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稀代の投資家、帝国貴族の3男坊に転生

作者:ノーマン
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22話:けじめと大きな依頼

 
前書き
2018/10/1 誤字修正
2018/10/8 三点リーダー修正 

 
宇宙歴761年 帝国歴452年 2月初頭
首都星オーディン ルントシュテット邸
パトリック・ベッカー

「パトリック、大奥様とザイトリッツ様がお呼びだ。サロンに向かうように。」

私とザイトリッツ様の教練指導役でもある従士のフランツさんが声をかけてきた。この人と初めて会って以来、身長差はかなり縮まったものの教練で染みついた恐怖がよぎるのか、一瞬身構えてしまう。フランツさんは既に26歳、本邸のメイドのひとりと結婚して子供もいる。さすがにまだ教練は課していないだろうが、無条件に同情してしまう自分がいる。

「畏まりました。すぐに向かいます。」

キビキビと返答し、サロンへ向かった。私と我が主ザイトリッツ様は大奥様に養育されてきた。私にもザイトリッツ様にも絶対的な存在だ。お待たせする訳にはいかない。

「パトリック、お呼びとのことで参りました。」

サロンに入ると大奥様とザイトリッツ様がお茶を飲まれていた。私がチェアセットの近くで控えると、

「パトリック、大事な話があるんだ。おばあ様にも聞いて頂きたかったから同席をお願いした。座ってくれるかい?」

本来は従士が主と同席することはマナー違反なのだが、ザイトリッツ様はたまにマナーを気にせず振る舞うことがある。大奥様の手前戸惑っていると

「貴方は私の孫同然。公の場ではわきまえてもらわないといけませんがプライベートな場なのです。遠慮はいらないわ。」

大奥様もご了承されるのであれば大丈夫だろう。下座の席に腰を下ろす。

「まずはこの手紙を確認してくれ。まだ内密の話だから公言は控えて欲しい。」

ザイトリッツ様から手紙を渡される。内容を確認して驚いた。手紙はグリンメルスハウゼン子爵からのもので、皇太子リヒャルト殿下が陛下の弑逆を計ったとして自死を命じられたこと、当然皇太子を担ぎ上げていた門閥貴族には罰が下されるであろうこと。
その上で、フリードリヒ殿下や私が仕えるルントシュテット家の口添えがあれば減免の可能性もありうるし、逆に厳罰を願えばそうなる余地があるという物だった。確認の為、再度読み直した後、私はザイトリッツ様に視線を戻し、手紙をお返しした。

「カミラの事を俺はまだ忘れていない。父上や母上の伝手から口添えを頼む話も来ている様だが、この件はカミラの家族だったこの場にいる3人で決めるべきだ。パトリックの考えを聞く前に私の意見を話そう。私は許すべきではなく厳罰に処するべきだと考えている。
あの日話した通り、奴らは方々で弱いものを踏みつけて泣かせてきた。ここで口添えをして罪を減免したところで、あいつらが性根を入れ替えてまともになるだろうか?むしろ自分たちが頭を下げれば何をしても許されると増長するのがオチだと考えている。さて、お前の意見をきこうか。」

「母カミラの事を仮になかったこととしても、あの方々は誰かを許したことがあるのでしょうか?許したこともないのに自分たちだけが許しを請うのはいささか強欲かと存じます。」

私がそう回答すると、

「ではおばあ様、口添えの話は全て断ってください。グリンメルスハウゼン子爵には私の方から先ほどの主旨を認めて返答させて頂きます。パトリック、カミラの件はこれでけじめがつくが、弱者を踏みつけている連中はまだまだいる。一人でも多くの領民と臣民が笑って過ごせるようにこれからも励んでくれ。」

「はい。心得てございます。」

私が返答をすると、メイドがザイトリッツ様にお客様が到着された旨を伝えてきた。

「おばあ様、お客様をお待たせするわけには参りません。ここで失礼いたします。」

ザイトリッツ様がサロンから出ていくが、大奥様に少し残るように言われた。少し間を置いてからお話を始められた。

「パトリック。あの子は幼少のころから優秀で私の期待にも精一杯応えてくれました。ただいささか溺愛しすぎたかもしれません。気性が激しいというか、決めた事は曲げない頑固なところがあるというか。たまに危なっかしい所も感じるの。あの子がやりすぎそうな時には貴方に諫めてもらいたいの。お願いできるかしら。」

「もちろんです。とはいえザイトリッツ様は私のはるか先を見ておられますのでお力になれるのか正直不安になる程ですが。」

「良いのです。先を見る人間ほど足元がおろそかになるもの。貴方が足元を見てくれれば
私も安心ですから。」

大奥様の言葉に救われる気持ちがした。正直、自分がお仕えしていてお役に立てているのか悩むことが多かった。RC社の経営、同期や後輩との食事会、お忙しいのにも関わらず、幼年学校では5年間首席を譲ることは無かったし、来期から入学する士官学校も首席合格だ。私も必死に務めたが、なんとか上位合格となる100番以内に滑り込むのがやっとだった。だが、ザイトリッツ様の足元をお守りする事なら出来る。この時から悩まずにお仕えできそうだ。


