カラミティ・ハーツ 心の魔物
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Ep12 迫る再会の時
〈Ep⒓ 迫る再会の時〉
「じゃ、また、フロイラインに行くの?」
目覚めてから一週間。ようやく身体の機能を取り戻したリクシアは、戻ってくれた仲間たちにそう訊いた。今回はフィオルとアーヴェイだけでなくフェロンもいる。
その問いに、フィオルがうなずいた。
「うん。落盤事故があったから遠回りして目指すんだけど、その前に」
アーヴェイが言葉を引き継ぐ。
「――リュクシオン=モンスターが、出たぞ」
「えぇっ!?」
リクシアは思わず驚愕の声をあげた。
「……ッ!」
そんな彼女の隣では、フェロンもまた、盛大に驚いていた。
己の犯した過ちにより、魔物と化した、リクシアの兄。取り戻そうとして、リクシアはその方法を、探していた。
――そのリュクシオンが、魔物と化した大召喚師が、現れた。
リクシアは息せき切ってアーヴェイに問う。
「ど、どこにっ!」
答えたのはフィオル。
「この近辺らしいよ。ウィンチェバルの王宮魔道師の徽章をつけてたって。狂ったようにローヴァンディアを攻めていたのに、不意に戻ってきたらしい」
ローヴァンディア。それは、あの戦いの日にウィンチェバルに攻め入っていた国の名前。かつてリュクシオンはそこにいた。そこを狂ったように攻めていた。彼の中にわずかに残った残留思念が、「ローヴァンディアは敵」と思い込ませ、そんな行動をとらせる。
――なのに。
「……その兄さんが、この近辺に現れた!? 回復そこそこに何なのよもう!」
ただでさえ、「ゼロ」との問題があるのにこの事態。リクシアは頭が痛くなってきた。
「兄さんには会いたいけど……まだ、何の準備も整ってないよ!」
魔物を元に戻す手掛かりすらないのに。こんな状況で再会したって、何ができるというのだろう。
そんな彼女に、フィオルが冷めた口調で問い掛ける。
「殺しちゃいけないんだよね?」
「おい、フィオル、それは当然だろ――」
「いいから。……殺しちゃいけないんだよね?」
アーヴェイの言葉をさえぎって。天使の瞳がリクシアを射抜く。
リクシアはその視線をしかと受け止めて、うなずいた。
「殺さないで。兄さんなの」
「わかった」
フィオルは首肯する。
「じゃ、今回は兄さんは下がってて」
「……フィオ?」
アーヴェイは首をかしげてフィオルを見た。フィオルは淡々と答え、
「兄さんばっかりが傷つく必要なんてないんだ。僕だって戦える。それに――」
現実を、突き付けた。
「『アバ=ドン』のないままで戦うなら、兄さんは悪魔になるしかない。でも、悪魔になったとして。相手を殺さずに戦えるかな?」
アーヴェイの赤い瞳に理解の色が浮かぶ。
「……そういうことか。承知した」
あと、フェロンさんも駄目だから、とフィオルは言う。フェロンは心外だという顔をした。
「……なんで僕まで」
「あなたは剣士だ。剣士は完調でないときに強敵と戦うべきではないよ。それじゃあ命取りだって、解ってる?」
フェロンは口を尖らせて反論した。
「じゃあそっちはどうなんだ」
「僕? 僕は完調だよ。それに僕だって近接武器は扱えるさ。遠方攻撃はシア、近場は僕。リュクシオン=モンスターがこの町を襲わないようにかつ殺さないように、ギリギリで撃退する」
言って彼は、どこからか三つ又の銀色の槍を取り出した。
「これが僕の武器。聖槍『シャングリ=ラ』だよ」
楽園を意味する名をもつそれは、確かに天使によく似合っていた。
――ということは。
リクシアははっとなる。
「兄さんと戦うの、私とフィオルしか、いないの……?」
「不満?」
「いえ、そうじゃなくって……」
災厄と化した兄さんに、たった二人で挑むのかとリクシアは思う。そんな彼女を、透徹した青の視線が射抜いた。
「不安なの?」
フィオルの言葉に、リクシアはうなずいた。
そんなこと、と彼は苦笑いして、優しく言った。
「自分を信じれば、済む話じゃないか」
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