魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者
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第五十一話 合流 1
出向で機動六課へ合流するギンガ。
初日の早朝訓練で彼女が見たものとは……
魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者、始まります。
outside
いつもの早朝訓練の時に、いつもとは違う人員がいた。
なのは、フェイト、ヴィータ、シグナム、そしてシャーリー。ここまではいつものメンバー。
そこに、二人の人間が追加される。
「さて、今日の朝練の前に一つ連絡事項です。陸士108部隊のギンガ・ナカジマ陸曹が、今日からしばらく六課へ出向となります」
なのはから紹介されたギンガが一歩前に出る。
「はい。108部隊、ギンガ・ナカジマ陸曹です。よろしくお願いします」
ギンガは凛々しく敬礼をする。
「「「「「よろしくお願いします!」」」」」
スバルはもちろんの事、ティアナも嬉しそうに敬礼する。
エリオ、キャロも昨日の現場検証の合同捜査で、ギンガとはすっかり仲良しになっている。
ただ一人、アスカだけがジト目でギンガを見ていた。
(また理不尽に逮捕されないだろうな?)
ギンガに対して、ちょっとだけトラウマがあるアスカであった。
「それからもう一人」
フェイトが白衣の女性に目を向ける。
「どーもー!」
「10年前から、うちの隊長陣のデバイスをみてくださっている、本局技術部の、精密技術官」
「マリエル・アテンザです」
フェイトの紹介に、気さくそうに答えてマリーが手を挙げる。
「本局技術部……」
それを聞いてアスカは嫌な事を思い出す。
自分が見つけた対AMF理論を横取りされた事だ。
いや、横取りされたのは別にどうでも良かった。ただ、その後、シャーリーに泣かれたとかのゴタゴタで、嫌な思いをした事を思い出したのだ。
おまけに、横取りされてのにも関わらず、未だに対AMFが実戦装備されていないのが非常に不満に思っているアスカ。
「あ……アスカ。マリーさんはね、あの件には絡んでないのよ。基本、デバイス専門の人だから」
アスカの不満そうな顔を見て、シャーリーが慌ててフォローに入る。
「きみがアスカ君ね」
マリーがアスカを申し訳なさそうに見る。
「ごめんなさい。本局で君の実績を横取りしてしまって。シャーリーから報告を受けて抗議したんだけど……私の力不足でアスカ君に嫌な思いをさせてしまったわね」
深々と頭を下げるマリー。そうなると慌てるのがアスカである。
「ちょっ!アテンザ技官!いいですから、その件はもう!忘れてください!」
あまりに素直に頭をさげるマリーにアスカが狼狽える。
「でも……」
「シャーリー!何とかしてくれ!」
頭を上げないマリー。シャーリーに助けを求めるアスカ。なかなかカオスば現場である。
「相変わらずねぇ……マリーさん。アスカが困ってますから」
アスカの慌てっぷりに苦笑しながら、シャーリーがマリーを起こす。
「その件はもう終わってますし。それに、オレは手柄が欲しくて対AMFを考えた訳じゃないですから!」
まさかここにきて蒸し返されるとは思わなかったのだろう。面白いくらいにアスカはキョドっている。
(でも、本当に凄い事なのに、あんなにアッサリ捨てる事ができるなんて……アスカは凄いわ)
アワアワしているアスカを見て、ティアナはそう思った。
以前はその事に嫉妬もした。だが、今は素直にそう思う事が出来る。
(救ってくれたんだ……アタシの心を)
自然と、アスカを見る目が熱っぽくなるティアナ。
「どうしたの、ティア?」
「!!!!!!な、な、何でもないわよ!?」
いきなりスバルに声を掛けられ、ティアナも狼狽える。
こちらでティアナが軽くパニクっている間に、アスカの方は落ち着きを取り戻していた。
「うん。ありがとうね、アスカ。私も用事があってしばらく六課にいる事になるから、デバイス関係で何かあったら、気軽に相談してね。あ、もちろん、みんなもだよ?」
マリーはニッコリと笑う。
(あ、カワイイ)
と思っても、さすがに口にはしないアスカ。年上にカワイイは失礼だろうと、どこか古くさい考えを持っていたりする。
「おし。じゃあ紹介が済んだ所で、さっそく今日も朝練行っとくか」
ヴィータが気合いを入れる。
「「「「「「はい!」」」」」
元気に返事をして、それぞれがバラケるフォワード。
ティアナはヴィータに、スバルとギンガはなのはについていく。
「ライトニング、集まって」
フェイトの号令に、エリオ、キャロ、フリード、そしてアスカが集まろうとする。
ガシッ!
