汝(なれ)の名は。(君の名は。)
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03図書室
山手家、猛の家
県内の試合だったので日帰り出来て、剣道場も営んでいる祖父に県大会優勝を報告し、夜の道場での練習にも欠かさず出席した。
「よくやった。しかし、勝って兜の緒を締めよ。幸運の裏返しに思わぬ所で災厄が降りかかるかも知れん。交通事故、高い場所からの飛来物、お主を暗殺しようと思っている敵、陥れようと待ち構える女があると思って、あらゆる備えをして行動せよ」
「はい」
跡取り息子を事故で亡くしてから、異様なほどの警戒心を持ち、同じことを要求される。
軽く挨拶と礼を済ませ、防具を着けて竹刀を交える。時には木剣、真剣を用いての稽古もさせられるが、全て平常心を保って相対する。
「常在戦場、背後よりの不意打ちにも対応するのだ」
「はい」
どこかの「〇×オリンピックで金メダルを取って、国民栄誉賞を頂くのじゃ」みたいな、下品で無目的に孫娘を鍛えて、実の父親を投げ飛ばさせて一家離散。自分の息子を放浪の旅に出させたクソジジイと違い、自分の命を守れるよう、あらゆる外敵から自らと子を守れる人物として、孫を鍛え上げた祖父。
その口から発せられる言葉には、一度も間違いや嘘が無く、憶測による戯言も無かったので、尊敬し、心酔し、その愛情と剣の技の指導を受けられる身を愛しく思えた。
日常生活でも手刀が飛んできて、受けきる事ができなければ、心身を鍛えるために五穀を断って生活をさせられたり、プロテインやジムトレーニングを使用した、近代スポーツ的な肉体構築も止められる。
集中力を高めて気を練り、心を澄ませておくので、勉学にも集中でき、長時間の暗記を使用せず、集中を高めて一読するだけで頭の中に焼き付けることが可能なので、目を閉じれば数学の公式であろうが何であろうが思い出せる。
友人から「生きたカンニングペーパー」と言われるが、まさにその通りのことができる。
「キアアアエエエエッ!」
「メエエエエエエエエンッ!」
まだ若く気概が先走り、先の先を取ろうとしたが、気の流れや足運びを読まれ、後の先を取った祖父から擦れ違いざまに一瞬で面に打ち込まれた。
太刀筋も良く、足の運びも切っ先の速度も、自分の方が早くなったはずなのだが、まるで時間を超えたように祖父の竹刀が早く到達して一撃を食らった。
もし真剣であったなら、兜を割られて脳幹まで切り裂かれる傷である。
正面から打たれ、頭頂を叩かれたはずなのだが、毎回後頭部に衝撃を受ける。
竹刀なので切っ先が曲がって後頭部に衝撃が走り、気のような物も打ち込まれた。
その正体は、竹刀全体のしなりを用いた、曲がり、曲げを用いた技なのだと思っていたが、自力では竹刀を10センチ以上しならせる手段を思い付けなかった。
「参りました」
県大会優勝者でも、子ども扱いで討ち取られ、双方とも汗一つ流さず夜の稽古を終えた。
ダラダラと集中を欠いて、汗を流して持久力も付けるための鍛錬は、道場の練習生や剣道部員、師範代とでもできる。
しかし祖父との対戦は一期一会、一刀一会なので、斬られた後は引き下がって、目標を持って鍛錬を続ける。
以前なら真剣での寸止めが行われていたが、祖父の腕と目の衰えにより中断されたままになっていた。
学校
翌日、月曜には登校した猛。
小学校のように全校集めて朝礼をしたり、全生徒の前で褒められたり、発言を求められるような前時代的な集会はなかったが、教室での朝礼で軽く触れられ、県大会優勝をクラスメイトから祝福された。
「また他校とか、県内の剣道女が押しかけて来て、大変になるな」
「やめてくれ」
女は剣を曇らせ、切っ先の向きを変える。
あまりに面倒で鍛錬の邪魔になるので、押しかけ女房のような先輩で剣道部マネージャーと付き合っている事にして、先輩が卒業した後でも逃げられずに奉仕を受けている。
土日にアクセサリーや衣装として呼び出され、自慢の種で道具として女友達に自慢され、インスタ映えに利用されるのは困るが、女除けにはなった。
「ねえ、山手君、そろそろ先輩から私に乗り換えようよ」
「断る」
「もう、無理しちゃって~」
金も女も、不要と思っている人物の所に大量に集中して殺到してくる。
「この後、自習希望者は申し出るように」
そのまま授業を受けることもできたが、3年のこの時期、下手に学習塾などの内職(別の科目)をされると困るので、成績優秀で自習希望者は、図書室での自習も許可された。
図書室
似たような連中が陣取り、各々不得意分野などの点数を上げるために努力していた。
成績優秀者なので、無駄口を叩いて遊ぶような者は居なかったが、一人だけ医学書のコーナーの脚立に乗り、そのまま立ち読みしている女がいた。
髪を両側で縛っている奇妙な髪形をした女は、何故か泣いていた。
(あれは?)
