魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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「いってきます」~Happy day~
†††Sideルシリオン†††
私に差し出されたフェイトの左手。その小指に輝くのは私が贈った指環だ。フェイトの想いには前々から気付いていた。これでも心から愛した女性が2人もいるのだから。
(どうする? フェイトはもう引き下がらない。こんな私に好意を持った少女。優しく綺麗な少女。さっき聞かされた言葉から、フェイトの想いは同情ではないのは解る)
だからと言ってその左手を取っていいのか? 私にそんな資格があるのか? この優しい少女を苦しませることになるんじゃないか? 判らない。どうすればいいんだ。苦しむのは、十字架を背負うのは、私独りで十分なんじゃないか? なのに、何でこんなに苦しいんだ? フェイトの想いを拒絶しようとすればするほど心が軋んでいく。
(私は・・・私も、フェイトが好き、なのか・・・?)
違う。そんなことがあってはならない。その想いは捨てろ。彼女を傷付けるな。その手を取るな。取れば彼女は不幸になる。護りたいなら彼女の想いを否定しろ、拒絶しろ。それが一番の答えだ。答えは出た。だというのに・・・。
(フェイト・・・)
私の目に映るフェイトから視線を逸らせられない。何故だ? 解が出たのに。それを口に出せず、まだ答えを模索してしまう。ふと、かつて見た都合のいい夢を思い出す。シェフィ達とグラズヘイム城の庭園で再会した夢だ。シェフィは言っていた。私の幸せをいつまでも願っている、と。我ながら都合のいい夢だと当時は思って自己嫌悪していたな・・・。
(・・・なぁ、シェフィ。リエラ。私は・・・この手を取っていいのだろうか・・・? 彼女の想いに応じてもいいのだろうか・・・?)
両拳を握りしめる。正直怖いんだ。声を出す。震えているのが判る。この世界に来てから、これほどの恐怖は無かった。
「フェイト。後悔しないのか?」
「絶対しない」
「私が残る方法、対人契約の事は聴いているな?」
「聴いた」
「いいのか? 後戻り出来ないぞ」
「絶対大丈夫」
「きっと辛い事が待っているぞ」
「絶対そんなこと無い」
「絶対なんてものは無い。無いんだ、フェイト」
「私の絶対は絶対。だから問題ないよ」
「・・・まったく」
フェイトの言葉に救われた気がした。心が軽くなるような、濃い靄が晴れていくような、そんな感じだ。シェフィ、リエラ。私は、フェイトの手を取るよ。
――あなたの幸せを、私たちは願い続ける――
最後にまた2人の声が聞こえたような気がした。やはり都合のいい言葉だ。だが、それが私の一歩を助けてくれた。
(ありがとう)
フェイトの左手を取って、指環に口づけする。そしてフェイトの顔を見ると、フェイトは顔を真っ赤にしてオロオロし始める。あ、これって間接キスになるのか。
「私の負けだよ、フェイト。私も、君の側で生きようと思う。これからも、私と共に歩んでくれるか?」
「うん・・・うん! うん!」
次々と溢れてくる涙を拭いながら何度も頷くフェイト。そんな嬉しそうな顔を見せられたら、こっちまで嬉しくなるだろうが。
「ルシルパパーー!!」
嬉し泣きの止まらないフェイトに困っていると、まだ眠っているはずのヴィヴィオが駆けてきた。そのヴィヴィオの後ろにはシャルやなのは達も一緒に歩いてくる。全力で駆けてきたヴィヴィオの半ばタックルのような抱きつき。とは言ってもヴィヴィオは軽い。しっかりと受け止める。
「ルシルパパ、どこにも行かないでね♪」
腰にしがみ付いたヴィヴィオが私を見上げてきてそう言った。これは見ていたな。さっきの私とフェイトのやり取りを。優しくそっとヴィヴィオの頭を撫でる。するとヴィヴィオはくすぐったそうに目を細め笑みを浮かべた。あぁ、悪くない。こういうのも、やはり悪くない。
「やっと決心したんだね、ルシル」
「ああ。満足か、シャル?」
「うん。・・・ちゃんと幸せになってよね」
ここまでお膳立てされたんだ。なってやるさ。この世界で、フェイト達と共に新たな時間を生きてやるよ。フェイトの周りを囲うなのは達も嬉しそうに抱き合っている。さっきまでの暗い雰囲気が根こそぎ吹き飛んでいるような光景に、自然と笑みが零れる。