だが、フェイトの下に行こうとするアスカの肩をシグナムが掴んだ。
「……離してください、シグナム副隊長。オレはハラオウン隊長の所に行かなくちゃいけないんです」
「お前の担当は私だ。こっちに来い」
そう言って、逃げようとするアスカをズルズルと引っ張って行くシグナム。
そんないつもの光景がくりひろげられていた。
柔軟体操をしているギンガに、なのはが近づく。
「ギンガ。ちょっとスバルの出来を見てもらっていいかな?」
「え?は、はい」
一瞬戸惑ったギンガだったが、すぐに返事をした。
「一対一で軽く模擬戦。スバルの成長、確かめてみて」
試すように、なのはが言う。
「はい!」
なのはの意を読みとったギンガは、大きく返事をした。
そして、そのやり取りを見ていたスバルは、自信に溢れた笑みを浮かべた。
アスカside
「はぁっ!」「くぅっ!」
二つのローラーが地面を駆ける。
一つは妹を追いつめるべく、もう一つは姉の攻撃を避ける為に駆ける。
なーんて、ちょっとシリアスに言ってみたけどさ。
そう言いたくなるような、マジメな戦いだ。
ギンガさんの拳を紙一重でスバルが躱す。
「スバルのやつ、ギリギリで見切ってるな」
元々、身体能力が高いスバルだけど、しっかりギンガさんの攻撃を見て、最低限の動きで躱している。
「そうね。スバルの動体視力と運動能力なら出来て当たり前なんだけど……正直、ギンガさん相手にあの距離で戦いたくないわ」
ティアナの言葉に、オレも頷く。
ミッド式のティアナはもちろんだけど、近代ベルカ式のオレでもギンガさんの距離では戦いたくない。
あっという間に懐に入られて沈められちまう。
同じ戦闘スタイルとは言え、スバルがギンガさんと互角に戦っているのは凄い事だ。
「お?大技くるぞ」
見ると、ギンガさんが左のリボルバーナックルを腰溜めに構えている。
《Stormtooth!》
ブリッツキャリバーが高速回転をして、技を放つ。
《Protection!》
それに反応したマッハキャリバーが防御魔法を展開する。
「はあぁぁぁ!」「せいっ!」
スバルのバリアと、ギンガさんの攻撃魔法が激しくぶつかり合う。
ナックルタイプのベルカ式ってのは中々ないから、この模擬戦は貴重だな。後でシャーリーに記録をコピーしてもらおう。
完全に傍観者を決め込んだオレは、呑気にそう考えていた。
まあ、たまにはいいでしょ?
ピシッ!
スバルのバリアに亀裂が走った。さすがにあの攻撃を防ぎ切るには……
「……ん?」
その時、オレはスバルがある仕掛けをした事に気づいた。
そして、思わず苦笑する。
「まいったね……アレをやられると、オレの立場が無くなるじゃん」
「アスカ?」
どう言う事?とティアナがオレを見てくる。
「見てりゃわかるよ」
オレはそう言って模擬戦に目を戻す。
「はあっ!」
気合い諸共ギンガさんははバリアを砕き、スバルにナックルを叩きつけた。
その衝撃で爆煙が巻き起こる。
「なるほど……悪くない」
シグナム副隊長が感心するように呟いた。って事は、アレが見えたって事だな。
「はい」
「ああ、二人とも、中々だ」
高町隊長も、ヴィータ副隊長もアレが見えたようだな。ハラオウン隊長も頷いている。
「うっ!」
攻撃をした筈のギンガさんが、驚愕の声を上げる。そりゃそうだろうな。
バリアを抜いた筈の攻撃を受け止められたんだから。
バリアを破られる前に、スバルは左手にもう一つバリアを張って、ギンガさんのリボルバーナックルを受け止めたんだ。
「へへー!アスカのマネ!」
イタズラっぽく笑って、スバルが反撃に移る。
「リボルバーキャノン!」
「プロテクション!」
今度はスバルがギンガさんを押し込んで行く。
「ギンガさんの攻撃をバリアで弱めておいて、もう一つのバリアで防ぐなんて、まるでアスカみたいじゃない!」
ティアナが驚いているのも無理はないだろうな。
何しろ、スバル自体が頑丈な上に魔力値も高いから、基本バリアを重ねる事なんてしてこなかったんだ。
この模擬戦でいきなりそんな事をすれば驚くわな。
「まったく、オレの立場を弱くするなよなぁ」
そうボヤいたオレは悪くないよな?
