英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇
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第51話
リィン達がエレベーターへと向かっていると近くの部屋の突如開かれた。
~オルキスタワー・36F~
「その様子だと、どうやら話は終わったようだな?」
「あ………」
「ヴァイスハイト陛下。」
「陛下もこちらの階に?」
部屋から出て来たヴァイスの登場にティータは呆け、アルティナは静かな表情で呟き、リィンはヴァイスに訊ねた。
「ああ、そろそろ招待客が会場に通される頃合いだからな。丁度いい、リィンとユウナ。二人は少し話に付き合ってくれ。個人的に話したいことがあってな。―――なに、時間は取らせない。」
「へ………」
「それは…………自分はわかりますが、何故ユウナにも陛下が個人的に話したい事があるのでしょうか?失礼ながら、お二人にはあまり共通点はないように思えるのですが……」
ヴァイスの頼みにユウナが呆けている中、リィンは戸惑いの表情でヴァイスに訊ねた。
「どちらかというと用があるのはユウナの方だ。リィンはユウナの担任教官だから、付き添いとしていてくれるだけでいい。」
「………一体あたしに何の用ですか?」
ヴァイスの説明を聞いたユウナは警戒の表情でヴァイスを睨み
「そう睨むな。さっきアルがエリィとメサイアの件でお前達に伝言をしただろう?生憎メサイアの時間に空きは作れなかったが、エリィの時間に空きが作れたから、エリィも交えた上で話し合いの場を設ける。」
「え………それじゃあ、エリィ先輩と会えるんですか!?」
「ハハ…………―――わかりました。すまないが、先に戻ってもらえるか?」
エリィと会える事に目を輝かせているユウナの様子に苦笑したリィンはセレーネ達を見回して指示をし
「ええ、わかりましたわ。」
リィンの指示にセレーネは頷いた。その後セレーネ達と一端別れたリィンとユウナはヴァイスと共に部屋に入り、それぞれソファーに座って向かい合うと扉がノックされた。
「―――エリィです。入室してもよろしいでしょうか?」
「あ………!」
「ああ、遠慮なく入って来てくれ。」
「――――失礼します。」
扉から聞こえてきた声を聞いたユウナが嬉しそうな表情で扉に視線を向けるとエリィが部屋に入って来た。
「お久しぶりです、エリィ先輩……っ!」
「ユウナちゃん……ええ、ユウナちゃんも元気そうで何よりね。――――それと、リィンも久しぶりね。」
「ああ、実際にこうして会うのは”碧の大樹”の件以来になるから1年半ぶりだな。」
嬉しそうな様子で駆け寄って来たユウナに微笑んだエリィは懐かしそうな表情でリィンに視線を向け、エリィに視線を向けられたリィンも懐かしそうな表情で返事をした。その後リィン達はソファーに座り直した。
「それで……陛下はユウナに話があるとの事でしたが………わざわざこの場にエリィを呼んだという事は単なる再会の場を設ける訳ではなく、もしかして陛下のユウナに対する用事の件と関係しているのでしょうか?」
「へ………」
「それは………」
「まあ、遠からず当たっているな。さて………時間もないから、早速本題に入らせてもらう。―――――ユウナ・クロフォード。俺の部下がお前に理不尽な理由で迷惑をかけた事で、わざわざ外国であるトールズ第Ⅱで入学し直す羽目になった”詫び”代わりに、お前が俺に対して疑問を抱いている事を全て答えてやろう。イアン・グリムウッドとアリオス・マクレインの件で軍警察本部に怒鳴り込んだ事を考えると俺に聞きたい事があるんじゃないのか?」
リィンの推測にユウナが呆け、エリィが複雑そうな表情をしている中ヴァイスは静かな表情で答えた後真剣な表情を浮かべてユウナを見つめ
「……っ!」
「ユウナちゃん………」
「……本当によろしいのでしょうか?失礼を承知で申し上げますが、ユウナの陛下に対して思う所があるような発言と思われる発言があった事を考えると陛下を御不快にするような発言をユウナがするかもしれませんが……」
