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彼願白書

作者:熾火 燐
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逆さ磔の悪魔
  ラスト・ターン

『リバースド・ナイン、反応消失!』

『みのぶ』の艦内、CICはわずかに色めき立った。
ネームレベルは確かに、目の前で撃破されたのだ。

「天龍達が仕留めたようですわ。で、次の手はいかがなさいますの?」

熊野は、半信半疑だった。
いや、疑ってなどいない。
天龍達が仕留めたのは、間違いないだろう。
そして、壬生森がこのタイミングで最大限の警戒を命じたのも、何かしら考えているのだろう。

「不死鳥が煉獄から舞い戻るその瞬間を、必ず捉えろ。」

壬生森の言うことも、わからないわけではないのだ。
ただ、彼が本当に何を考えているのか、彼が何を確信しているのか。
何に対して備えて、この結末に何を見るのか。
熊野は、そこから先がわからないのだ。

「洋上、海中、対空!全ての感覚を研ぎ澄ませ。竈の巫女の悪戯を見逃すな。」

彼は、この先に何が起きると思っているのか?
そして、その時に彼はどうするつもりなのか?
熊野は、タブレットに集積されたリバースド・ナインの情報を改めて見直し始める。
恐らくだが、正体への推察は熊野も彼と同じ結論に至っている。

CV-6エンタープライズ。

我々が戦っている、我々の時代に確かにあった、帝国海軍にとって最悪の、この群青にて最も新しき伝説。

それだけは確信を持っている。
9度の死をもってしても絶つことの出来なかった、灰色の亡霊。
それが今、私達の前に立ちはだかっているのだ。

「ブルネイに電文を。内容は『帰投せよ』だ。」

「了解!」

ブルネイを、ここで帰す?
その通信に私は困惑した。
今、まさにこれからが本番と言わんばかりの空気を出しておきながら?
いや、これは……的を減らすつもりか。

「艦長、ブルネイを護れ。彼等の上には一発たりとも落とすな。」

「はっ。各部エア、popsをGUに指定!」

『各部エア、popsをGUに指定!』

壬生森はディスプレイに映るレーダーの反応に注視する。
レーダーのノイズが消え、オンステージしている味方の全ての位置関係が見えるようになった今、彼はそこに映るはずがない幽霊を見つけ出そうとしている。
まだ、この戦いは、終わってなどいない。
彼の確証が現実になるのは、私が思うよりずっと近くの未来だった。





『darling!ネームレベルの撃破を確認したヨ!仕留めたのは蒼征の天龍!』

「こっちでもノイズが消えたのを確認した。蒼征から帰投しろ、っつー電文も来たし戻ってこい。」

『……darling、それは妙ネ。』

金剛が素直に頷くとは思ってなかった金城は、どかりと椅子に座って、水上レーダーの画面を見る。
そう、金剛の言うように、妙なのだ。

「金剛、お前もそう思うか?」

『Yes。MissionCompleteと言うのなら、彼等は何故、転舵しないネ?』

そう、一番の妙はここだ。
彼等はまだ、帰り支度をしていない。
こちらを防空射程圏内に収めた状態から、動く様子がない。

『それに彼等も帰るつもりなら、こちらに寄港する旨を連絡してくるハズネ。聞く限りデスガ、彼はそういうところを怠るような者ではないと思いマス。』

「そこだ。こいつらの違和感は!」

金城は抱いた違和感の正体に気づいた。
なぜ、無線通信ではなく電文を選んだのか。
こちらに帰れと言いながら自分達は何故動かないのか。
全ての辻褄が合った。
だがしかし、敢えてそうした原因はなんだ?
そこまで考えて、金城は金剛に改めて指示を出した。

「金剛、今すぐに総員こちらに集結しろ。対空警戒は怠るな。」

『待ってクダサイ!まだこの戦いは終わってないネ』

「そうだ。終わってない。だから、集結しろ。急げ!」

細かい説明をしていられる状況ではない。
コトは一刻を争う事態だ。
あの性悪狐、やっぱりろくなことを考えねぇ!
金城が無線のハンディを手に取り、チャンネルを合わせてスイッチを入れようとした瞬間だった。
レーダー画面にホワイトノイズが走る。
窓の外を見た金城の目には、黒く染まる空。
その空の方角、その洋上には、『みのぶ』がいる。





『SPIレーダーにノイズ!』

『ブリッジよりCIC!艦直上に深海機影多数!あまりの数に空が黒い!』

「対空戦闘、CIC指示の目標!攻撃始め!同時に回避行動!」

レーダー画面が敵影に埋め尽くされ、それぞれにトラックナンバーを割り振るも、捕捉可能限界を遙かに上回る数の敵に、途中から割り振りが止まる。

「……128機以上か。」

「狙いはこちらでしたなぁ。」

「躱しきれるかね?」

「最善を尽くしております。後は野となれ山となれ、でしょう?」

艦長の言葉に、壬生森は少しぎょっとしたかと思うと、短く笑う。
かつて、壬生森も同じことを言った覚えがあるからだ。

「なら、人事を尽くして天命を待つの言葉通りに、やれることはやっておかねばな。」

『ミサイルドーマント、至近の12機に照準!』

『シースパロー、12サルボーズ!』

艦内伝令の騒がしい中、壬生森はインカムに手を添える。
送り先は、誰だ?

「私だ。データリンクを繋ぐ……征け。」




「なんだ?あの光は!」

「わかりません!正確な距離は不明ですが、発生位置は『みのぶ』の予想針路上に近い位置です!」

漆黒の空の下、青藍の海の上、その狭間に鋭く眩い光芒。
一際大きく輝き、眩んだ目が戻ったあと、明らかに何かが変わっただろうことを確かめる。
自分達の身の回りの変化はない。
相変わらず彼方の空には黒い群れ。
あの閃光だけが消えた。
何が起きたのか、それは指揮艦護衛に就いていたサラトガからの緊急伝で知ることになる。

『提督、Emergency!Emergency!』

「サラトガか!?どうした?」

『航空隊が!配備していた航空隊がいないんです!上空警戒のInterceptorもそっくりそのまま!』

「なんだと!?ちゃんとポケットを確認しろ!ホントに艦載機が全部なくなってるんだな!?」

「提督!金剛、武蔵から報告。艦隊所属の航空機がそっくりそのまま全て消えたと!」

金城はその報告に、目を丸くした。
航空機が、全て消えた?
そんなオカルト染みたことが現実に起こるものかと。
しかし、それが現実であると、ついに目の前で実際に思い知らされる。

「大変じゃぁあ!提督ぅうううう!!偵察機がどっかに消えたのじゃああああ!!!」

そう叫びながら金城のいるブリッジまで駆け上がってくる利根の声。
現実を受け入れるしかない。
だが、これはいったいどういうことだ?
リバースド・ナインは斯様なことまで出来るというのか?
そもそも消えた艦載機はどこに?
いや、そんなことを論じている場合ではないか。

「全艦、対空警戒!今、空襲されたらひとたまりもない!鎮守府まで反転、急速離脱!」 
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