海賊になって
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第二章
「あの、何か」
「何か?」
「いえ、海にやけに鮫が多いですね」
見れば船の周りに三角の背鰭がうようよと泳ぎ回っている。ホセは船の上からその鮫の背鰭達を見て言うのだった。
「落ちれば終わりですね」
「ああ、だから落ちるなよ」
ハイメは彼にこう返した。
「絶対にな」
「やっぱりそうですよね」
「落ちたら餌になるからな」
鮫のというのだ。
「絶対だぞ、この辺りは何処もこうなんだ」
「鮫が多いんですね」
「うようよいる、あとな」
「あと?」
「俺達はこの辺りでしか仕事をしないけれどな」
「カリブの辺りで、ですか」
「島から島にな、しかしそこから下手に出るとな」
カリブ諸島の外、そこにというのだ。
「もう大変だぜ」
「そうなんですか」
「若い時一回えらい目に遭ったんだよ」
ハイメはホセに少し真剣な顔になって話した。
「嵐で船が難破しかけて何とか助かったけれどな」
「それでもですか」
「ああ、気付いたら随分なところに流されててな」
その時乗っていた船がというのだ。
「夜の星を見ながら何とかカリブまで戻ったんだよ」
「そんなに大変だったんですか」
「もうあれだ、パンなんかな」
積んでいるそれがというのだ。
「蛆が湧いてな」
「えっ、蛆がですか」
「そうだよ、やけに大きな蛆が湧いてな。しかもそのパンが硬くなってな」
ハイメは顔を苦いものにさせてホセに話していく。
「岩みたいになるんだよ」
「パンがですか」
「ああ、店に出してるパンと違ってな」
「岩みたに硬くなって蛆まで湧いて」
「とても食えたものじゃなくなるんだよ」
そこまでのものになるというのだ。
「それでもそういうのしかないからな」
「食うしかないですか」
「塩漬けの魚だってな」
それもというのだ。
「蛆が湧いてな」
「生ものですからパンより湧きやすいですよね」
店で魚も出していたのでこのことはホセもわかった。
「余計に」
「ああ、けれどどっちもな」
「食うしかなかったんですね」
「他にないからな、もう木屑でも何でも食ってな」
「大変だったんですね」
「それで挙句に顔が青白くなって歯が落ちる奴まで出るんだよ、足がむくんでな」
「何ですか、それ」
「壊血病だよ」
この病気だとだ、ハイメはホセに話した。船の周りは今も鮫が嫌になる位に泳ぎ回っている。しかもかなり大きなものばかりだ。
「果物とか野菜食ってないとなるみたいだな」
「そうなんですか」
「ああ、それになる奴も出てな」
それでというのだ。
「もう余計にやばいことになってな」
「それこそ必死にですか」
「港まで帰ったんだよ、今もそうして消える船あるぜ」
嵐で遠くに流されてだ。
「運が悪いとそのままな」
「難破して終わりですか」
「幽霊船になるさ」
「それは大変ですね」
ホセはハイメのその話に唖然として応えた。
「本当に」
「ああ、だから嵐にはな」
「注意しないといけないですね」
「それと俺達は別に商船とかあちこちの金持ちを襲っても無駄な殺生はしないけれどな」
武器を持って襲うことはしてもというのだ。
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