英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇
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第55話
~オルキスタワー・屋上~
「う、嘘だろう……?僕どころか本気を出していないとはいえ”劫炎”まで灰のお兄さん達に負けるなんて………それに”深淵”とも並ぶ―――いや、下手したらそれ以上の”魔女”の君は一体何者なんだい……っ!?」
「そのエマさんが探している”魔女”がどういう人なのかは知らないけど………”トールズ第Ⅱ分校の新Ⅶ組のクラスメイト”―――――それが”今の私”よ。」
リィン達に敗北したマクバーンを見て信じられない表情をしているカンパネルラに見つめられたゲルドは静かな表情で答えて杖をカンパネルラに突き付け
「勝った……の……?あたし達が結社の”執行者”相手に……」
「ああ………これも分校長達の”補講”によって”格上”と頻繁に戦い続けた成果だろうな……」
「まあ、あの”化物”達と比べれば、”道化師”の方はまだマシですものね。」
「クク、つーかランドルフ達よりも弱く感じたぜ?」
「フフ、それに”補講”は私達だけでなく教官達にとっても意味はあったようですわよ?」
ユウナ達がそれぞれ勝利に喜んでいる中リィン達の勝利にも気づいたミュゼはリィン達に視線を向けた。
「フウ………何とか無力化できましたわね………」
「ええ、でも………」
「恐らく今のでその気にさせたかもしれませんわ。」
「………………」
一方マクバーンの戦闘不能を見たセレーネは安堵の表情で溜息を吐き、レンとシャロン、リィンはそれぞれ警戒の表情でマクバーンを見つめていた。
「クク………クルーガーの小娘もだが、灰の小僧達も随分成長したじゃねえか………思わず本気を出しそうになっちまったが………――――お前達が本気を出さねぇならそれはそれで面白くねぇ話だ。”本気”を出せよ、小僧共。とことんやり合おうぜ………?」
「……………(彼を本気にさせる訳にはいかない。だが、このままでは……)」
全身に黒い炎を纏って立ち上がったマクバーンの言葉に対してリィンは何も答えず、判断に迷ったその時!
「――――そうはさせないわ!」
娘の声が突如、その場に響いた後何とアリサとマキアス、エマがエマの転移術によってリィン達の側面に現れた!
「はああっ………!」
「そこっ………!」
「わわっ………?」
「ちっ………!」
マキアスとアリサは現れると同時にそれぞれカンパネルラとマクバーンに対して奇襲攻撃を行い、二人の奇襲攻撃にカンパネルラは慌てた様子で、マクバーンは舌打ちをして回避した。
「マキアス、アリサ……!」
「それにエマさんも……!」
「お、お嬢様……」
「うふふ、先月のエリオットお兄さん達といい、美味しい所を持っていくなんて、やるようになったわね旧Ⅶ組も♪」
アリサ達の登場にリィンとセレーネが明るい表情をしている中シャロンは驚き、レンはからかいの表情を浮かべていた。
「Luc lunae sanctam(聖なる月の光よ)」
一方詠唱を終えたエマが魔術を発動すると燃えていた揚陸艇の炎が消えた。
「あ………」
「殆ど燃えてない……?」
「幻術の焔……そんな所でしょうか。」
「へえ、鋭いじゃない。」
それを見たユウナ達が驚いている中いつの間にかユウナ達に近づいたセリーヌがユウナ達の足元に魔法陣を発生させて戦闘によって負ったユウナ達の傷を回復し始めた。
「あ、エマさんの………」
「しゃ、喋りやがった………」
セリーヌの登場にゲルドは呆け、猫であるセリーヌがしゃべった事にアッシュは困惑していた。
