歌集「冬寂月」
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五十六
頽れし
花そ虚しき
夕影に
風の揺らすは
草もこゝろも
道端の立葵が枯れ、地面へと倒れていた…。
大きな淡いピンクの花が誇らしげに咲いていたが…いつの間に朽ちたのだろうか…。
夕の朱い西日に、頽れた立葵と自分が重なる…。
私もこのまま朽ちてしまうのだろうか…と。
柔らかな風が頬を撫で…辺りの草をざわめかせた…。
それは心さえもざわめかせ…ふと、あの人の顔が頭を過った…。
白雲の
波間を行くや
夕風よ
人の波間の
寄る辺なき世に
夕空に、波間を思わせるように白雲が広がる…。
そんな空を気儘に吹き抜ける風…。
お前は何を思うでもなく…ただ、自由なのだな…。
地の人波は侘しく…寄る辺もない…。
その世界で、私はどう移ろえば良いものだろう…風よ、教えてほしい…。
あの人と共に在れない世で…私はどうしたら良いのだろうな…。
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