勇者番長ダイバンチョウ
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第26話 激戦開幕! 喧嘩相手は未来からやってきた!? 1
前書き
今回はとジャンさんの許可を得てコラボした作品にしてみました。後長編っぽく複数の話数でやる予定です。
猛烈な猛暑を否応なくふるい続けた夏が過ぎ、過ごし易い秋の季節が到来していた。
木の葉は茜色に染まり、あれほど憎たらしく思えた太陽の日差しが心地よく感じられる頃合いになった今日この頃の事ーーー
番町の有名スポットと呼ばれている初代番長を模した銅像がある。
頬に傷を持ち、つばの掛けた学帽を被り木刀を片手に勇ましく立つ男の姿を象ったこの像は此処番町の待ち合わせスポットとして多くの町人のみならず旅行者などが利用していた。
そんな銅像の近くのベンチにて、何時もとは違う少しおしゃれな恰好をした美智が座っっていた。
何時も着こなしている学生服ではなく、流行りに乗ってみた感を醸し出している。
白の長袖のシャツにグレーのニットベスト。紺色のスカートに白のソックスとシューズと言うプレッピースタイルに身を包んでいた。
「んふふ~、この服見て番は何て言ってくれるかなぁ? 今月のお小遣い殆どつぎ込んじゃったけど、無駄な買い物じゃないよね・・・うん!」
自分自身にそう言い聞かせる美智ではあったが、内心不安だったりする。
と言うのも、当の番自身余り流行りとかファッションとかに興味を示さない為だ。
常に着ているのは長ランにボンタン。後は下駄と学帽と言う時代錯誤も甚だしいと言える服装なのだから。
前に番に服装の事を指摘したのだが、番曰く「服なんて着れれば何でも良い!」と突っぱねられてしまった。
なので、今回は前に約束したお泊りも兼ねて少し気合を入れて自身をコーディネートしてみた美智だった。
「よっし、頑張るぞぉ! 頑張れ私! ファイトだ私! オー!!」
突然一人で右手を挙げて叫ぶものだから周囲の視線が一斉に美智に向けられる。しかし、今の美智にはそんな視線など気にしてはいない。
今の彼女の脳内にはこれから番とどうやって一日過ごそうかと言うスケジュールが急速に構築されている為に周囲に気を向ける暇がない為だ。
「隣、良いですか?」
「あ、はい! どうぞ」
とは言え、声を掛けられれば反応はする程度の気配りは出来る。
声がした女性の反対側にそっと避ける。それを見てから声を掛けた女性がそっとベンチに座る。
いや、女性と言うよりは少女と言った方が良いだろうか。
パッと見たところ美智と同年代かそれよりも一つ二つ下位だろうか。
茶色のボブカットヘアーにアクセントとしての髪飾りが良い味を醸し出している。
だが、それよりも美智が少女に視線がくぎ付けになったのはその服装だった。
(何処のブランドだろう。雑誌でも見た事ないけど可愛い服だなぁ)
隣に座る少女の着ていたのは美智がこれまで良く愛読していたファッション雑誌には全く掲載されていない衣服だった。
しかし、決して似合ってないと言う訳ではない。寧ろ見た事がない衣服な筈なのに妙に似合ってると言うべきか、素敵な衣装と思えてしまった。
(不思議な感じの子だなぁ。この辺じゃあんまり見ない顔だし。旅行者かなぁ?)