「ハッ……”深淵”の身内どもか。」
「あーあ、せっかく綺麗にライトアップしたのにさ。」
アリサ達の登場にマクバーンが鼻を鳴らし、カンパネルラがつまらなさそうな表情で揚陸艇に視線を向けたその時アリサ達がリィン達に駆け寄った。
「リィン、セレーネ、無事だったか!」
「マキアス……アリサにエマたちも助かった。」
「大丈夫、シャロン……!」
「ふふっ、リィン様達とセティ様達から頂いたこの武装のお陰で何とかあの魔人の亡霊相手に無事でいられましたわ。」
「というか何気にレンだけ心配しないなんて、マキアスお兄さんったら酷いわね♪どうして、レンの事は心配してくれないのかしら♪」
「今は茶化している状況ではありませんわよ、レン教官……」
リィンとマキアス、アリサとシャロンがそれぞれ無事を確かめ合っている中小悪魔な笑みを浮かべたレンの言葉にセレーネは呆れた表情で指摘し
「―――これ以上するつもりなら私もお相手します。魔女クロチルダが姉弟子にして”緋のローゼリア”の養い子……トールズ旧Ⅶ組出身、エマ・ミルスティンが……!」
リィン達の前で魔導杖を構えたエマは膨大な魔力を解放して自分達の周囲に謎の結界を展開した。
「へえ……”深淵”に届く魔力か。エレボニアの”魔女の眷属”……たしかに大した一族みたいだね。」
「クク、内戦の時よりもそそらせてくれるじゃねえか。面白ぇ、折角だからこのまま第2ラウンドでも――――」
カンパネルラが興味ありげな様子でエマを見つめている中マクバーンがリィン達に再戦を仕掛けようとしたその時
「――――そこまでだ、結社の残党共!」
青年の声が聞こえた後第Ⅱ分校の教官陣やアルフィンにエリゼ、ヴァイス達――――”六銃士”やリセル、エフラム達―――メンフィルのVIP達、そしてオリヴァルト皇子がそれぞれの武装を構えてカンパネルラ達と対峙した!
「あ………」
「殿下!先輩達も……!」
「それにエフラム殿下達も……!」
「ランディ先輩、リセル教官!」
「ハッ、来やがったか。」
「……間にあったか。」
「大丈夫!?リィン君にみんなも!?」
自分達の登場に生徒達が明るい表情をしている中ミハイル少佐は静かな表情で呟き、トワは状況を確認した。
「だぁっはっはっはっ!ここからはオレサマ達も加勢するから、安心しろ!」
「ふふ、久しぶりの”六銃士”全員揃っての戦闘になりそうだね♪」
「及ばずながら私達も加勢します。」
「リアンヌ様達との鍛錬の成果……わたくし達もお見せいたしますわ……!」
ランドロスは豪快に笑い、パティルナは不敵な笑みを浮かべ、エリゼとアルフィンは決意の表情でカンパネルラとマクバーンを睨み
「フフ、”通商会議”に続いて今回の”交流会”でも随分とヤンチャな事をしてくれたわね?その”代償”は当然、覚悟しているわよね?」
「”通商会議”の件は結社は間接的に関わっていただけで、実際に襲撃したのは二大国でテロ活動を行っているテロリスト達だったはずですが………」
「間接的とはいえ、襲撃に結社も関わっていたのですから、ルイーネ殿の仰っている事は間違ってはいませんよ、アルちゃん。」
「戦力は圧倒的にこちらが上……――――投降した方が貴方達の身の為ですよ。」
膨大な威圧を纏って微笑むルイーネの言葉に首を傾げたアルにリセルは苦笑しながら指摘し、エルミナは淡々した様子で答えてカンパネルラ達を睨んだ。
「あの二人が結社”身喰らう蛇”の”執行者”とやらか。なるほど………話に聞いていた以上の使い手のようだな。」
「左の男はかつて”七日戦役”時リウイ前皇帝陛下とゼルギウス将軍閣下が二人がかりで討ち取り、亡霊と化した”結社最強”の”執行者”――――”劫炎のマクバーン”ですから、特に左の男には注意してください。」