宇宙歴761年 帝国歴452年 2月初頭
首都星オーディン ルントシュテット邸
ニクラウス・フォン・ルントシュテット

「父上、お待たせいたしました。お初にお目にかかります。ルントシュテット伯3男ザイトリッツでございます。」

「うむ、ザイトリッツよ。こちらはリューデリッツ伯だ。私が予備役入りした後、後方支援のトップを引き継いだ方だ。失礼が無いようにな。」

「セバスティアン・フォン・リューデリッツ伯爵じゃ。よろしく頼む。」

いつも感心するが我が子ザイトリッツは挨拶がうまい。こんなしっかりした挨拶ができるのになぜフリードリヒ殿下を兄貴呼ばわりするような無茶をするのか。とはいえ話を進めねばなるまい。

「リューデリッツ伯はな、ある案件に関してRC社の力添えが可能か相談にみえられたのだ。私は会長に名目上名前を置いているが、実務はお主が把握しておる。そこで同席を頼んだ次第だ。」

「左様でございましたか、リューデリッツ伯、わが父をお頼り頂けたこと、非常にうれしく思います。どんなご用件でしょうか?」

リューデリッツ伯は一瞬私に視線を向けたがうなづくと話し始めた。

「実は陛下のご発案でイゼルローン回廊に要塞を新設することとなっておる。地表に建設するのではなく、直径60キロの人工天体を構築し要塞機能を詰め込むような形を予定しておる。昨年から各署に見積もりを出してもらいながら最終計画案を作成し、陛下にご内諾を頂いたのだが、今年に入って急に以前の見積もりから大幅な値上げを要求されてな。
クレメンツ殿下の取り巻きが何やら煽っているようなのだが、このままでは建設費が予算を大幅に上回る事は必定でな。すがる思いでルントシュテット伯にご相談した次第なのだ。」

「直径60キロの人工天体を建設し要塞とする。剛毅な計画でございますね。」

あのザイトリッツも目を見開いて驚いておる。
こういう可愛げをもっと出してくれてもいいのだが

「とはいえ、計画の概要だけでも確認しませんことにはお役に立てるか判断いたしかねるところですが......。」

「うむ。資料はこちらに用意しておる。お改め頂きたい。」

カバンから数枚に取りまとめられたものと分厚い冊子が取り出されテーブルに置かれた。

「機密の問題もございましょう。マナーに反しますがここで改めさせていただきましょう。父上、リューデリッツ伯のお相手をしばらくお願いいたします。」

そういうとザイトリッツはどこから取り出したのか電卓をカタカタと打ちながら資料と冊子を確認しだした。5分ほどだろうか、私が予備役に入って以降の後方支援部隊の動きなどを話していると、カタカタ音が止まった。自然と視線がザイトリッツに向く。

「建設計画書、しかと改めました。計画書とはかくあるべしと教えて頂いた思いです。このザイトリッツ、勉強させて頂きました。」

堅物のリューデリッツ伯がまんざらでもない顔をしておる。一体いつのまにこんな人たらしになったのやら。居住まいを正すとザイトリッツは話を続けた。

「現場責任者に確認が必要な部分がありますが、おそらくRC社でお役に立てると存じます。ただ、現段階で2点ほどお願いしなければならないことがございます。詳細をお話ししてもよろしいでしょうか?」

この流れで否というものはいないだろう。私は続きを促した。

「ありがとうございます。一点目は値上げを要求されている見積もりを正式に発行させ確保して頂くことです。資材の相場感から余程の不測の事態が無い限りRC社を使えば建設予算内で納まるはずです。ですので見積もりが揃った後、陛下から予算内で納まる所に任せよとお言葉を頂きましょう。多少は恨まれるでしょうが、少なくとも要塞が完成するまでは妨害も控えるでしょう。勅命に背くことになりますから。
二点目は、要塞建設の物資集積拠点となるであろうアムリッツァ星域に艦隊駐屯基地を新設頂くことです。予想される資材に関しては設備投資を行えば調達は可能ですが、要塞建設期間の5年では投資分の回収が難しいでしょう。物資集積拠点跡地の有効利用という事で要塞完成までに根回しして頂けるのであれば、現段階では口約束で結構です。如何でしょうか?」

「うむ。要塞建設が想定予算を大幅に上回ることがあれば私も責任を問われることになる。予算内で完成した暁には、基地の新設の根回しもしよう。仮にうまくいかなくても増産分の資材の消費先は融通できると思うぞ。」

「心強いお言葉ありがとうございます。では、早速実務担当者に確認して参ります。リューデリッツ伯、無作法をお許しください。」

そう言うとザイトリッツは足早にドアに向かいだした。ちょっと待て、人工天体の建設資材など本当に集めきれるのか?安請け合いして大丈夫なのか?私が呼び止めるか迷っているとドアの手前でザイトリッツが振り返った。

「父上、計画の内容はご承知でしょうが、RC社でお力添えするとなると私も実務を担当する必要がございます。士官学校へのご説明をよろしくお願いいたします。」

そういい終えるや否や部屋を出て行った。

「出来たご子息じゃなあ。今回の要塞建設は勅命じゃ。士官学校も配慮してくれるじゃろうし、私も口添えしよう。心配には及ぶまい。」

リューデリッツ伯が私を気遣う言葉をかけてきたが、心配のし所がズレている。私は無難に士官学校を卒業してくれればよかったのだ 
 

 
後書き
一部の方には残念なお知らせかもしれません。
現在執筆中の最新話でもヒロインは出てきてません。

暫定のヒロインはマリア大奥様(69)という事でお願いします。
 
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