稀代の投資家、帝国貴族の3男坊に転生
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21話:幼年学校の日々
前書き
そろそろ原作登場人物との接点を作っていきます。
宇宙歴759年 帝国歴450年 4月初頭
首都星オーディン 幼年学校特別寮
ザイトリッツ・フォン・ルントシュテット
「ザイトリッツ様、首席だけは維持頂かねば、このパトリック身命をとして大奥様にお詫びしなければなりませぬ。ご採点は如何でしょうか?」
「まあまあ、パトリック。従士としての役目に忠実なのも結構だが、あまり主人もプレッシャーをかけるものではないよ。」
幼年学校に入校して3年目、期初のテスト期間が終わり学内ではホッとした雰囲気が流れ始めていたが、我らが忠臣、パトリック君はそういう空気を読まずに俺に忠言してくる。そして、その度にいなしてくれるのがこの先輩だ。
「フランツ先輩ありがとうございます。パトリックも私を気遣っての事だとは分かっているのですが、毎回なので正直助かります。」
従士のフランツと同じ名前という事で、初対面から親近感を感じていたが2年先輩のフランツ先輩とは不思議と気が合う間柄だった。マリーンドルフ伯爵家の嫡男なのだが、あの場での呼び名にするなら良識って位、まともな良識人だ。
将来的に人を率いる立場になるという事で幼年学校に入学したが、卒業後の進路は士官学校ではなく、地方自治に関連する学部がある大学を予定している。俺も士官学校志望ではなく、経済系の大学に進学したいが、家の都合でそういう訳にもいかないのだと漏らして以降、なにかと気にかけてくれるようになった。先輩の成績は実技は平均レベルだが、学業の方は結構優秀だ。何も問題が無ければ名門大学に合格できるだろう。
「パトリック、お前の主人はどうせ首席だ。俺もザイトリッツの日に今回は参加できそうだ。久しぶりに旨いものが食える。」
のんきなことを言っているのは、テオドール。ファーレンハイト家の嫡男だ。ファーレンハイト家は下級貴族だが軍人を輩出してきた家柄だ。ただ、こいつはどちらかというと、俺に恩を感じて役に立てればという節がある。去年の事になるがこいつの親父が架空の投資話に騙されて、資産を失うどころか多額の債務を抱える破目になったのだ。元をたどれば黒幕はクレメンツ殿下の派閥の取り巻きだった。そこで兄貴の伝手と、テオドールの親父も軍人なので、父上の伝手も使って対処した。債務はその黒幕に押し付けたし、全額は無理だったが資産も取り戻せた。それ以来何だかんだと一緒にいることが増えた。気にするなとは言ったが、意外に律儀な奴なのだ。
「自己採点はまずまずだ。パトリック、心配をかけてすまないね。それよりテオドール、ザイトリッツの日などと触れ回っているのは君かい?後輩からもザイトリッツの日はいつですか?などと確認が来るようになったよ。俺はみんなの親鳥になったつもりはないのになあ。」
テオドールの言うザイトリッツの日とは、簡単に言うと財布は俺持ちでそこそこ旨いものを食べに行く日の事だ。きっかけは幼年学校があまりに禁欲的で、軍人の育成機関とは言え、飯もまずいし指導もキツイ。たまの休日に兄貴の紹介の店に食事に行こうとしたが、前世の小学校や中学校と比較して学友たちが不憫に思えた俺は、数人に声をかけて飯を食べに行くことにした。
とは言え、希望者全員を同席させるのは大変なので、総合成績の上位者や各学科の上位者に声をかけることにした。まあ頑張ったご褒美代わりに良いだろうと思っていたが、どこからか話が大きくなり、後輩もその対象になるようになった。今では休日ごとに同期やら後輩やらに飯をおごるのが日課になりつつある。
「ザイトリッツ、持たざる者に施すのは持てる者の役目だ。今までは実家で祝い事がある時に食べたものが一番美味だったが、それを吹き飛ばすような物を覚えさせたのだ。多少は責任を取らんと、反乱が起きるぞ!任官したとしても佐官クラスまで昇進せねば自力で行ける店でもないし。」