「構わん。俺は元々口調等で”不敬”扱いするような”器”の小さい者達とは違うし、この場は非公式の場で、同席している者達は気心が知れた者達のみだ。何だったら俺に対する不満も口にしても構わない。民の不満を受け止める事も”皇”―――いや為政者の務めだからな。」
ヴァイスの言葉に唇を噛みしめて身体を震わせているユウナに気づいたエリィは心配そうな表情をし、ユウナの様子を見たリィンは複雑そうな表情でヴァイスに確認し、リィンの問いかけにヴァイスは静かな笑みを浮かべて答えた。
「…………だったら、お言葉に甘えて遠慮なく言わせてもらいます…………―――――マクダエル議長は”クロスベル帝国建国”を機に自分から政治の世界から退く事を仰っていましたけど、本当は貴方達にとってマクダエル議長が邪魔だからマクダエル議長に政治の世界から退くように脅迫とかをしたんじゃないんですか!?それにクロスベルが世間からも独立を認められたにも関わらず、かつてディーター市長が”神機”をクロスベルの”力の象徴”にしたように”列車砲”をクロスベルに配備して、更にただでさえ国家間の関係が悪いエレボニアとの関係を更に悪くさせるような事――――例えばRF(ラインフォルトグループ)の兵器を倍以上に値上げさせた状態でエレボニアに売らせるような事をさせているんですか!?そして………どうしてクロスベルのみんなから親しまれていたイアン先生を処刑した上、”クロスベルの英雄”として親しまれていたアリオスさんを世紀の大悪党扱いして、更にアリオスさんの全て――――地位、名誉、家族まで奪ったんですか!?」
「…………………」
「ユウナちゃん…………」
そしてユウナは勢いよく立ち上がってヴァイスを睨んで自身の本音を口にし、ユウナのヴァイスに対する疑問を知ったリィンは目を伏せて黙り込み、エリィは複雑そうな表情をしていた。
「………――――いいだろう。まずはマクダエル議長の件から答えるつもりだが……エリィ、マクダエル議長の件についてはマクダエル議長の血縁者であるお前が説明した方が俺に対して不信感を抱いているユウナにとってはお前の説明の方が信用できるだろうから、マクダエル議長の件についてはお前が答えてやってくれ。」
「………わかりました。ユウナちゃんはお祖父様の引退は陛下達――――”六銃士”が関わっていると思っているようだけど………お祖父様の引退は1年半前のあの日―――――お祖父様がディーターおじ様による”クロスベル独立国”についての無効宣言をした後の引退宣言通り、お祖父様自身の”意志”によるものよ。――――陛下達はクロスベル帝国建国後お祖父様にもクロスベル帝国政府の上層部の一人になってもらうつもりでいて、むしろお祖父様の引退を引き留めようとしていたわ。」
ヴァイスに促されたエリィは静かな表情で頷いたエリィはユウナを見つめてユウナの疑問について答え
「…………ぇ……………」
「そこに補足する形になるが、マクダエル議長が俺達にクロスベルの後を託す事を伝えたその場にリウイもいたから、”特務支援課”の他にリウイもマクダエル議長が自らの意志で引退を決めた事を口にした事を証明できる人物だ。」
「リウイ陛下もその場にいらっしゃったのですか………」
エリィの説明にユウナが呆けている中ヴァイスの説明を聞いたリィンは驚きの表情で呟いた。
「ど、どうしてマクダエル議長は引退を決められたんですか……!?あんなにもクロスベルの為に身を粉にしてずっとクロスベル市長として二大国の圧力に対して戦って、ディーター市長が当選してからも議長としてクロスベルを支えていたのに……」
我に返ったユウナは戸惑いの表情でエリィに訊ね
「ユウナちゃんも知っているでしょうけど、お祖父様は本来だったらいつ引退してもおかしくない高齢の方よ。……本当はお祖父様は自分の後を託せる人物が現れてくれれば、その人物が自分の補佐も必要ないくらい政治家として成長すれば、お祖父様は引退するつもりだったのよ。現にディーターおじ様がクロスベル市長に就任した時もお祖父様は”議長”に就任して、おじ様を支えていたでしょう?」
「それは…………で、でもそれじゃあヴァイスハイト陛下達――――”六銃士”がクロスベル帝国を建国した時に、ご自身は引退されたんですか……?エリィ先輩の話だと、ヴァイスハイト陛下達もマクダエル議長の力を必要としていたのに………」
