空に星が輝く様に
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
55部分:第五話 部活でその四
第五話 部活でその四
「それで何がいいんだ?」
「何がって?」
「だからだよ。太宰のどの作品を読めばいいんだよ」
彼が言うのはこのことだった。太宰治と一口に言ってもその作品は数多い。短編が中心だがその数はかなりのものであるのだ。
「具体的にどれがいいんだ?」
「新ハムレットとかどうかしら」
「ハムレット!?」
「太宰はそれも書いてるの」
本当に太宰に詳しい椎名だった。
「だから。どうかしら」
「そうだな。ハムレットか」
「シェークスピアのとはまた違う」
椎名はまた言ってきた。
「だからどう?」
「ああ、じゃあ早速本屋に行って買って来る」
「あと御伽草子もいい」
この作品も出してきた。
「太宰は中期も最高にいいから」
「最後の方はどうなんだ?」
「文学的には高いけれどそれでも感動したりできるのは中期」
こう話すのである。
「走れメロスも中期だし」
「中期が一番いいのか?」
「いいけれどそれでも」
「それでもか」
しかしなのだった。
「そうか、まずは中期か」
「太宰は後期も読めることは読めるから」
「読めるのか」
「芥川と違って」
もう一人の異才の名前が出て来た。芥川に太宰は我が国の文学史にその名を残す文壇の異才である。芥川と太宰は並び称されてもいる。
「読めるから」
「芥川の最後の方ってそんなに酷いのか」
「芥川は知らないの」
「ああ、読んでるのはラノベばかりでな」
「そうなの。それで」
「それでそんなに酷いのか?」
今度は芥川の末期の作品について問う陽太郎だった。
「滅茶苦茶酷いのか」
「おかしい」
返答はここでは一言だった。
「頭がおかしくなっていってたから」
「そんなにおかしいのか」
「そう、だから気をつけて」
「ああ、わかった」
椎名の言葉に頷く。この日はかなり文学めいていた。それは部活が終わってからも一緒だった。駅前の本屋に入り太宰の本が置いてありそうな文庫本のコーナーに行くとであった。
「あっ、西堀」
「斉宮君もですか」
「ちょっと椎名に紹介されたんだよ」
このことを素直に話すのだった。
「それでなんだ」
「愛ちゃんにですか」
「太宰がいいってさ。ええと、確か」
目を上にやって言う。言われたそのタイトルを思い出しながら言う。
「新ハムレットだったかな」
「あっ、あれですか」
「知ってるのか?新ハムレット」
「はい、知ってます」
微笑んで答える月美だった。その太宰のコーナーの前での話になっている。
「いい作品です」
「それと御伽草子とか」
「あれもいいんですよ」
話す月美の声が弾んでいる。表情も晴れやかなものになっている。
「もう読んでいるだけでああいいな、って思えてきて」
「太宰そんなに好きなのか」
「はい、大好きです」
その言葉に力が入ってきていた。
「本当に」
「そうか。じゃあ俺に何かいいの薦められるかな」
「そうですね。やっぱり御伽草子ですね」
月美もにこりと笑って話した。
ページ上へ戻る