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歌集「冬寂月」

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五十五




 言もなく

  想ひぞ知るや

   百日紅

 咲き乱れては

     我なぐさむる



 伝えることもなく…置きどころのない片割れの恋…。

 その心の内を知ってか知らずか…紅き百日紅の花が鮮やかに咲き乱れる…。

 寂しさ…悲しみ…苦悩…それが何だと言う様に、夏空へと咲き誇る…。


 まるで私を慰めるかのようで、少しだけ…苦笑した…。



 忘らるゝ

  わが身ぞ思へ

   露草の

 青き花にそ

     人を思へば



 忘れ去られゆくだけの私…老いて死にゆくだけと知れど、何と虚しいことだろうか…。

 露草よ…そんな私のことを、哀れんではくれまいか…。

 お前のその青い花を見ると、古里であの人と共にいた時を思い出してしまうのだから…。



 
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