渦巻く滄海 紅き空 【下】
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十七 サソリVS三代目風影
前書き
大変お待たせしました~!!
いのが風影の力を自由自在に使いこなしてますが、身体(肉体)が術を覚えているっていうことで、すみませんがご容赦ください。
捏造多数です!ご注意ください!!
岩壁に穿たれる穴。
凄まじい勢いで降り注ぐ砂鉄の雨を、サソリは間一髪でかわした。
「チィッ」
舌打ちしつつ、自らのチャクラ糸を振るう。手応えはあるのに、それを無視して自分に逆らう人形に、サソリは顔を顰めた。
サソリの傀儡である三代目風影。それは今や自分の制御を逃れ、いのに乗っ取られている。
「小娘が…ッ」
【赤秘技・百機の操演】VS【白秘技・十機近松の集】の乱戦中、サソリは自分の人形を何体か失った。
それはチヨの人形に破壊された以外にも、いのの能力も大いに関係している。
しかしながら、あの戦闘中でサソリはいのの能力の法則性を見出したはずだった。
人形から人形へと操る対象を変えるこの術の盲点は、直線上でしか使えない。だが、乗っ取られる寸前、三代目風影といのは、直線上ではなかった。
(どちらにしても、風影を操っている小娘を倒せばいいだけか…)
サソリは、チヨの傀儡人形の【父】と【母】に守られているいのに狙いを定める。
自らを傀儡化した腕。その手のひらの噴射口をいのに向けた。
「燃え尽きろ!!」
【赤秘技・放炎海】。
傀儡化した両腕の噴射口から発射した炎。瞬く間に一面を火の海と化す威力のある炎は、いのに辿り着く前に、おびただしい数の砂鉄に阻まれた。
みるみるうちに熱を帯びる砂鉄を目の当たりにして、サソリは咄嗟に退いた。同時に、秘かにサソリの腕や足のつけ根に、砂鉄がじわじわと入り込んでゆく。
膨大な量の砂鉄がサソリの炎を浴びた事で、より一層凶悪な武器となって、襲い掛かってくる。三代目風影を乗っ取っているいのにより、高密度に圧縮されてゆく砂鉄。
硬質且つ重度の増した巨大な鋼鉄製の武器が瞬く間に生成された。
「【砂鉄結襲】…!?」
いのが一度も見たことのない三代目風影の術が、サソリに襲い掛かる。驚きを隠せないまま、サソリは飛び退いた。
三角柱や円柱の形状の武器がサソリを押し潰そうと迫り来る。
三代目風影の意志や精神はなくとも、術の使い道がなんとなくわかったいのは、これを機にサソリを倒そうと攻撃の手を緩めなかった。
【心転身の術】。自分の精神を相手にぶつけ、精神を乗っ取る山中一族の秘伝術。
強い精神の持ち主ならば抵抗されるが、精神を持たない人形相手には非常に有効だ。更に、人傀儡である三代目風影の身体を乗っ取る事で、生前の術を意のままに操れる。
また、直線上でしか相手の精神を乗っ取れないという欠点を克服する為にいのは修行に励んでいた。
その欠点を、彼女は土壇場で克服したのだ。
その結果が、今の戦況である。
(今の私にできること…!)
サソリの毒で、動かない我が身。
ぐったりとした自らの肉体は、チヨに上手く操ってもらっているが、足手纏いに他ならない。
だから、いのは身動ぎひとつ満足に動かせない自分の肉体を現時点では捨てた。万が一を考えて、奥の手とする為に。
三代目風影がいのの術によって奪われた事実を知ったサソリが術者であるいのを狙うのも、推定済みだ。
その攻撃はチヨによって防がれている。何故三代目風影が味方になったのか驚きが隠せないものの、いのの身体はチヨが傀儡である【父】と【母】を使って、しっかと守っていた。
相手の身体を乗っ取っている間は、いのの身体は無防備になる。
チヨの助力無しでは行えない術を使って、今のいのにできること…───それは。
(この身体で、サソリを追い詰めること!!)
