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汝(なれ)の名は。(君の名は。)

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02現代のシヨウ

 試合の翌朝、目覚まし時計で目を覚ましたシヨウは、自分が柔らかすぎる寝床の上にいるのに気付いた。
「ここはどこじゃ?」
 しかし、他人の体の中に入ったのではなく、同じ魂を共有している自分の来世の肉体に憑依しているので、自分の記憶を使用できた。
 文明の産物である時計を見て、カレンダーも見て、陰暦でもなく太陽暦なのを知る。
「元号と暦は平成とな、それすら廃れて西暦か。朝廷の奴らが勝ったのだな? 2700年も国号を変えず、国譲りがあったのは征夷大将軍に任じられた侍の時代と、明治の革命、日本(ひのもと)では市民革命は無かったか」
 頭がユル過ぎる四葉(よつは)と違い、思考回路が狡猾なシヨウは、時間軸が違うだけの同一存在なのに、別人のように頭を働かせ始めた。

 朝の支度をして、学校なる物と町中を見学するためにも顔を洗い、制服に着替える。
 もちろん髪型は出雲の神スタイルで、組紐を使って縛り付ける。
「ほう、入れ墨も体青もしていない自分の姿を見るなど、何年ぶりじゃ」
 そこで食卓で朝食のパンやコーヒーなどを、胃袋に無理に詰め込んでいる父親の姿を見た。
「おお、そなたが我が父上かっ、我が家では父が流行り病で早く亡くなってな、父上の姿を見たのは久方ぶりじゃっ」
 避難場所で祖母を亡くし、姉も就職して東京に行ってしまったので、現在は市会議員の父と暮らしている四葉。
「お前、また……」
 感が強い四葉なので、この程度の事は日常茶飯事。毎月のように何かに憑かれたり、前世の自分と入れ替わりをしている。
 井戸から自転車を搬入して戦国御伽草子の時代に行ってみたり、本当の友達が魔法少女にならないようタイムリープしたり、踏切の自転車事故をなくすよう時を駆けてみたり、アルファ世界線からベータ世界線にも跳躍したが、紀元前の自分、シヨウと入れ替わるのは始めての出来事だった。

 四葉の場合、中二病の芝居や、統合失調症の妄想ではなく「ガチ」なので、父親も霊媒体質の娘の存在を恐れた。
「なんとも旨いものだな、このパンとマーガリンと言うのは? 我らは(ヒエ)(アワ)(クリ)しか食っておらぬから、このような渡来物、渡来人しか食っておらぬだろう」
「ああ……」
 古い穀物、それも原種同然で一切食用に品種改良されていない雑穀。イモだのトウモロコシなどの南米産の穀類は勿論、稲作も西からしか伝来していない。
 それも山の上の高地や山の傾斜地では、気温や日照時間も違いすぎてコメも麦も育たない。余程品種改良されていなければ。

 三国志にも「諸葛孔明もまた書生であった、南の蜀地の麦は、北地では穂を着けなかった」と言われるように、漢中へ北伐している最中、麦を撒いて収穫しようとしても、品種が違い過ぎて穂は実らなかった。
 違う土地で更に寒冷地では、植生が違い、土壌菌も違い、蜂や虫も違い、土地も暑さも水も違い、ほんの少しの変化で実りをもたらさない。
 渡来人や中国の亡国から種籾や麦を持って来たとしても、実験的に植えて、別の土地に偶然根付いた物しか次の種籾に使えない、その歩みは牛歩よりも遅い。

「お前、そのまま学校に行くつもりか?」
「おお、そうさせてもらう」
 祖母の一葉がいた頃には、もう一度寝かせたり午前中休ませて祈祷などして憑き物を落としていた。
 姉がいた頃には手刀の一閃や真空飛び膝蹴り、(ハイキック)りで気絶させてから、背中に活を入れて気付け、と言うサイクルで憑き物を落としていたが、父にはその技術も思想も無かった。
 引き取ってから医者に見せると「多重人格ではないか?」と疑われ、その原因となる「暴力的な父親による幼い頃からの虐待で人格分裂」「母親の恋人である継父がいれば、やっぱり虐待で分裂」「実の父親や継父による性的虐待」で人格が分裂してしまったのではないかと思われ、即座に児童相談所に通報された。
 本人の面接で誤解は解けたが、市会議員程度でも政治家にそこまでのスキャンダルがあれば即座にリコールされて失職、二度と公職には就けず、被選挙権を永遠に失う。
 そこで父は、体面とか世間体を保つためにも、四葉の姉の三葉(みつは)に通報した。

