永遠の謎
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26部分:第二話 貴き殿堂よその四
第二話 貴き殿堂よその四
太子は言う。ワーグナーを聴きながら。
「その中でもワーグナーは」
「理解できる者は少ないですね」
「残念なことに。ですが私は」
「ワーグナーを愛されてますね」
「はい、その通りです」
音楽を聴きながらだった。恍惚として話す。二人は立ったままだがそれでもだった。ワーグナー、そして芸術への話を続けるのだった。
そうしてだった。太子はさらに話す。
「これだけの芸術家に会えたことは生涯の幸せです」
「殿下、それでは貴方は」
「この命が続く限り」
軽い言葉ではなかった。間違いなくだ。
「私はワーグナーを愛します」
「そうですか。では私は」
「ビスマルク卿は?」
「その貴方を見させてもらいます」
こう太子に言うのだった。
「私はこの命をドイツに捧げますが」
「そうですね。貴方はその為に生きられてますね」
「その為に貴方と対立することもあるでしょう」
ビスマルクはこのことも話すのだった。プロイセンとバイエルンは違う国だ。それで完全に同じになることなぞ有り得ないことだった。
それはビスマルクだけでなく太子もわかっていた。そしてそのうえでなのだった。二人はドイツについても話をするのだった。
「私の言葉は御存知ですね」
「哲と血ですね」
「そうです」
それだというのである。
「それによりドイツを統一します」
「その為には何でもされますね」
「その通りです。それが私のやり方です」
「わかっています。ただ私は」
「戦いは望まれてませんね」
「私は血を好みません」
太子は言った。それはだというのだ。
「ですから。血は」
「鉄もですね」
「鉄は。平和と芸術の為ならば」
その為だというのだった。
「その為ならばです」
「ですが殿下」
「わかっています」
またビスマルクに対して返す。
「それは。ですが」
「わかっておられてもですね」
「私はワーグナーを、芸術を愛します」
これが太子だった。やはりそうだった。
「それを見て生きていきたいです」
「この世にありながらですか」
「この世には美しいものばかりではない」
これも言うのだった。
「それもわかっていますが」
「それでもですね」
「間違っているでしょうか」
ビスマルクに対して問う。
「戦いが必要とわかっていながらそれを避けたいと思いそしてこの世にいながらこの世にないものを見て愛そうとする私は。間違っているでしょうか」
「お答えして宜しいですね」
「是非」
またビスマルクに対して述べる。
「御願いします」
「間違っています」
ビスマルクもそれは否定しなかった。
「何よりも。貴方は王となられる方なのですから」
「この世にあるものを見ずしてですね」
「左様です。私はそうした人を何よりも軽蔑します」
誰に対するよりも辛辣な評価だった。しかしであった。
「ですが」
「ですが?」
「私は確信します。貴方はその御考えにより誰からも愛されるでしょう」
「誰からもですか」
「今生きている者だけでなくこれからこの世に生きる者達にもです」
現在だけでなくだ。未来でもだというのだ。
「そして私もです」
「貴方もですか」
「はい、軽蔑することはありません」
そうだというのである。
「むしろ。貴方の様な方がこの世にいることを喜ばしいと思います」
「そう言って頂けるのですね」
「意外に思われますか」
こんなことも言ってきたビスマルクだった。
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