空に星が輝く様に
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24部分:第二話 受験の場でその十二
第二話 受験の場でその十二
「それが決まったのってやっぱり」
「そうよ。陽子が好きだからよ」
「我が家はレディーファーストだからな」
「レディーファーストって」
それを聞いてもであった。釈然としない顔のままの彼であった。
「何か変な組み合わせだな」
「サラダもあるけれど」
「しかもカレーの中には野菜がたっぷりだぞ」
これは両親の言う通りである。レタスとトマト、セロリ、それにキーウィのサラダもあればカレーの中には細かく刻んだ人参に玉葱がある。ジャガイモもだ。そのまま野菜カレーとして通用する程である。栄養バランスも取れていた。
そうしてだ。それだけではなかった。
「デザートはケーキがあるから」
「食べるといい」
「わあい、ケーキだケーキだ」
ここでまたはしゃぐ妹の陽子だった。満面に笑みを浮かべている。
「美味しいよね、やっぱり」
「美味しいのはいいけれどさ」
まだ釈然としない顔の彼だった。
「カレーがお祝いって」
「ステーキもあるじゃない」
「輸入肉はいいぞ。アルゼンチンだ」
「オーストラリアじゃないんだ」
もう言う言葉はこれしかなかった。
「まあとにかく。食べるんだよな」
「そうよ。食べなさい」
「御前の合格祝いだからな」
「それは有り難う」
まだ釈然としない返答の陽太郎だった。その声でまた言うのだった。
「たださ」
「うん、今度は何だ?」
「それでどうしたの?」
「いや、お酒はないんだよな」
彼が言うのはこれだった。なおここでは未成年ということは都合よく忘れられている。なかったことにされてしまっていると言っていい。
「そっちは」
「ケーキがそれよ」
「陽子が好きだからな」
また陽子であった。
「あんたが一番沢山食べていいから」
「遠慮することはないからな」
「また陽子なのか」
「お兄ちゃん、たっぷり食べようね」
どう見てもかなり甘やかされている妹を見ずにはいられなかった。
「何だかなあ」
「何だかなあじゃなくてよ」
「世の中はそっちの方が上手くいくんだ」
母も父もここでまた彼に言ってきた。
「女の子の方を立てるのがね」
「男同士だったら平等でな」
「男だったら平等で女だったら女の方を立てる!?」
それを聞いてまた首を捻る陽太郎だった。彼にはわからない理屈だった。
「あのさ、そんな理屈あったの?」
「あるぞ」
父が一言で答えてきた。
「それはしっかりとな」
「あったんだ、そんなの」
「だから。レディーファーストなのよ」
それだと話してきた母だった。
「これってね」
「レディーファーストだったんだ、それも」
「御前が陽子をいじめる様な男じゃないのもわかっている」
父はここで彼の本質を指摘してきた。実際に彼はそういうことは絶対にしない。それどころか妹をいじめている人間がいれば誰であろうと立ち向かう人間である。そうしたことには強い拒否反応を見せるのである。それが彼なのだ。
「だからだ。いいな」
「まあ陽子のだったらいいけれどさ」
陽太郎もここで遂に頷いたのだった。
「それでお酒はないんだ」
「まさかカレーと一緒にやるのか?」
父はこのことを真面目に問うてきた。
「合わないぞ、カレーにはどんな酒も」
「それどころか気分が悪くなるわよ」
母も話してきた。
「絶対にお勧めできないわよ」
「わかってるさ。じゃあ仕方ないな」
これで観念した陽太郎だった。
「お酒はいいよ」
「明日飲め、いいな」
「ビール用意してあるから」
「ああ、ビールなんだ」
「とにかく今日は我慢してくれ」
「いいわね」
「わかったよ。じゃあ明日ね」
両親のその言葉に頷くのだった。
「それでいいから」
「それじゃあ食べるぞ」
「いいわね」
「いっただっきまぁ〜〜〜〜〜す」
陽子が手を合わせてから明るく言った。
「お兄ちゃんもね、一緒に食べよう」
「ああ、そうだな」
彼も妹の言葉に頷く。そうしてであった。
一家でその祝いのカツカレーとステーキを食べるのだった。誰もがそれぞれ祝いを受けていた。だがそれは終わりではなかった。はじまりでしかなかった。
受験の場で 完
2010・3・4
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