空に星が輝く様に
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23部分:第二話 受験の場でその十一
第二話 受験の場でその十一
そうしてであった。その上向くようになった気持ちでだ。あらためて妹に言うのであった。
「それでだけれど」
「それで?」
「今日パーティーよね」
それを言うのだった。
「確か」
「そうよ。パーティーよ」
「やっぱり私の為によね」
「そうよ。主役はお姉」
まさに彼女がそれだというのだ。
「だからよ。元気出してね」
「元気出してそれでなのね」
「そうよ。お酒もあるし御馳走もある」
「お父さんとお母さんが用意するってことは」
あらためて二人の好みを考えた。そうするとだった。
「和食になるわね」
「お刺身に天麩羅かしら」
とりあえず思いついたのはそうしたものだった。星子も両親の好みはよくわかっている。だからこそ今そうしたメニューが浮かんだのである。
「後は。アンキモの酢の物とかよね」
「そうした感じよね」
「それで日本酒」
酒はそれというのだ。
「お姉日本酒好きよね」
「まあね」
足の裏を合わせた胡坐を組んでその足首を両手で掴みながらの返答だった。
「ワインも好きだけれどお父さん飲まないからね」
「ワインはこの場合白よね」
「そうよね。あんたは赤だっけ」
「ロゼ好きだけれどね」
にこりとして答える星子だった。
「まあお酒なら何でもいいわよ」
「じゃあ楽しくやる?」
星華は機嫌を完全に取り直した。そのうえでの妹への言葉だった。
「家族でね」
「そうしようよ。今年は私で」
「来年はあんたね」
「天麩羅何かしらね」
「海老に烏賊に蛸にキスとかでしょうね」
これも両親の好きなものである。二人もかなり好きである。
「あとお刺身は鮪にハマチに鮭でしょうね」
「いい感じね」
「じゃあ楽しくね」
「ええ、合格祝いにね」
星華はその機嫌を完全になおしていた。そのうえで今は家族の祝福を楽しむのだった。そしてその時陽太郎はだ。
家でカレーを食べていた。カツカレーである。それとステーキだった。だが彼は自分の席の前のそれを見ていささか複雑な顔をしていた。
そうしてだ。己の前にいる母親に問うのだった。もう結構いい歳の筈だがまだ若々しい。黒く長く伸ばした髪も瑞々しい。顔立ちも少女の様だ。
その彼女を見ながらだ。その複雑な顔で言うのだった。
「あのさ」
「どうしたの?」
「何でこれなの?」
そのカツカレーとステーキを指し示しながらの言葉だった。
「カツカレーとステーキなんだよ」
「合格したからよ」
母は平然と答えてきた。
「だからよ」
「普通ステーキとかトンカツはあれじゃない。テストを受ける前に食べない?」
「うちじゃ合格祝いにも食べるのも」
「初耳だけれど」
これは完全にであった。今はじめて聞いた言葉であった。
「そんなのって」
「ははは、いいじゃないか」
その母の横にいる父が言ってきた。口髭を生やした恰幅のいい男である。その彼が言ってきたのである。
「それは」
「いいんだ」
「今知ったからそれでいいじゃないか」
だからだというのである。
「そうじゃないか?」
「そうかな」
そう言われてもであった。陽太郎は釈然としなかった。しかし彼の横に座る小さな女の子は朗らかに笑ってはしゃいでいた。
「ステーキにカレー、大好きだよ」
「あのさ、ひょっとして」
その妹を見ながらの今度の言葉だった。
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