『あとは、テルミナスの事だけだね』
シャルからのリンク。そう、これからもフェイト達と居続けるには、テルミナスを斃す必要がある。
『それについてだが。さっきフェイトが来るまで神意の玉座とリンクして、ある策を立てた。上手くいけば、恐らくテルミナスに勝てる。というより絶対に勝つ』
独りここで対テルミナス戦の事をただひたすらに考えていた。フェイトの想いに応えるまでは自己犠牲の策だったが、応えた以上はある程度変更する必要がある。生き残って、フェイトと対人契約を結ぶ。
『そっか。教えて、その策の内容を。私は何だってするから』
『・・・すまない、シャル』
私一人残り、シャルだけは還る。それに負い目を感じる。だというのに、シャルは偽りのない笑みを浮かべて、『私はもう十分だよ。これだけの思い出があれば、これからも頑張っていける』そう言った。微笑み合っていると、シャルがヘッドロックをあまりにも唐突に私にかけた。
「痛だだだだだだだ!!」
「フェイトー! こんな頭の固い義弟だけど、よろしくねーー!!」
「シャル・・・、うん!」
フェイト、そこは笑みで応える場面ではなく、シャルを止めるところだ。なのは達もそんな笑っていないで助けてくれ。それから1分くらい掛けられっぱなしのヘッドロック。解放された時には酷い頭痛に悩まされていた。
「シャルちゃん、ルシル君。いつ戦いに行くの?」
†††Sideルシリオン⇒シャルロッテ†††
さっきまで笑みだったなのはがそう聞いてきた。それはつまり、あとどのくらいこの世界にいられるのか、ということだ。
「えーっと、界律から何も言ってこない以上はどうしようもないかな」
現状維持で待機。それが今の私とルシルに与えられている命令。テルミナス出現までは何もすることが無い。
「それやったら、アレ出来るな」
「そうですね、はやてちゃん」
「「???」」
私とルシルは顔を見合わせて、首を傾げる。アレが出来るって、何をするつもりなんだろう・・・?
再び食堂に案内される私とルシル。食堂に入っていったみんなに続こうとしたら・・・
「セインテストとフライハイトはここで待ってろ。いいか? 絶対に覗くなよ?」
ヴィータにそう釘を刺されたことで、私とルシルは大人しく廊下で待つことに。それからどれくらいしただろう。長くも無く短くも無い時間が経って、ようやく呼ばれた。入口を潜った瞬間、パンパン!と破裂音が響いた。それと同時に私の顔にかかる色とりどりの・・・紙テープ?
「クラッカー・・・?」
そう、今の破裂音の正体はクラッカーだ。なのはたち1人1人が使用済となったばかりのクラッカーを持っていた。
「はは・・・あははは。忘れてた。今日、誕生日だよ」
今朝、アリサとすずかから貰った誕生日プレゼントを忘れるほどに、いろんな事が起き過ぎた今日。いくつかのテーブルに乗せられたパーティー料理。すごくいい香りがする。もう人間の身体じゃないのに、空腹感が私を襲った。
「最後ならちゃんと送りださんとな。今までお世話になったシャルちゃんの、一足早い旅立ちや。そしてフェイトちゃんとルシル君のこれからを祝う意味を込めたパーティーでもあるな」
はやてがそう言って、私とルシルを席へと案内した。嬉しい。感激の涙が出そう。だけど、もう泣かないよ。もう涙は必要ないから。今から最後までに必要なのは最高の笑み、ただ1一つ。
「やっぱりシャーリー達も起こそうか? 私たちだけだと少し寂しい気もするし・・・」
「ううん。いいよ、起こさなくても。起きてこないっていうことはそれだけ反動が強いってことだから」
テルミナスに操られたっていうのに、こうして動いているなのは達はすごいとしか言いようがない。普通ならシャーリー達のようにしばらく寝込むはずなんだし。恐ろしい。
それから始まる最後の食事会。リンディさんと騎士カリムからはお祝いの言葉をくれた。でも、もう管理局が動いていることでリンディさんは一足早くに退場。騎士カリムも教会の仕事が溜まっているということだった。最後まで謝ってくれていたけど、お祝いの言葉だけで本当に十分。すごく嬉しかった。
「やっぱり美味いな」
「普通にお店出せるね・・・」
