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永遠の謎

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40部分:第三話 甘美な奇蹟その五


第三話 甘美な奇蹟その五

 そしてだった。彼はさらに話すのだった。
「必ずだ」
「殿下、ではその彼もまた」
「こうして我等の様に」
「愛されるのでしょうか」
 青年達はここでこんなことを尋ねたのだった。
「夜に共に褥で」
「これからの様にでしょうか」
「そうされるのですか」
「いや、それはしない」
 それはしないというのであった。これは断言であった。
「私は彼を敬愛している」
「敬愛ですか」
「愛情ではなくそれなのですか」
「いや、愛情もある」
 敬愛と愛情がだ。共にあるというのである。
「だが。肉体ではなく心のだ」
「その愛ですか」
「ワーグナーへの愛は」
「それだと仰るのですね」
「その通りだ。それでだ」
 さらに言うのであった。
「ワーグナーを救う。それではな」
「では殿下、それでは」
「これからは」
「この夜は。どうされますか」
「褥にだ」
 一言で述べた彼だった。
「行くぞ。いいな」
「はい、わかりました」
「それでは共に参りましょう」
「そこに」
「言われているらしいな」
 太子はワインを飲む手を止めてだ。そのうえでこう話してきたのだった。
「私が。女性を遠ざけているということを」
「御気になされることはありません」
「そのことは」
 答える彼等だった。その通りだとだ。
「世の者の言葉がくちさがないものです」
「それを一つ一つ気にしてはです」
「どうにもなりません」
「ですから」
「いや」
 しかしであった。ここで太子は言うのだった。
「私は。その声も目もだ」
「御気になられますか」
「どうしても」
「わかっているが逃れられない」
 俯いてだ。辛い顔での言葉だった。
「どうしてもだ。どうすればいいのだ」
「ですからそれは」
「下らない者の言葉や視線なぞです」
「御気にされることは」
「だといいのだが」
 どうしてもだった。その言葉は雲っていた。
 それを自分でも拭えないままだ。彼は言うのであった。
「私は。どうしてもだ」
「では我等はその殿下を御護りしましょう」
「殿下の騎士として」
「それで宜しいでしょうか」
「頼めるか」
 太子は細い声で彼等に告げた。
「では」
「はい、それでは」
「何時までも殿下を」
「そうさせて頂きます」
「それではな」
 こう話してだった。彼等は今は褥の中に入った。そしてであった。
 即位の時が来た。太子が王となる時が遂に来たのだ。
 彼はかつての乳母にだ。手紙を書いたのであった。
「私は私の全てを玉座に注ぎます」
 このことからはじまりだ。あくまで己の国民のことを思っていた。
 それは強い誓いだった。確かにだ。
 そして父であった先王の葬列を先導するバイエルンの軍服姿の王の姿を見てだ。バイエルンの国民達だけでなく彼の姿を見た他国の者達も言うのだった。
 
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