その女は昨日、控室に押しかけ、お守りを置いて行った騒がしい女だったが、とても同一人物として認識できなかった。
体幹が通り、背が高いわけでもないが芯が通っているように固く、一分の隙も無く、このまま祖父のように手刀で打ち込んでも一瞬で返し技で返され、柔で関節技でも極められるか、一本取られそうな女に視線を釘付けにされた。
「何だ、お前でも女を見ることがあるんだな、先輩と付き合い始めるまではホモだって言われてたくせに、タケルもお年頃なのか?」
「ああ……」
その指摘に対応することすらできず、もう視線を逸らすこともできない。
ずっとその女の隙を探していたが、これを一目惚れと言っても良いのなら、その分野に分類される。
シヨウも、その目線と殺気?には気付き、タケルを見た。
「おや? そなたは四葉の思い人ではないか。んん? 昨日は失敬したのう、戦の前に押しかけるとは、我からも奴に言って聞かせておく」
それは自分の体なのだが、直接話し合うのは不可能なので、このまま記憶に残すのか、手紙で残すのか、鏡に向かって言い聞かせるのか、他人事のように言った。
「君は?」
顔が同じなので気が付きそうなものだが、表情と目力と髪型が全く違うので認識できない。
ユルい飼い猫顔の四葉と、山猫や野良猫のようなシヨウでは別人。
眼付も悪く警戒心の塊で、電気も水道も無い世界で心を研ぎ澄まして、普段は目隠しして小宇宙を高めて生活しているような巫女と、だらけきった現代人を比べてはいけない。
「我が名はシヨウ、冬守の巫女じゃ。今はこの体、お主を好いておる四葉の体に宿っておる」
そこでやっと昨日、自分の控室に押しかけた、ポニーテールのバカ女なのだと気付く。
「ああ? 昨日の…」
確か、入学前からオカルト研究部にドラフト一位指名され、三顧の礼で迎えられたにも関わらず、ソフトテニス部とか、いつでも休めるユルそうなヤリサーに入ってしまった超大型新人の話を聞いていたが、その本人と対面した。
毎月、毎週のように何かに憑かれて、奇行を繰り返して心霊体質を発揮しまくり、オカルト部から茶菓子とジュースで釣られて前世の自分としてインタビュー、コックリさんとかしないでもケモノフレンズが憑いちゃって狐憑き悪魔憑きになれる少女。
しかし顔以外の、目付き、表情、姿勢、凛とした気品と言うか、挑みかかる様な燃える視線、何もかもが四葉と違っていた。
迷惑なことに、四葉の思いは周囲にバレバレであったとしても、告白も何もしておらず、お守りを渡しただけであるのに、シヨウが二度に渡って四葉の心中を告げてしまった。
「何で泣いてるんだ?」
「泣いていたのは、ここの医術が素晴らしかったからじゃ、この方法を知っていれば、幼い頃に父も母も失わずに済んだ。牛の痘瘡を患っておけば、痘瘡で死なずに済むのだな」
握り拳で涙を拭い取ると、シヨウは笑顔になってタケルを見た。
「汝の名は?」
タケルの名は四葉が知っていたが、敢えて言わせた。
「タケル、山手猛」
「ほほう、ヤマトタケルとは大きく出たな。草薙剣を振るう神州一の剣士で、大蛇をも退治したか?」
「いや、ヤマテだ」
シヨウはわざと言っているだけだが、タケルはシヨウに自分の名を覚えてもらおうと食いついた。
「よかろう、ヤマテタケル、四葉の思い人をぞんざいに扱うと、体の持ち主に怒られるからのう」