それにしても、なのは達が作った料理ってホント文句のつけどころの無い絶品ばかり。ルシルも本当に美味しそうに食べているし。私もニヤけるよ。それから楽しく話をしながら食事会は終わった。みんながゆったりとして、なのはの作ったデザートのケーキを食べていると・・・
「シャルちゃん」
なのは達が綺麗に包装された箱とか紙袋を持って来た。判る、判るよ~。誕生日プレゼントだよね。
「これ、誕生日プレゼントなんだけど・・・。シャルちゃん、いなくなるんだよね・・・・」
「・・・あー、うん。でも大丈夫。何くれるのかなぁ❤」
たとえ消えるとしても、親友たちの心の籠もったプレゼントは持っていく。その術はもうある。というか、この世界で手に入れた物を持って還る為に組んだようなものだ。私の創世結界・“剣神の星天城ヘルシャー・シュロス”は。
「んじゃ、開けさせてもらいます!」
なのは達から貰ったプレゼントの包み紙を綺麗に取っていく。可愛い服やリボン、アクセサリーなどなど。どれも私を飾る装飾品。私のようなガサツ(自覚は少々ある)な女に似合うのか判らないけど、贈ってくれるんなら大事にしないとね♪ んで、ユーノは本? ルシルにじゃなくて、私に本? なに? 少しは頭のいい本でも読めってか?と思ったら、他にもいろんなプレゼントを貰った。うわっ、気を使わせたみたい。
「ありがとう、みんな。大切に使わせてもらうから」
「うん。でもどうするの? このプレゼント・・・」
「そうだぞ、シャル。私の英知の書庫の蔵ようなモノでもない限り、持っていけないぞ?」
思い思いに心配そうな声をかけてくるけど、だから創世結界があるんだって。
「フフフ。私はやっぱり天才だったのよ!!」
私の自信満々かつ仰々しい態度に、みんなが若干引いた。引くな引くな。
「私の右手をご覧ください。種も仕掛けもございません。ご確認を。では、1・・・2・・・3!! はい、どうぞ!」
「「「「「「「???」」」」」」」」
「あ、それって・・・!」
「まさか・・・完成させていたのか・・・!」
私の右手の平の上に生まれた黒い穴を見ての反応は様々。なのははたぶん、ルシルの創世結界を見たんだろう。ルシルから聞いていたし。ルシルは軽く驚いている。何せ半年で完成させたんだから当然かな。フェイト達?は疑問顔。知らないなら当然かな。記憶の中で見せられた創世結界はどれも現実に展開されているものばかりだったし。
「改めてありがとう、みんな」
包装し直して、プレゼントの山を黒い穴の先、“ヘルシャー・シュロス”の宝物庫に全て送る。送り終えた後、なのは達が眠っているシャーリー達の分も持ってきてくれた。感動しながら大事に大事に宝物庫に送っていく。
「そう言えば、ルシルにはないの?」
「ん? あぁ、私は残るからな。テルミナスを斃し、戻ってきてから受け取ることにした」
ホントに良い笑みを浮かべて嬉しそうなルシル。ほら、ルシルにはやっぱりそういう顔が一番似合うよ。
「そっか」
プレゼントも貰った。美味しいご飯もいっぱい食べた。時間はもう16時。ちょっと短かったけど楽しく過ごせた。うん。もう十分だよ。そして最後に、私たちのアルバムを観ることになった。9歳という幼少からつい最近までの、たくさんの思い出が詰まったアルバム。モニターに次々と映し出されていく、笑いを誘う画像や映像の数々。
「誰だ!? こんなものを取っておいたのは!?」
「「「「「「「可愛い!!」」」」」」」
ルシルの初女装の画像。なのはやフェイト、アリサにすずかと初詣した時のものだ。確か、フェイトの爆弾にルシルは泣きながらのダッシュで消えたっけ。
(懐かしいなー)
小学校時代での旅行画像。そこでもまたルシルの女装、しかも映像。ルシルは自分の女装姿が出てくるたびに怒鳴って、果てには沈んだ。
「ル、ルシルさんには女装癖が・・・!?」
「誤解だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
楽しいな。ホントに楽しいよ。エリオやキャロの小さい頃(今でも小さいけど)の画像や写真で、2人が真っ赤になったりもした。可愛いなぁ、2人とも。他にも生まれたばかりのリインの失敗映像。
「キャーキャー、見ないでください!! もー! はやてちゃん!」
「まあまあ。こんな可愛ええリインはなかなか見られへんで?」
リインの猛抗議をヒラヒラかわすはやて。スバルとギンガの大食い画像なども出てきた。
「アレだけ食べて太らないっていうのも羨ましいなぁ」
