、伊織に辞めるように迫っていたのであった
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