銀河転生伝説
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第5話 第六次イゼルローン要塞攻防戦
――宇宙暦794年/帝国暦485年 12月1日――
自由惑星同盟軍は、遂にイゼルローン要塞の前面に全軍を展開させた。
帝国軍もトールハンマーの射程に引きずり込もうと艦隊を出撃させる。
ここに、第六次イゼルローン要塞攻防戦が開始された。
同盟軍の艦艇数約30000隻に対し、帝国軍の艦艇数は約23000隻。
数では同盟軍が有利に見えるが、帝国軍にはイゼルローン要塞がある。
古来より、守りの堅い要塞は倍する兵力を持ってしても容易には落とせない。
しかも、イゼルローン要塞には出力9億2400万メガワットの要塞主砲トールハンマーがあり、その一撃は1個艦隊を消滅させるだけの破壊力を持つ。
同盟軍はこのトールハンマーの前に過去5度に渡って敗北を強いられてきた。
2年前の第五次攻略作戦では、当時の宇宙艦隊司令長官シドニー・シトレ大将の指揮の下50000隻の大艦隊が投入され、誘い出した帝国艦隊への並行追撃によって要塞に肉薄することに成功したが、帝国軍が味方の艦隊ごと要塞主砲によって砲撃するという暴挙に出たため、結果として敗退を余儀なくされた。
だが、同盟軍は5度の苦い経験を教訓としてトールハンマーの射程限界を正確に測定し、その境界線を出入りして敵艦隊の突出を誘う艦隊運動の粋を会得した。
その結果、艦隊運動の制御のソフトウェアに関しては同盟軍の力量は帝国軍のそれを上回るという副作用が起きたりもしていた。
一方、帝国軍にしてみれば要塞主砲の射程に誘い込むのが基本戦術であるが、第五次攻防戦のように自分たちまでトールハンマーに狙撃されては適わない。
そのため、いざとなれば上下左右に散開できるよう準備をしつつ、中央部を空けリング状に艦隊を展開して敵を集約させようとする。
このような態勢で虚々実々の駆け引きをしながら一進一退を繰り返す……それが第六次イゼルローン要塞攻防戦序盤の展開であった。
<アドルフ>
マジ眠み~。
つーか俺、後方待機だからやること無いじゃんね。
俺もラインハルトと一緒にホーランドのバカをフルボッコにしようと思ったけど、そしたらホーランドが死んじゃう可能性高くなるんだよね~。
そうなると大惨事……じゃなくて第三次ティアマトでやらかしてくれるやつがいなくなっちまう。
ムーアとかならやらかしそうだけど、やつが出てくるとは限らんし、ここは原作からの乖離を最小限にしとくのが吉だな。
とはいえ、さすがに何もせんわけにはいかん。
今回も後方から適当に撃っているとするか。
…………
ん? まてよ……。
よく考えたら、ラインハルトより先に俺がホーランド艦隊をボコればいいんじゃね?
一緒にやるからダメなんだ。
ラインハルトに先んじて、ホーランドの乗る旗艦を攻撃しないよう注意しつつ敵艦隊に打撃を与え、敵の意図を挫く。
まあ、敵司令部に突入するのはラインハルトに任せとくか。
俺はそんな危険なことはしないのだ。
味方が勝っても俺が死んだら意味ないからな。
成功すれば前哨戦の戦果と合わせて中将に昇進できるだろ。
ミュラーも大佐にしてやれる。
よし、そうと決まれば善は急げだ。
<ミュラー>
アドルフ・フォン・ハプスブルク公爵……門閥貴族の筆頭、ハプスブルク公爵家の現当主とは思えないほど気さくな方だ。
いつも「眠い」と言って書類を部下に丸投げして本人は爆睡していなければ………、私室がフィギュアとエロ本だらけでなければ………、旗艦ヴァルトブルクのコンピューターにエロゲームやエロ画像をインストールしてなければ………、俺は素晴らしい人物だと絶賛できたかもしれない。
俺の見たところ、ハプスブルク公は軍人としてはそれなりに優秀だ。
当初の20戦余りは指揮を俺に丸投げしていたものの、先日の半包囲突破や疑似突出における撤退行動は見事の一言だった。
今俺の目の前にいるのと同一人物とはとても思えないが……。
能ある鷹は爪を隠す……というわけか。
ん?