三度に渡って勝手に告白され、四葉に戻るとリスカ、クビツリ、トビオリ、ハラキリ自殺物の大ダメージ。
しかし、シヨウは猛の心臓を握り潰して、一瞬で盗み出した。
イケメン長身3高男子に媚びて来る女の淀んだ眼は数百人見たが、こんな燃えるような瞳で挑んで来る女は唯一人で、現世には存在しなかった。
紀元前、冬守神社(現代の神社は冬守大災害の隕石に破壊されて存在しない)
降りて来たのが出雲の神々でもなく、天皇家完全勝利という禄でもない神託を降ろし、さらに「神も仏も信じてない」と言い切って、イチヨウお婆さんに往復ビンタ食らった四葉は、寺の作務のような掃除仕事を言い渡された。
「お祖母ちゃん、アタシお客さんだよ、何も働かせないでも良いっしょ?」
引退した姉は、結婚して14,5歳から昭和のお母さんみたいに毎年毎年子供産んでいたので、四葉も一人背負わされ、背中にお小水とか便をスプラッシュされてしまう瞬間を、今か今かと恐れながら待っていた。
布のおむつも無く、紙オムツとか存在しないし、まだ紙が開発されていない。
中国みたいに股の所が開いてるベビー服と同じで下半身丸出し。藁製のスカスカでダダ漏れのオムツカバーと、使い古したボロ布がマジノ線でジークフリートライン。
もし漏らすのに気が付かないで大きい方を噴火されると、背中から腰までが雪崩式フランケンシュタイナーで山体崩壊、溶岩流がルビコン川を渡ってしまい大事故。
風呂に飛び込んで洗わないと匂いが取れないのに、風呂が存在しない時代。
川に飛び込んで洗濯するしか無いが、体がシヨウではなく、もし四葉だと感染症寄生虫アリアリで、「淀川の水飲んで腹ららくらり」、水あたりで即死する。
ブラジルGPに遠征した日本人F1ドライバー並みに下痢と嘔吐でタヒぬ。
テレビスタッフも古館さんも当たって、子供用オムツ貼り合わせて、漏らしながら実況したぐらいにタヒぬ。
右京さんも中島さんも、カーボンモノコックのバスタブの中で嘔吐しまくり。でも亜久里さんだけ無傷。
常在菌が全く違い、メキシコの英雄エイドリアン・フェルナンデスも日本の茂木に来て血便漏らすほどの大事故だったが、何故かindycartジャパンで二年連続勝利して帰った。
「姉ちゃんの赤ちゃん、漏らさないでよね?」
赤ちゃんがオムツお漏らしプレイするのは仕事である。
ボロくて汚い木製バケツとか器の上に赤ちゃん置いておきたい四葉だったが、神棚清掃用バケツなので、見つかるとイチヨウお婆さんにぶっ殺される。
(だるまさんが転んだ、だまるんさがろこんだ、達磨さんが転んだ、ダルマサンがコロンだ、達磨さんが転んだ)
とりあえず、50数える度に姉の赤ん坊を確認して、終局噴火の傾向が見られれば、即離脱して火砕流と火山弾の影響範囲から逃げようとしていた。
「シヨウ、作務に気が入っていないようだね」
シヨウ扱いでお婆さんに見咎められ、赤ちゃんが気になりすぎて、チャチな祭壇ごと破壊しそうな四葉は表の掃除に回された。
「あ、タキさんチーッス」
姉の夫で義兄と出会って挨拶?をする。四葉は古語を話しているので、もう少しマシな挨拶だが、若い者だけで通じるような話し方である。
「シヨウ、出雲の神が滅ぶというのは本当なのか?」
「あ、アタシ今、ヨツハなんですよ、シヨウって子、知りませんから」