防御しか取り柄が無いのに、そのテクニックを使われちゃ本当に立場がないよ。
と思っていたら、なにやらティアナがニヤニヤしてる。なんだよ?
「そう言う割に、ちょっと嬉しそうじゃない。スバルがちゃんとアスカの技術を認めてくれたもんだから、嬉しいんでしょ?」
う……
ま、まあ、自分のやってきた事が仲間に認められたんだから……何て事は言わないけどね!
「ち、ちげーよ!ただでさえオレは攻撃力が無いのに、防御力まで肩を並べられちゃ立場が無いってんだよ!」
ちょっとツンデレ風に言ってみた。
「心配せずとも、攻撃力を上げればいいだけだ。この後でみっちり鍛えてやろう」
オレの声が聞こえたのか、シグナム副隊長が話に入ってきた。
オレはしかめっ面を作る。
「優しくお願いします、マジで」
「ほう?まるで私がいつも厳しいみたいな物言いだな?」
さも心外そうにシグナム副隊長は言うけど、違ったの?
「厳しくない時ってありましたか?」
そりゃジト目にもなるよ、オレは!
「今までが甘すぎたかな?」
まるで意に介さないどころか、ニヤリと笑うシグナム副隊長。
「ぎゃふん」
オレは大げさに肩を竦めた。
このリアクションに、ティアナとシグナム副隊長が笑う。
まあ、けっこう仲良しだよね、オレ達は。
そんな脱線話をしているうちに、模擬戦はウイングロードを駆使した空中戦になっていた。
ウイングロードが交差する度に鳴り響く打撃音。
縦横無尽に空を駆けるスバルとギンガさん。
接触する度に飛び散る火花。
まるで拳を交える毎に、会話をしているよなうな戦いだ。
「なんか……」「うん」
二人の戦闘を見ていたエリオとキャロが呟いた。
「スバルさんもギンガさんも、嬉しそうだなって」
キャロの言葉に、オレもティアナも頷いた。
「ああ。スバル、お姉ちゃん子だからね。ギンガさんも、スバルに結構甘いし」
結構甘くてこの戦闘かよ!おっかなすぎるぞ!
「だから全力でぶつかり合えるって、どれだけ考え方が筋肉なんだよ……」
思わず呆れた声を上げちまったよ。その考え、漢の考え方だぜ。
オレの言葉に、ティアナ達が苦笑いをした。どうやら、同じように思っていたらしい。
「スバルはだいぶ使えるようになったな」
シグナム副隊長が、高町隊長に話しかけた。
「入隊以降、ずっとクロスレンジの基礎固めをしてきましたから」
高町隊長が、教導官として教え子が褒められた事が嬉しいのか、微笑んでそれに答えた。
オレも、あんな風に隊長を笑顔にする事ができるのかな?と余計な事を考えてしまう。
「アタシとなのはが、毎日毎日ブッ叩いて鍛えてるしな。あれくらいは……」
素っ気なくヴィータ副隊長が言うけど、満更でもなさそうだ。
オレもブッ叩かれてますけどね!デッドラインギリギリまでね!
シグナム副隊長とシスターがいる時は、うっかりライン超える事も何度かありましたしね!
