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永遠の謎

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113部分:第八話 心の闇その三


第八話 心の闇その三

「だからですか」
「若しかして陛下は」
 王についてだ。さらに話されていく。
「フォン=ビューロー夫人とのことも」
「御存知だと」
「そのこともですか」
「あの方は鋭い方です」
 少なくともだ。愚かではないのは誰もが知っていた。
「何かあればすぐに気付かれる方ですから」
「そうですな。あの方はです」
「知識や教養だけではありません」
 その二つも勿論併せ持っているのである。しかしそれ以上にというのだ。
「そうした生来の勘と聡明さも持っておられます」
「ならば。夫人とのことは」
「少なくともワーグナー氏のそうした人間性は御存知でしょう」
 そのあまりにも問題のある人間性のことである。
「しかしそれでもですか」
「ああして愛されている」
「何故でしょう、潔癖な陛下が」
「そうされるのは」
「やはり」
 ここで、だった。一人が察するのであった。
「あの方は時としてあえて見られないことがありますから」
「ではワーグナー氏についても」
「その負の部分はあえて見ずに」
「そのうえで愛されている」
「そうなのですか」
「芸術です」
 まず第一にだ。これがくるというのである。
「陛下は芸術を何よりも尊ばれますから」
「従って。ワーグナー氏のその芸術がある限り」
「彼を愛される」
「そうなのですか」
「そうではないでしょうか」
 こう考えられるのであった。
「だからこそああして」
「だとすればこれは由々しき問題ですな」
「全くです」
 彼等はだ。こう考えたのだった。
「陛下がご承知のうえだとすると」
「ワーグナー氏をこのままにしておくことは」
「そうですな。ここは」
「首相と男爵にお話しましょう」
「是非」
 こんなことも話されていた。このことは無論ワーグナー自身の耳にも入る。しかし彼はまだ焦ってはいないのだった。
「気にすることはない」
「そう思われますか」
「そうだ。それよりもだ」
 彼は弟子のハンス=フォン=ビューローと話していた。広い額で髪を首のところまで伸ばした何処か中性的な面持ちの男である。
 その知的な印象を与える彼にだ。ワーグナーは話すのだった。
「トリスタンだ」
「それですね」
「陛下が戻られたならあの方もだな」
「舞台稽古を御覧になられたいと言われてましたね」
「素晴しいことだ」
 そのことにだ。王は素直に喜びの感情を見せた。
「まさか。陛下がな」
「流石にそこまでは思われていませんでしたか」
「そうだ。一国の君主が私の舞台稽古を御覧になられる」
 しかもであった。
「陛下がだ」
「陛下がですね」
「私の芸術を。完全に理解して頂いているしな」
「そうですね。陛下はですね」
 それはだ。ビューローも感じ取っていることだった。王はワーグナーの芸術を理解していた。その理解の深さと細かさはというとであった。
「もう一人の私と同じだけだ」
「私の義父と同じだけですね」
「そうだ。フランツ=リヒトに陛下」
 そのことについて。王と彼は同じ存在であった。
「私の全てを理解して頂いている」
「では陛下はもう一人の」
「いや、違うな」
 ワーグナーは弟子の言葉はここでは否定した。そして言うのだった。
 
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