それが私の素直な感想だった。そんな2人は今さら恥ずかしがることないのに顔を少し赤らめていた。六課での生活の画像や映像も増えてきた。六課設立初日のものとか。みんなが笑って観ている中、私の隣に座るなのはが私の手を握ってきた。私もそっと握り返すと、なのはがもっと強く握ってきた。その震える左手で。
「なのは・・・」
アルバムが見えやすいように少し暗くされた食堂。なのはは誰にも気付かれないように静かに泣いていた。ううん、たぶんみんなは気付いていても、気付かないフリをしていると思う。
「なのは」
なのはの名前を口にすると、なのはは少しずつ嗚咽をこぼし始めた。
「ぅく・・・ひっく・・・シャル・・・っく・・・ちゃん・・・」
私はなのはの頭を胸に抱きかかえる。なのはは何の抵抗もしないで受け入れてくれた。何度も何度も、あやすようになのはの頭を撫でる。
「ほら、もう泣かないの。折角の美人が台無しだよ。ねぇ。今は泣いていても、別れの時はちゃんと笑っててよね」
「シャルちゃん、シャルちゃん・・・うっく・・・シャル・・・っ・・・ちゃん・・・」
私はしばらくなのはの頭を撫で続けた。
――ミッドチルダ界律より剣劇の極致に至りし者及び天秤の狭間で揺れし者へ
破滅の使徒・終極との戦場を用意 その場にて終極を殲滅せよ――
(・・・来た、か)
ルシルの方を見ると、私に視線を移して頷いた。さぁ、行こう。なのは達を、この世界を護る為に。
「大好きだよ、なのは」
最後に力強くなのはを抱く。この大好きな親友の温もりを忘れないために。
「シャルちゃん!!」
私が離れたことで、なのはにも分かって判ってしまったようだ。もうこれでお別れなんだってことが。なのはの大声にビクッとするヴィヴィオを始めとしたフェイト達。
「みんな。今までお世話になりました。たった今、界律から最後の命令が来たの」
みんなが一斉に立ち上がる。さっきまでの楽しかった雰囲気が一気に消し飛んだ。
「来たのか・・・テルミナスが」
「うん。それじゃあお願い出来るかな、クロノ」
「ああ。いつでも次元航行艦を1一隻出せるようにしてある。どこに向かえばいい?」
「第28無人世界。そこが戦場として用意された」
ルシルとフェイトの対人契約のために、フェイトにはルシルの元へとすぐに駆けつけられるようにね。だからこそ、戦場になる世界の近くに居てもらわないといけない。ミッドチルダでの戦闘ならそんな手間は要らないんだけど、万が一別の世界で戦うことになったらということで、クロノに頼んでおいた。
「判った。その世界の軌道上で待っていればいいんだな」
対人契約。守護神、しかも不完全なルシルとマリアにしか出来ない裏技だ。
守護神は本契約を終えると、“界律”との繋がりが消えたことで“神意の玉座”に還るんだけど、それまでの短い時間、フリーな状態になる。
(その状態でその世界の住人と契約を交わす)
そうすることで、全ての界律に“生きている”という概念を持つルシルは、その契約者に引っ張られて新たな生を得るというもの。もちろん肉体を得るし、成長もする。その反面、その世界のルールに則っていろいろと変更される。ルシルならきっと魔術を使えなくなるだろう。魔力炉もリンカーコアに変更されるだろうし。弱体化が著しくなるだろうけど、大丈夫だよきっと。なのは達がいるんだもの。
「ん、ありがと」
「フェイト。テルミナスが消えたら、すぐにルシルの元に行って契約ね」
「うん。大丈夫」
さすがに私たちとテルミナスが戦闘中の世界に入れるわけにはいかない。ルシルとフェイトは頷き合って確認している。これなら大丈夫そうだ。もうルシルとフェイトの心配はもう必要ないかな。あとは・・・そうだね。
「なのは。ちょっといいかな」
「ぅく、っく・・・なに・・・?」
必死に涙を拭って、笑おうとしているなのは。そんななのはがとても愛おしい。だからテルミナス如きに奪わせない。
「トロイメライ、預かってくれるかな・・・?」
「え?」
右手の中指にはめた待機状態となっている“トロイメライ”の指環をなのはに手渡す。驚いたような目をして、何度も私と“トロイメライ”を交互に見る。
「トロイメライは残していくよ。勝手だけどごめんね。なのは達に私の事を忘れてほしくないんだ」
そう言ったら、なのは達の顔色が一気に変わった。
「忘れるわけないよ!!」