攻撃力や機動力はスバルに負けるけど、防御力と耐久力ならそれなりに鍛えられている自負はあるが、目の前のバトルをみてるとそれもまだまだだなと思う。
それだけ、スバルとギンガさんの模擬戦は凄い物だ。
そのバトルがさらに加速する。二人は互角に打ち合っているように見えるが……
「ん?終わるか」
オレがそう言ったと同時に、二人は停止した。
スバルはリボルバーナックルを脇に構えて、ギンガさんはナックルをスバルの顔の前で止めていた。
一息間の差。
それが明暗を分けた。
「はーい、そこまで!」
高町隊長が終了を告げる。
「あぁ!スバルさん、惜しい!」
エリオが残念そうな声を上げる。いつも一緒に訓練をしているから、スバルに感情移入してしまうのはしょうがないか。
でも、本当に凄いバトルだった。
もしギンガさんと模擬戦をしろと言われたら、素直に辞退しよう……
outside
「いいね、いろいろ上手くなった」
思った以上にスバルが強くなっていた事に、ギンガが笑みを漏らす。
「あー。まだまだ全然!」
全力でぶつかって、力及ばず。スバルはガックリと肩を落とす。
「そんな事はないよ。さあ、戻ろ」
いい勝負をした事で満足しない妹に、ギンガは頼もしさを感じていた。
「反応は悪くなかったぞ。スピードが追っつかなかったか」
「あ、ありがとうございます」
模擬戦を終えて戻ってきたスバルは、ヴィータのアドバイスをもらった時に軽く褒められた。
普段、あまり褒める事をしないヴィータにしてみれば、珍しい事だ。
「最後の一撃、アスカならどうした?」
シグナムがアスカに聞いてくる。
「ん~。カウンターをとるのは無理だから、シールドで攻撃を逸らしてから急制動で後ろから、ですかね」
アスカには、スバルほど魔力も筋力も無い。
自ずと、戦い方は正面からぶつかるよりも、自分のペースに相手を乗せる事に重点を置く事になる。
「まあ、お前らしいな。これは益々鍛えないとな」
「なんでそうなります!?」
シグナムとアスカが話していると、後ろの方でなのはとギンガの話し声が聞こえてきた。
何気なく、アスカがそちらを見る。
「ギンガ、どう?スバルの成長は」
「ビックリしました。攻防の切り替えがすごくスムーズで。威力も段違いで」
嬉しそうなギンガの声。
「合格?」
「はい!ものすごく!」
(なるほどね。久しぶりに再会した姉妹への気遣いだと思ったけど、この先一緒にやって行けるかの試験だった訳か)
後ろでの会話から、アスカはそう判断した。
フォワードにギンガを入れての任務になると言う事だろう。
(……例の砲撃事件、そこまで戦力補強しないとマズイのか?オレ達は何を追ってるんだ?)
アスカの表情が曇る。
六課発足式の時の疑問が思い起こされる。
本当にミッドチルダがひっくり返るような事が起きるのでは、と考えてしまう。
(オレが考える事じゃないけど、気になるな。ティアナと話してみるか?)
組織に属している身としては、命令があればそれに従うのみ。
余計な事は考える必要はない。
だとしても、全体像が見えないのは不安になる。
(まあ、うちの隊長達なら間違いはないか……)
必要な時がくれば、なのは達が教えてくれる筈。それまでは余計な事を考えずに進めばいいと、アスカは自分の考えを締めくくった。
「じゃあ、みんな集合!」
なのはが号令をかける。
「せっかくだから、ギンガも入れたチーム戦やってみようか?」
笑顔のなのはの言葉に、ギンガがえっ?と固まる。
「フォワードチーム6人対前線隊長4人チーム!」
「……えぇぇ!」
まさかの展開に、ギンガは目を見開いて驚く。
それはそうだろう。ニアSの副隊長二人に、オーバーSの隊長二人。
リミッターが掛けられているとはいえ、ランク差は一目瞭然。
普通なら勝負にならない。
「いや、あのね、ギン姉。これ時々やるの」
固まっているギンガにスバルが説明する。
「隊長達、かなり本気で潰しにきますので」
エリオもそう言い、
「まずは地形や幻術、バリアなんかを使って何とか逃げ回って」
「どんな手を使っても、決まった攻撃を入れる事ができれば撃墜になります」
ティアナ、キャロが続ける。
「あ、ちなみに、死んだフリは通用しませんでしたから」
「試したんだ、アスカ」
ギンガが呆れ顔でアスカを見る。
「はい……地面とサンドイッチの紫電一閃は、もう二度と喰らいたくはありません……」
その時を思い出したアスカが、ガクブルする。
「ふふ。ギンガはスバルと同じく、デバイス攻撃ね。左ナックルか蹴り」
そのやり取りを見ていたなのはが、笑いながらルールを説明した。
「……はい!」
ランク差はあるが、またとない腕試し。ギンガの顔に闘志が漲る。
「じゃあ、やってみようか!」
「「「「「「はい!」」」」」」
数十分後。
フォワードチームの全滅で模擬戦は終了した。
「はい!じゃあ今日はここまで!」
