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永遠の謎

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112部分:第八話 心の闇その二


第八話 心の闇その二

「イゾルデというが」
「ありきたりの名前だが」
 この当時のドイツではである。
「だが。それでもな」
「あのオペラ」
「トリスタンとイゾルデ」
「今このミュンヘンで上演が考えられているオペラだ」
 それだというのである。やはりワーグナーは音楽家なのだ。
「あれのヒロインは」
「タイトルロールの一人は」
「イゾルデだ」
 名前がだ。全く同じであったのだ。
「名付け親はワーグナー氏だ」
「ではやはり」
「真の父親はワーグナー氏なのか」
「前にも女性問題を起こしている」
 小柄で容姿も決して優れているとは言えない。それでもなのだ。
 ワーグナーは女性を魅了する男だった。容姿ではない別のものによってだ。それによってコジマもまた魅了されたのは事実であった。
「それではな」
「そうであってもおかしくはないな」
「そうだな」
「それでは」
 こうしてだった。彼等はだった。
 徐々にワーグナーへの不信や嫌疑の感情を強くさせていっていた。それはワーグナーの崇拝者達も感じていた。それでだった。
 ワーグナー自身にだ。こう述べるのだった。
「御気をつけ下さい」
「このミュンヘンでもです」
「貴方をよく思わぬ者がいます」
「それも増えてきております」
「そうした面々が」
「そうなのですか」
 しかしだった。ワーグナーの返答は至って落ち着いたものだった。
 動じてすらいなかった。まるで今更といった風に言うのであった。
「今はそれ程気をつけることはありません」
「しかしです」
「どうやら宮廷だけでなくです」
「政府もまた」
「首相が」
「しかし今は」
 今はと。ワーグナーは言うのであった。
「私には陛下がおられますので」
「バイエルン王ですね」
「あの方が」
「はい」
 その通りだというのである。
「その通りです」
「それはいいのですが」
「ここは御願いがあります」
「いいでしょうか」
 彼等はだ。真剣な顔でワーグナーに言ってきた。彼等にとっての崇拝の対象はだ。どうしても護らなくてはならないものだったのだ。
 それでだ。彼等は彼にさらに忠告を続けた。
「贅沢は慎まれた方が」
「そうされるべきです」
「是非共」
「いやいや、それはです」
 いいというのである。ワーグナーはだ。
「私にとってはです」
「必要なのですか」
「そう仰いますか」
「はい」
 その通りだとだ。答えるのである。
「私はそうした環境の中でないと」
「芸術を生み出せない」
「そうですか」
「それは御存知の筈ですが」
 彼のことをだ。知っているかというのである。確かめさせる言葉だった。
「私のそのことは」
「その為の浪費でしたから」
「それは」
 ワーグナーが何故借金を、ユリウス=カエサルの如く借金を積み上げてきたのかは彼等も知っていた。その贅沢故のことであることをだ。
 
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