自分の身体はチヨに任せ、三代目風影の傀儡を乗っ取ったいのは、砂鉄を操り続けた。
巨大な三角柱が回転しながらサソリを押し潰そうと迫り来る。
地面どころか、洞窟の壁を抉る驚異的な攻撃力。地鳴りをあげて、凄まじい砂煙が立ち昇る。
三角柱の攻撃を避けたサソリに、間髪容れず、円柱が頭上から墜落してきた。
かわそうと膝に力を込めたサソリは、ふと違和感を感じる。傀儡化した己の身体の節々が上手く動かせない。
「なに…?」
見下ろせば、地面に散らばった砂鉄がサソリの足元に集結している。
傀儡である自らの身体の関節に入り込んだ砂鉄のせいで、動くのも儘ならない。おまけに、地面の砂鉄が足を地にへばりつけている。その間に、刻々と巨大な影をサソリの頭上に落としてゆく円柱。
「くそッ」
手を頭上に掲げたサソリは、円柱に向かって炎を放つ。傀儡化した両腕の噴射口から発射した炎で、円柱が赤く熱されてゆく。だが落下してゆく勢いは削げられない。
サソリは噴射口から放っていた炎を止め、次いで水を放出した。熱していた円柱が水で急激に冷やされ、凄まじい水蒸気が一気に生まれる。
熱していたところを急に冷やす事で、脆くなった円柱に罅が入った。
そこを狙って、サソリは水の放出量を細くする。細くすればするほど圧縮された水は、まるで刃のように鋭くなり、円柱を切り裂いた。
バラバラに砕かれる円柱。自分を押し潰そうとしていた脅威を粉砕し、サソリは一瞬気を緩める。
それが命取りだった。
刹那、砂鉄の雨がサソリに降り注ぐ。
驚愕の表情を浮かべたサソリの身体を、砂鉄の鋭い散弾が貫いた。
鋭利な針状に変化した砂鉄が地面にカカカッと突き刺さる。
同時に、凄まじい勢いで降って来た砂鉄の針により、サソリの全身がバラバラになる。分断された手足があちこちに転がった。
(……や…やった…?)
三代目風影の身体を乗っ取っていたいのは、半信半疑で地面に転がるサソリを見下ろした。
【砂鉄結襲】で生成した円柱がサソリに砕かれたのを見て、咄嗟の機転で、すぐさま【砂鉄時雨】へと攻撃を変えたのである。
砂鉄を微小な粒状に固めで、散弾の如く降り注ぐ【砂鉄時雨】。
熱されたところを急激に冷やされて瓦解し、細かく砕かれて小さくなった砂鉄を鋭利な針や弾丸に変じるのは、そう難しい事ではなかった。
頭部に手足、『蠍』と施された胸部、胴体が散らばっている。
かつてはサソリだった傀儡人形の成れの果て。
人形のパースがあちこちに散らばっているのを横目に、いのの精神は三代目風影から抜き出た。
自らの身体に戻ると、途端に毒による激痛や疲労感がどっと押し寄せてくる。
それをぐっと堪えて、いのはチヨに「やりました…!やりましたよ、チヨ婆さま!」と微笑んだ。
「いの…お前…」
信じられないとばかりに、チヨは眼を大きく見開いた。
【父】【母】に加えてチャクラ糸で操っていたいのは終始無言で項垂れていた事にも疑問だったが、サソリの傀儡である三代目風影が反旗を翻したのを目の当たりにして、益々驚きが隠せなかった。
闘う直前に、『考えがある』といのに伝えてもらわなければ、困惑して戦闘に集中できなかっただろう。
乗っ取っていたいのの精神が消え、主であるサソリもバラバラになった今、三代目風影は力なく倒れ伏せた。
サソリの残骸を背後に、いのはチヨのほうへと足を進める。毒で痺れる全身を駆使して、一歩一歩前進する彼女の顔からは勝利の喜びが隠せなかった。
それがぬか喜びだと気づけたのは、チヨが呻き声をあげた瞬間だった。
「く…ッ」
「チヨ婆さま!?」
自らの身体に戻ったいのが、チヨの呻き声に反応して、足を速める。視線の先では、チヨが自らの腕に仕込んだ機構を開き、荒い息を吐いていた。
全身を傀儡化したサソリ同様、腕を傀儡化させているチヨの結界が展開されている。
「傀儡使いという人種同士、考えることも同じだな」
背後で、カタカタカタという音と共に、サソリの声が響いた。
背筋を凍らせたいのが立ち竦む。