まあ、おごるのは構わないのだが、ルントシュテット家では父上が予備役になり領地経営をおばあ様と交代した。その結果、オーディンにはおばあ様がいる訳だが休日の決まり事として晩餐を一緒に取ることになっている。つまり同行者たちは人の財布を気にせずにはち切れんばかりに料理を平らげるが、俺は自重しながら食べている。いまいち納得しきれないのも事実だ。
「まあ、後輩たちとの交流の場を持てていると思えば良いとは思うけど。」
「テオドール殿、ザイトリッツ様はRC社の事もあり、既にご多忙なのです。あまり予定を増やすようなことはお控えください。」
そう、この状況を踏まえてパトリックは忠言してくれている。RC社は順風満帆。増収増益の状態だが、俺の方も大筋はしっかり把握しておきたいため、勉強に割く時間が減っていた。領地の方も初等教育学校や新設した病院の運営が始まっている。さらに休日に会食となれば予習復習の時間が取れないことになる。
それとパトリックは俺が軍人を志向していないことも、うすうす気づいている様だ。俺に爺さまを重ねているおばあ様に知られるのはまずい事だし、パトリックにとっておばあ様は俺以上に絶対的な存在だ。なので、見て見ぬふりをする代わりに学年首席という実績を上げてもらうという形で妥協してくれているのだろう。
「パトリック。私もおばあ様のご期待は理解している。裏切るような事はしないさ。」
「ご理解いただきありがとうございます。お屋敷の方もコルネリアス様が任官されザイトリッツ様が顔を出さなければ、いくら貴族同士のお付き合いがあるとはいえ大奥様がお寂しいでしょうし。」
ふむ。俺の考えすぎかもな。おばあ様から屋敷に定期的に帰らせるようにとでも特命でも受けているのかもしれん。腹黒こと次兄のコルネリアスは統帥本部から軍歴をスタートした。縁はどこでつながるか分からないもので、直属の上司は紳士ことメルカッツ少佐らしい。腹黒は要領が良い方だが、メルカッツ先輩は堅物ほどではないにしてもきっちりされた方だ。配属先としては良いと言えるだろう。
長兄のローベルトは順調にキャリアを重ねており、今月から少佐に昇進した。軍部貴族の嫡男とは言え、23歳で少佐はかなりのスピード昇進だ。若手の注目株って所だろう。そろそろ婚約の話も出そうだ。こういう物はある程度固まるまで当人に知らさせることは無いが、父上と母上の所に打診は結構な数来ているはずだ。まあ、門閥貴族でなければどこと縁を結ぼうが俺は気にしないが。
婚約と言えば我らが兄貴ことフリードリヒ殿下が結婚した。お相手は派閥形成からは一歩引いている公爵家の令嬢らしい。俺の立場で公式に会うのは難しいが、ワインの知識はそれなりにあるらしい。レオも嗜みながら、一緒に美食談義を楽しんでいると手紙に書いてあった。後継者争いから下りた事を考えても、兄貴は皇族に生まれるより領地持ちの伯爵家とかに生まれれば幸せだったのだろうとたまに思う。
旨い酒や旨い食材を自分で創って、親しい仲間や領民と分かち合う。そんなことを本当はやりたかったのだろう。結婚祝いにレオの長期熟成版444年物を贈った。兄貴もかなり気に入ったらしく、フリードリヒコレクションを立ち上げて販売する準備も始めたらしい。少しでもやりたかった事の一部をお任せできていればいいが。
「ではフランツ先輩。我々はこれで。日課がございますので。」
フランツ先輩はではまた!というと離れて行った。俺たちの日課、それはフランツ教官に課されている軍事教練だ。幼年学校のカリキュラムにも肉体鍛錬があるが、あくまで必要最低限。追加で作成されたメニューをこなさないと身体が鈍るし、それがバレたときに一体どんなメニューを課されるか分からない。
そんなリスクを冒すほど俺たちは勇猛ではない。当初はパトリックと2人でしていたがテオドールもいつの間にか参加するようになったし、その他の連中も混ざることがある。これもある意味同期や後輩との交流の場になっているので感謝すべきなのだろうが。
俺たちは毎日走っているランニングコースを走り始めた。
後書き
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