エリィの説明を聞いて複雑そうな表情をしたユウナは新たに抱いた疑問をエリィに訊ねた。
「……お祖父様は高齢である自分だと若い陛下達の足かせになるという理由で引退したのだけど………ひょっとしたら、自分が生まれ変わったクロスベルでも為政者を続けていれば、エレボニア帝国のように陛下達のやり方に不安や不満を抱いたクロスベルの人々がお祖父様自身を”派閥”の長にする事で”派閥争い”が起こる可能性を無くす為に、自分とは全く違うやり方でクロスベルを治めるつもりである陛下達の登場を機に政治の世界から退いたのではないかとも思っているわ。」
「まあ、実際”クロスベル問題”の元凶の一つはエレボニアと旧カルバード、それぞれの派閥に所属している議員達による派閥争いだからな。二大国の派閥争いの真っ只中で必死に諍っていたマクダエル議長だからこそ、派閥争いの愚かさやそれによって起こる”最悪の事態”という前例があるから、生まれ変わったクロスベルがそうならないように自ら退く決意をしたのかもしれないな。」
「”派閥争いによって起こる最悪の事態の前例”………―――――1年半前のエレボニア帝国の”貴族派”と”革新派”の派閥争いによって起こった内戦ですか……」
エリィとヴァイスの推測を聞いてすぐに心当たりを思い出したリィンは重々しい様子を纏って呟き
「……………もしかして、エリィ先輩があの時―――――メンフィルとエレボニアのVIPの人達を迎える場にメサイア皇女様達と一緒にいた理由はクロスベル帝国政府内で”派閥争い”を発生させない為ですか?」
「え………」
「ほう……?今の話だけでエリィがメンフィルとエレボニアのVIP達を迎えるクロスベルのVIP担当の一人として選ばれた理由の一つを察するとはな。クロスベル軍警察の就職を希望しているとの事だが、案外政治家に向いているのではないか?」
ユウナの推測を聞いたエリィが驚きのあまり呆けた声を出している中ヴァイスは興味ありげな様子でユウナを見つめた。
「さっきユーディット皇妃陛下達からエリィ先輩もメンフィルとエレボニアのVIPの人達を迎えるクロスベルのVIPの一人として選ばれた理由の推測を教えてもらって、そこから推測をしただけです。」
「え……ユ、ユーディット皇妃陛下達が?お二人は一体どんな話をユウナちゃんにしたのかしら?」
「実は―――――」
ユウナの答えを聞いたエリィは戸惑いの表情でユウナに訊ね、リィンはユウナの代わりにユーディット皇妃とキュアから聞いたエリィがメンフィルと”三帝国交流会”のクロスベルのVIPの一人に選ばれた理由の推測について答えた。
「そう……ユーディット皇妃陛下とキュアさんがそのような事を………そうね。お二人とユウナちゃんが今推測したように、私があの場にいた理由も全てクロスベルで生まれる可能性がある”争いの芽”を少しでも減らす為よ。そしてそれと同時にクロスベルの人々にクロスベルが独立し、エレボニアと旧カルバードに対して”下克上”を果たしたとはいえ、それらの出来事に驕らず、今まで通りの自由と平和を大切にするクロスベル人であり続けて欲しいという意味でもあの場に同席したのよ。」
「ハハ、エリィらしいな。」
「フッ、他にも理由があって俺達の頼みに応えてくれた予想していたが………まさか、そのような理由も含まれていたとはな。さすがはマクダエル議長の孫娘――――いや、クロスベルの様々な立場の者達と接してきた”特務支援課”を代表し、政治の世界に踏み入れた者というべきか。」
エリィの真意を知ったリィンは微笑み、ヴァイスは静かな笑みを浮かべてエリィを見つめた。
「フフ、国は違いますけどリィンとセレーネちゃんも将来政治の世界に踏み入れる事になるのですから、私だけが”特務支援課”を代表して政治の世界に踏み入れた訳ではありませんよ?」
「ハハ、言われてみればそうだな。」
ヴァイスの指摘に対して答えたエリィの答えにリィンは苦笑し
「エリィ先輩……………一つ目の質問に関しては理解して、納得もしました。次の質問に関して、お願いします。」
尊敬の眼差しでエリィを見つめていたユウナは表情を引き締めてヴァイスを見つめて続きを促した。
