ダンジョン飯で、IF 長編版
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短編集編
IFのIF 魔物食を勧められ
前書き
※一巻に出てきた、バジリスクに襲われてた初心者冒険者パーティーと、ライオス・ドラゴンキメラ。
※適当に彼らに名前を付けてます。
その冒険者パーティーは、ピンチに陥ってた。
身体が重たい…、さらに空腹。数日前に魔物に襲われた際に逃げたのだが、その時にキャンプ地に食料を置いてきてしまったのだ。
「はあ……、もう、ダメ…。」
「あきらめるな。」
っと励まし合うが、それを遮るように腹の虫が鳴る。
冒険者パーティーは、ぐったりと二階の大木に背中を預けて座り込んだ。
「こんなところで、餓死かよ…。」
「また死体あさりに見つかって地上送りか…。」
「もうこんなのばっかり…。」
彼らは、数ヶ月前から迷宮に挑んでいる初心者パーティーだ。
数日前にやっと三階にまで足を踏みこんで、そこで魔力不足に陥ったので引き返し、そしてキャンプ地で食料を失って今に至る。
「俺たち…、やっぱり才能無いのかもな……。」
空腹も手伝って、悪い方に悪い方に考えが向く。
その時、クエーっという鳴き声が聞こえた。
「ば、バジリスク!?」
「やべ、こんな時に…。」
「逃げよう。」
そう言って全員重い腰を上げて立ち上がり、移動した。
その時だった。
とても良い匂いがしたのだ。
「この匂いは…。」
バジリスクから逃げながらその匂いにつられて、茂みをかき分けると……。
そこには、グツグツと煮えた大鍋が焚き火の上に乗せられていた。
「こんなところで、料理?」
「ああ…良い匂い…。」
たまらず生唾を飲み込んでしまう。
ふと、気がついた。
鍋の反対側の焚き火に、串に刺さった刃に似たヒレを持つ魚がくべられていた。
「これ、魚かしら?」
「あ、これ本で見たことがある。確か刃魚っていう魔物で、四階によくいるらしい。」
「なんでこんなところに、四階の魔物が? あ、これ、干物だ。」
「それにしても……。」
冒険者パーティーは、口からあふれてくるつばを飲み込むのに必死だった。
数日間、水以外まともに固形物を食べていない。
もはや限界が近づいていた。
「…た、食べても良いよな?」
「えっ? で、でも無断で…。」
「こんなところで暢気に料理してて、誰も見張りを立ててないのが悪いんだ。」
空腹による限界が、悪い考えを増長させる。
「もし、これ作ってた連中が帰ってきたら言い訳しよう。」
「………そう、だな。」
もう限界だった。
焼けた刃魚を手にした剣士の冒険者は、ふと思い出した。
「そういえば、少し前に、魔物を調理できるほど強い人達がいたな……。あの人達を見習って、魔物を料理してれば、ここまで追い詰められずにすんだかも…。」
そんなことを呟いている間にも、仲間達が鍋に手を付けようとしていた。
その時だった。
「それ、まだ未完成だ。」
「えっ?」
ヌッと後ろから大きな影現れ、剣士の冒険者が陰に覆われた。
「う、うわあああああああああああ!!」
「きゃあああああああああ!!」
仲間達が悲鳴を上げる。
まさかバジリスクかと思ったが、明らかに人間の声だった。
慌てて振り返ると、そこにいたのは……。
人間の男の上半身と、竜と鳥を合せたような巨体を持つキメラだった。
そういえば、ここのところ、こんな噂があった。
あらゆる階層に、人間の形を持つキメラが現れて、魔物を使った食事をありがた迷惑に勧めてくると。
「まさか…。」
「君達、腹が減ってるのか? ずいぶんとやつれてるみたいだが。」
「え、ええ…。」
魔物を使った料理を勧めては来るが、襲っては来ないとは聞いている。だが警戒は怠らずに返事をしていると腹の虫が盛大に鳴った。
それを聞いたキメラは、プッと吹き出した。
冒険者パーティーは、カーッと赤くなった。
「よかったら食べていくか? さっき仕留めたバジリシクを使えば仕上げられるんだ。」
「えっ? これ……あ、あなたの料理だったんですか?」
「ん? そうだけど?」
魔物にしてはあまりにも暢気だし、他の魔物と違って殺意がないように感じる。
しかしよく見たら、片手に首が折れたバジリスクを掴んでいた。
キメラは、ナイフを抜き、バジリスクの処理を始めた。
まず首を切って血抜き。
次に、別に沸かした鍋に湯を張って軽く茹でて羽をむしる。
「あの…、手伝いましょうか?」
「手伝ってくれるのかい? それはありがたい。」
怖ず怖ずと申し出ると、快く返事をしてくれた。
とりあえず、みんなでバジリスクの巨体の羽をむしる。すると、大きな鶏肉になった。
「うわぁ…、こう見ると大きいけど、普通の鶏に見える…。」
「そうだろ? じゃあ、蛇の方はあとでスープか、燻製に使おう。」
そしてキメラは、肉の一部を挽肉にして、どこから出したのかボールに入れて香辛料と調味料を加えて練り、肉団子にしてすでに何かの出汁が煮えている鍋に入れていった。
