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東方幻想探偵

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1.Jの序章/始まりの終わり

 あの事件、早苗の記憶喪失から一年がたった。
 それだけの時間がたってもいまだに記憶は戻らない。それどころかその原因、解決の目処すらったっていない。
 俺のことも、神奈子と諏訪子、蓮子さんやメリーさんたちのことさえも忘れていた。それぐらいならどれだけよっかたことだろうか。もちろんこれだけじゃあ済まなかった。
 人の記憶は一つじゃあない。意味記憶やエピソード記憶など複数に分かれているのだ。例えるならば、同じリサイクルごみでも、ペットボトルと古紙が違うように入れ物が違う。記憶喪失の前例のほとんどがエピソード記憶の喪失がほとんどで歩き方を忘れる人はほとんどいない。だが早苗は例外だった。まず歩くことができなかった。本当の意味での記憶喪失。箸の使い方から何から何まで忘れていた。医者に見せても、時間を置くしか方法はない、とのみだった。
 そして、どうしようもなく一年がたった。


「丞一さ~ん。ご飯ですよ~」
「ん?お~。早苗か。何回呼んだ?」
 あれから早苗の性格というか清純系女子高生巫女(キャラ)が変わることはなかった。だが、その代わり。
「一回だけですよ?それより丞一さん。知ってましたか?この」
 そう言うとiPadをいじり始めた。
「このッ!クックパッドというものを!」
 …………この、探求心がついてきた。記憶喪失の弊害で記憶を補填するためなのかあらゆるものに興味を持ってしまった。その興味を抑えられなくなりたびたび暴走を始めてしまうのだ。興味を持った対象のあらゆることに関して調べ終わるまで寝もしなければ何も食べやしない。飯も作ってくれない。この家の家事の主を担っている早苗が機能しないのは本当に勘弁してほしい。俺も一応できるからいいけどできなかったら家が機能しないよ?
「思ったより、食いつかないんだな。いつもだったらクックパッドについてすべてを閲覧し終えるまで梃子でも動かねーのに」
「これ以上のことを検索をしようと思うと個人情報にまで行ってしまいますから。丞一さんの言いつけ、これでも守ってるんですよ」
 えっへんと胸を張るが、
「持って当たり前の節度だ」
 早苗が記憶をなくした日に新たな能力を手に入れた。言うなれば『地球の記憶を読む程度の能力』。
 早苗の頭には地球のすべて記憶がデータベースとして存在していて、それをキーワード検索する事によって、情報を本として閲覧する。俺たちは地球の記憶という大容量のデータが負荷を与え早苗の記憶喪失を引き起こしたまたは関係があるのでは?と考えてる。
 これを使えば早苗の記憶を閲覧できるのではないかって?一回それを試したら早苗が激しい頭痛を訴え倒れた。早苗曰く、その本は鎖でグルグル巻きにされていてそれを解こうとしたらその症状が現れたらしい。
 俺らは早苗のデータベースのことを『地球(ほし)の本棚』と呼んでいる。
 まあ、なんとかこの一年を過ごしてきたわけだ。だが、この一年なにもなかったわけではない。いいことも悪いこともいろいろあった。それも説明しなければならないだろう。だが、少なくともそれはいまではない。自己完結し、ゲームコントローラーを置きやっていたゲーム『爆走バイク』を一時停止させる。そう、まずすべきは、
「で、だいぶ脇道それちまったけど。ご飯だったけ?」
 冷める前に飯を食べることだろう。











「うん。うまい」
「そうですか?」
「うん。ほんとおいしいよ。早苗。ようやく戻ってきたって感じ?」
「一年前にどっかの誰かさんのせいで記憶が吹っ飛んじまったもんねぇ」
 うぐ!神奈子め。地味に反論できないことを言いやがって。確かに俺のせいってのがなくもないのはあるが、
「……悪かったよ」
「まあまあ。丞一さんも気にしないで」
「そうそう。神奈子も本気で言ってるわけじゃないし」
「本気にしないでおくれよ丞一。あれは誰のせいでもない。強いて恨み言を言うのであれば向こうに移るのが遅れたということかね」
「だろうな」
 そういいながら白飯をかきこむ。
「そういえば、紫さんからは何の連絡もないの?」
「ああ。あの妖怪が言うには一応迎え入れはできるそうだ」
 ほう。ついにか。
「幻想郷でしたっけ?ゾクゾクしますねぇ」
 幻想郷。この世界の裏側の異世界。この世界、何ならこの日本本州と地続きなっているが結界によって憚れているために決してたどり着けることのない秘境だ。ネコ秘境探索術つけようぜ。
 その結界は時たまに緩んでその結界の境界に入ってしまって神隠しのように向こうに行ってしまうんだとか。ここまでいえばお気づきになる方もいるだろう。秘封倶楽部の目指す場所もそこなのだ。今まで足取りがつけられなかったが、つい先日のことだった。









『ひぇぇぇぇぇぇ!殺されるぅ!』
「へんなこと言うんじゃねえ!勘違いされるだろうが!」
 そう、あれはちょうどドーパント追っていた時だった。
 後でわかったことだがそのドーパントはゾーン・ドーパント。地帯の記憶を秘めたドーパントで瞬間移動を繰り返してくる厄介な奴だった。何度も逃げられながらもやっとの思いで付けた発信機でドーパントを追っているときにあいつは現れた。
「待てや!ゴラァ!」
『くう。っ!前を見ろ!これ以上俺を追いかけまわすっていうんなら目の前にいる女を俺のレーザーで打ち抜く!』
 巻き込まれた彼女は気づいたのか、こちらを見る。日傘から覗かせるその瞳には不安はなく、俺をまるで見極めようと、試そうとしている。そんな目だった。
「人質なんかとってなめてんじゃあねえぞ。この慶条丞一がビビりあがるとでも思ってんのか」
『なめる?これは予言だよ。特にあんたのそのメモリ、素早い動きするんだってなぁ。わかってると思うが俺のこのゾーンメモリも素早いぜ』
 だが行動に移すのは遅いっと。仕掛けも上々。
『一つ比べっこしてみるかい?赤の他人の頭ぶちまける覚悟があんならな』
「そうかよ。だが、」



 パシャッ!というシャッター音が聞こえる。そう、丞一があらかじめ放っておいたメモリガジェットの『バットショット』のフラッシュだ。
『ぐあああ!く、デジカメのシャッターで、目がぁぁぁぁぁぁ!』
「――――――――――ぶちまけんのはてめーのメモリの方だ!」
『Jorker!Maxim Drive!』
「ライダーキック!オオッラァ!」
 自分の身長の半分にも満たない四角錐のそれは大きく吹っ飛び空中でメモリと使用者が分離した。ああ、痛そう。


「あんた、大丈夫か?」
「あなたのおかげで何ともないわ。ありがとう」
「まったくだ。あんた一人でもなんとかなったんじゃあないか?」
「…………私は八雲紫。あなたは?」






「俺は慶条丞一。またの名を――――――――――ジョーカー」 

 
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