「いいだろう。――――とは言っても、お前達は既にイリーナ会長やユーディ達と会ってきたのだから”列車砲”やRFの件に関しての俺達の意図について説明されているのではないか?」
「ええ………ユーディット皇妃陛下達から聞いた話は正直複雑に感じていますけど、政治に関して第Ⅱ分校で学び始めた程度のあたしでも貴方達のやっている事は新興の国であるクロスベルにとって決して間違ってはいない事である事は理解しています。それでも聞かせてください……エレボニアもクロスベルの”独立”を認めたのに、何で今もエレボニアに対して厳しい態度を取り続けているんですか?確かにエレボニアと仲良くする事は以前のクロスベルを考えたら難しいかもしれませんが、今は対等の立場になったのですから、昔の事は水に流して仲良くした方がいいんじゃないんですか?」
「昔の事は水に流して仲良く、か…………まあ、お前の言っている事は正論だが………逆に聞かせてもらうが”下克上をされた側であるエレボニア”がそう簡単に”下克上をした側であるクロスベル”に対して過去の出来事を水に流して手を取り合いたいと思うか?」
「陛下、それは………」
ユウナの指摘に対してヴァイスは真剣な表情でユウナを見つめて指摘し、ヴァイスの指摘に対してリィンは複雑そうな表情をし
「そ、それは………で、でも!レーグニッツ閣下はエレボニアはクロスベルとも仲良くすべきだと仰っていました!それにティータから教えてもらいましたけど、ヴァイスハイト陛下ってオリヴァルト殿下とも仲が良いんですよね?実際、さっき三帝国のVIPの人達を紹介してくれた時も親しそうに話していましたし。だったら、エレボニアとも仲良くできるんじゃあ……!」
「無理だな。レーグニッツ知事はあくまでエレボニア帝国政府の上層部の一人であって、トップではない。オリビエに関しては正直エレボニアでの政治的立場は低い。そしてエレボニア帝国政府のトップは誰で、そのトップがかつて”西ゼムリア通商会議”にてクロスベルに対して仕掛けた事や、今もなおクロスベルやメンフィルに対する復讐の牙を磨き続けている事を忘れたのか?」
「っ!!………………」
「…………………」
「リィン……………」
自分の主張に対して即座に反論したヴァイスの指摘を聞いたユウナはオズボーン宰相の顔を思い浮かべて目を見開いて息を呑んだ後複雑そうな表情で黙り込み、目を伏せて黙り込んでいるリィンをエリィは心配そうな表情で見つめた。
「そしてその者を重用し続けているのはエレボニアの皇帝――――ユーゲント皇帝だ。エレボニアの皇帝と政府のトップがクロスベルに対して”そう言った態度”を取っている以上、こちらもクロスベルの平和の為に”対策”を取らざるを得ないだろう?」
「………………………」
ヴァイスの正論に対して反論できないユウナは辛そうな表情で顔を俯かせた。
「さて、後はイアン・グリムウッドとアリオス・マクレインの件か。まずイアン・グリムウッドを処刑した件についてだが………お前は奴の事を慕っているようだが、1年半前のクロスベル動乱とD∴G教団司祭――――ヨアヒム・ギュンターによるクロスベル襲撃の手筈を考え、裏でそうなるように仕向けた黒幕である事を忘れたのか?更に奴はお前が心の底から尊敬する”特務支援課”のリーダー――――ロイド・バニングスの兄にして”特務支援課”の産みの親でもあるガイ・バニングスの命を奪った張本人だぞ?これらの話を知ってもなお、奴の事を庇うのか?」
「そ、それは……………」
「…………もしかして、陛下達がイアン氏を処刑する事を決めた理由の一つはロイドの為に……?」
ヴァイスの正論に反論できないユウナが辛そうな表情で答えを濁している中ある事に気づいたリィンは複雑そうな表情でヴァイスに訊ね
「勘違いするな。幾ら兄の仇とは言え、ロイドの場合死んで償うよりも生きて償うべきだという考えの持ち主である事はお前も知っているだろうが。イアン・グリムウッドを処刑した一番の理由はクロスベル―――いや、ゼムリア大陸の後の”災厄の芽”となる可能性を潰す為だ。」
「な―――――」
「え―――――」
「…………………」
リィンの質問に対して答えたヴァイスの答えを聞いたリィンが驚き、ユウナが呆けている中事情を知っているエリィは複雑そうな表情で黙り込んでいた。