「全員防護服解除!」
最後まで残っていたなのはとヴィータが終了を告げる。
「「「「「はい……」」」」」「……」
息も絶え絶えのスバル、ティアナ、エリオ、キャロ、ギンガ。
そして、虫の息のアスカ。
「ふむ、惜しい所までは行ったな」
「あともうちょっとだった」
隊長チームで先に落とされたシグナムとフェイトがフォワードに近づく。
「あぁ!最後のシフトが上手く行ってれば逆転できたのに!」
「あー!く~や~し~い~!」
かなり良い所まで攻め込んだにも関わらず、最後まで隊長達の余裕を奪う事ができなかった。
それを悔しがるティアナとスバル。
「いや、それよりアスカは大丈夫なの?なんか、煙出てるよ?」
ギンガが倒れたままピクリとも動かないアスカを指さす。
「アスカー、終わったよー」
スバルがユッサユッサと揺さぶるが、アスカは起きあがらない。
スバルがティアナの方を見る。そして、キリッとした顔でこう言った。
「返事がない、屍のようだ」
「わー!アスカさん!」「キャロ!ヒーリーング、ヒーリング!」
キャロとエリオが大慌てでアスカに駆け寄る。
「だ、大丈夫なの?」
さすがに心配になったギンガがスバルとティアナに尋ねる。
「えぇ、大丈夫です。非殺傷設定ですし」
「いつもの事だよ、ギン姉」
何事もなかったかのように答えるティアナとスバル。すると、
「ゴルアァァ!お前等!少しは心配しやがれ!」
キャロのヒーリングを受けていたアスカが飛び起きる。
「ほらね、大丈夫ですよ、ギンガさん」
ティアナが涼しい顔で答える。
「大丈夫じゃねぇよ!マジでお花畑が見えたぞ!」
「大げさだなぁ、アスカは」
スバルの、のんびりとした口調がさらにアスカをヒートアップさせる。
「紫電一閃とラケテンハンマーの同時攻撃ジャストミートだぞ!非殺傷とか手加減の問題じゃねぇよ!心が折れるわ!」
2オクターブ高い声で叫ぶアスカ。
「うるせぇ!」
ガン!
「ぐおぉぉぉぉ!」
騒いでいたら、ヴィータのクラーフアイゼンで頭をど突かれてしまったアスカ。
「そんな元気があるんだったら、速攻で反省レポート出せるよな?」
頭を抑えてうずくまっているアスカに、ヴィータが言う。
「も~。アスカが変なテンションになるから!」
「少しは落ち着きなさいよね」
スバルとティアナから非難の声が上がる。
「……エリオ、キャロ。オレ、泣いてもいいかな?」
「ア、アスカさんは凄い頑張ってますよ!」「そうです!立派です!」「ククル~!」
と、10歳と一匹に慰められるアスカ。
それを見て、思わず吹き出すギンガだった。
しばらく休憩して、フォワードはクールダウンを始めた。
「凄いね。毎日朝から、こんなにキツイの?」
屈伸運動をしながらギンガがみんなに聞いてきた。
「隊長戦は……まあ特別だけど」「だいたいこんな感じです」
スバルとエリオがそれに答える。
「出動があっても大丈夫な程度には、限界ギリギリまでですね」
「密度、濃いんです」
前屈運動を手伝っているティアナと、しているキャロもそう答えた。
「あ、でもアスカは少し違うわね」
ティアナが、身体を捻ってストレッチをしているアスカに目を向ける。
「オレは……まあ防御専門だから、それこそ壊れるギリギリまでブッ叩かれて、シャマル先生に回復してもらわなくちゃいけませんね」
ゲッソリとしたアスカが答える。
「どういう事?」
意味が分からなかったギンガが聞き返す。
「防御担当が痛みに耐えられないんじゃ話にならないって事ですよ。ある程度痛みに慣れないと、なんですけど、それだとヤッパ無理が生じてくるんでね。本格的な回復魔法が必要、と」
その説明を聞いて、ギンガは納得した。
今回の模擬戦でもアスカは前線に立ち、バリアで隊長達の攻撃を受け止めていた。
どんな攻撃でも逃げずに受け、逸らしていた。
しかし、防御魔法を使ったとしても衝撃や痛みは完全には防げない。
そのタフネスを手に入れるには、やはり攻撃を受け入れて慣れるしかない。
攻撃に対して受け身をとらなければいけないのだ。
「スゴ……よく平気ね?」
「平気じゃないですよ!まあ、それこそ慣れですかね」
苦笑するアスカ。
実際、この後アスカはシャマルの所に行って本格的に回復してもらわないと、食事もできないくらいにダメージが蓄積している。
平気で話しているように見えて、体内では吐き気の波が打ち寄せている。常人であれば、のたうち回っているかもしれない。
よくよく見れば、顔もやや青ざめているように見える。
「あの、すぐに医務室に行った方が……」
「後で行きますよ。クールダウンやっとかないと、色々面倒な事が起きるんで」
ジト目になりティアナを見るアスカ。その意味を察したティアナの顔が赤くなる。
以前にエリオがクールダウンをしなくて、アスカがフットマッサージを施していた時の騒動を思い出したのだろう。
(アタシは腐女子じゃない!)
