気まぐれ短編集
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Heathaze
前書き
去年の八月の夏休みに書いた分をリメイク。
文芸部員で「一行」を決めて、そこから話を書いて行く企画として書いた、ある、夏の終わりの物語です。ちなみに作者は文芸部所属の高校生です。
今回は例外的に、「テーマ」と「一行」が決まっています。
「テーマ」は「トリップ」(世界間移動)、一行は「夏の終わる季節になった」です。
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夏の終わる季節になった。
あと数日で、秋が来る。
道端には、ゆらりと揺れる陽炎が立ち上り、まだ冷めやらぬ暑さが肌を灼く。
残暑と言っても夏は夏。暑いのは変わらない。
残暑残る八月の午後。
することもなしにふらりと歩いていた僕はその時、何かに触れた。
うだるような暑さの中で揺らめく陽炎の、銀色の影を見た。
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ふと気が付いたら、そこは僕の知らない場所だった。
うだるような熱気は変わらないが、どこか涼しげな雰囲気がして。
ピーヒョロロと間抜けな笛の音。子供たちの楽しげな笑い声。
ああ、夏祭りだなと思った。
でも、僕の町ではもう、夏祭りは行われないんだ。
二十年前、僕の生まれる前に。大きな事故があって人が死んで。
それきり夏祭りは行われなくなった。
でも今、僕がいる場所は夏祭りの真っ最中だ。
だとしたら。今僕がいる場所は一体――?
と、声がした。
「坊。そんな所に突っ立ってどうした」
振り返れば。そこには白いハチマキをつけた、日に焼けたおじさんが立っていた。
「夏祭りは始まっているぞ。めいっぱい楽しめ」
おじさんはそう言って笑って、僕の頭を軽くぽんと叩いて、奥に見える屋台の方へ歩いて行った。
なんだかよくわからないけれど。
夏祭りのない町だ、一回くらいは味わってみたいから。
コンビニでお菓子やジュースを買うために持っていたお金を握りしめて、歩き出す。
楽しんでみるのも、悪くない。
屋台から漂う様々な匂いが、誘うように漂っていた。
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「かき氷はいらんかねー」
「焼きそばアッツアツだよ!」
「ふわふわの綿あめ、いかがですか?」
様々な物を食べ歩くうち、僕の財布は空っぽになった。
そうやって歩いていたらある女の子と行きあって、色々と話した。
けれど彼女の話す話題は、僕の知らない話ばかりで。
「世間知らずゥーッ」
思いっきり、すねられてしまった。
……知らないものは、仕方ないと思うのだけど。
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屋台を楽しむのもいいけれど、もう財布は空っぽだし。
帰ろうとして背を向けて。そのまま三十歩ほど歩いた時。
不意に爆音が、して。僕は思わず振り向いた。
そして、見たのは。
――事故は、一瞬だった。
急に屋台の一つが爆発を起こして。
飛び散った破片が、燃え盛る炎が。
他の屋台に次々に飛び火して。
幸せだった夏のワンシーンが。
一瞬にして、阿鼻叫喚の地獄と化した。
既に場を離れた僕は無事だったけれど。
おそらくあの女の子も生きてはいまい。
暗くなっていく風景の中、血の色を宿して燃え盛る炎は。
美しくも残酷で、魅力的でも残虐で。
まるで過ぎ行く夏を送り出す、人を火種にした送り火のようにも見えた。
そしてその光景を目の当たりにして。
僕は気づく。
これは、二十年前に起きた、あの事故なのだと。
何の因果か僕は偶然、あの事故の日に迷い込んで。その日に起きた惨状を今、その目に焼き付けている。
「……成程。こんな惨状になれば、もう二度と夏祭りは行われない」
小さく呟き、僕は納得した。
炎の中。魂消るような悲鳴が上がる。
こうして、この町から夏祭りはなくなった。
視界の端に、銀色に光る陽炎がゆらゆらと揺れているのが目に映った。ああ、僕をこの日に連れてきた、あの陽炎だ。
僕はそれに向かい、ふらふらと近づいて行く。
そして。
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ふと気づいたらそこは僕のよく知る場所だった。
うだるような熱気は変わらないが、あのどこか涼しげな雰囲気はもうない。
ピーヒョロロと間抜けな笛の音も。子供たちの笑い声も。
燃え上がる屋台と血と悲鳴。阿鼻叫喚の光景も。
何もない。
ああ、戻ったんだなと思った。
あの夏祭りの一日から。
二十年前の悲劇の日から。
残暑残る八月の午後。
時間は一切経っていない。
あれは幻だったのだろうか。僕が見た、あれは。
視界の端にゆらゆらと、銀色の陽炎が目に映る。
しかしそれはすぐに消え、夏の暑さのひと欠片となった。
あれは幻だったのだろうか。あの銀色の、陽炎の見せた。
今となっては確かめようもないけれど。
僕はあの瞬間、二十年前のあの日にトリップしたんだ。
空を見上げれば、灼けつくような日差し。
耳を澄まさずとも聞こえる、やかましい蝉時雨。
僕は思い出を抱き、前へと一歩踏み出した。
――夏休みも、あと一日。
もうすぐ新学期が、始まる。
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後書き
※「Heat Haze」とは陽炎のことです。
「ミストラル」よりも後に書いた話ですが、クオリティは相変わらずかと。まだ成長できていない当時。今月に書いた短編はいずれ載せます。
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