短編達
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彼と彼女の出会い 前編
前書き
執筆予定の一次創作の主人公カップルの出会いを書きました。
必要事前情報
奏輝→主人公 幸運少年
幽人→奏輝の親友、影薄い
幸奈→ヒロイン 不運少女
「……何故俺たちは弓道の大会を観に来ているんですか?」
そう少々きつめの表情で質問したのは奏輝、この頃は温厚さが少し欠けているようで、高校生の彼から感じる印象は中学生の彼からは無かった。
「いやー、最近精度が高いことで騒がれてる弓道の選手が居るんだよ。それがこの大会に出場するって言うからよ。興味あったし最近お前外出してないから誘った」
そう返事をしたのは彼の幼馴染みである幽人、幼さが残る顔だが整っている。
「……それだけですか?」
奏輝がジト目で幽人の方を見ると本人は肩を竦めて
「ソイツが女子で美人、更にいいとこのお嬢様って情報を入手したからな!! 女のケツを追いかけ回すのが男ってもんだろ!」
「下らないですよ。そんなこと考えてるのは幽人くらいです」
渾身の一言をバッサリあっさり切り捨てられた幽人はガックリと肩を落とすが、次の瞬間にはとあるところを指差してはしゃぎ出す。それと同時に周囲もざわめき、シャッター音が鳴り響く。
「あのポニーテールのめっちゃ美人! アレが今話題の超スーパー弓道女子中学生! 桐凪幸奈!」
「幽人、いくら中学の大会だからと言ってその煩さは……あと超とスーパーだと重言になります」
「どうせ気付かれねぇんだ! 構わん! あと細かい事は気にするな!」
そんな反応をした幽人に苦笑いしながら奏輝は紹介されたその人物に目をやる。
──確かに、あの容姿で腕も良ければ騒がれますね。
黒髪で短めのポニーテールをはためかせ、凛とした表情の彼女はこの場に居る人々を魅了しているだろう。勿論、奏輝も例外ではなかった。
練習で射った矢はどれも的を的確に射抜いた。
しかしそれとは別に、奏輝は頭がチクリ、と何かを知らせるかのように違和感を示す。
「…………」
ボーッと奏輝が彼女の方を見つめる。彼は弓道に元々関心は有ったが、本日の目的とも言える少女には懐かしいような、惹かれるような何かを感じていた。
「見覚えは、無いんですけどね……」
練習を終えたのか、幸奈は弓を下げて退出していく。それまでは静かにしていた周囲の─幸奈目当てであろう─人達は彼女の話題で大いに盛り上がっていた。
「いやー美人だったなぁ……どうよ、お前の感想は?」
「そうですね。確かに見惚れる程綺麗でしたね。ああいう女性を容姿端麗と言うんでしょうね」
奏輝は率直に幸奈を見た感想を言ってから立ち上がる。
「喉が渇いたので飲み物買ってきますね」
「いってらー。荷物置いてけ。オレ居ると気付かれないから」
奏輝は財布とスマホ以外の荷物を席に置いて少し離れた自動販売機に向かった。
二台ある自動販売機の左側には弓道衣を着た少し身長が高めの少女が悩んでいるのか顎に手を当てて自販機を眺めていた。
奏輝は自然と右側の自販機の前に足を運ぶ。財布を開いて金を投入。目に入ったペットボトルのコーヒーのボタンを押す。ガコンと音がして取り出し口からコーヒーを取り出す。
立ち上がって戻ろうとするとふと右下に視線が行く。そこは小型の電子掲示板が取り付けられていて同じ数字が4つ並んでいた。
「当たりですか。運がいいですね」
奏輝は特に考えずに先程買ったものと同じコーヒーを選んだ。
「──はぁ……」
また、取り出し口からコーヒーを取ろうとしたところで、不意に左側から聞こえてきた声に奏輝は反応する。見ると、少女が取り出し口を開けたままため息をついていた。次に少女は金返却用のレバーを押すも、自販機は金を吐かない。横目で見ているため、顔は視認できない。
「仕方ないわね……」
少女は困ったような、諦めたような顔をして立ち上がる。
「あの────」
奏輝は何故かその少女を無視することが出来ず、咄嗟に声をかけた。
──────────────
桐凪幸奈という少女を一言で表現するのならどの言葉が適切だろうか。容姿端麗、才色兼備、花顔雪頬──恐らく女性を褒める言葉なら何でも似合うだろうが実際の所は違う。『不運』それが桐凪幸奈という少女を表すのに相応しい言葉だ。
その日、幸奈は何とも言えない違和感に襲われていた。普段ならば当たっても70%程の命中率、それに加えて「ダメだ」と思ったときは決まって外れていた。しかし、その日はどうだろうか。命中率100%、しかも何れもが中央に刺さっていた。
首を傾げながらも、その感覚を忘れないようにして幸奈はその場を後にした。何処からか、優しい温もりのある視線を感じながら。