声を掛けてみようか迷った。旅行者に変な事を聞くのはちょっと失礼かな? と思えたからだ。
「どうかしましたか?」
「あ! えと・・・綺麗だなぁって思ったんです。それに・・・」
「見た事ない服・・・ですか?」
「え?!」
「気にしなくて良いですよ。【この時代】にはない服装ですから」
「???」
意味の分からない発言に思わず首を傾げてしまった。何かの小説の台詞かな? そう思い余り気に掛けずにいる事にした。
「あの・・・少しお話良いですか? この町は初めてなもんで」
「えぇ、私でよければ良いですよ」
やはり旅行者だったようだ。変に勘繰りしてしまった自分を反省し、それからは少女と会話をする事にした。
「此処には誰かと待ち合わせですか?」
「はい、そうなんですよ。連れの・・・と、友達がちょっと野暮用とかでーーー」
「へぇ、実は私も友達と待ち合わせしてるんです。この後その友達の家に遊びに行く予定もしてるんですよ」
どうやらお互い友達と待ち合わせをしているようだ。最も美智の場合は今は友達路線でも良いが、その内もっと親密な関係になりたいなぁ、と思っていたりもする。
「えぇなぁ。そのお友達ってのはもしかして彼氏とかなんでっかぁ?」
「えへへ~、分かっちゃうぅ? 今はまだそこまでいってないんだけどねぇ」
「大変やなぁ。実は、私の友達ってのもこれまた初心な感じでなぁ。私がついてないと何しでかすか分かったもんやないんやぁ」
「うんうん、分かる分かるよぉ。私の友達もねぇ、すっごい喧嘩は強いんだけど女の子の事になると顔を真っ赤にしちゃってねぇ。前に私の下着姿を見ただけで鼻血を噴き出して倒れちゃったしねぇ」
「し・・・下着姿ぁ!!」
少女は噴き出してしまっていた。それに美智は首を傾げたが、特に気にする事もないだろうと思って話を続ける事にした。
美智は少女との会話を楽しむ為に。
そして、少女こと【八神はやて】は情報を得る為にーーー
***
ちらりと時計を見る。二人が会話を始めてから実に2時間は経過していた。
(番・・・遅いなぁ。また何処かで喧嘩してるのかなぁ?)
時計に目をやりながら美智はそんな風に考えていた。その一方ではやては少しイライラしている様子だった。
(遅い・・・何やっとるんや力君は・・・早いとこ元の時代に帰らなあかんっちゅうのに、一体どこで油売っとるんやあの阿呆はぁ!!)
はやてのイライラは遠目から見ても分かる位なまでに顔に現れていた。
それを見ていた付近の人達は思わず視線を背けたり、足早に其処から立ち去ろる者もいたりとだった。
ただ一人。真横に居た美智はそれには全く気付く様子がない。それどころかーーー
「はやてちゃん、喉が渇いてるの? 良かったらこれどうぞ」
美智はあらかじめ番用に持っていた缶ジュースをはやてにそっと手渡した。
「え? えぇんでっか?」
「いいのいいの。本当は友達用に買ってたんだけど、このままだと温くなっちゃうし、此処ではやてちゃんに知り合った記念に・・・ね」
「ホンマか? それじゃおおきにな」
折角の好意を無碍にしては逆に失礼と、缶ジュースを受け取る。
が、其処ではやては驚いた。
「か、缶ジュースのフタが・・・開けられへん」
「どうしたの? はやてちゃん」
「えと・・・ジュースの缶の開け方が・・・」
「プルタブの開け方が分からないの? それじゃ、私の開け方を見て覚えてね」
そう言って美智は、目の前でプルタブを開けて見せた。
「ね、簡単でしょ?」
「あ、うん・・・せやなぁーーー」
見た通りのままはやてもプルタブを開ける。
(私の居た時代と違ってこの時代のジュース缶はプルタブが取れる仕組みなんやなぁ)
改めて、はやては時代の差を思い知らされた。たかだかジュース缶一本でもこれだけの差があるなんてーーー
(参ったなぁ、缶ジュース一本でこの始末やなんて。自分の不勉強さが恨めしいわ)
頭が痛くなるのを堪えつつ、はやては貰った缶ジュースを飲む。
美智もそれに合わせてジュースを飲んだ。そして、再度お互い視線を合わせる。
(それにしても・・・)
(まるで、鏡を見とるみたいやなぁ)
二人はそう思いながら互いの顔をまじまじと見ていた。そう、似ていたのだ。
美智もはやても服装やアクセサリーに多少の誤差はあっても顔立ちはほぼ似通っていた。
そんな二人がこうして同じベンチに座っているのだから、事情を知らない人が見たら双子なのだろうと誤解してしまっていた筈だ。
「あ、居た居た! 此処に居たのかよはやて!」
すると、はやてを呼ぶ男性の声がした。見れば、これまた見た事ない感じの服を着た細身の少年が駆け寄ってきていた。
(わぁ、細い体。番と比べたらまるでマッチ棒だなぁ。あれがはやてちゃんの友達なのかな?)
