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カラミティ・ハーツ 心の魔物

作者:流沢藍蓮
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Ep4 古城に立つ影

〈Ep4 古城に立つ影〉

「リュクシオン=モンスター……」
 すべて滅びた国の廃墟に、立つ影が一つ。銀色の、月の光を宿したかのような美しい髪とどこまでも凍りついた、冴えわたる青の瞳。彼は青いマントを羽織り、腰には銀色の剣を差していた。漆黒のブーツが大地を踏み、土の大地はわずかに音を立てた。
 その冷たい瞳が見据えるは、異形となったかつての大召喚師。魔物となった、かつての英雄。
見る影もなくなった国に、見る影もなくなった英雄の姿。ウィンチェバル王国の千年の栄光も、たった一回の召喚ミスで完全に滅び、なくなってしまった。
「諸行無常、か……」
 呟く声は、闇に吸いこまれていった。
永遠なんて存在しない。いくら栄えている国でも、どんなに素晴らしい王様の統治する国でも、いつかは必ず滅びるものだ。滅びないものなんてない、終わらぬ存在なんて、終わらぬ事象なんて、ない。それは彼にもわかりきっていたことだけれど、いざその廃墟の前に立つと、彼にも色々と思うところがある。彼はその国の中でも、国の中枢にかかわる特殊な立場の人間だったから。
 その国も、今やない。
 彼はしばらくそこに佇んでいたが、やがて静かにその歩を進める。
「今の僕では奴を狩れないな。駄目だ、力量の差が……」
 月夜に光るつるぎを抱き、決意を秘めて、踵(きびす)を返す。
 彼はそれを何としてでも狩らなければならなかった。彼は、何に代えてもその使命だけは守らなければならなかった。
「それを、復讐としたいんだ。だから」
 強く強く、剣を抱く。
「力が、欲しい。あの魔物を狩れるだけの力が。そうしてこそ初めて、僕は奴らを見返せる」
 かつて、闇の魔力を持っていたというだけで、自分を捨てた国に。弱かったという理由だけで、自分を嘲り、蔑んだ故郷に。
 彼は復讐をしたかった。見返してやりたかった。
 今はもう、何もないけれど。何もかもが滅びてしまったけれど。彼にはそうするだけの理由があった。
「けじめを、つけよう。弱かっただけの自分なんて、もうお別れだ」
 歩き去っていくその胸元には、王族の証たる紋章があった。

   ◆

「次は、どうするの?」
 フィオルとアーヴェイとの出会いから一日。思ったよりもフィオルの回復が早かったので、リクシアたちは町を出ることにした。
 それにはフィオルが答える。
「……一回だけ、実例があるんだ。魔物を元に戻したという、正真正銘真実の、実例が。そこに行けば、何かわかるかもしれない。ほとんど知られてない話だから、詳細は現地に行かないとわからない」
 フィオルの言葉をアーヴェイが引き継ぐ。
「でも、遠い。果てしなく遠い。オレたちはハーティに元に戻ってもらいたいとは思っているが、そこに行って何か得られる可能性は限りなく低いだろう。なにぶん相当に昔の話だから、失われた部分も多い」
「実例……ある……」
 リクシアはその話を聞き、呆けたように呟いた。彼女は思う。その方法について詳しく知れば、いつか兄は戻るのだろうかと。それを世界に広めれば、悲しみは減るのだろうかと。
 何もわからない、何一つわからない。けれど、あやふやな物語でも「実例がある」のならば、リクシアは希望を抱かずにはいられない。
リクシアは、赤の瞳に炎を宿してアーヴェイを見た。
「私、どんなに厳しい道行きでも頑張るから。私はこの理不尽が許せない。だから」
アーヴェイは笑う。
「その意気だ。それくらいの闘志がないと面白くない」
 リクシアは、思いを固める。
 夢物語かもしれないけれど、立ち上がるから、立ち向かうから。
――待っていてね、お兄ちゃん。
 
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