「イ、イアン先生が”ゼムリア大陸の災厄の芽”になるかもしれないから、処刑したって一体どういう事ですか!?」
「お前も知っての通りイアン・グリムウッドがクロスベル動乱を引き起こした”動機”は自分の家族を含めたクロスベルの民達が二大国による争いで命を奪われ続けるという現状を変える為に”歴史を改変する事”でそれらの出来事をやり直し、自分達の思い通りの歴史を作るという人が決して手を出してはいけない”神”をも恐れぬ”禁忌”の所業だ。実際、奴とクロイス家の所業を知った”空の女神”が1年半前現代のゼムリア大陸に降臨し、ロイドやリィン達と共に”碧の大樹”を攻略した事やイアン・グリムウッド達は”空の女神”の”逆鱗”に触れた事も世界中に公表されたから、お前も知っているだろう?」
「ぁ……………」
ヴァイスの話を聞いて血相を変えて質問したユウナだったがヴァイスから理由を説明されると呆けた声を出して複雑そうな表情で黙り込んだ。
「そして1度”禁忌”を犯そうとした者は生き続ける限り、再び”禁忌”を犯す可能性が非常に高い事は明白だ。よって、俺達は後の”災厄の芽”となる可能性が非常に高い奴を処刑する事を決めた。」
「っ!で、でも!イアン先生が利用しようとしていた”零の至宝”――――キーアちゃんにはもう”至宝”としての力はほとんどなくなって、もう2度と”零の至宝”としての力が使えなくなったと聞いています!キーアちゃんがそんな状況なんですからイアン先生もキーアちゃんを利用しようとも考えないでしょうから、処刑する必要はなかったんではないですか……!?」
ヴァイスの結論を聞いて唇を噛みしめたユウナは必死に反論した。
「”キーア以外の他の存在”―――――本物の”七の至宝(セプト=テリオン)”を利用するという可能性が残っているだろうが。実際に”至宝”を悪用した者が他の”至宝”を利用しない保証がどこにある?」
「そ、それは………」
「それとクロスベル動乱の”真実”を知った星杯騎士団――――”七耀教会”はクロイス親娘――――ディーター・クロイス並びにマリアベル・クロイスに加えてイアン・グリムウッドを”外法認定”している。どの道奴に生きる事は許されない。」
「げ、”外法認定”………?何なんですか、それは……?」
ヴァイスの説明の中にあったある事が気になったユウナは不安そうな表情で訊ね
「………”外法認定”とは七耀教会が”後戻りできない大罪人”―――”外法”を認定する事で、星杯騎士団は”外法認定”した者を”狩る”――――つまり殺害する事も任務の一つなんだ。」
「な―――――そ、それじゃあまさかワジ先輩が”碧の大樹”にロイド先輩達と一緒に攻略した本当の理由は……!」
「………ええ、星杯騎士団を束ねる12人の騎士――――守護騎士であるワジ君にも封聖省――――七耀教会からイアン先生同様”外法認定”されたベルを抹殺する指示が来ていたそうよ。実際にベルを殺害した人物はワジ君ではない別の星杯騎士だったけどね…………」
リィンの説明を聞いて一瞬絶句したユウナはエリィに視線を向け、視線を向けられたエリィは重々しい様子を纏って答えた後複雑そうな表情を浮かべた。
「更にそれらの件とは別にイアン・グリムウッドが西ゼムリア大陸の騒乱の引き金となったクロスベル動乱の主犯者の一人である事は世界中に公表された。そのような他国からも憎悪を抱かれている人物を新興の国であるクロスベルが庇えば、他国がクロスベルと友好を結んでくれると思うか?」
「……………………もしかして、アリオスさんの件もイアン先生と同じ理由なんですか?」
ヴァイスの正論に反論できないユウナは辛そうな表情で顔を俯かせた状態でヴァイスに訊ねた。
「ああ。―――ちなみにお前は俺達がアリオスの”全て”を奪ったと思っているようだが、実際にアリオスの地位や名誉――――S級に最も近かったA級正遊撃士やそれまでの功績を剥奪したのは遊撃士協会本部だぞ?」
「ええっ!?ど、どうしてギルドの本部がアリオスさんの地位や名誉を……!」
