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スナイパーになった訳

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第二章

「それで由紀スナイパーだけれど」
「何でスナイパーになったの?」
「接近戦も得意なのに」
「むしろそっちの方が好きなのに」
「スナイパーって接近戦というか前線で戦うより大変じゃない」
 最前線で敵と対峙して塹壕や基地の中に隠れて銃撃を行ったり突撃を行ったりする場合もというのだ。
「撤退の時はいつも後詰だし」
「自分は最後まで戦って逃げるでしょ」
「だから逃げるの大変だし」
「いそうな場所に真っ先に爆撃受けるし」
「あと砲撃も行われるじゃない」
 狙撃されては敵としてはたまったものでない、その為敵も味方もまずはそうした場所から攻撃されるのだ。
「逃げる時も捕まりかねないし」
「捕まってあっさり捕虜になれればいいけれど」
「敵も色々だしね」
「おかしな奴もいるから」
 それでというのだ。
「女だてらに狙撃兵だと」
「結構大変でしょ」
「前線で戦う方が気が楽でしょ」
「死傷率実は案外変わらないし」
「寒い場所に何日もいたりとかするし」
「撃ったらすぐに逃げるし」
「わかっているわ」
 由紀は友人達の言葉に無表情な声で答えた。
「私もね、なる前から」
「それでもなの」
「スナイパーになる道選んだの」
「そうだったの」
「ええ、全部わかって」
 そのうえでというのだ。
「やっているわ」
「じゃあそうした辛いこともなの」
「構わないの」
「何日も寒い場所にいても」
「雨や雪が降ってもそこにいたり」
「銃も守って」
「おトイレだって大変なのに」
 何日も同じ場所にテントも張らずに敵を待っているのだ、その中では食事も用足しも実に大変なことだ。
 男でもそうだ、ましてや女なら尚更なのだ。
「しかも特によ」
「さっき私達も言ったけれど逃げる時よ」
「その時が物凄く大変なのに」
「後詰だから逃げ遅れる可能性高いし」
「爆撃や砲撃も来るし」
「前線もそうだけれど」
「それでもね」
 また言う由紀だった。
「私はスナイパーでいるわ」
「どれだけ辛くても」
「前線で歩兵やりより辛くても」
「それでもなのね」
「ええ、そうしていくわ」
 こう言ってだ、そしてだった。
 由紀は狙撃兵であり続けた、任務を黙々とかつ着々とこなしていった。学生生活もその合間で過ごしている様なものだった。
 この時もそうだった、今度は攻勢に出る友軍の援護で山に入りそこから敵兵を次々に狙撃していた。
 場所を次々に変えつつ一人また一人と撃っていく、その時に。
 使っている狙撃銃を見た、そしてその銃を受け取った時を思い出していた。
 この時由紀はまだ中学生だった、まだ兵士になる直前で今まさにどの兵種に志願するかを決める時だった。
 その時部活の先輩、もう戦っているその人に銃を見せてもらって言われたのだ。
「いい銃だろ」
「狙撃用の銃ですか」
「ああ、あたしは狙撃兵だろ」
 綺麗な先輩だった、大人びていて明るい顔立ちの。由紀はこの先輩によく可愛がってもらっていたのだ。
「そうだろ」
「はい、前も戦場に出られていましたね」
「そうだよ、けれどな」
「けれどですか」
「実はこの前目をやられたんだよ」
「えっ、目をですか」
 見れば先輩の目は何もない、奇麗なままだ。
 それでだ、由紀は先輩の今の言葉に怪訝な顔になって言い返した。
「見たところ」
「網膜剥離になったんだよ」
「網膜剥離ですか」
「手術受けるさ、今度」
「そうですか」
「それでもな、もう目がそうなるとな」
 網膜剥離、この病気になるとというのだ。 
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