この顔は……また何か良からぬことを企んでおられるな。
* * *
「ミ、ミサイル群確認!直撃、来ます!」
「何ぃ!」
ホーランド少将率いるミサイル艦を主力とした襲撃部隊は、同盟軍主力艦隊を囮としてトールハンマーの死角から多数のミサイルを放ち、イゼルローン要塞の外壁に傷を負わせることに成功した。
ここで帝国軍が焦って艦隊を呼び戻せば、同盟軍は前回のように並行追撃作戦を行っただろう。
帝国側もそれは分かっているため要塞表面に備えられた浮遊砲台で応戦するが、勢いに乗ったホーランドの襲撃隊はここぞとばかりにミサイルを次々と浴びせかけて浮遊砲台を破壊していく。
そこへ、ラインハルトに先んじたハプスブルク艦隊3000隻が側面から猛然と襲いかかった。
<ラインハルト>
ちっ、ハプスブルクに先を越されたか。
まあいい。
「そこの敵はハプスブルク艦隊に任せ、我々は敵の艦隊主力を攻撃する」
それにしても、俺と同じように敵の狙いを見抜いたか。
ヴァンフリートといい今回といい、門閥貴族にしてはやるではないか。
おもしろい、無能ばかりでは張り合いが無いからな。
さて、今は目の前の敵に集中するとしよう。
* * *
ハプスブルク艦隊がホーランドの襲撃部隊に襲い掛かるのを見たラインハルトは、両者を尻目に同盟軍本営へと殴り込みをかけた。
同盟軍主力とラインハルト艦隊の兵力差は、ほぼ15:1。
本来なら勝負にすら成らないはずであるが、回廊の危険宙域とトールハンマーの射程の間の狭い空間を縫うようにしか展開できないため、この時同盟軍はその数の有利を活かせない状態にあった。
ラインハルトは同盟軍主力の先端部を突撃の勢いと巧みな艦隊運動突き崩し、本営へと砲撃を開始する。
同盟軍司令部も負けじと応戦し、その砲火の応酬は激烈を極めた。
――22時10分――
それまでラインハルトとアドルフに武勲を独占されていた帝国軍の諸部隊が突出し出した。
長く伸びきった同盟軍の艦隊を分断して各個撃破する―――このミュッケンベルガー元帥の命令は戦術的には妥当なものであり、細部に拘泥せず戦闘全体を勢いに委ねようとしたのも誤りとはいえなかった。
だが、それは帝国軍の論理でしかない。
帝国軍の突出は、同時にトールハンマーが使えなくなる瞬間でもあるということをミュッケンベルガーは失念していた。
つまり、この状況は同盟軍にとってもチャンスなのである。
事実、同盟軍のグリーンヒル総参謀長はヤン大佐の進言を入れて、この機に予備兵力を投入し一気に混戦に持ち込もうと図った。
第六次イゼルローン要塞攻防戦中盤の特徴は、両軍共に途中から目前の戦術的状況の推移に乗り、本来の構想を見失って混乱を来たした点にあるだろう。
ミュッケンベルガーに冷徹さが備わっていれば、ラインハルトが如何に勇戦しようとこれを無視し、あくまでもトールハンマーの破壊力を持って同盟軍を叩きつぶすべきであった。
だが、ミュッケンベルガーはそれをせず戦況は混戦状態となった。
とはいえ、前回の味方ごとトールハンマーで薙ぎ払われた経験からか同盟軍は全力投入ができず、戦況は互角のまま推移し時間だけが悪戯に過ぎて行った。
<アドルフ>
あ~あ、やっぱり原作通り混戦になっちゃったよ。
誰があんな混戦の中に突っ込んでいくかってんだ。
帰ろ帰ろ。
そんなのはバカとMの人だけでやってくれ。
「要塞に引き上げる。全艦、撤退しろ」
「引き上げるのですか!?」
「お前……あの中に突っ込みたいのか? 実はMなのか?」
もしそうなら、今後ミュラーとの付き合い方を考えねばならない。
「いえ、小官もあそこに入りたいとは………」
「離れて砲撃しようにも、この混戦ではどうしようもない。もはや我々にできることは何も無いんだよ。ならば、こんな意味のない戦いは早く切り上げ次の戦いに備え体力を回復させておくのも帝国兵士としての務めだ」
おお、俺なんかカッコ良くね?