「彼がリウイ祖父上とゼルギウス将軍の二人がかりで挑む必要がある程の………」
「あ、あのお二人がわざわざ協力して倒す必要があった相手って……!」
「相当な使い手なのだろうね、あの”劫炎”のマクバーンという男は。」
「それと右の少年も見かけによらずトリッキーな戦い方をしてくるので油断しないでください。」
エフラムは警戒の表情でカンパネルラ達を睨み、セシリアの助言を聞いたエイリークが表情を引き締め、アメリアが驚いている中フランツは真剣な表情をし、サフィナはセシリアの説明に続くようにカンパネルラの事についても説明した。
「すまねぇ、人形どもを片付けてたら遅くなった。道化師か―――ずいぶんと久しぶりじゃねえか。」
「あはは、闘神の息子か。妹さんを灰のお兄さん達と一緒に殺っちゃうなんて、酷いお兄さんだねぇ。」
「ああ、戦鬼の小娘の兄貴か。」
ランディに睨まれて呑気に笑いながら答えたカンパネルラの言葉を聞いたマクバーンはある事を思い出し
「兄貴じゃねえっての!」
ランディは二人を睨んで指摘した。
「マキアス君、アリサ君、エマ君達もお疲れだった。お馴染みの道化師君に……リウイ陛下達に討ち取られて亡霊と化した”火焔魔人”殿だったか。」
「クク、そういうアンタは”放蕩皇子”で、”聖魔皇女の懐刀”の隣は”帝国の至宝”の片割れだったか。ただの皇族のクセに兄妹揃って妙な魔力を感じるじゃねえか?」
「フフ……古のアルノールの血かな?そしてそちらが………噂の”六銃士”達の”筆頭”の”黄金の戦王”殿か。フフ、もしくは”好色皇”か”簒奪王”と呼ぶべきかな?」
オリヴァルト皇子とアルフィンを興味ありげな様子で見つめているマクバーンの言葉に対して意味ありげな笑みを浮かべて答えたカンパネルラはヴァイスに視線を向けた。
「やれやれ、別に”六銃士”には”鉄血の子供達”のように”筆頭”は存在しないのだが―――――この城は俺達の城であり、クロスベル帝国の”象徴”でもある城だ。礼儀は弁えてもらおうか、”身喰らう蛇”の残党共?」
カンパネルラの言葉に対して溜息を吐いたヴァイスは一歩前に出て全身に凄まじい闘気を纏ってカンパネルラとマクバーンに対して大剣を突き付けた。
「あはは……!ゾクゾクしてくるなぁ!でも、そろそろ時間切れかな?」
「クク、アンタ達とは一度、やり合ってみたかったが……目当ての連中は釣れなかったし、あくまで今日は”前挨拶”だ。」
意味深な事を口にした執行者の二人はそれぞれ転移と跳躍で揚陸艇の上に乗った。
「フフ、それじゃあ今宵はお付き合い下さり――――」
揚陸艇の上に乗ったカンパネルラは別れの言葉を告げようとしたが
「待ちたまえ。折角だ、手土産の一つくらい置いていってもらおうじゃないか。”情報”という名のね。」
「お兄様……」
「あら、オリビエお兄さんにしては珍しくまともな提案じゃない。」
「今は茶化している状況ではありませんわよ、レン教官……」
オリヴァルト皇子が二人に対して制止の言葉をかけてある提案をし、オリヴァルト皇子の提案にアルフィンが驚いている中目を丸くして呟いたレンにセレーネは疲れた表情で指摘した。
「へえ……?」
「うふふ……何が聞きたいのかな?」
「言うまでもない―――”目当ての連中”というのは何者だ?そして、どうしてこの地に来ている”深淵の魔女”どのがそこにいない?」
「あ………」
「……た、確かにクロチルダさんが来てるなら……」
「……このような状況で出てこない方ではありませんわね。」
オリヴァルト皇子の質問に仲間達と共に血相を変えたリィンは呆けた声を出し、マキアスは戸惑いの表情をし、シャロンは静かな表情で呟き
