繰リ返ス世界デ最高ノ結末ヲ
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03.過去語
ー双子と王様ー
過去語ー双子と王様ー 八
「全く、勝手に抜け出すなんて、私は許していないよ!? どれだけ心配したと思ってるのさ! 私の此の微生物以下の優しさを全て使って心配してあげたんだよ!? 怪我が無くて良かったけど、もう勝手に抜け出したりしないでね! 抑も、散歩だったら私が連れていってあげるのに! 一人で勝手に行って、万が一奴等に捕まったら如何するのさ! もう勝手に抜け出さないって約束できる!!?」
「………ハイ」
過保護すぎるフランに説教を受ける琴葉。其れを気まずそうに見詰めるアリサとユリア。扉の所で警備に当たる構成員も、冷や汗をかきながら其れを聞いていた。
「本当の本当の本当に!?」
「…………ハイ」
「全く……未だ子供何だから、気を付けてね?」
「……………ハイ」
「分かった!?」
「………………ハイ!!」
◇ ◆ ◇
約束の一週間が過ぎる。
琴葉は黒い外套を肩に掛け、白い外套を抱える。其れを見て、フランが顔を顰めるが、琴葉は気にせず居た。
だが、其れも次の瞬間に消えた。
「やあ、フラン。面倒臭かったけど、しょうがないから来てあげたよ」
琴葉は顔を引き攣らせ、白い外套をその場に投げ捨てる。そして目をそっと伏せ、そっぽを向く。
「君のことは聞いているよ。ねぇ、何故僕から目を逸らすんだ? こっち向いてよ」
フランの後ろから、白銀の髪を束ねた男が現れる。男は琴葉に近付いて、顔を両手で優しく持ち上げ、無理矢理視線を合わせる。
「……貴方は魔族を統べる吸血鬼、ノア・スカーレットで間違えないですか」
「うんうん。あってる」
琴葉は視線をフランに送る。助けて、助けてと視線で訴えかけるが、フランは仕返しの様に、その視線を無視している。
「君、吸血鬼にならないかな?」
「あんまり興味は無いデスね。折角ですが、お断りさせて頂きます」
「そ。残念」
ノアは、悪戯っぽい笑みを浮かべてから琴葉から手を離す。後ろからフランがジリジリと鋭い視線を送っていて、少々不機嫌な様子だ。
琴葉は白い外套を広い、黒い外套のポケットの中からライターを取り出す。アリサとユリアが何をするのかと首を傾げていると、琴葉は躊躇いも無く白い外套の裾に火を点けた。
「え、ちょ! コト!?」
「コト、未だ燃やしちゃ駄目でしょ……」
段々と黒く焦げていく其の外套を見ながら、アリサ達は揃って溜息を吐く。が、琴葉は淡々と告げた。
「もう私に此れは必要ない。もう彼の組織に戻ることは無いから」
次の日、「白猫の組織の半分以上が何者かに因って壊滅させられた」と言うニュースが流れた。
◇ ◆ ◇
―――――三年後。
アリサとユリアはまた何時もの花畑にやって来ていた。
だが、其処に琴葉の姿は無く、代わりに沢山の人間の死体と手紙があった。
「"今、白猫の残りの奴等に追われてるから、人間の街に居るよ。ショッピングモール荒らして回ってると思うので、まぁ見掛けたら声を掛けてね。ショッピングモール荒らしの次は商店街で銃撃戦の予定だから、楽しみに待っててもいいかもね。"って……何此れ」
「さぁ? でも、コトだから……」
手紙を手にとって、ボソボソと話していると、
「呼んだ?」
背後から声が為て、
「「ひゃい!?」」
二人は同時に飛び上がった。
急いで距離を取って後ろを振り返ると、黒いパーカーと黒いスカートを穿いた琴葉が。フードを被り、マスクを付け、オマケに眼鏡まで付けている、一見地味な女子と言った感じだ。
「こ、コトかぁ……」
「吃驚させないでよ」
琴葉は眉を顰め、不機嫌そうな顔をするアリサ達を見て、喉の奥でクツクツと笑い声を出す。
白猫の半分が壊滅すると言う大きな事件から三年、世の中には大きな変化があった。
一つ目は、人間と人外のつり合い。琴葉が人間側の味方を止め、人外側へ回ったのと、事件の所為で、人間側の戦力が急激に落ち、人外側の戦力が一気に上がった。
二つ目は、人間と人外の一般人。どちらも人間は白猫、人外は黑猫を支え、必要なら戦場に出るようになったのだ。街に敵が現れたら、直ぐに刃物で襲い、殺す。其れが今の一般人―――最早一般人と呼べないかも知れないが―――である。
簡単にまとめると、平等くらいの力で戦っていた戦争が、一般人を巻き込み、人外が有利の戦争へと変化してしまったのだ。
「んふふふ。私が悪戯好きなのは知ってるでしょ? まぁ、一応二人は組織の上の方の人だから、そんなに仕掛けられないけど」
琴葉は花畑に転がる死体に向け、「【消滅】」と言う。すると、其の躰は忽ち赤黒い膜に覆われ、消えてしまった。
「コトだったら、組織に入ったら直ぐに私と同じくらいになれるわ!」
「ううん、コトだったら、入って直ぐに幹部になれるよ。今、前幹部様が亡くなって、一席空いてるって言ってたもん」
アリサとユリアは目を輝かせ、琴葉を凝視する。琴葉は反射的に目を逸らし、手で顔を覆う。照れ隠しの様なものだ。
琴葉は人外側に回ったものの、黑猫に所属している訳では無い。今は一人で人間を殺して回っているらしい。琴葉曰く、組織は沢山決まり事があるだろうから面倒臭いらしい。
人外が、彼等の街を歩く人間の彼女を殺さないのは、屹度彼女のことをしっかりと理解し、信頼しているからなのだろう。
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