それより早く帰って先日発売した新作エロゲをやらんと。
そう言えば、この前買ったガ○プラもまだ作ってなかった。
ん? あれ?
何か…何か重大なことを忘れてるような……!!
そうだよ、ローゼンリッターがヒャッハーしだす頃じゃん!
これでリューネブルクの死亡フラグが立ってしまう。
…………
ちっとリューネブルク助けに行ってくる。
* * *
同盟軍のローゼンリッター連隊は強襲揚陸艦による非常識な突撃で敵艦に乗り移っての白兵戦を繰り返し、一艦を制圧する都度その通信装置を使用してかつての隊長であるリューネブルクを挑発する。
そして、それは帝国軍中枢部の知ることとなり、12月5日、リューネブルクはミュッケンベルガー元帥に呼び出された。
<リューネブルク>
部屋に入るとミュッケンベルガー元帥、オフレッサー上級大将、ハプスブルク少将の三名がいた。
「儂はな、リューネブルク少将。卿ならずともたかだか一少将の身の上など関わってはおられんのだ」
「!! ……で、小官にどうせよとおっしゃいますか?」
「知れたことではないのかな? 卿を名指しの挑戦だ、卿自身が応じるべきであろう」
「なるほど………」
俺は二度も国を捨てた……今度は国が俺を捨てる。
それほど理不尽な話でもあるまい。
「リューネブルク少将、行く必要はありませんよ」
!!
「ハプスブルク少将、何か言いたいことがあるのかな」
ミュッケンベルガー元帥が不愉快そうに問いただす。
「ええ、リューネブルク少将はここで失うには惜しい人材です。むざむざ敵に殺らせるわけにはいきません。なんでしたら私の艦隊の方に配属してもらっても結構です」
「だが、敵はどうするのだ」
「私の艦隊の宇宙母艦グラーフ・ツェッペリン、ペーター・シュトラッサーの2隻からワルキューレを大量に出し、敵強襲揚陸艦を捕捉します。これで白兵戦においては反乱軍最強の部隊であるローゼンリッターもその力を発揮できずに宇宙の塵となることでしょう。わざわざ敵の土俵に立ってやる必要はありません」
確かに。
いくら精強なローゼンリッターといえども母艦を直接狙われれば白兵戦の強さなど何の意味もない。
「ふむ……まあ、よかろう。だが卿は知っているのかな? リューネブルク少将の妻が………」
エリザベートが……どうしたと言うのだ?
「知ってますよ。その件についても後で私から話しておきます。では」
ハプスブルク少将と俺は部屋を出る。
「何故小官を庇ったのです?」
「以前にも申しました通り、卿の協力が必要だからです。ラインハルト・ミューゼルに対抗するためにも、ローゼンリッターに対抗するためにも」
「………なるほど。ところで、エリザベートがどうかしたのですか?」
「卿の妻、エリザベートがハルテンベルク伯爵を殺害しました。12月1日のことです」
「なに!? それでは………」
「今後、卿の後ろ盾は私が――ハプスブルク公爵家がなりましょう。詳しいことは後ほど」
そう言って、ハプスブルク少将は去っていった。
いったい、何が起きたというのだ!?
