ノーゲーム・ノーライフ・ディファレンシア
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第6話 狂うという選択肢
────なぜ、泣くんだ?
なんで、泣かないんだよ。
────泣く必要がどこにある?
お前には、罪悪感はないのか?
────実害を与えたわけでも無いのに?
……もういい、シグ。お前には分からないだろうさ。
────そうだな。
────そろそろ、俺に戻るぞ。
……好きにしろよ、クズ野郎。
少年は、やがて涙を枯らした。
泣き止んだ少年は再び狂う。勝つために、失わない為に。
再び『シグ』となった少年は────昏く嗤って、次の策を編み始めた。
時は変わって、エルキア某所。そこには、シグと吸血種の少女────訂正、少年プラムが対峙していた。
「……それでぇ、ボクに一体何の用ですぅ?」
「ああ、単純な頼み事だ。『 』を裏切って、俺についてくれ」
またある時ある場所。シグと森精種の少女が、テーブルを挟んで対談していた。
「この私をぉ~、布石に使うとぉ?何のつもりかと、問うて宜しいのですかぁ?」
「ああ、『 』を倒すために布石になってくれ。損はさせない」
────即ち、シグの目的は協力者の作成だった。
だが、話を持ち掛けられた二人の返事は、奇しくも同じだった。
「「勝手に一人でやってて下さい(なのですよぉ)♪」」
つまらないジョークを嘲笑うような、その返事に。
シグが返す答えもまた、同じだった。
「そうだな、独りで勝手にしよう────お前らは布石、人数にカウントされるわけないだろ?」
そうして、シグは煽って誘導して、ゲームするまでに漕ぎ付け。
絶対遵守の誓いを、口にさせた────
────【盟約に誓って】、と。
「手っ取り早く行こう。ゲームは『神経衰弱』、ただしルールに多少の追加変更を加える。
・ペアの作成に失敗した場合、『失敗』としてプレイヤーにストックされる
・ペアを作るまで自分のターンは終わらない
・最終的にストックが多かった方の敗北とする
……こう変更する」
そう、シグはゲームを定めた。
「あと、ハンデとして先攻は譲ってやるよ。とっとと始めようぜ?」
そう、自前のトランプを切りながらシグは言う。その顔には、ジブリールを欺いた時と同じ────いや、それ以上の薄笑いが貼り付けられていた。
それを、プラムは訝しんだ。
……どういうことだ?魔法を使える相手に『神経衰弱』など、ワンサイドゲーム以外の何物でもない。それが理解できないほど、目の前の少年は愚鈍には見えない。
だが、フィールはこう結論づけた。
……どうにせよ、このゲームがワンサイドゲームであることに変わりはない。
どんな策を弄していようが、無意味な事と。
────そして。
机に並べられた札を、覗き見て────ミスに気づかされた。
並べられたトランプの札は、完全オーダーメイドの同じ数字が一つも無いトランプ────つまり先攻が必敗のゲームだった。
フィールは咄嗟に不正告発しようとして────だが、ある事に気付きそれを止めた。
ここで不正告発してしまえば────札を覗き見たこちらの不正行為が露呈する。
上辺だけ見ればただのトランプ、ならば告発は出来ない。フィールは、そう歯噛みした。
ならば、「14」以上の数が記された札をめくって告発すればいい。
プラムは、そう笑った。
全く────こんな子供騙し、思いつき以下の愚の骨頂だ。
────とでも、賢いお二人様は思っただろうか。シグは、2人の思考を読み切って嗤った。
────最初シグは、「ルールに追加変更を加える」と言った。
だが────説明したルールに対し、シグは「こう変更する」としか言っていない。
追加するルールを伏せていることは────自明。
そう、その追加ルールこそ。
・トランプは一枚も同じ数字がない特殊な物を使う
その文言だった。
以前、空がステフとのゲームでハトを作為的に飛ばしたように、ルールに抜け穴をつくる事の一切は禁じられていない。
また、東部連合がゲーム内容を伏せるように、ルールそのものを説明する義務さえない。
つまり────
────このゲームに、何一つとして不正はなかったのだ。
「残念だったな。“必勝のゲーム”なんざ、幾らでもあるんだよ。ルールの重要性、それをお前らはわかってたつもりでその実何もわかっちゃいなかったってだけの話だ」
一切の光が消えた目で、シグは無慈悲に言った。その顔におよそ表情と呼べる物は存在しない────もはや、狂い切って壊れたかのような歪な姿に、プラムも、フィールも何も言えなかった。
「お前らの全権を貰う。恨むなら、自分をポンコツに作った親でも恨んでろ」
シグは────幽鬼のごとき虚ろな目で、たった一言、そう告げた。
さあ、舞台は整った。手札二枚、切り札一枚。
『 』を潰すカードは揃った。仕込みは完了した。
さあ、再戦を始めよう。
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