万歳
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第三章
「実際にテレビでやってるだろ!」
「カープに負けてますね」
「カープに毎年負け越してるよな」
このことは何と二〇一〇年代でも同じだ。
「それで今日もじゃねえか」
「何かカープには苦戦しますね」
「カープにもだろ」
日本語を正しく使えばそうなるというのだ。
「そうだろ」
「そうですかね」
「そうだよ、とにかく今日もだろ」
「負けてるからですか」
「万歳ってやってんだよ、あとな」
三浦は中西に自分のペースで言っていった。
「今度の上陸の時先任海曹室で六甲おろし歌え」
「阪神の宣伝にですよ」
「違う、また負けたからだよ」
だからだというのだ。
「まだ試合中だけれどな」
「これから逆転しますよ」
「するか、とにかく負けたらな」
三浦も微妙に言い換えた。
「六甲おろし歌ってだ」
「それからですか」
「上陸しろ、いいな」
「若し歌わなかったら」
「上陸止めだ!」
艦艇勤務で一番重い処罰だ、艦内は狭くすとれすが溜まりやすいだけに陸上基地の外出止めよりきつい。ただし基地に停泊中は基地内なら移動可能だ。
「いいな、そうなるからな」
「そうですか、今日負けたら」
「六甲おろし歌えよ」
「おお、負けたぞ」
ここで四分隊の二曹がテレビを見つつ中西に笑って言った。
「三点差でな」
「あっ、負けました」
「じゃあ六甲おろし歌えよ」
その二曹の人も中西に歌のことを言う。
「いいな」
「わかりました」
「おう、しっかりと歌えよ」
こうして中西は入港した時上陸の時六甲おろしを歌ったが。
三浦はその彼にこう言った。
「それで阪神は何時優勝すると思ってるんだ」
「今年です」
中西は躊躇せず答えた。
「そうなります」
「まだ言うのかよ」
「駄目ですか?」
「優勝出来る筈ないだろ」
「六位だからですか」
「あの戦力で優勝出来るか」
ここから三浦は今年の阪神のチーム打率や得点を述べた、資料は手元にあった新聞である。出港していたので少し前のものだ。
「こんなのだぞ」
「打線覚醒はあと少しですね」
「少しどころか永遠にあるか」
それこそという返事だった。
「打たないと勝てないんだぞ」
「じゃあ打てはいいんですね」
「打ってねえだろ」
実際にその通りだった。
「だからだよ」
「阪神は勝てなくて」
「優勝出来ないんだよ、私の言うことが間違ってるでしょうか」
ここでわざと丁寧に言う三浦だった。
「何処かな」
「ノーコメントです」
相手が海曹長なので中西も言葉を選んだ、自衛隊において海曹長は下士官及び兵の中で最高位にあるのだ。
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