「そうだよ! これからもずっと友達だよ!」
「もう会えなくなるとしても、私らはずっと友達や!!」
「そうですよ! あたしは絶対に忘れません!」
「あたしもです! シャルさんと一緒に過ごした時間は忘れません」
「私もです。シャルさんとの時間はとても楽しいものでした。だから忘れる事なんてありえないです」
「僕もです! 僕もシャルさんの事ずっと忘れません!」
「シャルさん、わたしもずっとシャルさんのこと憶えてます」
「リインもです!」
「もちろん私もよ、フライハイトちゃん」
「えっと・・・、ありがとう、みんな。でもビックリしたよ。そう・・・だよね。うん。私も絶対に忘れないよ、みんなの事」
嬉しいことを言ってくれる本当の友達。だから心配せずに行けるよ。なのは達がそう言うなら、きっと忘れないでいてくれると信じられるから。
「僕だって忘れないよ。なのはの次に友達になってくれたシャルだから」
「そうだな。僕としても今までの人生の中で、一番驚かされたのはシャルだったからな。出会ってすぐに怒鳴られるわ、殴られるわで大変だったな」
「あー、そう言えばクロノはそうだったっけ?」
あはは、懐かしいな。
「フライハイト」
「シグナム・・・」
「預けていた勝負だが・・・。私の負けでかまわん」
「・・・へぇ。どういう風の吹きまわし?」
シグナムがそんなこと言うなんて。
「お前の本当の力を見た以上、勝てるなどとは思わん」
「そう。シグナムがそう言うなら私の勝ちね。・・・じゃあシグナム、元気でね」
この世界での最高のライバルだったシグナムと握手を交わす。
「ヴィータも元気でね」
「おう。じゃあな、シャルロッテ」
「・・・ヴィータ。・・・うん、ヴィーちゃん」
「なんだそれ!?」
はいはい、こんな事でいちいち目くじら立てないの。ヴィータの頭をナデナデする。そっとナデナデ♪ 優しくナデナデ♪
「くぅぅぅ・・・。記念に今日だけ許してやる」
あはは、偉い偉い。元気でねヴィータ。
「ザフィーラも今までありがとね」
「ああ。我もお前には本当に感謝している」
狼形態のザフィーラの頭を撫でる。フサフサだ。小さい頃に何回か乗せてもらったっけ。
「アルフ。これからはフェイトだけじゃなくてルシルもお願いね」
「あいよ。任せておきな。だからシャル、安心して還っておくれよ」
「ありがとう」
小さい子供形態のアルフを抱きしめる。温かい。
「ヴィヴィオも元気でね」
「シャルさんも。・・・シャルさん・・・!」
「おう? よしよし。なのはママ達の言うこと聞いて、素敵な女の子になるんだよ」
腰に抱きついてきたヴィヴィオを、私もしゃがみ込んで抱きしめる。うわぁ、やっぱり柔らかいなぁ、ヴィヴィオは。
「ルシル」
「ん? どうしたフェイト?」
ヴィヴィオの抱き心地にうっとりしてると、フェイトが小さな箱を持ってルシルに歩み寄る。あの箱はルシルの誕生日プレゼントかな。
「お守りという事で、よかったらはめて」
「・・・指環? ああ、ありがとう、フェイト。待っているよ」
「うん。待ってて。必ず迎えに行くから」
えー、あそこの場所だけ熱いです。物凄き勢いであの場所だけ温度が急上昇です。
「じゃあシャル。そろそろ・・・」
「あ、うん・・・」
食堂からロビーに向かう。無言のままロビーに着いて・・・
「・・・それじゃあ行くよ。・・・バイバイ」
なのは達に手を振る。サヨナラは言わない。言いたくない。だからバイバイだ。
「シャルちゃん」
なのはに呼びとめられた。
「いってらっしゃい、シャルちゃん」
「あ」
なのはに続いて、みんなも一斉に「いってらっしゃい」と言ってくれた。もう、ただいま、って返せない私。それなのに、いってらっしゃい、って。
「・・・いってきます!!」
「いってきます!」
今の私が出来る最高の笑みで言う。
「さぁ行こうか、シャル」
「うん!」
外に出て、これで最後になるミッドチルダの空気を吸う。いってきます。うん、良い言葉だ。
「さてと、君の力を使わせてもらうぞ、マリア」
「はい。ルシリオン様」
少し離れた木陰から、桃色の外套を纏った5th・テスタメントのマリアが姿を現した。
「お願いね、マリア」
「はい♪」
そうして、私たちはミッドチルダから旅立った。
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