「……姉さんの気配は確かにこの地にあります。それなのにこの場所に姿を見せないということは………」
「――――もしかして”結社”と袂を分かったんじゃないの?」
「あはは―――大正解!いやぁ、メンフィルの”蛇狩り”から生き延びた使徒たちの間で”方針”の違いが出ちゃってさ!2対1で彼女の主張が退けられちゃったんだよねぇ!」
「そして”深淵”は出奔―――現在、行方知れずってわけだ。一応補足を頼まれたが………面倒くさいったらありゃしねぇ。」
エマとセリーヌの推測にリィン達が驚いている中カンパネルラは呑気に笑いながら拍手をしてマクバーンと共に事情を説明した。
「……やっぱり……」
「何やってんのよ、あの女は……」
「エマ………」
エマは疲れた表情で肩を落とし、セリーヌは呆れた表情で呟き、アリサは心配そうな表情でエマを見つめた。
「それだけじゃないだろう。”目当ての連中”――――それ以外にもいるという表現だ。サザ―ラントでは何者かの手先の”西風の旅団”が潜んでいた。だが現在、クロスベル帝国軍やクロスベル帝国軍警察、そして遊撃士協会によって猟兵関係者はクロスベル周辺―――いや、クロスベル帝国の領土内から徹底的に締め出されている。―――ならば一体、何者だい?そして幻獣や今回のような騒ぎ、その相手との対決を通じて”何の実験”をしようとしている!?」
「…………………」
(……なるほど。)
オリヴァルト皇子の問いかけに対してヴァイスは真剣な表情で黙ってカンパネルラ達を睨み、ある事に気づいたミュゼは一人納得した様子でいた。
「アハハ、さすがは放蕩皇子!」
「クク、落ちぶれたとはいえなかなか冴えてるじゃねぇか。」
オリヴァルト皇子の推測にマクバーンと共に感心したカンパネルラが指を鳴らすと二人の背後の上空に突如巨大な影が現れた!
「……!?」
「影……?」
「まさか―――」
「くっ……!」
「アルティナ……!セレーネにエリゼ、アルフィンにレン教官、それにエマにセリーヌ、ゲルドも……!」
「了解です……!」
「「「「はいっ……!」」」」
「ええ……!」
「うん……!」
「わかった……!」
「セシリア将軍、念の為にお願いします……!」
「アルちゃんもお願いします……!」
「ええ、お任せください……!」
「了解しました……!」
巨大な影―――高速型の”神機”の登場にその場にいる全員が驚いている中リィンがアルティナ達に指示をするとアルティナ達はそれぞれ結界を展開し、サフィナとリセルに視線を向けられたセシリアアルもそれぞれ結界を展開すると神機は揚陸艇を破壊した!
「こ、これは……」
「……独立時に旧共和国軍を壊滅状態にしやがった……」
「高速飛行型の”神機”ですか……」
新たなる”神機”の登場にミハイル少佐は驚き、ランディとエルミナは厳しい表情で神機を睨んでいた。
「”神機アイオーンβⅡ”―――新たに造られた後継機ってわけさ。」
「ま、”至宝”の力がねぇから中途半端にしか動かせねぇけどな。もう少ししたら色々と愉しませてやれると思うぜ?」
「フフ、別に交流会や演習を邪魔するつもりはないけどね。それじゃあ、今夜はこれで――――」
「―――ふざけないでよ!」
神機の事についての説明を終えたカンパネルラはマクバーンと神機と共に去ろうとしたがユウナの怒鳴り声を聞くと、リィン達同様驚いてユウナを見つめた。
「え………」
「ユウナさん……?」
「!待って、ユウナ……!それ以上聞いたら貴女が辛い事実を――――」
ユウナの突然の行動にクルトとアルティナが戸惑っている中、予知能力で既に先の未来が見えていたゲルドは心配そうな表情でユウナを制止しようとしたがユウナは無視して話を続けた。
