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永遠の謎

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39部分:第三話 甘美な奇蹟その四


第三話 甘美な奇蹟その四

「準備をはじめて下さい」
「王になられるその準備を」
「わかっている。ではな」
 こうしてだった。彼は王になる用意に入った。その夜だった。
 彼は自分の部屋にいた。絹のカーテンに豪奢な天幕のベッド、それといい装飾の椅子に見事な絵画で飾られたその部屋の中でワインを楽しんでいた。
 しかし彼は一人ではない。他にもいた。
 しかも何人もだ。誰もが若く美しい男達だ。太子は彼等に声をかけた。
「間も無くだ」
「殿下が王になられますね」
「遂にですね」
「このバイエルンの王に」
「そうだ、王になる」
 その通りだとだ。太子も述べた。彼は今ソファーに座っている。そして男達は彼の周りにはべっている。まるでハーレムの様に。
「だが。母上に言われた」
「お后様から何と」
「何と言われたのでしょうか」
「私達のことでしょうか」
「それはない」
 彼等のことではないというのだった。
「しかしだ」
「しかしですか」
「では一体何でしょうか」
「何を言われたのでしょうか」
「王としての務めについてだ」
 このことを話すのだった。ありのままに。
「言われた。美しいものだけでなくだ」
「それだけでなくですか」
「他のこともまた」
「言われたのですね」
「そうだ。そしてだ」
 そしてなのだった。
「醜いものまで見るようにだ」
「醜いものまでなのですか」
「それもまた」
「見られよと」
「そうしなければならないのだろうか」
 顔を見上げてさせてだ。太子は言った。目には暗がりと天井しか見えない。しかし彼は今は別のものを見ているのであった。
 それを見ながらだ。彼は語った。
「王は。そうしなければ」
「やはりそうかと」
「それはです」
「王ですから」
 男達も母后の言葉に賛同してそれぞれ言うのだった。
「仕方ありません」
「それは」
「そうなのか」
 それを聞いてもだった。太子の返答はいささか虚ろなものだった。
 そしてその虚ろな声でだ。彼はまた話すのだった。
「王ならば」
「はい、王ならばです」
「それ義務です」
「国の主なのですから」
「このバイエルンの」
 太子もわかっていた。だからこそ呟いたのだった。
「この国の」
「そう思いますが」
「どうなのでしょうか」
「わかっている」
 こう答えはした。
「それはだ。しかし」
「しかしですか」
「それでもなのですね」
「私には望みがある」
 太子の言葉には願いがあった。明らかにだ。
「それを成し遂げたいのだが」
「王になられればですか」
「その時にこそ」
「そうだ、王になればすぐにだ」
 何をするかだ。彼は自ら語った。
「ワーグナーをだ」
「リヒャルト=ワーグナーですか」
「あの音楽家をですね」
「やはり。彼を」
「救わなければならない」
 願いであったがだ。それは彼の中では義務にさえなっていた。
 
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