<アドルフ>
「攻撃隊より入電、“ワレ敵強襲揚陸艦ヲ撃沈セリ。タダシ、シャトルノ脱出ヲ確認ス”とのことです」
ちっ、仕留め損ねたか。
この気にシェーンコップを始末しておこうと思ったが、流石は原作キャラ。
きっちり補正が効いてますがな。
…………
まあいい、強襲揚陸艦は撃破した。
やつらの私戦で一つの艦艇が沈められたんだ。
当分、謹慎だろう。
減給や降格もあるかもしれない。
できれば一生謹慎していてもらいたいがな。
* * *
第六次イゼルローン要塞攻防戦は完全に消耗戦に陥っていた。
互いに決め手を欠いていたが、そのまま戦局が推移し両軍の艦隊が消耗し尽くしても帝国軍にはイゼルローン要塞が残る。
その意味では――単に勝敗という見地から見れば、同盟軍にとって不利な状況であるといえた。
また、損害による艦艇戦力の低下だけでなく、負傷者の量産によって病院船の収容能力は限界に近づいており、補給物資は著しく減少していた。
一度混戦に陥った以上、むしろこの状況を利用してトールハンマーを使用させぬままに全軍を撤退させるべきか――同盟軍の総参謀長グリーンヒル大将はそう思ったが、実行は容易ではなかった。
なぜなら、この方法は一つ間違えるとトールハンマー発射の機会を与えることにもなりかねないからだ。
同盟軍は苦心の上に陣形を再編。
戦力の一部を割いて回廊の右舷方向外縁から帝国軍の脇に回り込み、トールハンマーの射程内に押し込む形をとりつつ艦隊主力を後退させた。
これはヤン・ウェンリー大佐の進言が採用された結果であったが、グリーンヒル大将はさらに左翼からの機動的な波状攻撃によって帝国軍に少なからぬ損害を与えることに成功した。
中でも、ホーランド少将の分艦隊は柔軟で機動性を極めた艦隊運動によって帝国軍の陣列に突入すること三度、陣形を攪乱してはそこへ火力を集中して華々しい戦果を上げ勇名を馳せるに至る。
これは先日の戦いで、ハプスブルク艦隊に混乱に陥らされて被った汚名を返上するに十分な戦果であった。
このとき、帝国軍が全面崩壊に至らなかったのは、オスカー・フォン・ロイエンタール、ウォルフガング・ミッターマイヤーという二人の若い准将の活躍によるものであった。
第六次イゼルローン要塞攻防戦終盤の特徴は、帝国軍において30代以下の若い指揮官たちが個々に武勲を重ね武名を上げたことにあるだろう。
年配の指揮官で地位と名声にふさわしい功績を上げたのは、ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ大将、グスタフ・フォン・ナトルプ大将ぐらいのものであった。
* * *
同盟軍は12月7日から8日にかけての攻勢が失敗すると、致命的な損失が出ないうちに回廊から出て撤退すべきであるとの意見が主流となりつつあった。
今引けば戦略的にはともかく、戦術的には互角だったと言えるため、全体の姿勢はやや消極的になっていた。
9日、同盟軍旗艦アイアースの会議室で撤退方法に関する議論が行われていた頃、イゼルローン要塞を出撃したラインハルト艦隊2200隻が同盟軍の後背に出て退路を断つ動きを見せた。
<アドルフ>
遂にラインハルトが『反乱軍こちらにおいで作戦』を実行に移したな。
「見事な艦隊運動ですね、一部の狂いもない。しかし、反乱軍は2000隻の小部隊相手に何をやってるのでしょうか?」
「普通に考えればたかだか2000隻の部隊だけで退路を遮断するのは不可能だ。が、大軍にとって少数の敵軍に翻弄されるほどの屈辱はない。つまり、冷静になれないってことだ。だからああも簡単に釣られる」
ちっ、俺にはあんな艦隊運動できねー。
チート乙!
イケメンに死を!!
それにしても、この時の同盟軍には血圧の高いやつが多いのか?
「見ろ、あの指揮の統一を欠いた無秩序な追撃を。たった2000隻を30000隻が本気で追った挙句、巧妙に逆撃をくらって出血を強いられ、さらに猛り狂っている。正に馬鹿の極みだな。反乱軍がトールハンマーの射程内に誘い込まれるのも時間の問題だろう」
これを『火病《ファビョ》った』って言うんだろうな。
「トールハンマー、発射されました」
数千隻の敵艦が一瞬にして消え失せる。
艦橋に歓声が上がる。
「トールハンマー、第二射発射されました」
「敵軍、撤退を開始」
ようやく終わったか。
面倒な戦いだった。
報告書とかは参謀たちに任せて早く新作エロゲやらんと。
この前はリューネブルクのせいで結局できなかったからな。
* * *
12月10日 17時40分。
第六次イゼルローン要塞攻防戦は自由惑星同盟軍の全面退却をもって終了した。
同盟軍の戦死者は75万4900名。
帝国軍は36万8800名。
同盟軍はイゼルローン要塞攻略という戦略上の目標を達し得ず、損害においても帝国軍を大きく上回った。
一都市の人口に等しい人命が失われた結果、残ったのはトールハンマーが発動するまでは互角に戦ったという戦術レベルでの自己満足だけであった。
その後、原作とほとんど変わらぬ結果に胸を撫で下ろした貴族の坊ちゃまが居たとか居なかったとか……。
実に、どうでも良い話である。
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