ダンジョン飯で、IF 長編版
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
短編集編
IFのIF やはり、魔物は魔物だ
前書き
※ドラゴンキメラ戦後、帰還したカブルー達が、再び迷宮に挑み、ライオス・ドラゴンキメラに遭遇してしまうIF。
※人肉食表現あり。
「か、カブルー……。」
リンの震えている声が聞こえた。
カブルーは、霞む頭で自分に起こったことを思い起こそうとした。
ブチブチ、クチャクチャと、何かを咀嚼する音が聞こえてくる。
腕の感覚がない。というか、腕がない。
あと、身体が重たい。何かが胴体の上に乗っている。
赤い……竜の足だ。
思い出した。
そうだ、自分達は、再び迷宮に潜ったのだ。
ライオス…というキメラとなった男の妹、ファリンと別れた後の数週間後だ。
シュロー達は、島からいなくなった。
自分達は、自分達の目的のために迷宮に挑まなければならない。だからまた潜ったのだ。
二階の様子がおかしかった。
その時に気づいていればよかった。
アイツが……いることに。
突然だった。気づかなかった。
バジリスクと大コウモリの死体を見つけて立ち止まった場所の近くの木の上に、アイツがいたのに。
不自然な死体だった。
何かに襲われて、殺されて、食べられた形跡があった。
特に噛み跡が不自然だった。まるで人間が噛みちぎった跡のような歯形が残っていた。
クロもどこかで嗅いだことがある匂いがすると言っていた。なのに気づかなかった。
アイツが、二階みたいな浅い層まで移動したなんて考えなかった。
突然飛び降りてきた巨体。
鳥とドラゴンを合せたような、けれど人間の上半身を生やした異形。
人間の顔をしているくせに、感情がないみたいに無表情で自分達を見おろす金色の目。
まず真下にいたクロが踏み潰された。
ただでさえ足場の悪い二階で、巨体に似合わない素早い動きに自分達はついていけなかった。
尻尾がダイアを弾き飛ばし奈落の底に落とした。
リンに向かって行くドラゴンキメラ。そういえば、初めて遭遇したときもアイツは、他の魔物を使って魔法使い達を率先して襲ってきた。
他の魔物?
それに気づいたときには、ホルムが後ろから大コウモリに襲われた。
魔物の優劣や従う道理とかそんなものは分からない。だが自分達を食った相手に従うなど、やはり魔物は分からない。
リンが再度稲妻の魔法を使うと、ドラゴンキメラは、倒れた大木や枝を飛び回って避けた。
連続で稲妻を放っても同じ。巨体に似合わない素早さで稲妻を避けていく。
ホルムのウンディーネがあれば、多少はこちらが有利になれたかもしれないが、確かアイツ、魔法も使えたはずだったので、ウンディーネがいても意味は無かったかもしれない。
そうこうしている内に、ミックが吊り橋から落ちそうになり踏ん張ったものの助ける余裕が無くやがて落ちていった。
ドラゴンキメラがとんでもないスピードで飛んできて、金色の眼を持つ男の顔が迫ったとき、ドラゴンキメラの人間の腕を振りかぶっていた。そこで自分の意識は一度暗くなった。
そして、次に目を覚ますと、これだ。
ドラゴンキメラは、腕を噛みちぎって食っていた。
ブチブチと肉の筋を歯で引っ張り、腹を空かした獣とは違って味わうように食っている。
何度か死んだが、魔物に食われて死ぬのは初めてだ。
死ぬのは慣れない。もう痛みとかは通り越してしまっている。
しかも完全には死んでないのに、食われているのを見させられるなんて、なんて悪趣味だ。
よくもまあ……、何か事情があったにしろ、人間をベースにこんなキメラをこしらえるなんて、これだから黒魔術はおぞましい。
リンは、もう魔力が尽きたのか、そして仲間が食われている光景に完全に腰を抜かしてしまったのか尻餅をついてガタガタ震えているだけだった。
ドラゴンキメラは、リンを襲う気がないのか、はたまた自分の肉がお気に召したのか無心で肉を食っているだけだ。
血が止まらない……。意識が遠のいてきた…。だが完全に死ぬまでにはまだ遠い。さっさとトドメを刺してほしいものだ。
「……この……、バケ…モ、ノ…め…。」
最後の力を振り絞って悪態をついてやった。
けれど、声が小さかったからか、ドラゴンキメラは、まったく話を聞いてなかった。
次に会ったら…、あんたの妹を殺そう。そしたら、あんたは、どんな顔をするだろう?
盾にしたときの顔は人間そのものだったくせに……。妹以外はどーでもいいのか?
っと言うか、あんた、バジリスクと大コウモリ、先に食ったんじゃないのか? まだ足りないのか? そりゃそんだけ身体大きければ胃も大きいか?
あー…、色々と言ってやりたいが、もう力が出ない……。
少しずつ暗くなっていく視界、けれど耳に、ブチブチくちゃくちゃと肉を食いちぎって噛む音がずっと聞こえていた。
後書き
短編集は、カブルー達が色々と不憫な目にあいます……。
ページ上へ戻る