「黙って聞いてればペラペラと………クロスベルで……あたしたちのクロスベルに来て勝手なことばかりして……!結社だの、エレボニア人が未だにクロスベルを認めようとしない挙句にそんなデカブツまで持ち出して!絶対に―――絶対に許さないんだから!」
「ユウナさん……」
「……ユウ坊。」
「…………………」
二人を睨んで叫んだユウナの様子をリセルとランディが心配そうな表情で見つめている中オリヴァルト皇子は目を伏せて黙り込んでいた。
「クスクス……威勢のいいお嬢さんだなぁ。クロスベル出身みたいだけどどう許さないっていうのさ?お仲間に頼らないで一人で立ち向かうつもりかい?」
「お望みなら一人でもやってやるわよ!それに――――クロスベル出身はあたしだけじゃない!”特務支援課”だっているんだから!」
カンパネルラの問いかけに対してガンブレイカーを二人に向けたユウナは”特務支援課”の面々の顔を思い浮かべた。
「今は出張しているロイドさんにルファディエル警視……!ノエル先輩にダドリーさんとリーシャさん、セルゲイ課長にツァイト君だって!エリィ先輩にティオ先輩、セティ先輩にシャマーラ先輩、エリナ先輩、ここにいるランディ先輩とリィン教官、セレーネ教官だって!アンタたちみたいなフザけた連中、支援課が絶対放っておけないんだから!」
「ユウナ……」
「……ユウナさん。」
「…………………」
ユウナの言葉を聞いたクルトが驚き、アリサが静かな笑みを浮かべている中ランディは重々しい様子を纏って黙り込んでいた。
「うふふ、特務支援課か。確かに手強い相手だけど……――――そちらの皇帝陛下の指示で、”三帝国交流会”の日が近づいて来るに連れて激しくなりつつあるエレボニアとの諜報戦に勝つ為に敢えてクロスベルから離れさせてなかったらの話かな?」
「え。」
「やれやれ…………」
「!まさかロイド達の出張やクロスベル帝国内にいながら今回の交流会の警備にエステル達が参加していない理由は……!」
「”三帝国交流会”によってできるクロスベル以外のクロスベル帝国の領土内の”隙”を補う為に………」
「………ロイド君やエステル君達にクロスベル帝国の領土に潜んでいる”情報局”の捜査、そして摘発を手伝わせているのかい……?」
カンパネルラの言葉にユウナが呆け、ヴァイスが溜息を吐いている中察しがついたリィンは血相を変え、マキアスは複雑そうな表情で推測を口にし、オリヴァルト皇子は複雑そうな表情でヴァイスに確認し
「………!」
「あ………」
「……………」
それを聞いたユウナは目を見開き、アルティナは呆けた声を出し、ゲルドは心配そうな表情でユウナを見つめた。
「ああ、そうだ………オリビエは知っているかどうか知らないが”三帝国交流会”は元々エレボニア帝国政府の提案によるものだ。『同じ”帝国”の名を持つ国同士、交流をする事でそれぞれの国同士の国家間の関係を良くすると同時に西ゼムリアの今後について話し合う』といった、”鉄血宰相”を始めとした凡そエレボニア帝国政府らしくない名目とした交流会だから、何かあると警戒しつつ、エレボニアの動きを探る為に受け入れたが………交流会のちょうど1ヵ月前あたりから、エレボニア方面からのクロスベル帝国の領土内への”不法入国者”が交流会の日が近づくごとに増え続けた。しかもエレボニア帝国政府からはヘイムダルに留学するクロスベル帝国の軍警察もしくは士官学生達の付添人に”クロスベルの英雄”も付けて欲しいという要請が出されている。トールズ第Ⅱも”英雄”の称号を持つ者達も同道させているのだから、クロスベル側も”英雄”の称号を持つ者達をヘイムダルに留学するクロスベルの者達に同道させて欲しいという理由でな。」