確かにバラバラになったはずなのに、とおそるおそる振り返ると、『蠍』と施された胸部を中心に、サソリの身体がみるみるうちに元へ戻ってゆく。
首をぐるんと一回転させて、平然と佇むサソリに、いのの足が無意識に退いた。
勝利したと思い込んだいのの隙を衝いて、チヨに攻撃を仕掛けたサソリは口許に苦笑を湛える。
自分と同じように自らを改造している祖母を前にして、彼は聊か愉快げに唇を歪めた。
「だけど、その腕じゃ、傀儡はもう操れまい…いや、身体自体が動かねぇか」
ハッ、と察したいのがチヨの許へ駆け寄ろうとする。その前に、チヨの肩に突き刺さった何かが、いのの視界を掠めた。
毒が滴るワイヤー。
視界を過ぎったソレに、いのは悔しげに顔を顰める。いのだけでなく、チヨまでサソリの毒の餌食となってしまった。
咄嗟に腕のカラクリである【機光盾封】でワイヤーの軌道をズラしたものの、肩を掠めてしまったチヨもまた、苦々しげに眉を顰める。片腕はまだ使えるが、もう片腕のほうは毒で痺れて動けなくなっている。
【父】【母】を操ると同時に、いののサポートに専念するも、以前よりは上手く操れないだろう。
しかしながら、長年傀儡師として戦場で闘ったチヨは流石に観察眼が鋭かった。
愕然と立ち竦むいのを奮い立たせる意も込めて、小声で囁く。
「今…サソリは『蠍』と施された胸部を中心に、立て直していた。つまり、あの左胸がやつの弱点じゃ」
チヨの推測を耳にして、そこでようやくいのはハッ、と我に返った。再び復活したサソリを前にして、慌てて【心転身の術】で再度三代目風影を乗っ取る。
またもやサソリ目掛けて迫り来る砂鉄で生成された三角柱。
鋭い切っ先を向けられたサソリは、眉間に皺を寄せると、「仕方ない…」とぽつり呟く。
刹那、いのは慌てて、三代目風影から精神を抜き出した。同時に、ぼうんっと軽い白煙が立ち昇る。
サソリが三代目風影の傀儡を巻物に戻したのだ。
「二度も同じ手を食らうかよ」
白煙と共に、砂鉄の武器が大きな地鳴りをあげて、地に墜落した。衝撃で砂煙が巻き上がり、チヨは咄嗟に眼を瞑る。
同時に元の身体に精神が戻ったいのは、秘かに取り出したモノを、煙の中で己の身体に注入した。
「チヨ婆さま!!」
いのと同じく、サソリの毒に侵されたチヨが、どっと膝をつく。
辛うじて動く片腕でチャクラ糸を操りながら、チヨは気丈に「だ…大丈夫じゃ…」と強がってみせた。
「わしのことは気にするな、いの!それより前を見ろ!」
「……ッ、」
チヨの注意で我に返ったいのは、身を捩った。寸前まで自分がいた岩場が、スパンっと綺麗に割られている。
慌ててチヨを支えながら、いのはその場から飛び退いた。サソリの腕の噴射口から、圧縮された水が刃のような切れ味を伴って、いのとチヨ目掛けて放たれる。
「小娘…よくもやってくれたな」
冷酷な表情でサソリはいのを見据えた。
己のお気に入りのコレクションである三代目風影の傀儡を巻物に戻さねばならなくなった元凶を、激しく睨む。
三代目風影の術は敵に回ると相当厄介だ。その上、傀儡化している我が身なら猶更。
このままだと、砂鉄で身体の自由が完全に封じられるが可能性もある。現に、円柱が墜落してくる際、上手く動かせなくなっていたのだ。
だからこそ、これ以上不利になる前に巻物に戻した方が得策だとサソリは考えた。更に、他の傀儡を口寄せしたところで、またいのに乗っ取られるのは眼に見えている。
ならば、方法はひとつ。
サソリ自身が自ら闘うしかない。
いのは既にサソリの毒にやられている。チヨも今し方、ワイヤーの毒を突き刺した。片腕は未だ使えるようだが、片腕に結んだチャクラ糸だけで【父】【母】、そしていのを同時に操るのは難しいだろう。
チヨがチャクラ糸をつけた手を振るう。同時に、いのの身体が地を蹴った。
【父】と【母】の傀儡人形も、武器片手に、サソリへ迫り来る。
ガクン、といのの頭が項垂れた。三代目風影が乗っ取られた時と同じ光景を前に、サソリは視線を周囲に奔らせる。
(小娘…今度はどいつに入った…?)