駆け寄ってくる少年を美智は物珍しく見た。服装もそうだし、体つきも何処か細い。そう、細いのだ。
と言っても美智の中では番基準なので、それを言ってしまえば大抵の男子は皆細身になってしまうだろう。
「おぅい、美智ぃ! 待たせたなぁ」
すると、反対方向から野太い声が響いてきた。はやてが声のした方を見て、ぎょっとなった。
その巨躯は勿論だが、時代はずれな服装に驚きを感じるが、同時に何処か懐かしさを感じられた。
(まさか、激さん・・・・な筈ないわなぁ。にしてもでっかいなぁ。力君の1.5倍近く大きいんやないかぁ?)
はやてがそう誤解してしまう程なまでにその少年は大きかった。
何よりも太かった。発達した胸筋はタンクトップシャツ越しにでも分かるし、両腕の腕もまた丸太みたいに太い。そう言う意味で全身が筋肉質の塊と言った存在がこちらに来ていた。
(なんやろうなぁ。まるでゴリラが学ランを着ているみたいな感じやなぁ)
はやても美智も互いの友達を見ながら思い思いの感想を頭の中で呟いていた。
「ほれ、ぐずぐずしてないでさっさと行こうぜはやて」
「悪いな。近くでチンピラ数人を片づけるのに時間食っちまってさ。さ、早く行こうぜ」
少年二人が互いに言い合い、手を握る。
細身の少年は美智の手を、巨漢の少年ははやての手を、それぞれ握って銅像から離れた。
「「え!?」」
はやても美智もお互い同時に素っ頓狂な声を挙げる始末だった。
「ちょちょちょ! ちょっと待ってな兄さん! あんた人違いしとるんやないのかぁ!?」
「何うだうだ言ってんだよ美智。んで、今日はこれからどうすんだ?」
必死に弁解しようとするはやてだったが、巨漢の少年は全く聞く耳持たずなままズンズンと歩き続けている。
背丈が180以上もある為か歩幅も結構ある為、はやて自身ついて行くのがやっとな状態だった。
「そないな事言ったってお兄さんさぁ」
「んだよその他人行儀みたいな言い方はよぉ。ちゃんと名前で呼べよな」
(名前なんぞ知るかぁ! ってか、何て力やこのお兄ちゃんは! 下手したら力君とタメ張れるんやないかぁ?)
必死に少年から引き剥がそうとしているのだが、思いの外少年は怪力の持ち主だったらしくそれは無理そうだ。
それに、下手に自分の素性をこの時代の人間に知られるのは些か不味い気がする。
(楓の時は最小限で済ませてるかも知れへんけど、下手にこの時代でもめ事を起こしたら私らの時代にまで影響してまうかも知れへんなぁ。しゃぁない、こうなったら此処は誤魔化しとおすしかあらへんかぁ)
覚悟を決め、はやては一時的に先ほど知り合った【美智】になり切る事にした。
ぱっと見た感じでだったが、はやても美智も何処となく似ていた。
そのせいでこの少年も自分と美智を間違えてしまったのだろう。
今この場で素性を明かして解放されたとしても、こんな見ず知らずの場所で放り出されては溜まったもんじゃない。
美智と呼ばれた少女には悪いが暫く彼女の素性を利用させて貰う事にしようと、はやては心の中で美智に対して謝罪した。
「な、何でもあら・・・なんでもないよ。えと・・・」
「おいおい、俺の名前忘れちまったのかよ。ボケでも始まったってのか?」
「あ・・・あははぁ・・・その、ごめん」
「・・・・ったく、番だよ。【轟 番】。もう忘れんなよな」
「あ、うん! 分かったよ・・・番君」
「何で君付けなんだよ?」
何時もの美智っぽくないなぁと感じながらも少年こと番は町を歩いた。
「んで、この後どうすんだ? 今日はお前に付き合うって言う約束だからな。しょうがねぇから何処へだって付き合ってやるよ」
「ホンマか?」
「・・・お前、何だその関西弁みたいな訛りは?」
「あ! え、えぇっと・・・この間落語見ててそれで真似したらこうなっちゃったんだよ」
「お前・・・落語見る趣味あったっけか?」
(不味い不味い不味い! 早くもボロが出てもうたぁ! この関西弁訛りは昔からの癖やから難しいわなぁ! と、とにかく何とか誤魔化し切らんと!)