心の中で叫ぶティアナであった。
シャーリーとマリーは、フォワードのクールダウンを離れた場所で見ていた。
「うん、みんな良い感じの子達ね」
嬉しそうにマリーが口にする。
「エリオ達ですか?それともデバイスの方?」
「両方!」
シャーリーの質問に、笑って答えるマリー。
「あら?」
そのマリーの視界に、一人の女の子が入ってきた。
「あぁ」
シャーリーもその少女を見て微笑む。
テクテクと歩いてきた少女は、二人に気づくとピタッと止まって、深々とおじぎをした。
「おはようございます」
「あぁ…えと、おはようございます」
何でこんな小さい子がとマリーは思ったが、反射的に挨拶を返す。
「おはよう、ヴィヴィオ」
シャーリーも笑顔でヴィヴィオに朝の挨拶を返した。
「うん。失礼します」
またも深々とおじぎをして、なのは達の元に歩き出すヴィヴィオ。
「あぁ、どうもご丁寧に」
「ころんじゃダメだよー!」
戸惑ってるマリーをよそに、シャーリーは小さく手を振った。
少し遅れて、オオカミ形態のザフィーラが現れる。
「あぁ!ザフィーラ、久しぶり!」
マリーはザフィーラに抱きついて、彼の顎の下をナデナデする。
スキンシップと言えば聞こえは良いが、完全に犬扱いである。
もっとも、当のザフィーラは全然そんな事は気にしていない。
「シャーリー、あの子は?」
マリーは、なのはを見つけて駆け出すヴィヴィオの事をシャーリーに尋ねる。
「えーとですね……まあ、見ていれば分かりますよ」
シャーリーはおかしそうに笑みを浮かべた。
なのはとフェイトを見つけたヴィヴィオは、ニッコリと笑って走り出した。
「ママー!」
嬉しそうにそう呼びかけるヴィヴィオ。
それに気づいたなのはとフェイトが振り返る。
「ヴィヴィオー」
なのはが答えると、ヴィヴィオは両手を広げて満面の笑みを浮かべた。
クールダウンをしていたフォワードメンバーも、そちらに目をやる。
「危ないよー、転ばないでね!」
「うん!」
フェイトの注意に答えた途端、ヴィヴィオはパタンと前に転んだ。
「「「「「「あ……」」」」」」
そのタイミングの良さに、フォワードメンバーは思わず絶句する。
「あ!大変!」
フェイトが駆け出そうとするが、
「大丈夫。地面柔らかいし、きれいに転んだ。ケガはしてないよ」
なのはがフェイトを止める。
「それはそうだけど……」
心配そうにヴィヴィオを見るフェイト。
なのははその場にしゃがんで、ヴィヴィオに向かって手を差し出す。
「ヴィヴィオ、大丈夫?」
優しく語りかけるなのは。
「ふぇ……」
顔を起こすヴィヴィオ。転んだ事にビックリして、涙目になっている。
「ケガしてないよね?頑張って、自分で立って見ようか」
「ママ……」
「うん。なのはママ、ここにいるから、おいで」
なのはは決して近づかず、しかしヴィヴィオから目を離さずにいる。
「ふぇ……あ……グスッ……」
ポロポロと涙をこぼすヴィヴィオ。
「おいで」
それでもなのはは動かない。優しく笑って、手をさしのべるだけだ。
「なのは、ダメだよ!ヴィヴィオはまだちっちゃいんだから!」
我慢できなくなったフェイトが走ってヴィヴィオの側に行く。
「あっ……」
なのはが止める間もなく、フェイトがヴィヴィオを抱き上げた。
「よいしょっと」
「フェイトママ……」
「うん、気をつけてね。ヴィヴィオがケガなんかしたら、なのはママもフェイトママも、きっと泣いちゃうよ?」
抱き上げたヴィヴィオを、フェイトは優しく撫でた。
「ごめんなさい……」
「うん」
ベソをかいているヴィヴィオを、フェイトが抱きしめる。
