レーヴァティン
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第六十八話 女枢機卿その九
「その為の準備にです」
「手間暇がかかるしな」
「お金もです、しかも犠牲が多く出ます」
「だからあまりしない方がいいな」
「百戦百勝は最善ではないです」
「むしろ下策だよな」
「はい」
その通りだとだ、夕子は彼に話した。
「ですから」
「出来るだけな」
「はい、戦うよりもです」
「外交で取り込んでいくべきだよな」
「そうした方がいいです、ただ」
「ただ?」
「禍根は残さないことです」
戦わないに越したことはないにしてもというのだ。
「戦わずして手に入れれば最善ですが」
「毒はそのままだとな」
「身体に回りますので」
そうなってしまうからだというのだ。
「それは取り除くべきです」
「やっぱりそうだよな」
「はい、毒が中にあるならば」
「その毒を取り除く為にな」
「戦も必要です」
こうも言うのだった。
「それが薬で癒されるものであればいいですが」
「除くしかないとな」
「そうするしかありません」
「その場合は戦もか」
「止むを得ないことです」
「そうだよな、しかしな」
夕子の言葉をそこまで聞いてだ、久志は考える顔で言った。
「あんた坊さんの割にな」
「戦を仕方ないと言うことはですか」
「戦を否定しないんだな」
「私はモンクなので」
夕子は久志に自分の職業のことから話した。
「時として武器を持つこともありますので」
「だからか」
「はい、戦もです」
それもというのだ。
「選ぶのです」
「そういうことか」
「左様です」
「それでか。しかし政も学んできたのはわかったよ」
今の夕子の言葉でだ、久志もそのことはわかった。
「そこは流石に坊さんだな」
「何故神に仕える者が長く政も行ってきたか」
「知識があったからだよな」
「はい、学問を積んで」
そのうえで政を知っていたからだ、だから殆どの国で聖職者は長きにわたって政治家でもあったのだ、リシュリューにしても枢機卿であったし後の世の外交官タレーランも僧籍にあったことで知られている。
「そうでしたので」
「政もやってたよな」
「そうでした」
「政教分離っていってもな」
「それは最近のことです」
あえて言うなら近代民主主義からのことだ、政治が宗教に関わるのではなく宗教が政治に関わるのを防ぐ為だ。
「特定の思想に政治を壟断されない為に」
「そうした考えになってだよな」
「聖職者は政から遠ざけられましたが」
それがというのだ。
「それは長い間違いました」
「そうだよな」
「はい、聖職者は学んでいて知識があったので」
「政にも関わっていた、そしてか」
「私もです。少しですが」
このことは謙遜して言う夕子だった。
「知識はあるつもりです」
「そういうことなんだな」
「はい」
その通りだとだ、夕子は久志に答えた。
「そちらでもお力になれればと考えています」
「それじゃあ宜しく頼むな」
「こちらこそ。それでこれからですが」
「ああ、十一人目を探さないとな」
残り二人、そのうちの一人をというのだ。
ページ上へ戻る