「ギルド本部の上層部の人達は遊撃士時代から自分達の目を盗んでクロスベル動乱を引き起こす為の暗躍をしていたアリオスさんの自分達ギルドに対する”裏切り”を許さなかった事もそうだけど、西ゼムリア大陸の騒乱の引き金となった”クロスベル動乱”の主犯者の一人であるアリオスさんの存在によってゼムリア大陸全土の国家からギルド自身の存続が問われる可能性へと発展する可能性も考えられたから、ギルド本部はアリオスさんの名誉や地位を剥奪したとの事なのよ。」
「そ、そんな………」
「……………………」
ヴァイスの指摘を聞いて驚いた自分の疑問に対して答えたエリィの答えを聞いたユウナが信じられない表情をしている中、リィンは目を伏せて黙り込んでいた。
「それと家族――――シズクの件だが、確かに俺達は奴から家族を奪った形にはなったが、実際の目的はシズクを”保護”する意味で、シズクと奴の縁戚関係を切らせる事の割合が大きい。」
「シ、シズクちゃんを保護する為にアリオスさんとシズクちゃんの縁戚関係を切ったってどういう事ですか!?」
「逆に聞かせてもらうが、かつて”クロスベルの英雄”と称えられていた者が幾ら独立の為とはいえクロスベルを騒乱の引き金とする為に暗躍していた事を知ったクロスベルの民はアリオスもそうだが、アリオスの娘に対して悪感情を抱かないと思えるのか?――――更に言えばクロスベル動乱をきっかけにそれぞれ内戦が起こった二大国もアリオスの娘に危害を加えないと思えるのか?」
「ぁ……………そ、それじゃあもしかしてセシルさんがシズクちゃんを引き取ったのも自分が前メンフィル皇帝の側妃の一人だから、シズクちゃんがそんな凄い立場の自分の娘になったのならアリオスさんに対して悪感情を抱いている人達もシズクちゃんに危害を加えにくいと思って………」
「ええ、それも理由の一つよ。………リウイお義兄様は元々シズクちゃんをイーリュン教の孤児院に預けるつもりだったようだけど、シズクちゃんが入院していた頃ずっとシズクちゃんをお世話をしていたセシルさんはシズクちゃんの将来を凄く心配していて引き取ったのよ。」
「後はセシル様も普段はクロスベルで働いているから、自分がシズクちゃんを引き取ればシズクちゃんをそのまま故郷に育ってもらえるからというのもあるだろうな………」
ヴァイスの指摘を聞いて呆けた声を出してある事に気づいたユウナの推測にエリィは頷いて説明をし、リィンもエリィに続くようにエリィの説明を補足した。するとその時通信の音が鳴り始めた。
「―――ツェリンダーだ。ああ、ああ………わかった、今行く。――――どうやら時間が来たようだ。お前の知りたい疑問に対しての”真実”もちょうど全て答える事ができたし、”時間切れ”で話を中断する羽目にならなくて済んだ。俺は先に向かうが、エリィ。お前は二人を見送った後で、晩餐会に来てくれ。」
「かしこまりました。」
懐からARCUSⅡを取り出して通信をしたヴァイスは立ち上がってエリィに指示をし、指示をされたエリィは会釈をし
「――――一つ言い忘れていた。アリオス・マクレインの件だが、実はまだ続きがあってな。イアン・グリムウッドを処刑して1ヵ月後あたりか………その頃からアリオス・マクレインの減刑を嘆願する署名活動が始まり、今も署名活動が続けられているとの事だ。」
「え…………」
「アリオスさんの……署名活動が続いているという事は、その件に関して陛下達は署名活動を制限すると言った事はするつもりはないのですか?」
自分達に背を向けた状態で答えたヴァイスの話を聞いたユウナが呆けている中リィンは驚いた後目を丸くしてヴァイスに問いかけた。
「フッ、犯罪者の減刑の署名活動自体はクロスベルに限らず、どの国でも”違法”扱いされていないのだから弾圧や制限等をすれば、それこそ俺達が嫌う”独裁者”であるディーター・クロイスや”鉄血宰相”と同じ穴の狢だ。話を続けるが俺が知る限りではアリオス・マクレインの減刑嘆願の署名の中には遊撃士協会の関係者は当然として、クロスベルの有力者やクロスベル軍警察にクロスベル帝国軍、更には”特務支援課”出身の者達の名前があり、しかも”特務支援課出身の某一等書記官”は自身の外交のついでに他国の有力者達からの署名も集めているとの事だ。どのタイミングで署名をクロスベル帝国政府に提出してくるかわからないが………少なくても、俺達も無視できない署名を集め切るまでは署名を続けるだろうな。」
リィンの問いかけに対して静かな笑みを浮かべて答えたヴァイスはそのまま部屋から去って行った。
