緑の楽園
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第二章
第23話 告白
俺が目を覚ましたところは、先日奪回したドメリア砦の診療所だったらしい。
距離が一番近いということで、ここに運び込まれたようである。
「将軍。まず、俺が倒れた後どうなったのかを聞いてもいいですか?」
女将軍ファーナに、そう質問した。打ち合わせ開始である。
国王と女将軍は、俺のベッドの横で、並ぶようなかたちで椅子に座っている。
クロにはその横でお座りしてもらった。
俺はベッドに寝たままだ。
いちおう、先ほど起き上がろうとはしてみたのだが、やはりまだ無理だった。わき腹に激痛が走り、力を入れることはできなかった。
「大きな音がしたと同時に、クロがあの黒服の男に襲い掛かろうとした。私や他の兵士も、お前が倒れたのはあの男が原因だというのはわかったので、取り押さえようとした。
だが、あの男はおかしな玉を出し、そこから煙がもくもくと出て、見失ってしまった。周辺を探したのだが結局見つからなかった。すまぬ」
女将軍は少し視線を落とし、ため息をついた。
「あ、いえいえ。おかげで二発目を受けずにすんだわけですし。ありがとうございます」
煙玉を使われたのだろうか? 臭いもまき散らしていただろうし、クロも追えなかったのかもしれない。
とりあえず気絶してからの流れを理解した俺は、国王のほうに顔を向けた。
「陛下。俺が国のことに意見するのもアレですけど。今後は遺跡に、ある程度の数の兵士を常駐させたほうがいいかもしれません。
あとは……そうですね、近くに隠し通路があるかもしれませんので、調査するとよさそうです」
俺の発言に対し、国王は大きくうなずいた。
「ああ、余も同じ意見だ。現場は作業員がたくさんいるが、これまで不審者が出たという話はなかった。なのにあの男は、余が視察をするタイミングで、はかったかのように出てきた。さらに事件後、あの場にいた全員で探したのに行方が追えず、だ。
近くに潜伏できる場所か、もしくは抜け道があったという可能性がある。お前の言うとおり、しっかり調査させたほうがよさそうだな」
目はさっきまで泣いていたせいで真っ赤だが、頭はしっかり回転しているようだ。
国王は少し考えて続ける。
「これは現場の人間の安全にもかかわる問題だな。早くしないとダメだろうから、ひとまずこの砦から一部隊割いて、交代制で常駐させるようにしよう。首都から正式に部隊を寄越させるまでは、それでつなぐとするか」
国王は鈴を鳴らすと、入ってきた者に説明し始めた。
大まかな指示と目的だけを話して、あとは砦の責任者に細かい部分を任せるつもりのようだ。
このあたりはさすがだ。決断が早い。助かる。
次は、拳銃についての説明と、国王の身の安全についての話をしなければならない。
が……。
その前にまず、国王に俺の素性の話をしたほうがスムーズな気がする。
「次はあの黒服男の武器についてなのですが。その前に、陛下に俺の出身国をお伝えしておいたほうがいいと思うので、そこから話しますね」
「お前の出身国? 西の国のどこかではないのか?」
この反応を見ると、やはり国王は、俺のことを西の国の出身だと思っていたようである。
「西の国ではありません。もちろん北の国でもありません」
「どういうことだ?」
「俺は半年ほど前、崖から落ちて意識を失い、目が覚めたらこの国にいたんです」
「……!」
「地図を見ると、この国の形は、俺のいた国とよく似ていました。でも中身は全然違っていて、町や都市も知らない名前ばかりだったんです。
なので、どこか別の世界の、地形がよく似ている国なのかな? というところで考えが止まっていて、ずっと謎のままでした。でも今回、あの遺跡に行って、やっと真相が判明したんです」
「……どうだったのだ?」
「どうやら、俺は今からずっと昔……最低でも千年前のこの国から、タイムワープで来たようです」
国王の顔色が、一瞬で変化するのがわかった。
「……なん……だと? 何の冗談だ……?」
「ほう。そういうことだったのか……」
国王は目を見開いて驚いている。初耳だろうから当然か。
女将軍のほうも驚いた表情ではあるが、彼女の場合、俺が転移者という事実はすでに知っているため、若干の納得の様子もうかがえる。
「もちろん、冗談ではないですよ」
「そ、そうか……。確かに……冗談を言っているようには見えぬが……。遺跡でその証拠を発見したということなのか?」
「はい。あの遺跡は、俺がいた時代に造られたものです。あれは『さいたまスーパーアリーナ』という施設の成れの果てです。復元図で特有の形を確認しましたので、間違いありません。あれは格闘技などのイベントを開催するための競技場で、俺も何度か行ったことがありました」
俺は続けた。
「国土の形がそっくりであること、そして知っている施設が遺跡となっていること。あとは、この国の人が日本語を話していることもそうでしょうか。未来に転移したという確信を持つには十分な材料が揃いました。間違いないと思います」
「そうか……」
国王は下を向く。
気持ちを整理しているのだろう。
「……そうなのか……。リクは……古代人だったのか……」
もちろん、わかった事実を伝えただけのことである。
だが俺の中で、国王に対してこの事実を伝えてしまったことに、謎の罪悪感がある。なぜだろう。自分の感情のことなのに、よくわからなかった。
国王の様子を見て、少し間を取ったほうがよいと判断し、俺は休憩を提案した。
「えーっと。では再開します。黒服男の武器について、二人に伝えさせてもらいます。俺は、あの男が持っていた小型の武器によって、体に穴を空けられました。あれは『拳銃』という名前の武器です」
