さばさば
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第一章
さばさば
二〇一八年日本シリーズは終わった、根室千佳は福岡ソフトバクホークスの胴上げを見てから自分の部屋に戻ろうとした。
だが席を立ったところで風呂から上がってきた兄に言われた。
「どうだったんだ?」
「負けたわ」
千佳は兄の寿に答えた。
「ホークス日本一よ」
「そうか、ホークス強いだろ」
「一戦、二戦はともかくね」
どうかという顔になってだ、千佳は兄に話した。兄は黒地に黄色が入っているジャージを着ていて冷蔵庫から牛乳を出そうとしている。
「それからがね」
「勝負強かったんだな」
「こっちが必死で攻めて守っても」
そうしてもというのだ。
「一枚上手だったわ」
「戦力がか」
「采配もよかった?」
ソフトバンクの監督である工藤公康のそれがというのだ。
「それもあってね」
「負けたか」
「というか普通に強かったわ」
これが千佳のソフトバンクへの評価だった。
「何でペナント二位だったのよ」
「西武の打線が強過ぎたんだよ」
「だからだったの」
「阪神の打線もあれだけ強かったらな」
寿は牛乳を出しながらこうも言った。
「優勝していたな」
「阪神はね」
千佳も冷蔵庫を漁りだした、兄の行動を見て自分もと思ったのだ。
「ピッチャーよかったわね」
「ああ、けれどな」
「打線がね」
「特に序盤打たなかったからな」
「助っ人も駄目だったしね」
「西武みたいに打ってれば」
寿はコップも出した、白い陶器のもので阪神のエンブレムがある。千佳は千佳でカープのエンブレムがある白い陶器のコップを出した。
「カープといい勝負してたわね」
「何でうちの打線は弱いんだろうな」
「伝統でしょ」
千佳は今度は紙パックの林檎ジュースを出していた。
「それは」
「嫌な伝統だな」
「じゃあ阪神がよく打ったシーズンって幾つあるのよ」
「そんなにないな」
寿自身も認めることだった。
「正直言ってな」
「それじゃあね」
コップに林檎ジュースを入れつつ言った。
「もうね」
「伝統か」
「そうよ、嫌な伝統だと思うけれど」
コップに牛乳を入れる兄に話した。
「それでもね」
「阪神は打たない伝統か」
「ピッチャーはいいけれどね」
「今年もピッチャー頑張ってくれたのにな」
「私もそう思うわ」
「そうだよな、しかしな」
寿は牛乳を飲みつつ妹に応えた。
「話を日本シリーズに戻すけれどな」
「ホークス強かったわね」
「そうだろ、あれがな」
まさにというのだ。
「長い間強いチームだよ」
「勝ち方知ってるのね」
「戦力も采配も勝とうっていう気持ちもな」
「どれもあるチームね」
「そういうことだろ」
「よくわかったわ、また来年よ」
千佳も林檎ジュースを飲んだ、そうして言うのだった。
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