| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ガンダム00 SS

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

ep26 束の間の推理

 
前書き
ソレスタルビーイングのセカンドチーム『トリニティ』による過激な武力介入で、プランの変更に追われるスメラギ・李・ノリエガ。そんな中、エージェントの王留美から唐突に「補給のためのエージェントがくる」と言われ……。 

 
ラグランジュ1にあるソレスタルビーイングの秘密ドッグは、資源アステロイド群に紛れ込む形で存在している。ソレスタルビーイングの実働隊は、その秘密ドッグを訪れていた。

戦術予報士のスメラギ・李・ノリエガは自室で、今後のプランの変更とヴェーダの推測を照らし合わせていた。彼女の左手にはウイスキーの入ったスタンブラーが収められている。

スメラギは苦々しい顔を浮かべながら呟いた。

「ヴェーダは基本、計画の進展に拒絶を示さない……。トリニティの武力介入は、計画の障害として認知されてないのね」

3機のガンダムスローネを用いるセカンドチーム・トリニティの活動は、世界に一方的な破壊をもたらしている。武力介入という名で行われている軍の主要基地掃討は、世界のソレスタルビーイングに対する憎悪を肥大化させていた。

そのため、スメラギはプランの大幅な変更に追われている。ヴェーダは、世界における武力介入対象地域の推定・絞り込みや世界情勢の観測を行う。だが、トリニティの活動ですぐに更新されてしまい、方向が定まらないのが現状だ。

そのとき、モニターに映像通信の受信が表示された。スメラギがそれを開くと、人物の顔が映し出される。

「王留美」

相手はソレスタルビーイングのエージェントを務める王留美だった。彼女は軽く頭を下げると、いつもと変わらぬ微笑を顔に浮かべる。

『ご無沙汰しております、スメラギさん。お伝えしたいことがありまして、連絡を取らせていただきましたわ』

ーーわざわざ顔を出してまで報告することって何かしら?

チーム・トリニティによる武力介入が世界の注目を浴びていることもあり、スメラギは顔を少しだけ強張らせる。

だが、王留美の言葉は予想とは違っていた。

『現在皆さんが駐留されているラグランジュ1に、補給のためのエージェントが参ります。急遽決まったことなので、スメラギさんには直接話しておく必要があると思いまして、連絡致しました』

「あ、ああ……。そうなのね」

「彼らは補給後、すぐに出発します。そちらの活動に支障はないかと」

「すぐに連絡ありがとう。……了解したわ」

『失礼します』

王留美の顔が画面から消える。スメラギは、再び表示された自らの仕事を横目で見て、両腕を上に伸ばした。

「もうやめやめ。休憩っと」

スメラギはウイスキーを一気に呷り、スタンブラーを机に置く。そのまま部屋の壁に面したベッドに身体を沈めた。

「王留美が悪いわけじゃないけど、気になる話されたら気になっちゃうものでしょ」

スメラギはそう呟いて休憩を正当化する。それから、休みがてら王留美の話に頭を働かせてみた。

補給のエージェント。こんな急に、いったい誰なのか。

先ほど、王留美をもう少し問い詰めることもできた。だが、スメラギはあえてそれをしなかった。王留美が会話を終える直前、意外そうに目を大きくしたのを彼女は見逃さなかった。

「何か、事情があるのよね。きっと」

ソレスタルビーイングは、簡単な組織ではない。実働隊であるスメラギたちだけで成り立っているわけではないからだ。

イオリア・シュヘンベルグが200年もの年月をかけて準備した、紛争根絶のための計画。それを彼1人だけでなく、多くの科学者たちが携わったのと同じだ。組織とは、矢面に立つ人物たちだけを示すのではない。

その証拠に、セカンドチーム・トリニティがある。また、組織には『監視者』という存在があり、計画を見守る者たちがいることもスメラギは知っていた。

ーーだから、補給のエージェントは偽りの可能性もある。

ーー私には知る権利がないのか、知られてはならないのか……。

ーーそれとも、私だけじゃなくてトレミーのクルー全員が対象?

とはいえ、本物のエージェントである王留美の『口添え』がもらえる相手だ。危険な人物ではないのだろう。

「外に出てみたら……さすがに慌てるかしら」

令嬢をからかうわけではないが、スメラギは1人でフフッと微笑む。

それから、部屋を出た。

空気を読むというのは、人間関係でとても大事だ。だが、好奇心がそれに制限されるかどうかは、個人次第だ。
結果として、スメラギは好奇心に打ち勝てなかった。

だが、ちょうど通路の途中でメカニックマンのイアン・ヴァスティに出くわした。彼はスメラギの顔を見るとあからさまな動揺を顔に滲ませる。

「お、おお。スメラギさん。こんなところで何してんだい。機体の整備、いや補給なら今やってるぞ。問題ない!」

「私、まだ何も言ってませんけど……」

スメラギは苦笑しながら何十も歳上の整備士を見やる。今の彼の態度で、彼女の推察の1つが消えた。

ーートレミークルー全員が『補給のエージェント』から隔離されてるわけじゃないみたい。

イアンは『補給のエージェント』に心当たりがあるようだ。

ーー何だか面白くないの。

スメラギはそんなことを思いつつ、からかい混じりにイアンへ話を振る。

「ひょっとして、奥さん?」

「い、いや。リンダはきてないんだ。会う機会があったら呼ぶさ」

「今はダメなの?」

「ん?あ、あー。そんな顔せんでくれよ。いずれ、会う機会は設ける!だが、今はちょいとアレなんだ!」

イアンが額に玉粒の汗を浮かべているのを確認し、スメラギは一歩下がった。これ以上は悪いと判断したのだ。

「そうね。じゃあ、いつか会えることを期待してるわ」

「すまんな。だが、怪しくはないから安心してくれ」

「ええ」

スメラギはイアンと別れ、自室への道を戻る。

組織とは、複雑にできているものだ。例え、活動の中心にいるとしても。

そう納得して、ソレスタルビーイングの戦術予報士は束の間の推理を閉じることにした。

終 
 

 
後書き
今回は1stの18話(ネーナがハレヴィ家の結婚式をぶっ壊した回)と同時期に起きた、外伝『00F』込みの話でした。王留美が話していた『補給のためのエージェント』というのはでっち上げで、その正体はCBのサポート組織・フェレシュテです。CBメンバーのほとんどに存在を知られていない彼らがトレミーを訪れた理由にも、チーム・トリニティが密接に絡んでいます。

とはいえ、サポート組織の存在を実働隊のスメラギさんたちが知らないというのも変な話ですが。組織内の秘匿性やら機密保持やらが関わるのでしょうか。こればっかりはイオリア計画に想定されていなかったので、隠す理由は当人たちにしか分かりません。 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