「私は初めて聞いたぞ」
「余も初めてだ」
今まで、国王は女将軍とともに別室で休憩していた。頭の整理ができたのか、落ち着きを取り戻しているようである。
「はい、本来この国には存在しないと思います。陛下と将軍が一度も聞いたことがないということですと、周辺国にも存在しないという認識でよいと思います」
「なるほど……。九年前に余の父が死んだのも、その武器でやられたのだろう? あのときのことは、まだはっきり覚えているぞ。音が今回とまったく同じであった」
「はい、音が同じということであれば間違いないと思います。九年前の事件は、あの武器で物陰から攻撃されたものと考えられます」
国王は少し下を向き、顎に手をやった。
「……なぜ存在しないはずのものがあるのだろう」
「それは残念ながらわかりません。俺が拳銃のことを知っていたのは、俺の時代には存在していたからです。特殊な仕事をする人間が持っていました」
「すると。あの人間も、お前と同じ時代からやってきたということか?」
「俺も一瞬それを考えましたが、言動からは違うような気がします。今の段階では『わからない』としか言えません」
ワープしてきた人間が、国王を「任務」で暗殺。やはり不自然に感じる。
また、あの男がワープ者なのであれば、俺が拳銃の所持を指摘したときに、「もしやあなたもワープ者……?」のような反応となるはずだろう。
ところがあの男は、「もしやあなたも人間……?」というようなことを言っていた。反応の仕方が合わないのだ。
もちろん「もしやあなたも人間……?」の意味は今でも不明である。わけがわからない。
「ふむ……。この場合は、お前がわからなければ、余も考えたところでわからなそうだな」
国王はそう言うと、茶色がかったサラサラの髪を、ぐしゃぐしゃとかき混ぜるような仕草をした。
代わって、今度は女将軍が俺に質問をしてきた。
「その武器の性能や特徴などはどうなのだ? 私には、『大きな音と同時にお前が倒れた』くらいしかわからなかったぞ。あれは何かを発する筒なのか?」
「はい。目に見えないくらいの速度で、金属の弾を発射しています。威力はとても強くて、距離が近ければ薄い鉄板なら貫通するかもしれません。俺は当たりどころがよかったので生きていましたが、胸や頭に当たれば一発で死亡です」
「……目に見えない速さである上に、当たれば即死する可能性があるのか。それでは逃げられぬではないか」
「まあ、そうですね……。でも、拳銃はピンポイントすぎて狙いを定めるのは難しいので、すばしっこく動けば当たる可能性は減っていきます。たとえば、クロに当てるのはほぼ不可能だと思います」
三人同時に、床に座っているクロを見る。
クロは少し頷いたようにも見えた。
「人間の場合はどうすればいいのだ? このぶんだと、余はまた狙われる可能性があると思うが。余はクロのように速く動けないぞ」
「はい、そこが重要です。確かに人間は犬ほど速く動けません。なので、まずは『的にならないこと』が大事です。安全が確保されている場所以外では、陛下が外から見えなくなるくらい護衛で囲むようにしてください」
「なるほど。余が見えなければ狙いようがないということだな」
「そうです。まあ、演説などのときは顔を出さないわけにはいかないと思うので、その場合は聴衆の持ち物チェックを厳重にやってください。怪しいものを持っていた場合は即没収です。あと、できれば国中に御触書を出すといいですね。拳銃の絵を書いて、このような物を所持している者は届け出るように、と。密告を奨励してもいいかもしれません」
「わかった。リクの言うとおりにする」
「ありがとうございます」
国王の体はひとつしかないので、十分な対策を取ってもらわなければならない。
もう二度と、国のトップが射殺されるようなことがあってはならない。
「リク、もう一つ私から質問したいのだが」
「はい。どうぞ」
女将軍から追加の質問だ。
「今お前が提案したのは、今回の事件で使われた拳銃を想定した対策だよな?」
「ええ、そうです」
「では、暗殺者がさらに性能のよい拳銃を用意してきたり、もしくは拳銃とはまた違う武器で挑んできたらどうするのだ?」
「そうですね……。その場合でも、今申し上げた以上の対策は難しいので、それでいくしかないと思います」
「そうか。まあ、すべての手段に対抗できる策なんて存在せぬか」
俺の時代でも、SPに囲まれての移動、会場では持ち物検査、それくらいしかやりようがない。
「でも、将軍が心配されているような状況になる可能性は、少し低いかなと思っています」
「なぜだ?」
「えっと。実は拳銃って、遠くの物陰から狙いを定めて撃つにはあまり向いていない武器なんです。俺の時代では、本来ああいう状況においては、もっと遠くから正確に狙える『狙撃銃』という武器がありますので、それが使われます。
でも、暗殺者はそれではなく拳銃を持ってきました。つまり、暗殺者側は拳銃以上の武器は持っていない可能性が高いです」
「ほう。そういうことであれば、少し安心か」
女将軍は、本気でホッとしているようだ。
確かに、拳銃だけでもヤバいのに、他にもわらわらと未知の武器が出てきたら、というのはゾッとする話だろう。
「しかしリク。お前の時代の武器は恐ろしかったのだな……」
「余もそう思った……」
……。
核兵器の話とかしたら、この人たちは気絶してしまうのかな?
ボタン一発で町が消えます、とか。
打ち合わせは、ひとまずこれでお開きにした。
とりあえず、緊急で伝えないといけないことは、伝えられたと思う。
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