 現在の女子高生らしく、防水もされていないアイフォンを持っている四葉。そこに早朝から姉の電話が入った。
「おお、姉上か、久しいのう」
 自分の体と同じなので、携帯とかスマホの操作は体が覚えている。
 紀元前の実家の姉とは、巫女を引退してからも毎日社で顔を突き合わせているが、こちらの姉とは暫く顔を合わせていない。
 東京で、恋愛に就職に職場に、都会の無縁社会やマンションの管理組合とか男関係とか現代社会に疲れ果て、ズタボロになってリスカとかスイミンヤクとか東尋坊旅行なんかしちゃったり、下手すると結婚とか婚約にも一度くらいは失敗して、バツイチになっていそうな姉。

 毎回、新海監督の、そんな特殊性癖に唖然とさせられ、「秒速5センチメートル」辺りでも、好きだった幼馴染が東京に出て恋愛体験も性体験も何度も済ませて、その間もずっとヒロインが好きで、何ならもう一人の幼馴染と結ばれてNTRしていて、最後の最後にヤル事全部済ませてから自分の所に来てくれれば良いんだとか、ヒロインの処女性に全く拘っていないと言うか、処女大嫌いな人。
 拳王様ぐらいのオトコマエで、「どれだけ汚れようとも、最期にワシの横に立っていれば良い」ぐらいの恋愛観。
 多分どこかの「未亡人下宿のピヨピヨのエプロンした管理人」とか「絶対にイケメンの元恋人とズタズタの恋愛をしていたキズモノキャラで、現恋人とは絶対に寝ないし関係を一切発展させない鬼娘」にでも悩殺されたと思われる恋愛観。
 たがみよしひさの漫画に出てくる主人公みたいに「処女とかめんどくせえだろ?」とか格好よく言ったり、ブッ刺されたらヒーヒー泣き喚く女が嫌いなのか、兄弟の小山田いくが提唱したABCDを遥かに超える、お互い他の男女を知らずに結婚して、そのままZ婚(同じ骨壺で同じお墓に入る)するのとは天と地ほどかけ離れている恋愛観。
 秒速で一般人にまで驚かれて失敗して、次回作は世間から見向きもされず、散々プロデューサーとかスタッフに注意されていながら、逆転ホームランかっ飛ばした「君の名は。」でも、3歳年上の三葉と滝は高校生では絶対に出会わさず、東京に行って就職させて、恋愛もして性体験もすっかりお済ませになられて、心も体もボロボロのズタボロの事故物件になって、良~~い具合に精神的にも腐って疲れ果てて、バツイチか出産管理や家族計画にも失敗してマジキズモノ水子の霊付きで、ジックリ熟成?して来た所で、新卒で恋愛経験も無さそうな童貞の滝と三葉が出会うという結末で、最低限そのラインだけは決して譲れなかった新海監督の異様な恋愛観が読み取れる。