「そしてその要請に応えたクロスベル帝国政府は”特務支援課”出身のノエル・シーカー准佐を”特別臨時教官”としてヘイムダルに留学するクロスベルの関係者達に同行させました。ちなみに、クロスベルへの不法入国者の中には情報局だけでなく、TMP(鉄道憲兵隊)と思われる人物達の姿も確認されているとの事です。」
「現在ロイドとルファディエル警視はルーレ地方で、セルゲイ・ロウ警視とアレックス・ダドリー警部、そしてエステル達はオルディス地方でそれぞれ”不法入国者達”――――つまり、エレボニア帝国所属の諜報員達の捜査をしています。」
「フフ、実際はどうなのかしら、ミハイル少佐?確か私達が手に入れた情報では貴方の”同僚”の何人かはしばらく休暇を取っているのでしょう?」
ヴァイスとリセル、アルが説明をした後ルイーネは意味ありげな笑みを浮かべてミハイル少佐に問いかけ
「………誠に申し訳ございませんが我が国の軍の機密内の情報となる為、自分に答えられる権限はありませんが………ただ、隊員達の一部は長期休暇を取り、現在”国内での任務に就いていない事は事実”です。」
ルイーネの問いかけに対してミハイル少佐は複雑そうな表情で答えた。
「………っ………」
「………そんな………」
「…………………」
「ど、どうして……なんでそんな………」
ヴァイス達の話を聞いていたリィンは唇を噛みしめ、セレーネは辛そうな表情をし、ランディは目を伏せて黙り込み、ユウナが信じられない表情で呟いたその時
「アハハ、決まってるじゃない!――――彼らを分散させる事で、”事件”を解決させない為に決まっているじゃないか!特務支援課なんていうクロスベルの英雄、いずれ”六銃士”達を排除してクロスベルを掌握する事を考えているエレボニアの統治の邪魔でしかないからね!かと言って暗殺をしようにも彼ら自身実力がある上、異種族達の加護もあるから返り討ちに遭う事でクロスベルに”弱味”を握られる可能性が高い上、彼らの中にはメンフィルの皇族――――”聖皇妃”の血縁者までいるから下手に手を出せない!だから彼らに活躍させない為に、クロスベルの領土内を引っ掻き回す事で優秀な彼らに”不法入国者”の捜査や摘発をさせるとエレボニア帝国政府は考えて、そこの皇帝陛下は見事その策に引っかかったのさ!そして今回の交流会がエレボニアが描いた”茶番”だと気づいていたメンフィルも、そんな”茶番”に”英雄王”達――――メンフィル皇帝の直系者達を付き合わせる必要もないから、現メンフィル皇帝や”英雄王”、そして”聖魔皇女”を今回の交流会に参加させていないのさ!―――後はそうだね………エレボニア帝国政府にとって邪魔な存在である”放蕩皇子”達が”事件”に巻き込まれる事で、あわよくば邪魔な”放蕩皇子”達を直接手を下さずに始末できる上、それを口実にクロスベルに戦争を仕掛けると言った所かな?」
「………ぁ…………」
「―――なるほどね。オリビエお兄さんは当然として、オリビエお兄さんの考えに同調しているリーゼロッテ皇女に、エレボニア帝国政府の上層部であり、”鉄血宰相”の盟友でありながらクロスベルとの和平を望んでいるレーグニッツ知事は”鉄血宰相”達にとっては正直邪魔な存在だものね。」
「………そしてその”邪魔な存在”の中にはわたくしも含まれているのでしょうね………」
「アルフィン………」
「ま、さすがに悪趣味だとは思うがな。特務支援課の異種族共とは一度やり合ってみたかったんだが。」
ユウナの疑問に対してカンパネルラは可笑しそうに笑いながら説明し、説明を聞いたユウナは悲しそうな表情で呆けた声を出し、レンは静かな表情で呟き、辛そうな表情で呟いたアルフィンをエリゼは心配そうな表情で見つめ、マクバーンがつまらなそうな様子で答えたその時心が折れたユウナはその場で崩れ落ちた!