挽肉に混ざった油と香辛料が溶け出し、スープが一段と良い匂いになった。
もう口から垂れる涎が止まらない。
さらに、キメラは、茂みの中に隠していた歩きキノコの死体を出して、切り刻み、鍋に加えていった。
「最後に、バジリクスの卵を溶いて、かき回せば…。できあがりだ。」
バジリスクの卵を割って鍋に入れ、おたまでかき混ぜると、フワッと卵が浮く。
そしてできあがったバジリスクの肉団子スープを、これまたどこから出したのか分からない木の器に入れ、キメラは冒険者パーティーに渡していった。
「い、いただきます!」
もとが魔物だとかこの際もうどうでもいい。
空腹とは最大の調味料とはよく言ったモノだが、それ以上にスープは美味しかった。
なんというか、コクが違う。
「美味いです!」
「ありがとう。こっちも食べてごらん。刃魚は、生でも干物でも美味いんだ。」
「あ、ほんとうだ…。」
「これ、なんのお出汁なんですか?」
「コカトリスだよ。」
「こか…!?」
コカトリスは、五階の魔物だ。
バジリスクよりも圧倒的に凶悪だと、聞いている。
「長年の夢でね。同じ尾蛇種のバジリスクとコカトリスを食べ比べしたいって思ってたんだけど、ふと思いついてコラボしてみたんだ。うん。思った通り、相性はいい!」
「歩きキノコも美味いですね。歯ごたえも香りも…。」
「マツタケそっくりだろ? この種の歩きキノコは、特に歯ごたえと香りが良いんだ。栄養価もいい。」
「……ああ、身体に染み渡るようだ…。」
空腹による栄養不足の身体に、スープに溶けた滋養が染み渡るようだった。
「いいかい? 栄養不足は、強い魔物に出会うことよりも恐ろしいことだ。塩漬けの肉や硬いパンばっかりじゃなくて、そこに歩きキノコや、人食い植物の木の実を添えるだけでずいぶんと違う。あ、そうだ、デザートに、人食い植物の木の実はどう?」
キメラは、ミアオークの木の実を出して、輪切りにして皿に盛って出してきた。
勧められるままに食べてみると、シャクッと歯切れ良く瑞々しくてさっぱりとした後味が残る。
「そこまで甘みが強くないんですね。」
「口の中がさっぱりする。」
「君達、身体が重たかったんじゃないのかい?」
「ええ…。でも今はずいぶんと軽くなった気がします。」
「ビタミンとミネラル不足だ。そういうときこそ新鮮なものを食べるべきだよ。」
やがて大鍋にあったすべてのスープが無くなった。
「ごちそうさまでした。」
「久しぶりの満腹だ~。」
「あの、…このご恩は…。」
「気にしないでくれ。俺は久しぶりに人間と食事が出来ただけで十分だ。」
そう言ってキメラは、微笑んだ。
ああ、とてもじゃないが魔物には見えない。
「あの…、あなたは本当に魔物なんですか?」
「……俺は、どう見える?」
「…キメラ……。」
「色々とあってね。今はこの姿になったんだ。地上じゃ生きられないから迷宮に住んでる。」
確かにこんな姿では、地上では暮らせないだろう。
そうなると必然的に他の魔物を狩って食べるしかないのだ。
魔物をいかに美味しく食べるか、きっと試行錯誤しただろうに…っと、冒険者パーティーは思った。
「魔物食に詳しい人がいて、その人から、たくさんの料理の仕方を教わったんだ。」
「そんな人がいるんですか?」
「三階の便所の清掃までやってて、彼は立派だよ。君達もいつか出会うかも知れない。」
「……僕達…、まだ少しだけ三階に足を踏み込んだばかりで、逃げ帰ってきたところなんです。」
「そうか。」
「あの…どうすれば、魔物を調理できるほど強くなれるんでしょうか?」
「えっ? えーと…。」
「ちょ、ちょっと、魔物に聞いても…。」
「そうだな…。俺も元々は冒険者だったから、時間があるときに指南しようか?」
「えっ!」
「これでも一応、昔は冒険者パーティーのリーダーだったんだ。俺に出来る範囲でなら教えられるかもしれない。」
「本当ですか!」
「でも、まずは、出直すことを勧めるよ。なんなら、俺が一階への階段まで送るよ。」
「ありがとうございます!」
冒険者パーティーは、キメラに先導されて一階への階段まで送ってもらった。
「じゃあ、俺は、二階にまだしばらくいるから、会えるときに会おう。」
「あ、あの。」
「ん?」
「申し遅れましたけど、僕、エクトビって言います。」
「エクトビか。俺は、ライオスだ。」
「ライオスさん…、では、また…。」
「それじゃあ。」
そして、ライオスと、エクトビと仲間達は、別れた。
その後、冒険者達の間で、こんな噂が流れた。
曰く、ドラゴンのキメラが初心者パーティーを鍛えていると。
曰く、魔物を使った食事を提供すると。
曰く、その料理はすごく美味しいと。
後書き
一巻でバジリスクに背中を引き裂かれていた剣士の名前を、エクトビという名前にしています。捏造ですので。
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