「”特務支援課出身の某一等書記官”って………ハハ、まさかエリィがそんな事をしていたなんてな。」
「フフ、外交方面は私だけじゃないわ。リーヴちゃんも自身の伝手を使って手伝ってくれているわ。」
ヴァイスが去った後苦笑しているリィンにエリィは微笑みながら答え
「リーヴ―――いや、リーヴスラシル公女殿下も署名活動を手伝っているという事はもしかして”エルフェンテック”の取引相手に加えてレミフェリアの市民や有力者達からも署名を集めてもらう為に……?」
「ええ、今はクロエちゃん達と一緒にレミフェリアで”クロスプロジェクト”の活動をしつつ、署名を集めてくれているわ。レミフェリア公国はかつて起こったバイオテロを解決したアリオスさんに感謝の証として勲章を授けているから、有力者達もそうだけど、多くの市民達からの署名も期待できると思うわ。」
「あ、あの……!もしかして署名活動を始めたのもエリィ先輩達――――”特務支援課”なのですか……?」
リィンの質問にエリィが答えるとユウナは真剣な表情でエリィに訊ね
「ええ。イアン先生が亡くなってからも、せめてアリオスさんの罪を軽くする為に私達に何かできる事はないかずっと考えていてね。ヴァイスハイト陛下が先程仰ったように二人がそんな痛ましい結果になってしまった理由は多くの人々の”意志”だから、それを逆手に取る事をロイドが思いついてくれたのよ。」
「ロイド先輩が……!」
「ハハ、さすが自分も言っていたように家系的に”諦めの悪さ”が取り得の一つだと言っていたロイドらしい提案だな。それで署名活動の状況は今、どうなっているんだ?」
エリィの説明を聞いたユウナが明るい表情を浮かべてある人物の顔を思い浮かべ、ユウナと同じ人物を思い浮かべたリィンは口元に笑みを浮かべた後話の続きを促した。
「帝都周辺――――つまりクロスベル市を含めたクロスベル地方に住んでいる人々の内およそ8割に当たる人数からの署名をしてもらえたわ。更にエステルさん達も署名活動を手伝ってくれていて、エステルさん達のお陰でクロスベル以外の支部の遊撃士達やエステルさんの父親やアリシア女王陛下を始めとしたリベール王国の有力者達からも署名してもらえたわ。」
「そ、そんなにも多くの人達がアリオスさんの罪を軽くする為に署名してくれたんですか……!?」
「ハハ、まさかカシウス少将も署名に加わっていたなんてな……………――――エリィ、俺も―――いや、俺とセレーネ、それにエリゼとアルフィンも署名させてもらってもいいか?”灰色の騎士”を始めとした二つ名は正直俺達には分不相応だと今でも感じているが、今この時だけはその二つ名をあえて利用する。二つ名持ちの俺達による署名も雀の涙程度には、意味はあるとは思うが……」
エリィの説明を聞いたユウナが嬉しそうな表情をしている中リィンは苦笑した後静かな笑みを浮かべてある事を申し出
「フフ、”雀の涙”だなんて謙遜し過ぎよ。機会があれば貴方達にも署名を頼むつもりだったから、是非お願いするわ。」
「あたしも当然署名させてください!それにアル達――――新Ⅶ組のクラスメイトにも今連絡して、署名の許可をもらいます!」
「ユウナちゃんもありがとう。是非お願いするわ。」
「ハハ、そうと決まったら早速セレーネ達に連絡して署名の許可を取らないとな。」
その後ARCUSⅡでセレーネ達に連絡して署名の許可を貰ったリィンとユウナは”クロスベル動乱”を引き起こした元凶の一人にして八葉一刀流の皆伝者の一人――――”風の剣聖”アリオス・マクレインの減刑嘆願に署名をした後、エリィに見送られて第Ⅱ分校の関係者達が待機している部屋へと戻って行った――――
後書き
という訳で今回の話で原作には登場しなかったエリィが登場し、リィン達と再会しました!なお、ユウナの質問に答えるところからのBGMは碧か碧EVOの”乗り越えるべき壁”で、 ヴァイスが署名の件について話し始めたところからのBGMは零か零EVOの”踏み出す勇気”、もしくは閃Ⅲの”行き着く先 -Instrumental Ver”のどれかだと思ってください♪
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