それでも薪を拾って来て、暖炉というか土間で稗粟を煮込んだり、囲炉裏になる前の火気を扱う場所で薬草茶を煎じたりする技能は体が覚えていた。
「答えてくれっ、隠さなくて良い」
人が良いのか、善意で隠していると思われたが、双方天然で頭も良くないので、話が噛み合っていない。
長老古老のボケ老人だともっと話が合わず、古代人なので一般住人に至っては、日常会話すら不可能なほど頭が悪かった。
「はあ、未来では天皇家一人勝ちですけど、出雲の神様も出雲大社もありますよ? 小銭差し込まれ過ぎて大鳥居倒壊寸前らしいですけど」
「大鳥居が、倒壊、だと……?」
所詮古代人なので、遺伝的にも現生人類よりもっと理解力が低い。
バベルの塔の故事のように話なんか通じないし、橋本知事と話し合った私立のアホ女子高生みたいに、気になった単語だけを取り出してアスペ会話してグダグダ、そこにだけ固執する。
現代でも、大学で言うとMARCH以上でないと会話なんか不可能らしく、取説、教本、教科書一切読解不可。
IQにすると120程度無いと、政治だとか時事問題は理解不能。
国立大学出て政治学も学んで成績優秀、松下政経塾とかにも入っていて、それでも自分固有の思想信条が勝ってしまい、国会で三時間も牛歩演説してしまったり、グーグルアースの衛星画像がリアルタイムだと思い込んでいたり、北朝鮮の停戦合意破棄後の法整備を「戦争法案だ!」と言い出して、駅前で赤紙配布して「明日から徴兵制復活」とか言ってしまう、何かが欠落している発達障害で気の毒な人たちが多い。
「おのれ、朝廷めっ」
タキでも出雲の神原理主義者右派で、もうスイッチ入っちゃってるので、四葉の言葉なんか聞いちゃいない。
自分の願望とか希望的観測とかガッツリ上乗せして、自分が信じている神様だけが絶対。
四葉から聞いてもいない言葉を脳内で作成して、もっと強い単語で修飾してしまう。
現実と夢の区別もつかず「え~?そういったジャ~ン」とか言い出す女脳だけでなく、社会人でも「約束したじゃないか(一切してません)」を連発する人物は大量に存在する。
ドーパミン過多で統合失調症予備軍とか、その逆でドーパミン少なすぎて手足が勝手に動くモハメドアリさんとかマイケルJフォックスさんとかも一杯いる。
大昔の壁画のように三次元の立体も認識できずに、人間の顔が全員横向いていたり、消失点も無い絵を描く。
現代人でも教えられたり真似しているので立体を認識するが、真横を向いている犬の足を4本並べたり、足の長さ首の長さも無茶苦茶な絵を描いたり、大半の人類は現実を正常に認識していない。
会話ができる人物だけしか登場しないのは物語の中だけで、ほぼ全員が的外れな話をして、意思が伝わるようなことは有り得ない。
後書き
相手の名を問うのは、エンドロールの寸前でなければなりませんが、早漏でぶっ放してしまいました。
親友同士で銃を向けあうのも、序盤でザフトのお姫様返還の時にガンダム同士で向けあうのではなく、1期の最終回にユーフェミア様ぶっ殺されてから、両手ガッタガタ震わせながら「ルルーシューーー!」しないといけませんが、中々上手くいきません。
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