冷や汗かきまくりつつ必死に言い訳を考える。
「さ、最近になってはまり始めたんや。まだ詳しくはないんだけどね」
「ふぅん、そうかい。んで、何処へ行くんだ?」
(何処へ行こうったって・・・この辺の地理なんざ全く分からへんから何処へ行こうか分からんわぁ! えぇい、こうなったら破れかぶれや!)
「それじゃ、番の家に行こうよ。そろそろ晩御飯の時間じゃない?」
「ん? もうそんな時間か。そう言やぁ俺も腹が減って来たし、帰るとすっかぁ」
ばれないように、はやては内心ガッツポーズを決めたくなっていた。
今は何よりもまず寝泊まり出来る場所の確保が最優先。元の時代に帰れるのは何時になるのか分かったもんじゃない。
それまでの間せめて雨風を凌げる場所がどうしても必須だった。
だが、今はやての持っている手持ちのお金ではこの時代では紙切れ程度の価値しかない。
(にしても・・・目の前で一万円札を真っ二つに破り捨てられたのはショックやったなぁ)
実際、はやては美智と会う前に一度試してみたのだが、元の時代のはやてが持っていた一万円札はこの時代では全く価値のない紙切れでしかない上に、それを出されてこれには一万円の価値があると言われればそりゃ破り捨てられても仕方ない。
だが、それを目の前でやられた時のはやての心境は如何ほどだったであろうか。
何時の時代においても一万円札とは大層な代物だ。
それだけに、はやてのショックの大きさは計り知れない。
(はぁ、此処が何時の時代なのか正確な時期が分からん上に無一文やなんてなぁ・・・何時んなったら戻れるんやろう?)
これまた、隣を歩く番に気づかれない程度に浅い溜息を吐く。
『あ、番さん!』
そんな二人の元へと近寄ってくる救急車が一台。
「きゅ、救急車が喋ったぁ!?」
「おぅ、レスキューじゃねぇか。どうしたんだ?」
喋る救急車に驚くはやてと何事もなかったかの様に挨拶を返す番。
尚、はやての元居た時代から更に数年後にこれまた喋る救急車がやってくるのだが、それはまた別の話だったりする。
「って、番ちゃん! あんた驚かへんのかぁ?」
「はぁ? 何がだよ」
「何がって、救急車が喋っとるんやで! おかしいと思わへんのかぁ?」
「??? 救急車? こいつはレスキュー番長って言って俺のダチだぞ」
頭が痛くなってきた。と同時にはやてははっとする。
もしかして、この時代にも自分たちと同じように地球を守護する勇者なる存在が居るのではないだろうか。
それで、この番と言う少年もまた、その勇者の一人なのではないだろうか。
『特に用はないんですけどね。たまたま番さんや美智さんを見かけたんで声を掛けたんです』
「そうか、今日は非番なのか?」
『いえ、でも粗方の仕事は終わったんで今はその帰りみたいなものです。この後は戻って支持があるまで待機する事になります』
「そうか、それじゃまたな」
二言三言話し合いを交えた後、レスキューは去って行った。