「もう。フェイトママ、ちょっと甘いよ」
困ったような感じでなのはが言う。
「なのはママが厳しすぎです」
フェイトはフェイトで、ダメですよ、と言った感じだ。
「ヴィヴィオ、今度は頑張ろうね」
なのはがヴィヴィオの頭を撫でる。
「うん……」
それまでの一連の流れを見ていたシャーリーとマリー。
「あんな感じです」
シャーリーがそう言うと……
「あぁ、あの二人の子供かぁ……ってえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
疑問が解決したと同時にパニックになるマリー。
「え?え?えぇ!こ、子供?なのはちゃんとフェイトちゃんの!?女の子同士で??」
「え?あ、あの、マリーさん?」
思考回路がブッ飛んだマリーを見て、シャーリーが焦る。
「そんな……でもあり得るかも!」
受け入れちゃったよ、マリーさん。
「なのはちゃんもフェイトちゃんも、見かけによらず根性あるし……何より常識打ち破るの得意だから!」
「ちょっ!違いますよ!マリーさん、戻って来て!」
だがマリーは戻ってこない。
「そうよ!思えばビックリするくらい仲がいいし、部屋もシェアしてるし、そういう関係になっても不思議じゃないわね!」
ドンドン盛り上がるマリー。すると、
「女の子同士でなる訳ないじゃないですか!それが許されるのは美少年同士です!」
なぜそうなる!とツッコミを入れたくなる超理論を展開するシャーリー。
「え?BL?」
「そうです!GLよりBLの方が……!」
「怒やかましい!」
ドスッ!
「「いったーい!」」
頭を押さえて二人がうずくまる。
いつの間にか近くに来ていたアスカが、シャーリーとマリーにダブルチョップを喰らわせたのだ。
「なにバカな事を大声で話してんだよ!オレはともかく、そんなのがエリオとかキャロとかヴィヴィオに知れてみろ。どうなると思ってんだよ!」
アスカがシャーリーに詰め寄る。
「ど、どうなるって?」
いきなりのチョップに涙目のマリーが聞く。
「二択ですよ、マリエル技官」
「二択?」
「スターライトブレイカーか、ライオットザンバーかの」
「それって吹き飛ばされるか、切り刻まれるかじゃない!」
「その通りです、マリエル技官!ヴィヴィオが高町隊長に”あのお姉ちゃん達、なに話してるのー”なーんて聞いた日にゃ……」
アスカの言葉を聞いてマリーが震え上がる。
「た、確かに……って言うか、どこまで聞かれたの!?」
状況を理解したマリーが、今度は別の意味で慌てる。
「それは大丈夫です。なんか騒がしいなって、オレが自主的にコッチにきただけですから、向こうには聞かれてません」
無駄に気の回るところを見せるアスカ。
「うー、でも乙女の頭にチョップはないんじゃない?」
シャーリーが抗議するが、
「乙女がGLだのBLだの大声で話すかぁ!」
アスカはあきれ果ててツッコんでいた。
後書き
長くなりそうなので、ここで一旦切ります。
今回からギンガも入って、いよいよ大詰めに向けて行きそうな、行かなさそうな感じです。
少しずつですが、主人公も成長……してるかぁ?
なんか全然パッとしない主人公ですが、見守っていてください。
シャーリーの腐女子設定がここにきてまた少し復活しました。
マリーさんも、同じ穴のムジナっぽいですね。GLサイドの。
相変わらずの駄文ですが、読まれている方々には大変感謝しています。
これからも、よろしくお願いします。
ついでに、ストックがヤバイ!
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