左から迫る【父】か。右から迫る【母】か。
毒に侵されている身、いのの身体は痺れて動けない。ならば、どちらかの傀儡人形を乗っ取っている可能性が高い。
【父】と【母】も三代目風影の砂鉄で動きが鈍いが、それはサソリにも言える事だ。
いのが乗っ取った三代目風影の砂鉄により動きを封じられ、軋む我が身に、サソリは眉を顰める。
やはり三代目風影を巻き物に戻したのは正解だった、と周囲を警戒しながら「悩むまでもないか…」とサソリは苦笑した。
腹部のワイヤーを伸ばす。勢いよく飛来したワイヤーの切っ先はチヨの傍の岩に突き刺さった。そのワイヤーの切っ先に引っ張られたサソリは、空中で背中に仕込んだ刃物を出現させる。
まるで翼のように広がった鋭い刃物。それに回転を加えて更に殺傷力を増しながら、サソリはチヨに襲い掛かる。
「チヨ婆…!お前さえ消えれば…!」
傀儡人形の【父】【母】と、毒で動けぬいのの身体をチャクラ糸で操るチヨが倒れれば、あとは小娘一人だけ。
先にチヨを倒すのが先決だと考えたサソリの攻撃が、チヨへと届く寸前──。
ぐっと身体が斜めに傾く。何かがサソリのワイヤーを手繰り寄せている。
かと思えば、左右から【父】【母】がサソリに向かって武器を振り下ろす。
それを避け、見下ろしたサソリは、目の前の光景が信じられなくて、眼を見張った。
同時に、凄まじい怪力でワイヤーもろとも、己の身体が引っ張られる。
遠心力で思いっきり振り回される中、サソリは(馬鹿な…!?)と目まぐるしく回転する視界に認めた存在に、愕然とする。
ワイヤーを引き寄せている相手は、いの。
毒で動けないはずの彼女が凄まじい力で自分を引き寄せている。歩くなどという簡単な動きならともかく、空を飛ぶ自分を引き摺り落とすなどという激しい動きなど出来るはずもない。
(毒で動けないはず…ッ)
困惑するサソリには、ふたつ、誤算があった。
ひとつは、毒に侵されたいのが自由に動ける事は出来ないだろう、と思い込んでいたこと。
もうひとつは、いのの力が相手の身体を乗っ取るだけしかないと考えていた事だ。
カンクロウの治療時に、ヒナタと協力して作った解毒剤。
それをいのは、サソリが三代目風影の傀儡を巻物に戻した際に煙を隠れ蓑として、注射器で己の身体に注入したのである。
また、いのは怪力を最後まで隠し通していた。
自分の能力が相手の身体を乗っ取る力のみとサソリに思い込ませるのが狙いだったのだ。
身体が痺れても最後までとっておいた解毒剤。そして怪力。これらがいのの奥の手だった。
つまり、いのの解毒剤を知らず、更に彼女の綱手譲りの怪力を知らずにいた事がサソリの敗因だったのだ。
(しま…ッ)
サソリの弱点。チヨが推測した左胸の『蠍』目掛けて、いのは拳を振るう。
手繰り寄せた長いワイヤーがいのの怪力でひしゃげているのが、サソリの視界の端に過ぎった。
凄まじい力を込めた拳が、正確に、サソリが唯一残していた生身のパーツへと繰り出される。
渾身の一撃。
「これで…終わりよ!!」
「それは困るな」
パンっと、軽い音が響き渡った。
いのの怪力をいとも簡単に手のひらで受け止めた彼は、引き摺り落とされたサソリの身体をも、平然と支えている。
もう後がない最後の攻撃を容易に受け止められて、いのは愕然とした。チヨもいきなりの第三者に、動揺する。
いのとチヨはもちろん、サソリでさえ驚く反面、割り込んできた彼は平然とその場に立っていた。
フードの陰に隠れて顔は全くわからない。隙も気配も窺えない。
サソリ以上の強者の風情を感じさせる彼の声は、しかしながらいのには何処か懐かしいものに思えた。
だがその裏地に映える赤い雲が、サソリと同じ『暁』だということを露わにしていた。
「彼にはまだ、やってもらわないといけないことがあるんでね」
サソリといのの間に割って入ったナルトは、白いフードの陰で、うっそり微笑んだ。
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