今すぐにでも、彼に自分の素性を話し、協力を申し出たいと思ったが、はやてはその思いを押し留めた。
今はまだ美智を演じている最中だし、何より時間が既に時間だ。
見ず知らずの場所でしかも夜中に動き回るなど危険極まりない。
ましてや、この時代がまだ安全だと言う保障がないのだから。
(つくづく他の皆の存在の有難さが身に染みてくるわぁ。今私が頼れるのは力君しかおらへん。一応、さっきの救急車みたいなのがこの時代に居たって事が分かったのは嬉しい発見かも知れへんけど、まだそれが味方かって言う証拠もあらへんし、暫くは様子見せなあかんなぁ)
焦る気持ちを抑えつつ、はやては番の後に続いた。空はすっかり茜色に染まり、辺りでは炊事の煙が立ち込め始めている。
「あ~、腹減ったぁ。今日の晩飯は何かなぁ?」
「あのさぁ、番」
「あん?」
「さっき会った救急車みたいなお仲間ってさぁ、他にも居るの?」
「何今更な事言ってんだよ美智。あいつ以外のダチって言ったらそれこそ沢山いるぜ。ま、名前上げたらキリがねぇから言わねぇけどよ」
(仲間が大勢いるって事は、それだけこの時代は過酷な時代って事なんやろうか。前に力君から聞いた話やと若い頃のノルウェール准将の居た時代に飛ばされたって聞いたけど、此処は正確に言えば何時の時代なんやろうか?)
「は、話は変わるんだけどさぁ。今って西暦何年だっけ? 200X年・・・とかじゃないよね?」
冗談交じりで訪ねてみた美智の問いに番は「こいつ何言ってんだ?」的な呆れた顔を向けながら振り返って来た。
「お前、本当に頭大丈夫か?」
「うぅ・・・と、とにかく今何年なんだっけ?!」
「今は198X年だよ。カレンダー見れば分かるだろ?」
(な!? 私の居た時代から約20年も前の時代やとぉ!?)
それこそ、毎度毎度現れては巻き込まれている未来人の楓からすれば些細な時間に見えるかも知れない。
しかし、楓の場合は戻れる方法があるからな訳で今の自分たちには戻る方法がまだない。
その為、元の時代に居る仲間たちに居場所を伝える事もまた出来ずにいる。
(はぁ、念話だって時間は越えられへんし、こうなったら楓が事態に気づいて来てくれるのを待つしかあらへんなぁ)
今自分の置かれている状況に対して、改めてはやては小さくため息を吐いてしまった。
***
「ただいまぁ!」
番に連れてこられた家はとても簡素な掘立小屋みたいな感じを思わせる一軒の平屋だった。
ところどころトタン張りをされており、この家もまた時代に合わない作りをしている。
(何と言うか、終戦直後を思わせるような作りやなぁ)
内心失礼な事を思いつつ、はやてはふと隣のガレージに置かれていた一台の軽トラックを見た。
『あ~、だりぃなぁ・・・早くどっかの宇宙人が喧嘩を売りにこねぇもんかなぁ? 退屈で仕方ねぇぜ』
其処には愚痴を零しながら項垂れる一台の軽トラックの姿があった。
此処にも居たのか!?