「ユウナさん……!?」
「大丈夫か……!?」
「ごめんなさい、ユウナ………”こうなるとわかっていた”のに、止められなくて………」
ユウナの様子を見たアルティナ達はユウナにかけよってそれぞれ心配や辛そうな表情で声をかけると、第Ⅱ分校の生徒達やリーゼロッテ皇女にリーゼアリア、エリィとセティ達がその場に駆けつけた!
「お兄様、お義姉様、皆さん……!」
「お兄様、お姉様、ご無事ですか……!?」
「リィン、セレーネ、ランディ、アルティナちゃんとユウナちゃんも大丈夫……!?」
「私達も加勢しに来ました……!」
「それで、相手は誰……!?――――って、ええっ!?あ、あの人形兵器ってまさか……!」
「高速飛行タイプの”神機”――――それも改良した神機ですか……」
その場に駆けつけたリーゼロッテ皇女とリーゼアリア、エリィとセティはそれぞれリィン達に声をかけ、神機に気づいたシャマーラは驚きの声を上げ、エリナは真剣な表情で分析していた。
「みんな………」
「………放たれた人形兵器も全て制圧できたか……」
「ふふっ、今度こそ幕引きかな?」
リーゼロッテ皇女達の登場を確認したカンパネルラが指を鳴らすと神機が動き始めた!
「なあああっ!?」
「あ、あれは……!」
「じゃあな、クルーガー。灰の小僧どもに放蕩皇子、六銃士も。」
「”実験”が成功した暁にはもう一度だけ挨拶に伺おうかな?――――今宵はお付き合いいただき、真にありがとうございました。」
そしてカンパネルラとマクバーンが転移で去ると同時に神機も飛び去って行った!
「………ぁ………」
「私達……夢でも見ているの……?」
「―――さて、当面の脅威は去ったが………―――どうやら三帝国の英雄に一働きしてもらう局面になりそうだな?」
驚愕の出来事に生徒達が呆けている中ヴァイスはリィンを見つめて声をかけ
「……………………」
「……くっ…………」
声をかけられたられたリィンは重々しい様子を纏って目を伏せて黙り込み、マキアスは今回の事件解決の為にリィンが動く羽目になった原因の一つが祖国である事に悔しさを始めとした様々な感情によって唇を噛みしめた。
「どうして……?」
「ユウナさん……?」
「……ユウナ………」
「ユウナ………」
するとその時ユウナが立ち上がって無意識にリィンに近づき、ユウナの様子をアルティナ達は見守っていた。
「ねえ………どうしてあたし達の誇りまで否定しようとするの……?クロスベルを国として未だ認めようとせず、戦争をしようとして……あたし達の光を………希望を……教えて。あたしたちのクロスベルが!あの自由で、誰もが夢を持てた街が!教えてよおおおおおっ―――――!!」
リィンに近づいてリィンの胸元を掴んだユウナは自身の本音を口にした後大声で泣き始め、その様子を周囲の者達は辛そうな様子で見守っていた。
~1時間後・オルキスタワー・執務室~
1時間後リィン達がオルキスタワーから撤収し、それぞれ明日に備えて休んでいる中ヴァイスは一人で執務室で端末を操作していた。
「こんばんわー、ヴァイスさん。」
「こんな夜更けにどうしたんですか?やはり”三帝国交流会”で何か不測の事態が起こったのでしょうか?」
ヴァイスが端末を操作すると端末に栗色の髪の娘と茶髪の青年の映像が映った。
「ああ、想定通り”結社”の残党が現れたんだが―――――」
ヴァイスは先程の出来事について端末に映る二人に説明した。
「………そうですか。ユウナがそんな事に………」
「全くもう……ユウナちゃんがそんな事になったのも元を正せば全部エレボニア帝国政府の連中のせいじゃない!あたし達のエレボニア入りを拒否した件といい、あたし達が今関わっている件といい、ホント碌な事をしないわね!」
ヴァイスの話を聞いた青年は重々しい様子を纏い、娘は憤慨した様子でエレボニア帝国政府に対しての文句を口にしていた。