「四葉、あんたまた何かに憑かれたの? それとも入れ替わったの?」
「その通りだ姉上、我は紀元前の冬守神社の娘でシヨウと申す。今、冬守は朝廷と名乗る古代の天皇家に攻められそうでな、我らの故郷は風前の灯火なのじゃ」
「何ですって?」
 三葉は、体の入れ替わりで大恋愛をして、冬守大災害から親類縁者を守って、父親の町長をぶん殴ってでも説得して町民を避難させたのも、すっっっっかりお忘れになられていた。
 いつも通りの妹は重度中二病だとか、変な趣味で誰かを心配させたい嘘芝居だと思っていて、電話から手が出せる物なら、即座に鳩尾にでも腹パン入れて失神させるか、チキンウィングフェイスロックで首絞めて締め落としてから、背中からハイムリック法か活を入れてやりたいと思っていた。
「あんたっ、いい加減にしなさいよっ、父さんや、死んだお祖母ちゃんやお母さんに、そこまで心配や面倒掛けさせて苦しめたいのっ? もう下手なお芝居はやめてっ!」
 四葉もシヨウも、姉の大恋愛を覚えていて、今も一緒に暮らしているシヨウの姉サンヨウが「タキと結婚できないなら、ここから飛び降りて死ぬっ」みたいな、海原真理で現在の上沼恵美子みたいな大恋愛をしてから結婚して、巫女職も自分に無理やり引き継がせて引退したのを知っているので、実の姉が馬鹿かアホウにしか思えなかった。
 電話口の向こうからも、当然そう思われている。
「いや姉上、(なれ)は自分でヤラカシた恋愛を、もう忘れてしまったのか?」
「ハァ?」
 円環のお断りとか、既に死んでいる迷いマイマイの八九寺さんが、あの世に連れていかれてしまう常世とかあの世の理で、自分の恋愛は完全に忘れていた三葉。
「そう言う訳で、我は過去の冬守を朝廷から守る手立てを探さねばならぬ。(なれ)は今回役に立ちそうにないから、用件が終わればまた会おう、さらばじゃ」
 シヨウは早々に電話を切って、手慣れた様子で首から下げたスマホを胸ポケットに入れた。
「では父上、名残惜しいが我は故郷を救う算段をせねばならぬ、また会おう、サイチェンでハバナイスデイじゃ」
 シヨウは四葉のカバンを持って学校に向かった。
 助力を得られる友人を探し、いなければ早々に飛騨の図書館にでも行って冬守の資料が無いか資料を調べ、無ければ国会図書館に突撃する。
 それでも方策がなければクレヨンしんちゃんでも誘拐していって、両親と車とシロをアッパレ戦国時代に呼び寄せるしかない。
 イジリマタベイとか草彅剛ポンで地デジ化。警官に車ぶつけて逃走した稲垣メンバーと同じで、もっかい「これから僕がテレビで見られなくなります」の辞めジャニの人は冬守には居ない。

 学校
「おお、友柄共、息災であったか」
 昨日はカラオケパーティーで、センパイファンクラブ祝勝会?だったので、クラスメイトとも大いに飲んで(ジュース)騒いだ。
「あれ? あんたまた何か憑いちゃった?」
「今月、もう二度目よ」
「そうか、迷惑を掛けるな。我が名はシヨウ。紀元前の冬守の巫女、ヨツハの前世と霊が入れ替わっておる。我が故郷に天皇家の祖先が攻め込んで来るようでな、どうにか追い散らす算段をせねばならぬのじゃ、合力を願う」
「「「…………」」」
 呆れ果てて絶句する一同。女子高生に天皇家の軍勢を追い払う能力はなかった。

「じゃあ、これなんかどう?」
 クラスメイトがスマホで検索して見せたのは、ファーストキスから始まるストーリーで、使い魔とか陰獣の(たぐい)を呼び出すはずが、人間でガンダールブを呼んでしまった虚無(セロ)の魔法使いの話だった。
「うむ、爆炎の魔法使いで「るーしぇ君」でルシフェルとか、ディアブロを呼んで異世界の魔王とドレイ契約をするのだな」
「スマホ一個持ってるとニンショウとかケイヤク、カンタンらしいよ~?」
「そうなのか」
 何やら最初は着替えや入浴を見られて、生徒会長で最優秀生徒で爆炎の魔法使いが、ドレイくんとか最弱最強の竜騎士(ドラグナー)に敗北して弱みを握られて焼き印とか見られ、「兄さん、やってくれましたね?」したり、女だらけの学び舎で男が一人だけ入学するような経緯があり、タカビーなお嬢様の鼻をへし折ってから懐かれたり、同室の男は実は男装の麗人で女だったり「一夏のエッチ」で、「俺の嫁」宣言した女が夜這いに来ていて朝に素っ裸のまま関節技食らったり、幼馴染1と2で争ったり、夏休みにはノーアポイントで一夏の実家に「来ちゃった」しないとイケナイらしい。

(ダメだこいつら、早く何とかしないと)
 シヨウは授業をサボって図書室に行き、調べ物をしようとした。
 
 

 
後書き
 映画も、主題歌を発注してタイアップ取る時に「前世」がキーワードだったようですが、尺が長すぎて大幅にカットされたか、現代の男女がスマホで通信して恋愛して建設会社に就職しようとするとCMの仕事とスポンサーでも増えたのか、「前世」はカットされたようで、大元のストーリーではどちらかが過去の人物だったのかもしれません。
 
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