驚きの声を挙げまいと抑えつつ、はやては改めてその軽トラックを見る。
勇者と言うには余りにもだらけたと言うか気迫が感じないと言うか、どちらかと言うと荒々しいと言った方がしっくりきそうな風にも見えた。
「何してんだよ。早くあがれよ」
「あ! う、うんーーー」
慌ててはやては家の中へと入る。
掘立小屋と思われた中は案外普通の作りをしていた。
と言っても、巨漢な番が余裕で通れる辺り相当広く作られたのだろうけど。
「おふくろ、誠。今帰ったよ」
「おかえり兄ちゃん!」
「おかえり、番」
居間の方では番の弟と思わしき少年がダイヤル式の圧型ブラウン管テレビで昔懐かしのテレビアニメを見ていた。
もちろん、この時代では放送したての真新しいアニメなのだろうけど、はやての居た時代では相当古いアニメに分類される。
その隣では、母親と思わしき女性が食事の支度を終えたのかちゃぶ台のそばに腰を下ろしてご飯をよそっていた。
「あら、いらっしゃい美智ちゃん。今日はゆっくりしてってね」
「おお・・・有難うございます」
「兄ちゃん。幾ら姉ちゃんと一つ屋根の下だからって、襲っちゃダメだぜぇ」
「誰がすっか!」
軽い会話を交えながら四人はちゃぶ台を囲む。
今日の夕食はご飯に味噌汁と、真ん中に大皿に盛りつけられた鶏肉のから揚げが置かれていた。
「今日は美智ちゃんが来るって言うからね。少し奮発しちゃったの」
「くぅぅ! から揚げたぁ泣かせるねぇ。丁度俺もこれ食いたかったんだよ」
「俺もこれ大好きだぜ! だって美味ぇしな」
「はいはい、美智ちゃんも遠慮しないで沢山食べてね。お替りもあるから」
「あ、はい! いただきます」
感謝の言葉を述べるなり、いきなり番と誠の箸が真ん中のから揚げに突き刺さる。
「あ! 兄ちゃんそれ俺が狙ってたやつだぞ!」
「うっせぃ! お前こそ俺の狙ってた奴取りやがって! お返しだお返し!」
「んなろぉ! こうなりゃ早い者勝ちだぁ!」
「望むところだ!」
二人して獲物を狩る目をから揚げへと向ける。食べ盛りの少年二人の前では大皿に盛られたから揚げなどあっと言う間に平らげられてしまうだろう。
「こらこら、二人とも落ち着きなさい。今日は美智ちゃんも来てるんだから、まずは美智ちゃんが食べてからよ」
「そうだったね。姉ちゃん取って良いよ」
「悪いな美智。俺腹減ってたもんでさ」
母にそう言われ、二人はすごすごと箸を下げる。それに合わせるように、はやてはから揚げを一つ摘まみ取り、恐る恐るそれを齧ってみた。
途端に、口の中に広がる濃厚でたんぱくな味わい。鶏肉とは違って身がしっかりしていて弾力もある。
「お、美味しい! これ凄い美味しいです!」
「あらそう? 美智ちゃんにそう言われると作った甲斐があるわぁ」
はやてに褒められて母親も何処か嬉しそうに頬を染めている。
その両隣では、次なる獲物を狙う二人の腹ペコが唸りを挙げていた。
「これ、何ていう肉なんですか? 鶏肉・・・とは違うみたいなんですけど。良く分からないなぁ」
元居た時代では炊事を担っているはやてだからこそ、この味は是非戻った後も再現したいと思っていた。
彼女の中の料理人(自称)の血がうずいている証拠だ。
そんな彼女の問いに、何の悪びれる様子もなく番が答えてくれた。
「あぁ、そいつは【野鼠】のから揚げだよ。こないだ俺と誠がとっ捕まえたのをバラして揚げた奴な」
「・・・・・・・・・・・・・・・へ?」
一瞬、はやては情報を取り込む行為を拒否した。続いて、響いてくるのは番の言った言葉だった。
野鼠のから揚げ。そう、確かに番はそう言ってのけた。
と言う事は・・・今自分が美味いと太鼓判を押したこれは鶏肉ではなくて、野鼠のから揚げだという事になるのではーーー
「今回のネズミはでっぷり太ってて美味そうだったよなぁ」
「あぁ、この時期になると冬に備えてネズミどもでっぷりと太り始めるからなぁ。その分肉も増えて大助かりなんだけどよ」
バターーーーーン!!!
楽しい食事の最中、はやては泡を吹いて倒れてしまった。
突然倒れたはやてに慌てて駆け寄る番と誠とその母。
意識が遠のく中、はやてはもしかしたら自分は無事に元の時代には帰れないかも知れない。
と、密かに覚悟を決めていたと言うそうだ。
後書き
次回は力と美智パートをお送りします。
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