「同感だ。―――で、今夜連絡した理由だが………”予定通り交流会の最中に結社の残党が現れた”為明日、お前達には動いてもらう。」
「!―――了解しました!ルファ姉達にも伝えておきます!」
「や~っと、あいつらをぶっ飛ばす事ができるのね!あたし達はそれでオッケーだけど、クロスベル(そっち)に助っ人はいらないの?確か”劫炎のマクバーン”だったっけ?ヨシュアの話だと相当ヤバイ”執行者”だって話だけど………」
ヴァイスの話を聞いた青年は表情を引き締めて敬礼をし、娘は口元に笑みを浮かべた後ヴァイスにある事を訊ねた。
「ああ、それについては心配ない。何せ今クロスベルには―――――」
そしてヴァイスは二人との通信を終えた後ARCUSⅡである人物に通信をした。
「――――セリカか?こんな夜更けにすまないな。早速で悪いが今朝の予告通りお前達には明日、動いてもらう事になる。明日、お前達にしてもらいたい事は―――――」
その後ある人物――――セリカとの通信を終えたヴァイスは立ち上がって巨大なガラス窓に近づいて夜景を見つめた。
「確か並行世界のユウナ達の話では、”蒼”も現れるのだったな。……上手く”事”を運ぶ事ができれば、今の内に”蒼の騎神”を排除する事ができるかもしれないな。フッ、明日は”俺達も”忙しくなりそうだな―――――」
明日の予定について考えたヴァイスは不敵な笑みを浮かべた。
~2時間後・演習地~
更に2時間後、第Ⅱ分校の教官、生徒達共に明日に備えてそれぞれ床に就いている中ミュゼは一人、デアフリンガー号から現れて人気のない場所へと向かった。
(確かこの辺りのはずですが………―――!)
人気のない場所に移動し終えたミュゼが周囲を見回し、人の気配を感じると気配を感じた方向に視線を向けた。
「――――フフ、ごきげんよう。」
「え―――――」
するとミューズが森の中から現れ、”自分と瓜二つの容姿や髪の第Ⅱ分校の制服姿のミューズ”を見たミュゼは呆けた声を出した。
「クスクス、その顔が私が驚いた時の顔なのですわね。”自分”を驚かせるなんて、貴重な体験でしたわ♪」
「むう………”そちら”ばかり、驚かせる側になるなんて卑怯ですわ。」
可笑しそうに笑うミューズに対してミュゼは頬を膨らませ
「フフ、貴女が知らないだけでそちらの世界の事情を知った私は何度も驚きましたわよ?―――まあ、それはともかく。手筈は整えましたから、後は貴女次第ですわよ?」
「ええ、わかっておりますわ。それでは通信で話した通り明日一日、私の代わりをお願いしますわね。」
ミューズの言葉を聞くと表情を引き締めたミュゼは頷いた後演習地から出て行って演習地の出入り口付近に止めてあったミューズの導力バイクを運転してクロスベルへと向かい、ミューズはデアフリンガー号の中へと入って行き、ミュゼ達に割り当てられている部屋に到着すると明日に備えて休み始めた―――――
後書き
今回の話でロイド達の出張の理由が判明しました。原作通りクロスベルで活躍できない状況のロイド達です……が!今回の話の終盤でお気づきと思いますが、ちゃんとクロスベル以外でのロイド達の活躍の場はある上今までほとんど話の中に出て来なかったエステル達の活躍もあるので、その時までお待ちください!クロスベル篇は原作の神機戦後、ロイド達を含めて様々な勢力による無双の話になって、エレボニアも結社も、そして黒の工房も全てエウシュリー陣営や空、零・碧陣営によって酷い目に遭わされると思いますwwしかも、リィン達側にはメンフィルだけでなくクロスベル側からもクロスベルでの要請が終えるまで限定のゲストキャラが二人、加勢する上片方は原作零・碧キャラです!なお、その二人が誰なのかは次回で判明します。
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