戦国異伝供書
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第十四話 北陸へその十一
「当家が天下人となるかどうか」
「そうした戦になるな」
「左様ですな」
「まさに正念場か。しかし思えば」
平手は目を閉じて瞑目しつつ述べた。
「ほんの十年前のことを思うと」
「今の状況は」
「夢の様じゃ」
「織田家も大きくなったと」
「そう思う」
まさにというのだ。
「あっという間にそうなったわ」
「いや、殿が尾張を統一され」
この時のことから話す柴田だった。
「そして桶狭間で勝たれ」
「あっという間にな」
「伊勢も美濃も手に入れて」
桶狭間で勝ち今川家を破ってからだ。
「そしてそのうえで」
「上洛をされてな」
「天下の三分の一を手に入れられるなぞ」
「夢の様じゃ。元服される前の殿は」
平手はその時の信長のことを思い出して言った。
「それこそな」
「尾張一の大うつけと」
「そう言われて」
「何かと奇矯な振る舞いが多く」
「平手殿はいつも心配されていましたな」
「傾いておられたなぞ」
生真面目な性分の平手にとってはだった。
「知らなかったからのう」
「では我等はどう思っておられました」
信長と同じく傾奇者だった前田が平手に笑って尋ねた。
「一体」
「どうしようもない奴等だと思っておった」
「そうでしたか」
「うむ、しかしな」
「今はですな」
「わかる、まあ慶次はな」
今も傾奇者であり風来坊にも見える彼はというのだ。
「よく叱っておるが」
「わしもですぞ」
慶次の叔父にあたる前田も苦い顔で言ってきた。
「度々です」
「叱っておるな」
「殴ったこともあります」
殴り合いも幾度もあった。
「しかしです」
「あの通りじゃな」
「全く、あ奴は」
「ああしてじゃな」
「今も尚です」
「傾奇者、いや」
「悪ガキですな」
「全く以て」
そうした者だというのだ。
「困った者です」
「全くじゃ、政には関わらずな」
嫌いと言ってだ。
「そうして戦には出るが」
「それは好きにしても」
「戦がないと大不便者と自ら言ってのう」
「学問はしますのにこと政は」
「自分には向かぬと言ってじゃ、才蔵もそうじゃが」
平手は慶次と同じく織田家で傾きをよしとしていて武芸一辺倒のこの者のことも話に出した。
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