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永遠の謎

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22部分:第一話 冬の嵐は過ぎ去りその十六


第一話 冬の嵐は過ぎ去りその十六

「その神もな」
「左様ですか」
「神は全てを許して下さる存在だ」
 彼は信仰も持っていた。尚バイエルンはカトリックである。当然ながら彼もまたカトリックだ。そうした観点から言えばオーストリアのハプスブルク家と同じだ。
「だからこそな」
「それはよいのですが」
「プロテスタントか」
「はい、今度そのプロテスタントの方も来られます」
「ビスマルク卿だな」
 この名前が出て来たのだった。
「あの方だな」
「殿下も御会いになられると思いますが」
「会わなければならないだろうな」
「ならないですか」
「私とあの方もまた」
 そしてだ。こんなことも言うのだった。
「だからこそだ」
「左様ですか。それでは」
「何故だろう」
 太子は考える顔にもなった。
「私はカトリックだ」
「はい」
「そしてあの方はプロテスタントだ」
 このことは絶対だった。太子はバイエルン、ビスマルクはプロイセンを代表する二人だ。そしてドイツにおいてカトリックとプロテスタントを代表してもいる。そうした意味では二人は対立する間柄だった。
 しかしだった。太子はだ。何故か今対立するものは感じていなかった。
 むしろそこにあったのは親しみだった。不思議なことに、太子自身もそれに戸惑っているがそれでもだった。まだ会っていない彼にそれを感じていた。
 そのうえでだ。彼は語るのだった。
「いがみ合って当然だがな」
「それでもなのですね」
「そうだ、会いたい」
 彼は言った。
「是非な」
「ビスマルク卿もそう思われているようです」
「あの方もか」
「はい、あの方もです」
 そうだというのである。
「殿下と御会いしたいそうです」
「そうなのか」
「殿下のことはプロイセンにも伝わっています」
 これは当然のことだった。バイエルンはドイツにおいてプロイセン、オーストリア両国の後に続く第三の国である。国力は両国と比べてかなり落ちるにしてもだ。
 そうした国が見られない筈がなかった。その国の次の王ともなるとだ。それにその容姿と知性も加わればだ。当然のことだった。
 それをビスマルクが知らない筈がなかった。それでなのだった。
「それは」
「そうか。それでか」
「ビスマルク卿はかなり辛辣な方だそうですが」
 このことも話される。
「それは御気をつけ下さい」
「いや、それはいい」
 ビスマルクはそれには構わなかった。平然としている。
「そのことはだ」
「宜しいのですか?」
「ビスマルク卿のことは私も聞いている」
 こう話す彼だった。
「それはだ。しかし」
「しかし?」
「あの方にも会いたいな」
「左様ですか」
「ワーグナーにも会いたいがだ」
 やはり彼が最初だった。
「それでもだ。あの方にもだ」
「わかりました。それではその会談の用意も」
「頼んだぞ。それではな」
「はい、それでは」
 こんな話をしてであった。彼はその時を待っていた。彼の運命は動きはじめていた。それは大きなうねりとなっていたのだった。


第一話   完


             2010・11・10
 
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