幸奈は待機場所に戻ると飲み物を買いにいこうとして財布を開ける。中には150円と5000円札しか無く、幸奈は150円だけを握って自動販売機のある場所へと向かった。
金を入れる前に幸奈は自販機を見て少し考える。特に好きな飲み物も無いが、水やお茶という気分ではなない。顎に手を当てながら品を見ていると、右側に少し身長の高い少年が来た。少年はスムーズに金を投入、迷うこと無く右上のボタンを押した。
何気無くそれを見た幸奈は自分の買う飲み物を決めて金を投入、少年が買ったものと同じコーヒーを選ぶ。
しゃがんで、取り出そうとしてもコーヒーはソコには無かった。
「はぁ……」
一つ、ため息を着いて幸奈は金返却のレバーを下げる。しかし自販機は150円を飲み込んだまま、何も動作を起こさない。
──今日はいつもより運が良かったから大丈夫かと思っていたけど、やっぱり私は不運ね。
「仕方ないわね……」
金は1本分しか持ってきていなかった為、幸奈は諦めて立ち去ろうとしたその時。
「あの……迷惑でなかったらどうぞ」
右側から声をかけられた。振り向くとさっきコーヒーを買っていた少年が左手に持ったコーヒーを幸奈へと差し出していた。
少年の顔は幸奈から見たら優しさの塊のように見えた。外見は黒髪の黒目、長めの前髪が右目を隠しているが、至って普通に整った顔。しかし表情がとても優しげで、見ず知らずの人間に向ける表情ではなかった。
「えっと……」
咄嗟の事に、幸奈の反応が遅れると少年は「ああ」と何か納得したような声を出す。
「気になって見たら、商品を持たないでそのまま立ち去ろうとしていたので、商品が出ず、金も返却されなかったのかなって思い、つい声を……」
少し、恥ずかしげな笑顔で少年は説明する。見ると右手にも同じコーヒーを持っている。
「い、いえ……悪いですよ」
当然、幸奈はそれを遠慮する。初対面の人だからという事もあり、物を貰うのは気が引けた。
しかし、少年は今まで関わってきた男性のような悪い空気は纏っておらず、自然と警戒心は解け、懐かしいような安心できるそんな雰囲気を彼は纏っていた。
「あー……運良く当たったんですよ、コレ。当たったのはいいんですが、二本は流石に邪魔ですし……不運な出来事に遭遇してしまった貴女に幸運のお裾分けって事でどうでしょうか?」
その善意に幸奈は返す言葉が無かった。少年は自分が気にしなくてもいいように優しい言葉だった。
「それじゃあ……ありがとうございます」
幸奈はコーヒーを受け取って胸の前まで運び、少年に微笑む。少年は顔を赤らめ、恥ずかしさを紛らわそうと頭を掻く。
「ご活躍を応援しています。桐凪幸奈さん」
「あ、ありがとうございます。どうして名前を……?」
純粋な疑問として、幸奈は首を傾げる。それに対して少年は
「今日は、友人に連れられて来たのですが、目的が貴女だったんですよ。有名人見たさ……ですかね。なので名前と容姿は先程の練習の時に知りました」
「そう……」と幸奈は納得する。少年は一回微笑み、お辞儀をしてから踵を返す。
「それでは」
「あ、あの!」
幸奈は咄嗟に声をかけた。少年は振り返り、首を傾げるが迷惑そうな顔はしていない。
「な、名前と学校を……お、教えてくれませんか?」
自然と出てきた言葉に幸奈は慌てる。言い終わってから恥ずかしがって顔を俯け「その……」や「えっと……」等言っている。
少年は驚いたような表情で少し固まっていたもののまた笑って口を開く。
「高雲中学2年生の空浪 奏輝です。普通の空に波浪の浪、奏でて輝くで空浪奏輝です。……差し支え無ければ貴女のお名前も教えて下さい」
「反雲中学2年生の桐凪、幸奈です。漢字は知っての通り……」
今度こそ、少年──奏輝は踵を返す。幸奈も顔を赤くしながらも満足そうな表情で待機場所へ向かう。
その日、桐凪幸奈は百発百中の的中率を誇り見事一位に輝いた。
────────────────
現在、幸奈は奏輝の左肩に身を預けて微笑んでいた。
「上機嫌ですね。幸奈さん」
奏輝が幸奈の頭を撫でながら愛しい人を見る目でそう言う。
「奏輝君と出会った時の事を思い出してね……あの時の私に拍手を送りたいわ。名前聞いて本当によかった」
それを聞いた奏輝はその時の状況を思い出して恥ずかしそうにする。
「あのくっさい台詞は忘れてください……地味に黒歴史……」
「忘れないわ。だって私と奏輝君の初めての邂逅だもの」
幸奈が満面の笑みでそう返すと、奏輝は少し考えてから笑顔で────
「幸奈さん、俺達が初めて出会ったのは弓道の選手と観客としての時ではありませんよ?」
彼と彼女、その初邂逅はもっと幼い頃に────
後書き
直ぐに後編もアップします
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